合同合宿編
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*室町side
きのうの朝も使ったコートで、名無しさんを待つ。
なぜだか早くに目が覚めて、約束した時間よりかなり前にここに来てしまった。
練習に使う道具を準備しながら、空を見上げる。
絵に書いたような、よく晴れた日だ。
だけど、それとは対称的に俺の心には薄く雲がかかっていた。
ふと、作業していた手がとまる。
きのうの夜、千石さんが見たと言っていた場面。
名無しさんと日吉が一緒にいて、いい雰囲気だったって。
それで声をかけられなかったって。
千石さんはあれからずっと元気がなかった。
六角の人たちと遊んでいる間は楽しそうにはしていたし、実際楽しんでいたとは思う。
でも、それでもいつもの千石さんからすると、やっぱり元気がなかった。
あんなふうになるってことは、千石さんの勘違いじゃなくて、本当にいい雰囲気だったに違いない。
一体何があったんだろう。
俺が見た限りじゃ、とても短期間でそんなことにはならないような関係性に思えたのに。
それを可能にするような何かがあったんだ。
千石さんはそれ以上何も言わなかったから推測するしかできないけど、いい雰囲気っていう表現を男女に対して使うのは、つまりそういうことなんだろう。
何があったか知らないけど、もしかしてあの二人…。
『室町くーん、ごめーん!』
俺の思考を断ちきるように、名無しさんの声が聞こえてきた。
俺のところまで駆け寄ると、待たせてごめんね、と両手を合わせる。
まだ約束した時間にはなってないから、と答えると、名無しさんは安心したように笑った。
「にしても早いね。名無しさんが来る前に準備終わらせられると思ったんだけどな」
『うん、なんか張り切っちゃって』
……嬉しそうだなぁ。
これは、いい事があったって感じだ。
ニコニコしてる名無しさんを見ていると、さっき思い浮かびかけた推測が正しかったのかと思ってしまう。
「…なんか、いい事あった?」
ここはストレートに聞いてみることにした。
ここまでの短い付き合いだけでも、小細工は名無しさんには必要ないということは分かったから。
『えっ!
…えーっと、えーっとね……』
俺の質問に、サッと頬を赤くする名無しさん。
………なんて分かりやすい人なんだ…。
もう、何かいい事があったのは確実。
あとはそれがさっきの推測と違っていてくれることを祈るばかりだ。
そう…。
日吉と付き合うことになった、っていうことじゃなければいいけど……。
ハラハラしながら名無しさんの答えを待つ。
やがて、名無しさんの口が動いて…。
『あの…ね、実は私、日吉くんと…』
……………!!
や、やっぱり………?!
『と、友達に…なれたんだ…!』
……………………………。
…………………………………………………。
と………………と………………。
とも……だち………?
固まる俺をよそに、名無しさんはエヘヘ~と照れくさそうにほほえむ。
…いや、友達って。
今のかなり照れた感じからの友達って。
100人いたら99人は付き合うことになったんだと思うはずだって、今のは。
なんてまぎらわしい…。
……いやいや、ちょっと待て。
よく考えてみれば、名無しさんはこういう人だった。
嬉しいとか恥ずかしいとかそういう感情の動きは丸分かり、接する相手が男だってことはあまり深く考えてないらしい。
名無しさんからすれば単純に、仲良くなりたいと思っていた相手と仲良くなれたことが嬉しいだけ。
…そりゃそうだよな。
事情は知らないけど、なんか日吉とはギクシャクしてるみたいだったし、それが解消されたなら嬉しいに決まってる。
それこそ名無しさんだって、千石さんの事情は知らないんだから…。
「…よかったな、名無しさん」
『うん、ありがとう!』
…ごめん、名無しさん。
勝手にこっちの都合で、まぎらわしい、だなんて思ったりして。
「じゃ、練習始めようか」
『うん、よろしくお願いします!』
「こちらこそ、よろしくお願いします。
…っと、その前にまだ準備途中だった」
『あ、そうだった!一人で準備させちゃってごめんね』
「いいよ、少しだし」
『私、何したらいい?』
「えーっとね…」
名無しさんは準備をしてる間さえきのうに増して楽しげな感じで、少し複雑な気持ちになる。
名無しさんをこんなふうにさせてるのが日吉だとしたら……。
もし名無しさんのほうにも日吉に対して恋愛感情があったら……。
そこにはもう、誰も入り込む余地が無いように思えてしまう。
そうなったら、千石さんは……。
ーー“もういちいちリアクションが可愛いんだ。いい子だしさ~。
ちょっと聞いてくれよ、室町くん!”
