合同合宿編
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次にバスが来たのは青学で、私たち氷帝はさっきと同じように見送りのため玄関へと出た。
小坂田さんや竜崎さん、堀尾くんたち一年生と、合宿中のことをいろいろと話す。
小坂田さん、竜崎さんとは合宿後に一緒に遊びに行く約束もしていたから、その確認も。
みんなが跡部先輩のところへ挨拶に向かったあと、入れ替わるように越前くんが来た。
「ねぇ」
『ん?』
「アンタさ、こういう所にはもう本当に来ないの?」
『うん、そうだけど…なになに?もしかして私が来なくて残念なの?』
そんなわけないとは思ってたけど、 イタズラごころがくすぐられた私はわざとからかうように言ってみる。
すると越前くんはあきれた様子でため息をついた。
「…出た。無駄なポジティブ。
ちょっと聞いてみただけなのに」
『あはは、そうだよね~』
やっぱり、なんて思っていると。
「…?」
突然越前くんがジッと私を見て、無言になった。
「…アンタ、もしかして泣いたの?」
『えっ!』
な、なんで分かったんだろう!?
すっかり涙も乾いたのに、とあたふたする。
「目のふち、少し赤い」
『うそ?!』
慌てて目の辺りに手をやる。
まだ赤かったのか…。
もう分からないと思ったのに。
「…大げさすぎ。
たかだか東京と千葉でしょ」
『え!』
泣いた理由までバレてる!?
な、なぜ…。
「アンタの性格、だいぶ分かったから。
それくらいの想像なら簡単」
『うっ…』
「………。
よかったんじゃない?」
『…え?』
「少し離れるからっていちいち大げさに泣くくらい、仲良くなったってことでしょ」
『越前くん……うん、そうだね!
越前くんも私と離れるから泣いてくれたり…?』
「するわけないじゃん。調子に乗りすぎ」
『もう、照れなくていいのに~』
「…ハァ、また出た。無駄なポジティブ」
『あははっ』
肩をすくめて大きなため息をつく越前くんが、なんだか可愛い。
私がまた暗くならないように気をつかってくれてる……っていうのは都合よく考えすぎかな。
「あー!越前、何ちゃっかり抜けがけしてんだよー」
「ホントだ!年上相手なんて、おチビ生意気~」
「クスッ。越前、手が早いね」
「ふむ…。
越前は興味がないふりを装いつつ無防備な相手の懐に入り込むという、高等テクの使い手のようだな。データに追加しておこう」
桃城くんや菊丸さんたちがニヤニヤ笑いながら私たちのところに来た。
そんな先輩たちの様子に、越前くんはあからさまに嫌そうな顔をしてため息をついた。
「…べつに。
そこまでしてこの人と話したいなんて、思ってないし」
「うそつけ!素直じゃねーなぁ、素直じゃねーよ」
「あー、おチビ、照れてる照れてる!」
「クスッ。
越前、本当はもう名無しさんにこんなふうに会えなくなるのが寂しいんでしょ?」
「ふむ。
越前はこうして第三者を介して本心を伝えることによって年下らしいいじらしさを演出し、年上の女性の母性本能をくすぐり、関心をさらに惹き付けようという高等テクの使い手でもあるのか。データに追加しておこう」
みんなの言葉を聞くうちに、越前くんの耳の辺りがかすかに赤く染まる。
「ちょ、何勝手に言ってるんですか」
「またまた~」
強引に桃城くんにガシッと肩を組まれて、越前くんは顔をしかめた。
「ぐ、ぐるじい…。桃先輩、力つよすぎ…!」
「先輩を差し置いて、抜けがけした罰だっ」
「そうだそうだー!」
「ぞんなごど、じでない…」
「クスッ。
越前、成就したら僕たちにも報告してね。みんなでお祝いしたいな。
そうだ、名無しさんも呼んでタカさんの家でみんなでお寿司っていうのはどうかな」
「それはいいアイディアだな。
さらなる高等テクについてもぜひ報告してくれよ。それもデータに追加しておこう」
「うぅ~~~」
だ、大丈夫かな…越前くん。
まともに発声出来てないけど…。
私のことでからかわれちゃって、なんだか悪いなぁ…私に優しくしてくれたばかりに…。
「名無し」
『えっ。
……あ、手塚さん!』
「少しいいか」
『は、はい』
桃城くんと菊丸さんに必死に抵抗する越前くんを心配しつつ、手塚さんと向き合う。
「お前はテニス部の部員ではないから、こういう場に参加するのはこれきりということだったな」
『はい、そうです』
「そうか、それは残念だ。
うちの部員にもお前と親しくなった者もいる。寂しがるに違いない」
『いえ…、でもそう言ってもらえると嬉しいです』
「だが俺は、また必ずどこかでお前に会えると信じている」
『えっ…』
私は、手塚さんは別れの挨拶をしに来てくれたんだと思っていた。
手塚さんは部長だから、大人だから、礼儀と社交辞令を織り混ぜて。
でも、今の言葉は少し響きが違うように聞こえた。
本心から出た、手塚さん自身の言葉みたいな感じがして、私は手塚さんを思わず凝視してしまう。
すると、その感覚を肯定するような手塚さんの静かなほほえみがそこにはあった。
「名無し、必ずまた会おう。
それまで元気でな」
スッと差し出された手。
なぜか分からないけどその言葉どおり必ずまた会える、そんな気持ちがあふれでて、緊張することもなく私は自然とその手を握った。
手塚さんのたくましい手が、その力強い印象とは真逆にまるで包み込むように優しく握り返してくれる。
『…はい、私もまた会いたいです。
手塚さんも、お元気で』
「ああ、ありがとう」
それからみんなはバスに乗り込んで、帰っていった。
小坂田さんと竜崎さんは窓を開けて私の名前を呼びながらずっと手を振ってくれていて、私もバスが見えなくなるまで手を振り続けた。
桃城くんや菊丸さんたちも手を振ってくれたけど、越前くんと手塚さんはこっちをチラリと見たきり、前を向いてしまった。
こういうとき個性って出るなぁと、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
不思議と心は明るい気持ちで満たされていた。
何の根拠もないのに、そう遠くない未来にまたみんなに会える…、そんな予感がしていた。
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