合同合宿編
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芥川先輩が嵐を起こしたミーティングも無事?に終わり、昼食をとった私たちにいよいよ別れのときが来た。
それぞれ荷物を片付けて、この三日間を過ごした部屋を出る。
私たち氷帝は他校のみんなを見送ってからの出発だ。
一番最初に六角の迎えのバスが来て、私たちは六角のみんなと玄関前に向かった。
大きな荷物を持って歩くみんなの姿に、本当にもうお別れなんだなと改めて寂しくなる。
六角のみんなとはそう簡単には会えない。
関東大会で会う約束はしたけど、それもずいぶん先のことだ。
せっかく仲良くなれたのにそれまで何ヵ月もさよならなんだと思うと、勝手に涙が浮かんできてしまった。
外へ出るとみんなは跡部先輩たちに合宿中のお礼を言ったり挨拶を交わしたりしていた。
だけど私はなんとなくそこに加わることができなくて、端のほうでその様子を見ていた。
するとそんな私に気がついた佐伯さんが、みんなの輪から外れて私のほうへと歩いてきた。
「名無しさん、いろいろ本当にありがとう」
『い、いえ。
私のほうこそ佐伯さんには迷惑をかけてしまって…』
「何言ってるの、そんなことないよ」
佐伯さんは、佐伯さんらしい爽やかな笑顔を向けてくれた。
反射的に私も笑おうとしたけど、まるで頬が固まってしまったみたいに上手く動かせなくて、笑うことができなかった。
それでも無理に笑おうとすると、なぜか代わりに涙がにじんできてしまって、慌ててそれを押し込める。
「…ねぇ、名無しさん」
『は、はい』
「離れても、俺たちはずっと友達だよ」
『え…』
「それをどうか忘れないで」
ね?と言って、佐伯さんは私を優しく見つめた。
佐伯さんは私が寂しがっていることに気づいていたのかもしれない。
私を気遣ってくれるその優しさに、なんとか押し込めていた気持ちがあふれてきてしまって。
一気に視界がにじんで、ほほを涙がつたっていくのが分かった。
「名無しさん…、泣かないで」
佐伯さんの暖かい指がそっと涙を拭ってくれる。
私は慌てて一歩さがって、すみません、と謝った。
すると私たちの異変に気がついたらしい黒羽さんたちも心配そうに声をかけてくれた。
「どうしたんだ、名無し」
「まさか、俺たちと別れるのが寂しくて泣いてくれてるのか」
私が少し戸惑いながらも無言でうなずくと、黒羽さんの大きな手が私の肩にポンとのせられた。
「そうか…、ありがとな」
「………っ、名無しさん…」
「こら、剣太郎まで泣いちゃダメなのね」
「そうだぞ、剣太郎。
泣かないように頑張るって言ってただろ」
「だ、だって…」
葵くんの涙声に、ますます涙があふれてきてしまう。
するとそこに木更津さんのクスクス…といういつもと変わらない笑い声が聞こえてきた。
「名無しさん、そんなに俺たちと離れたくないんだったら、こっちに一緒に来る?
学校は六角に転校すればいいし、住むところはオジイの家でいいし」
えっ、と思わず声が出てしまった。
本気じゃないのはもちろん分かってるけど、木更津さんが言うとそう聞こえない。
「亮、お前が言うと冗談に聞こえないからやめろ」
「笑えないのね」
「クスクス…」
「でも、もし千葉でも名無しさんと毎日一緒にいられたらって考えたら…。
…いいなぁ、絶対楽しいだろうなぁ…夢みたいだなぁ…」
「ダジャレを考えるのにもさらに気合いが入る」
「そうだね。
俺も名無しさんと一緒に部活したり海で遊んだりしたいよ」
「おいおい、サエまで何言ってんだ」
「でも、バネもいっちゃんも名無しさんが六角にいてくれたらいいなって思うだろ?」
「そりゃ…まぁな。
名無しが一緒なら今よりもっと毎日が面白くなるだろうな」
「俺ももちろん同感なのね」
「クスクス…。
じゃあ俺たち全員同じ意見だね。
というわけだから、名無しさん。氷帝より六角がよくなったらいつでも来なよ」
『えっ。あ、あの……』
「あ、それとも今から俺たちと行く?
下見と見学かねて」
涼しい表情で簡単に言ってのける木更津さん。
もちろんこれも本気じゃないと分かってるけど、やっぱり完全な冗談には聞こえなくて、何も反応できずにいると。
「ダメだよ!
ななしちゃんは俺たちと一緒にいるんだからねっ!」
風のように走ってきた影が、木更津さんと私の間に立ちふさがった。
それは芥川先輩で、私を守るように木更津さんから遠ざける。
『あ、あの…芥川先輩…?』
どうやら木更津さんの言葉を本気にしているらしい先輩は、キッと木更津さんをにらみつけている。
そんな芥川先輩を見て目を丸くした木更津さんは、しばらくしてクスクスと笑いだした。
「芥川、冗談だよ」
「…えっ」
「いくら俺でもそんな無茶なこと本気で言わないよ。
実現したらいいなとは思うけどね」
「冗談…マジ?」
「マジ。…クスクス」
その場にいたみんながププッと笑いだす。
本当に冗談だったとようやく悟ったらしい芥川先輩は、サッと赤くなった。
「A~!恥ずかC~!!」
「いや、もっと恥ずかしがるべきことをついさっきやったじゃねーかよ。しかも平気な顔して」
たぶんミーティングでの出来事のことを言っている向日先輩からのツッコミを受けながら、芥川先輩はエヘヘ~と照れ笑いを浮かべる。
ふと気がつけば私も笑っていて、いつのまにか涙は止まっていた。
「それじゃ名残惜しいですけど…行こっか、みんな!」
葵くんが笑顔でみんなに呼び掛ける。
ああ!とみんなは答えて、荷物を手にとった。
「名無しさん、いつでも気軽に連絡してきてね。俺たちもみんなそうするつもりだから…って、勝手にそう思ってたけど…いいかな?」
佐伯さんが最後に一言、そう言ってくれて。
『はいっ、もちろんです』
私は笑ってうなずいた。
みんなが乗ったバスがどんどん小さくなって、やがて見えなくなってしまう。
ついさっきまでここにいて、一緒にしゃべったり笑ったりしていたみんながいなくなって、寂しくないはずがない。
でも、もう大丈夫。
ーー“離れても、俺たちはずっと友達だよ。
それをどうか忘れないで”
離れても、私たちは友達だから。
だから、また会える日を楽しみに待っていよう。
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