名無しさんのことを初めて俺に話してくれたとき、千石さんは幸せそうだった。
あれからずっと、千石さんは名無しさんのことを話すとき、幸せそうで……どこか苦しそうだった。
俺はあの苦しそうな様子が消えてくれればいいと思う。
千石さんが自分の気持ちの正体を知って、納得がいくように行動できたなら、きっとあの苦しさは消えるはずだ。
そしてその為にはまだ時間が必要なんだ。
…よし、ここは一度ハッキリさせておいたほうがいいな。
まぁまぁしにくい質問だけど、せねばなるまい…。
「…名無しさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『うん、なに?』
「きのうのデートの話と同じで、言いたくなかったら答えなくていいからな」
『う、うん?』
「付き合ってる奴、いる?」
うわ、言ってしまった。
もう後には退けない…。
『え?いないよ?
そもそもデートしたことすら無いって、きのう言ったのに』
名無しさんのリアクションが思ったよりあっさりしていたので、ホッとする。
「まぁ、そうなんだけど。
それじゃあ、好きな奴は?」
『いないよ』
「気になる奴は?」
『いない』
よしっ!
完全にフリーだ…!
…って、千石さんのことも気になってないってことが判明してしまったわけだけど……。
『ねぇ、なんでそんなこと聞くの?
きのうのデートの話はまだ分かったけど…』
!!!
「それは…まぁ、ほら…。
ふ、普段女子とこんな話しないから、気になるっていうか…」
『へぇ、そうなんだー』
そこそこしどろもどろになってしまったけど、名無しさんはすんなり納得してくれた。
「よ、よし。今度こそ、練習するか」
『うん、よろしくお願いします!』
ちょうど準備が終わったから、練習を始めることにした。
俺にとっては話を変えられる良いタイミングだったけど、名無しさんは深読みすることもなく、ただ嬉しそうに笑った。
ふと気がつくと、そんな名無しさんの向こう遠くにある窓に、人影がいくつか見える。
「そういえばさ、きのうの朝誰かに言われなかった?俺と練習してたこと。
俺は何人かに言われたんだ、名無しさんと一緒にいただろって」
『うん、言われたよ。何人か見てた人がいたみたいだね。
六角の人たちに楽しそうだったねって言われちゃった』
「名無しさんはまた見られても大丈夫?今も人がいるけど」
『えっ、どこ?』
「ほら、あそこ」
俺は名無しさんと二人でいたことをからかわれたから、名無しさんもそういう事を言われただろう。
だとしたら、ここでこのまま続けるのはマズイかと思ったんだけど…。
『あっ、ホントだ。あれって……。
…あっ、桃城くんと壇くんだ!』
名無しさんに嫌がるような様子は微塵もなく、手を振り始めた。
『おーーーい!おーーーい!』
2階の窓際にいる桃城と壇に向かって、背伸びして大声で呼びかける。
すると、二人も窓を開けてブンブンと手を振り返してきた。
『おはよーーーーーっ!!』
「おーはーよーーーーございまーーーす!!」
ございます、の部分は壇だけの声で、二人の声が返ってきた。
この合宿所はただでさえ街から離れた場所で、かつ早朝だからすごく静かなわけだけど、そこに響き渡る遠距離のあいさつが何とも言えずシュールだ。
……いや、名無しさんがもっと近づけばいいと思うけど。
そう思うんだけど……。
『今日もいい天気だねーーー!』
「そうですねーーー!」
「はらへったぞーーー!」
『私もーーー!』
うーん…。
3人ともすごく楽しそうだから、まぁいいか。
平和って、いいなぁ……。
「室町せんぱーーーーーい!」
「むーろーまーちーーー!」
おぉっ。
なんか俺も呼ばれてるぞ…。
『室町くん、ほら、振り返さなきゃ!』
「えっ、俺も参加するの!?」
『もちろんっ!』
心底楽しそうに名無しさんが笑う。
こういう顔をされると、何もしないわけにもいかず。
…はぁ、俺って結構簡単な奴だったんだな。
名無しさんのこと、言えないかも。
まだ出会って間もない女子にあっさり乗せられる単純な自分を発見しつつ、俺は手を振ったのだった。
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きのうの朝も使ったコートで、名無しさんを待つ。
なぜだか早くに目が覚めて、約束した時間よりかなり前にここに来てしまった。
