氷帝での出会い編
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ついにここまで来た。
来て、しまった。
目の前には生徒会室の扉。
…よし、行くぞ!
腹くくれ!
女みせろ、私!
………かすかに震える手でノックする。
「入れ」
うおぅ、跡部先輩の声だ。
高まる緊張をなんとか押さえ込んで、おそるおそる扉を開ける。
『失礼します…』
初めて足を踏み入れたそこは、他の教室とは少し違う、かなり立派な部屋だった。
そしてそんな部屋の、更に一番立派な椅子に座っている跡部先輩。
「お前が名無しか」
『は、はい。
2年C組の名無しななしです』
私をしっかりととらえていて、外されそうにもない跡部先輩の視線。
そんなに見るべきものなんて、私の外見には何もないと思うけど…。
私はなんとなく跡部先輩から視線を外すことができなくて、しばらくお互いに無言のまま見つめあっていた。
「…俺は生徒会長の跡部景吾だ。
突然来てもらうことにしちまって、悪かったな」
『あ、いえ。大丈夫です』
合った視線はそのままに、跡部先輩と言葉を交わす。
すると、跡部先輩がフッと小さく笑った。
?なんだろう、今の。
「今日の放課後、またここに来い」
え、放課後?
先生が言ってた、面接?みたいなやつをそのときするってことかな?
えー…。
どうせ結果は決まってるし、せっかく来たんだから今やっちゃえばいいのに。
もう覚悟はできてるし。
もう一回ここに来るなんて、嫌だなぁ。
「おい、なんか勘違いしてるだろ」
えっ。
「顔に出てるぞ。分かりやすいやつだな」
え、えーっと?
言ってる意味が全く分からない。
「今日の放課後から仕事だ。
授業が終わったらすぐに来いよ」
『あのー…それって…』
「理解の遅い女だな。チッ…しょうがねぇ。
…この生徒会の一員として、お前に書記をやってもらうことにした。
今日の放課後からさっそく仕事を始めてもらう。忘れずにここへ来い。
…これで分かったか、アーン」
『わ、分かりました…』
確かに分かった。
分かったけど…………。
…えぇぇーっ!?
わ、私が生徒会?!
…う、うそでしょ…?
でででも、なんで?
先生言ってたよね?
データを見て直接会って話して決めるって。
データは見たのかもしれないけど、話は全然してないよ。
自慢じゃないけど、データだけで決まるような優秀な生徒じゃないし。
『跡部先輩、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど…』
「アーン?なんだ、言ってみろ」
『あの…、私、先生から聞いてたんです。
私が生徒会に入るかどうかは、私のデータと直接会って話した結果から跡部先輩が判断して決めるって』
「そのとおりだ」
『でも、まだ何も話してないですよね?』
「なんだ、そんなことか」
跡部先輩は背もたれに寄りかかって、足を組んだ。
「データは見せてもらった。
学業の成績もスポーツの成績もこれまでの素行も、可もなく不可もなく、だな」
うっ……。
「良い方にも悪い方にも、特筆すべきことは何もねぇ」
そ、そのとおりです…。
「だがそれが長所になることもある」
え、長所に…?
「名無し、お前は何も目立ったところがねぇやつだ。
だが裏を返せば、それこそがお前の目立つところでもある」
……??
「お前は何をやっても、それなりに上手くこなせちまうんだろーが、アーン?」
ま、まあ…特に苦手意識があるものは確かにないけど…。
「いわばお前はオールラウンドプレイヤーなんだ。それを活かせる場所と方法を選べばいい。
そしてその両方を、この俺は持っている。
俺様ならお前を活かしてやれるぞ」
うわ、めちゃくちゃ自信満々な笑み浮かべてる。
『じゃあ、話は…』
「俺を誰だと思ってる。
そんなもん長々とする必要はねぇ。
少し会えばどんなやつかはだいたい分かる」
なんか…いろいろ凄すぎる。跡部先輩って。
よくこんなに自信もって断言できるなぁ。
……。
生徒会に入ったら、こんなすごい人と一緒に活動することになるんだ。
…なんだか、ドキドキする。
理由は分からないけど…。
でも、本当に私でいいのかな?
ちょっと…かなり不安だけど、やるからにはきちんと全うしたい。
でも…。
元々私は生徒会に入りたくて手を挙げたわけじゃない。
そんな私でいいんだろうか…。
『…跡部先輩』
「アーン?」
『本当に私でいいんですか?』
「なんだ、俺様の目が節穴だとでもいうのか?
いい度胸だな」
『いえ、あの。………』
…やっぱり、ちゃんと言おう。
意欲があって立候補したわけじゃないってこと。
呆れられるかもしれないけど…。
絶対断られると思ってたから、とりあえずこの場に行くだけと思って来たけど、まさかこんな展開になるなんて。
私の地味な所が長所になるって…そんなこと、考えたこともなかった。
そんなふうに言ってくれた人に、このまま黙っていられないよ。
『私、生徒会に入りたくてここに来たわけじゃないんです』
私は思いきって言った。
何も言わない跡部先輩。
先輩が足を組み直す衣ずれの音が、静かな部屋に響く。
『私、委員を決める話し合いをしてたときに眠くてウトウトしてて…。
間違えて手を挙げちゃったんです』
やっぱり、呆れてるのかな…。
もしかしたら怒ってるのかもしれない。
時間を無駄にしたって。
でも…それでもしょうがない。
本当のこと言わないと。
ちゃんと私のことを見てくれた跡部先輩に失礼だ。
少しの沈黙のあと、ただ私をじっと見ていた跡部先輩が、フッと笑った。
思いがけない表情を向けられて、胸がドキッと鳴ったのが分かった。
「そんなことだろうと思ったぜ」
…えっ?
ど、どういうこと?
「この部屋に入ってきたときのお前の様子に、少し違和感を感じてな」
『…あの、分かっていてどうして私を生徒会に入れることにしたんですか?』
「なんだかんだ言っても、いざ始めたら努力するタイプの人間だろうからな」
!
『な、なんで分かるんですか?そんなこと…』
確かにやると決まったらちゃんとやるぞって思ってたけど…。
私は跡部先輩のことなんとなくどんな人か知ってたけど、先輩からすれば私はついさっき初めて会った人なのに。
跡部先輩はスッと席をたつと、ゆっくりと私の前まで来た。
こんなに近くで跡部先輩を見るのは初めてで、つい見入ってしまう。
「きっかけが何だろうと、そんなことは俺にとってたいした問題じゃねぇ。
俺が興味があったのは、名無しななしがどんな人間かってことだけだ」
間近で見ると、尋常じゃないくらいにきれいな顔だ。
「お前が何を考えてるのかくらい、簡単に想像がつく。
お前に努力するつもりがあるのなら、それでいい」
…あ、泣きボクロがあるんだ。
知らなかったな。
遠くからしか見たことなかったもんね。
…なんだか今こうしてることが、不思議な感じ。
「まぁ、そういうわけだ」
跡部先輩は私に背を向けて、椅子に戻っていく。
「形式的には書記ということになるが、お前には俺の仕事の補佐をしてもらうつもりだ。
キリキリ働いてもらうからな。覚悟しておけよ」
『は、はい!』
やるからには頑張る。もちろん頑張る、けど…………。
愛すべき、平凡な日常……………グッバイ……。
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