私のヒーロー・番外編

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*忍足side



「なぁ、忍足!一緒に昼メシ食わねぇ?」


昼休みになった途端、近くの席のクラスメイトに声をかけられた。


「別にええけど」


断る理由も無いし、深く考えることもなく軽くうなずく。


「よっし!そうと決まればさっそく食おうぜ!
あ、お前今日弁当?何か持ってきた?」

「今日は弁当や」

「オッケー!じゃ行こ行こ」


妙にテンションが高いクラスメイトに手招きされて、言われるままに教室の窓際の席のほうへ向かう。

そこにはすでに二人いて、四人分の机と椅子を用意してあった。


「おーい、忍足連れてきたぞ!」


その声に、二人がバッと顔をあげる。


「おお!やるじゃん!」

「待ってたぜ~」




何や、いったい。


謎の歓迎されっぷりを不思議に思いつつ、とりあえず席につくと、目の前に1枚の紙が差し出された。


「これこれ!これにお前にも参加してほしくてさ」

「?」


お世辞にも綺麗とは言えない字でその紙に大きく書かれた一文を読み上げる。


「“氷帝の可愛い女子ランキング”」


…………なるほど、そういうことか。


事の経緯が理解できて、思わずため息がこぼれた。


「…好きやなぁ、自分ら」

「頼むよ~、忍足~。
お前が参加してくれたら説得力が増すんだよ~」

「何の説得力やねん」



話を聞くと、どうやら他のクラスの奴らと手分けしてそれぞれのクラスで同じアンケートをとっとって、後で見せあうときに俺の票が入っとるほうがアンケートの価値が上がるということらしい。


「やっぱモテる奴の意見が重要なんだよな」

「そうそう。
だからみんなテニス部の奴に投票してもらうために必死なんだぜ」

「というわけで、忍足も投票頼む!
ちなみに持ちポイントは10ポイントな。全部1人に入れるもよし、10人に1ポイントずつ分けるもよし」


人に勝手に順位をつけるようなことは好きやないけど…。

まぁ、悪いことに順位をつけるわけでもないし、ええか。


「分かった。投票するわ」

「マジか!」

「やったぜ!」

「サンキュー!」

「ただし、その前に確認したいねんけど」


実は“氷帝の可愛い女子”の文字を見たとき、パッと頭に思い浮かんだ子がおった。

その子に投票できるかどうか確認しとかんと。


「対象の学年は?三年だけなん?」

「いや、氷帝の生徒なら誰でもいいぞ」


よし、決まりや。


「なら、俺はななしちゃんに10ポイント全部入れるわ」


さっき自然と思い浮かんだななしちゃんの名前を出すと、三人がえっ、とそろって声をあげた。


「あの子はダメだ!」

「なんでやねん」

「お前はあの子のこと、後輩として可愛がってるだけだろ。
このアンケートはそういうんじゃないの!女子として可愛いと思うかなの!」

「女の子として可愛いと思っとるで、当たり前やん。
まぁ俺はななしちゃん以外に投票したい子おらんし、あの子がダメなら俺の票は無しってことで」

「ちょっ、待て待て!」

「分かったよ、あの子でいいって!」

「そうなん?
ならななしちゃんに10ポイントでよろしゅう。ほな、いただきます」


手を合わせてから食事を始める。

と、視線を感じて顔をあげると、三人が俺をあきれたように見ていた。


「?どないしたん」

「いや、お前…っつーか、お前らほんとあの子が好きだな」

「なんや、そんなことか」

「あのさ、前から聞きたかったんだけど、あの子のどこがそんなにいいわけ?
女子に全っ然興味なさそうな宍戸とか芥川まで可愛がってるけどさ」

「そーそー。
言っちゃ悪いけど、どこからどう見てもフツーじゃん」

「みんな不思議がってるよな」


どこからどう見てもフツー。


…まぁ確かに、ただ見ただけならそうやろな。


「俺も最初は普通の子やと思ったで?」

「えっ、そうなのか?」

「まぁ、そりゃそうだよな」


うんうん、とうなずく三人。


「跡部が気に入っとる子やって分かっとったから興味はあったんやけど、実際会うてみたら、なんや普通の子やん、て思ったなぁ」


懐かしい、ななしちゃんと出会ったばかりの日のことを思い出す。


「なんでそこから今みたいなことになったんだよ?」

「それそれ」

「お前らがその気になれば誘いに乗らない女子なんかこの世にいないだろ。
なのになんでわざわざそんな普通の子といるんだ?」


その言葉に、俺は軽く吹き出してしまった。


「それは言い過ぎちゃう?
当たり前やけど俺らに興味ない子もおるやろうし、ななしちゃんも最初は俺らに声かけられるの嫌がっとったんやで?」

「ウソだろ!?」

「そんな子がこの世に存在するのか!?」

「マジかよ!?」

「大マジや。
まぁ俺もしゃべってみてようやく分かったんやけど、あの子は…なんて言えばええんやろうな。
とにかく一緒におって居心地がええねん。肩の力が抜けるような感じがするんや」