練習に使う道具を準備しながら、空を見上げる。
絵に書いたような、よく晴れた日だ。
だけど、それとは対称的に俺の心には薄く雲がかかっていた。
ふと、作業していた手がとまる。
きのうの夜、千石さんが見たと言っていた場面。
名無しさんと日吉が一緒にいて、いい雰囲気だったって。
それで声をかけられなかったって。
千石さんはあれからずっと元気がなかった。
六角の人たちと遊んでいる間は楽しそうにはしていたし、実際楽しんでいたとは思う。
でも、それでもいつもの千石さんからすると、やっぱり元気がなかった。
あんなふうになるってことは、千石さんの勘違いじゃなくて、本当にいい雰囲気だったに違いない。
一体何があったんだろう。
俺が見た限りじゃ、とても短期間でそんなことにはならないような関係性に思えたのに。
それを可能にするような何かがあったんだ。
千石さんはそれ以上何も言わなかったから推測するしかできないけど、いい雰囲気っていう表現を男女に対して使うのは、つまりそういうことなんだろう。
何があったか知らないけど、もしかしてあの二人…。
『室町くーん、ごめーん!』
俺の思考を断ちきるように、名無しさんの声が聞こえてきた。
俺のところまで駆け寄ると、待たせてごめんね、と両手を合わせる。
まだ約束した時間にはなってないから、と答えると、名無しさんは安心したように笑った。
「にしても早いね。名無しさんが来る前に準備終わらせられると思ったんだけどな」
『うん、なんか張り切っちゃって』
……嬉しそうだなぁ。
これは、いい事があったって感じだ。
ニコニコしてる名無しさんを見ていると、さっき思い浮かびかけた推測が正しかったのかと思ってしまう。
「…なんか、いい事あった?」
ここはストレートに聞いてみることにした。
ここまでの短い付き合いだけでも、小細工は名無しさんには必要ないということは分かったから。
『えっ!
…えーっと、えーっとね……』
俺の質問に、サッと頬を赤くする名無しさん。
………なんて分かりやすい人なんだ…。
もう、何かいい事があったのは確実。
あとはそれがさっきの推測と違っていてくれることを祈るばかりだ。
そう…。
日吉と付き合うことになった、っていうことじゃなければいいけど……。
ハラハラしながら名無しさんの答えを待つ。
やがて、名無しさんの口が動いて…。
『あの…ね、実は私、日吉くんと…』
……………!!
や、やっぱり………?!
『と、友達に…なれたんだ…!』
……………………………。
…………………………………………………。
と………………と………………。
とも……だち………?
固まる俺をよそに、名無しさんはエヘヘ~と照れくさそうにほほえむ。
…いや、友達って。
今のかなり照れた感じからの友達って。
100人いたら99人は付き合うことになったんだと思うはずだって、今のは。
なんてまぎらわしい…。
……いやいや、ちょっと待て。
よく考えてみれば、名無しさんはこういう人だった。
嬉しいとか恥ずかしいとかそういう感情の動きは丸分かり、接する相手が男だってことはあまり深く考えてないらしい。
名無しさんからすれば単純に、仲良くなりたいと思っていた相手と仲良くなれたことが嬉しいだけ。
…そりゃそうだよな。
事情は知らないけど、なんか日吉とはギクシャクしてるみたいだったし、それが解消されたなら嬉しいに決まってる。
それこそ名無しさんだって、千石さんの事情は知らないんだから…。
「…よかったな、名無しさん」
『うん、ありがとう!』
…ごめん、名無しさん。
勝手にこっちの都合で、まぎらわしい、だなんて思ったりして。
「じゃ、練習始めようか」
『うん、よろしくお願いします!』
「こちらこそ、よろしくお願いします。
…っと、その前にまだ準備途中だった」
『あ、そうだった!一人で準備させちゃってごめんね』
「いいよ、少しだし」
『私、何したらいい?』
「えーっとね…」
名無しさんは準備をしてる間さえきのうに増して楽しげな感じで、少し複雑な気持ちになる。
名無しさんをこんなふうにさせてるのが日吉だとしたら……。
もし名無しさんのほうにも日吉に対して恋愛感情があったら……。
そこにはもう、誰も入り込む余地が無いように思えてしまう。
そうなったら、千石さんは……。
ーー“もういちいちリアクションが可愛いんだ。いい子だしさ~。
ちょっと聞いてくれよ、室町くん!”
