合同合宿編
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天根くんから貰った巻き貝を大切に荷物へと片付けて、私は朝食を作るために厨房へと向かった。
そこで壇くんから朝食を食べながら1年生の会をすると聞いて、そして今、まさにその最中だ。
「…というわけで、これからもお互いに頑張りましょう!」
「はいです!」
『はい!』
「ハーイ」
「越前くんっ。
返事は短く、はい!ですよっ」
「ハイハイ」
『1回だよ、越前くん』
「はぁ……。ハイ」
越前くんの相変わらずの棒読み台詞を聞きながら、こんな可愛いやりとりも当分見られないんだなぁと、少し寂しくなる。
『そういえば、みんなは離れてる間どうしてるの?』
「連絡を取り合ってますよ。
近況報告をしたり励まし合ったり」
『へぇ、そうなんだ』
「あっ、そうです!
名無しさんももし良かったら僕たちと連絡先交換しませんか?」
『えっ、みんなと?』
「はい!
そうすればいつでも名無しさんとお話したりできるです!
葵くん、越前くん、どう思いますか?」
声をはずませながら私たちを見回す壇くん。
「別にいいけど」
あんまり興味がなさそうな越前くん。
「僕だけだと思ったのに……」
そしてなぜかあんまり元気がない葵くん。
『葵くん?どうしたの?』
「い、いえ、なんでもありません」
「じゃあいいですか?」
「うん、いいよ…」
いいと言いながら、やっぱり元気がない。
「じゃあ決まりですね!さっそく…」
『あ、私と葵くんはもうお互いに知ってるんだ。
だから壇くんと越前くんのだけで』
葵くんの様子を少し不思議に思いつつも、みんなにそう伝える。
「えっ、そうなんですか」
「…ふーん、そういうこと」
?
何がそういうことなんだろう。
「アンタさ、もっと他の人とも連絡先交換したんじゃない?」
『え?したけど…』
「したんですか!?」
『う、うん』
身を乗り出す葵くんの勢いに思わず少しのけぞると、越前くんが「誰?」と表情を変えずに聞いてきた。
『小坂田さんと竜崎さんと…』
「男で」
『え?
…えーっと、千石さんと室町くんと、六角のみんな…はまだ予定だけど』
「えっ!!六角のみんなって、全員ってことですか?!」
『うん、そうだよ』
「ガーーーン………」
「やっぱりね。俺たちだけなわけないし」
「?
何のことですか?越前くん」
「さぁ?」
「???」
葵くんと越前くんのやりとりの意味が分からず、壇くんと二人、首をかしげる。
すると葵くんがポツリとつぶやいた。
「千石さんだけだと思ってたのに、室町さんまで…」
『あ、室町くんとはまたテニスを教えてもらう約束したんだー』
「そ、そうなんですか…。
また一緒に練習するんですね…いいなぁ…」
…葵くん、みんなと離れるのがさみしいのかな?
『葵くんも、またみんなと練習できるよ!元気出して?』
「えっ?!
あ、は、はい。ありがとうございます…」
「そうですよ!元気出してくださいです!」
「う、うん。ありがとう…」
「まぁ、元気だしたら?
この二人とは言ってる意味が違うけど」
「うん、ありがとう…」
みんなで励ましたけど、やっぱりあんまり元気がない葵くん。
話を変えたほうがいいのかな…?
「よぉ、お前ら。楽しそうにやってるな」
『あ、桃城くん。海堂くんも』
声のほうを見ると、桃城くんはヒラヒラと手をふった。
『二人とも、もうごはん終わったの?』
「ああ、終わったぜ」
『そうなんだ、早いね』
「まぁな~」
「早飯も芸のうちらしいからな。
良かったな、桃城。少ない取り柄が一つ増えて」
「なんだと!」
「いちいち食ってかかるんじゃねぇ」
「それはこっちのセリフだ!」
「うるせぇ!」
…………始まった。
ええっと、ええっと…。
『ね、ねぇ!二人とも何か用があったんじゃない?』
慌てて声をかけると、海堂くんが少し気まずそうに私のほうを見た。
「あ、あぁ。
お前に言っておきたいことがあったんだ」
『言っておきたいこと?』
「その…、まぁ…、いろいろ世話になったが、礼をまだ言ってなかったからな。
お前とはこれから会う機会もなかなかねぇだろうし、今のうちにと思ったんだ…」
海堂くんは居心地が悪そうに視線を思いっきりそらした。
さっき話がズレてしまったことを恥ずかしく思っているのか、もしかすると人前で真っ正面からお礼を言ったりするのが苦手なのかもしれない。
…と勝手に想像していると。
「…何モジモジしてるんですか。
似合わないっすね」
お味噌汁を一口飲んで、越前くんがサラッと言い放った。
それを聞いた桃城くんがお腹を抱えて大笑いしながら、
「越前の言うとおりだぜ、女子の前だからって何カッコつけてんだよっ、マムシ!
あー、腹いてー!」
とか言っちゃうから、また始まってしまった。
「~~~~~!!
うっせぇ、この無神経野郎!!」
「なんだとー!誰が無神経だ!」
「てめぇしかいねぇだろうが!」
そんな中、黙々とごはんを食べる越前くん。
…もとはと言えば、越前くんが余計なことを言ったことが原因な気がするけど…。
『ね、ねぇ、越前くん』
「何?」
『越前くんて、本当にマイペースだね…』
「そう?」
「あの、止めなくてもいいですか…?」
「う、うん、そうだね。止めたほうがいいんじゃ…」
壇くんと葵くんが戸惑った様子で声をかけるも、越前くんはやっぱり応じるつもりはないらしく、「ほっとけばいいよ」なんて、今度はお漬け物を口に運びながらのんきに言ってる。
そのマイペース加減にもはや感心してしまいつつ、少し離れたところで言い合いを続ける桃城くんと海堂くんを見やった。
そう言えば…、海堂くんとはほとんどしゃべらなかったな。
桃城くんとはそういう機会もあったけど、海堂くんはあまり接点がなかった。
「?