「あー、それってあれか。癒される、みたいなやつ?」

「ああ、近いかもしれんな。
せやからときどき無性に顔が見たなったり、声が聞きたなったりするわ」

「うわー、それ他の女子の前で言うなよ?ショックで卒倒する女子が出ちまうぞ」

「はは、大げさやな」

「いや、大げさじゃねぇんだって、お前の場合」


あー、あかん。

こんな話しとったら、さっそく会いたなってきたわ。

ななしちゃんも今頃ごはん食べとるかなぁ。


「なぁ、忍足。なんか興味出てきたし、俺に名無しさん紹介してくれよ」

「あかん」


全く迷いなく、間髪入れずに却下。


「ええ?なんでだよ。いいだろ、べつに」

「あんなぁ、気になる子に直接声もかけられんような度胸のない男を、なんでわざわざ俺がななしちゃんに紹介せなあかんねん。自分で話しかければええやろ」

「それは…確かに」

「けどなー、俺たちみたいな平凡な男に声かけられたら露骨に嫌そうな顔する女子いるんだぜ?なんだよお前、って感じでさ。
お前らみたいなモテる奴には分からないだろうけどさ」

「結構傷つくんだよな、あれ…」

「その心配は必要無いで。ななしちゃんはそんな子やないし」


そうや。ななしちゃんはそういう子やない。

だからこそ、きっと俺らはあの子と仲良うなれたんや。



「一応言うておくけど、怖がらせるようなことはしたらあかんで」

「はいはい、分かってますとも」

「お前らの大事なお姫様だもんな」

「跡部とか宍戸とか怒らせたらこえーし」

「なんや、分かっとるやん」



…俺たちのお姫様、か。


けどいつかは誰か1人のお姫様になってまうんやなぁ…。

そう思うと、なんや寂しなってくるわ。


…そうなる前にいっそ、俺だけのお姫様にしてしまえば……。


「どうしたー?忍足」

「…い、いや、なんでも。
せや、さっきの投票の結果、俺にも教えてな」

「分かってるって」

「これさ、もしかしたらテニス部の奴ら全員名無しさんに10ポイント入れるんじゃね?」

「あー、あり得る」

「はは、どうやろな」


とっさにごまかして笑いながら、気づかれんように静かに息を吐いた。


…あぁ、びっくりした。


自分でも予想外の考えが浮かんできたことに、普通に動揺してしまった。


ななしちゃんを俺だけのお姫様にしたい、とか…。

そんな願望が自分にあったとは。

まぁ、あんなええ子と仲良うなったら、男なら大なり小なりそういう気持ちになりそうなもんではあるけど。

人の気持ちって、つくづく分からんもんやな。

自分の気持ちさえも。



「けどさー、名無しさんだっていつかは誰か1人のお姫様になるんだよな」


ギクッ。


「そうだよなぁ。
今度の合宿、名無しさんも行くんだろ?そこでそういう相手になるような奴に会うかもしれねぇし」


……確かに。


「そーそー。もしかしたら俺のお姫様になるかもしれないし?」

「それは無いわ」


すぐさまツッコミを入れる。


「忍足に賛成。お前はない」

「だな。無い無い。がっつきすぎだし」

「おい!?なんかひどくね!?」

「っはは」


言いながら、弁当箱から玉子焼きをひと切れ、箸でつまみあげる。


…そういえば、ジローが言っとったな。

ななしちゃんが作った玉子焼きが甘くて最高においC~!って。

それ、俺も食べてみたいなぁ。

今度頼んでみようかな。

“俺も食べてみたいから、作って?”って。

俺がねだったりしたら、ななしちゃん、どんな顔するやろ。

びっくりするかな。

それとも困るやろうか。

どんな反応するか気になるけど、困らせるんはかわいそうやし…。

うーん、どないしよ。



「忍足、忍足」

「んー?」

「今、名無しさんのこと考えてただろ」

「えっ、なんで分かったん」

「そりゃ分かるって。
話の流れもあるけど、顔が幸せそーだったし」

「そうそう。
ほわわわわ~、って感じの顔な」

「俺そんな顔しとった?」

「してた」

「つーか、名無しさんの話するとき結構いつもそんな感じだぞ」

「自覚ねーの?」



指摘されて、新たな自分を発見したような気がした。

俺はわりと感情が顔に出ないと言われることのほうが多い。

けど、ななしちゃんに関しては別らしく。

こんなふうに感情をいい方向へと柔らかく動かしてくれる存在が自分にもいるという事実が、改めて意識すると少しこそばゆい。



「ほら、その顔」

「えっ、またしとった?」

「してたしてた」



この昼休みに分かったこと。


どうやら俺は、自分で思っとったよりもずっとずっと、ななしちゃんのことが好きらしい。



…end.
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