名無しさんのことを初めて俺に話してくれたとき、千石さんは幸せそうだった。
あれからずっと、千石さんは名無しさんのことを話すとき、幸せそうで……どこか苦しそうだった。
俺はあの苦しそうな様子が消えてくれればいいと思う。
千石さんが自分の気持ちの正体を知って、納得がいくように行動できたなら、きっとあの苦しさは消えるはずだ。
そしてその為にはまだ時間が必要なんだ。
…よし、ここは一度ハッキリさせておいたほうがいいな。
まぁまぁしにくい質問だけど、せねばなるまい…。
「…名無しさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『うん、なに?』
「きのうのデートの話と同じで、言いたくなかったら答えなくていいからな」
『う、うん?』
「付き合ってる奴、いる?」
うわ、言ってしまった。
もう後には退けない…。
『え?いないよ?
そもそもデートしたことすら無いって、きのう言ったのに』
名無しさんのリアクションが思ったよりあっさりしていたので、ホッとする。
「まぁ、そうなんだけど。
それじゃあ、好きな奴は?」
『いないよ』
「気になる奴は?」
『いない』
よしっ!
完全にフリーだ…!
…って、千石さんのことも気になってないってことが判明してしまったわけだけど……。
『ねぇ、なんでそんなこと聞くの?
きのうのデートの話はまだ分かったけど…』
!!!
「それは…まぁ、ほら…。
ふ、普段女子とこんな話しないから、気になるっていうか…」
『へぇ、そうなんだー』
そこそこしどろもどろになってしまったけど、名無しさんはすんなり納得してくれた。
「よ、よし。今度こそ、練習するか」
『うん、よろしくお願いします!』
ちょうど準備が終わったから、練習を始めることにした。
俺にとっては話を変えられる良いタイミングだったけど、名無しさんは深読みすることもなく、ただ嬉しそうに笑った。
ふと気がつくと、そんな名無しさんの向こう遠くにある窓に、人影がいくつか見える。
「そういえばさ、きのうの朝誰かに言われなかった?俺と練習してたこと。
俺は何人かに言われたんだ、名無しさんと一緒にいただろって」
『うん、言われたよ。何人か見てた人がいたみたいだね。
六角の人たちに楽しそうだったねって言われちゃった』
「名無しさんはまた見られても大丈夫?今も人がいるけど」
『えっ、どこ?』
「ほら、あそこ」
俺は名無しさんと二人でいたことをからかわれたから、名無しさんもそういう事を言われただろう。
だとしたら、ここでこのまま続けるのはマズイかと思ったんだけど…。
『あっ、ホントだ。あれって……。
…あっ、桃城くんと壇くんだ!』
名無しさんに嫌がるような様子は微塵もなく、手を振り始めた。
『おーーーい!おーーーい!』
2階の窓際にいる桃城と壇に向かって、背伸びして大声で呼びかける。
すると、二人も窓を開けてブンブンと手を振り返してきた。
『おはよーーーーーっ!!』
「おーはーよーーーーございまーーーす!!」
ございます、の部分は壇だけの声で、二人の声が返ってきた。
この合宿所はただでさえ街から離れた場所で、かつ早朝だからすごく静かなわけだけど、そこに響き渡る遠距離のあいさつが何とも言えずシュールだ。
……いや、名無しさんがもっと近づけばいいと思うけど。
そう思うんだけど……。
『今日もいい天気だねーーー!』
「そうですねーーー!」
「はらへったぞーーー!」
『私もーーー!』
うーん…。
3人ともすごく楽しそうだから、まぁいいか。
平和って、いいなぁ……。
「室町せんぱーーーーーい!」
「むーろーまーちーーー!」
おぉっ。
なんか俺も呼ばれてるぞ…。
『室町くん、ほら、振り返さなきゃ!』
「えっ、俺も参加するの!?」
『もちろんっ!』
心底楽しそうに名無しさんが笑う。
こういう顔をされると、何もしないわけにもいかず。
…はぁ、俺って結構簡単な奴だったんだな。
名無しさんのこと、言えないかも。
まだ出会って間もない女子にあっさり乗せられる単純な自分を発見しつつ、俺は手を振ったのだった。
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