どうしたの?」
私が海堂くんのほうをジッと見ていたのを不思議に思ったのか、越前くんが尋ねてきた。
『あ、うん。
私よく考えたら海堂くんとほとんどしゃべらなかったなって』
「まぁ、さっきのやりとり見てたら分かると思うけど、海堂先輩は具体的な用でもないと女子に自分から話しかけたりしない人だし」
『そっか…』
確かにそんな感じはしたけど、同じ学年なんだし、せっかくだからもう少し話してみればよかったなぁ。
「気になるなら名無しさんから声かけてみたら?」
『えっ。べ、べつに気になるっていうわけじゃないけど…。
なんとなく、少しくらい話してみればよかったなって思っただけ』
「ふーん。まぁいいけど」
「名無しさんがこれからも来てくれるなら、海堂さんとだって、もっと他のいろんな人たちとだって、また話せるのに…」
小さな声でそうつぶやいた壇くんは、私を見ると少し熱のこもった目で続けた。
「僕はやっぱり名無しさんがもう来ないなんて、嫌です」
すると、葵くんがそれにうなずく。
「僕も嫌です!
またこういう機会があっても、そこに
名無しさんがいなかったら、絶対さみしいです…」
うつむく二人に何と言うべきか迷ってしまう。
私はテニス部員じゃない。
だから、もうこういう場に来ることはない。
だけど…。
こんなふうに言ってくれるのは嬉しくて、そう断言してしまっていいのか分からない。
かといって、嘘をつくわけにもいかないし…。
「来ればいいじゃん」
…………………………。
………え?
越前くんが箸をとめて、こちらに目を向けた。
「正式な大会とか行事でもないんだし、別にいいんじゃない?何か問題あるの?」
『だって、私はーー』
「また言ってる。“私はテニス部員じゃない”から?
それは今だって同じでしょ。なのにここにいるじゃん」
『えっと、それは……跡部先輩が来いって言ってくれたから…』
「じゃあ跡部さんがOKすればいいってこと?」
『そ、それは…。跡部先輩は部長だし、その跡部先輩が許可を出したならいいんじゃないかと……たぶん』
越前くんから矢継ぎ早に繰り出される質問に、あまり考える余裕もないまま、しどろもどろになりながら何とか答える。
それを聞いた越前くんは、今度は葵くんと壇くんのほうを向くと、
「だってさ」
と、短く言った。
「ほ、本当ですか!?名無しさん!」
「だったら、僕たちで跡部さんに交渉しに行くです!」
『えっ。あ、あの…』
…しまった。
うかつな事を言ってしまった…!
と、そこに越前くんの冷静な声。
「いいんじゃない?
俺も行ってあげるよ。…面白そうだし」
面白そうだし、の部分はものすごく小声で、どうやら私にしか聞こえていなかったらしく、葵くんと壇くんはさらに盛り上がる。
「よーし!じゃあ僕たち3人で跡部さんのところに行きましょう!」
「はい!行くです!気合い入れるです!」
「エイエイオー」
『ちょっ、待って待って!』
澄ました顔でお茶を飲む越前くんはとりあえず置いておいて、今にも跡部先輩のところに行ってしまいそうな2人を慌てて引きとめる。
『あ、あのね。も、もしそういう機会があったら、そのとき考えてみるよ』
「えっ…。考える、ですか…?」
私があまり乗り気じゃないと思ったのか、悲しそうな目をする葵くんと壇くん。
うっ……。
この目をされると弱いんだよね、私…。
『ほ、ほら、私にも一応、予定とかあるし。
それはその時になってみないと分からないから。…ね?ね?』
「…あ、そうですよね。次の機会がいつになるかも分かりませんし…」
「名無しさんもいろいろとお忙しいに決まってるです…。すみません…」
二人はシュンとしながらも、納得してくれた。
『ううん、そんな謝らないで。
2人がそんなふうに言ってくれただけで、私すごく嬉しいよ』
「ほ、本当ですか?」
『うん!』
「よ、よかったです!安心したです!」
元気を取り戻した2人の様子にホッとしつつ、越前くんを見やる。
『…越前くん』
「何?」
私は葵くんと壇くんには聞こえないように、声をひそめた。
『越前くんは私に来てほしいなんて思ってないよね?』
「うん、思ってない」
『分かってたけど、ハッキリ言うね!?…まぁいいけど。
だったら何でああいうこと言うの?』
「別に、本当のこと言っただけだけど。
名無しさんは来たくないの?」
『そ、そんなことは…ないけど…』
「じゃあいいじゃん」
…そう、正直なことを言えば、もしまた参加できるならいいなと思う。
難しいとは思うけど。
だって、本当に…楽しかったから。
『…なんだか越前くんと話すと、いろいろ考えてるのがどこかに飛んでいっちゃうみたい』
「だから何回も言ってるでしょ。名無しさんは毎回毎回難しく考えすぎ。そういうの似合わない。
もっと単純に考えたら?そのほうがアンタっぽいし」
『…うん、そうだね……』
………ん?
『ちょっと待って。もしかして今私、バカにされた?』
「さあ?」
かすかに笑みを含ませながら食事を続ける越前くん。
「ほら、早く食べなよ。
いらないなら俺が食べてあげるけど。どれもらおうかな」
『ダメ!た、食べます!』
こっちに箸をのばしてきた越前くんから自分のごはんを守りつつ、パクパクと食べる。
そんな私の様子を見て、越前くんは小さく吹き出しながら笑うのだった。
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