私のヒーロー・番外編
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*室町side
「十次」
「何?」
「ちょっと買い物行ってきて」
「えぇ…」
「ほら、これ。メモとお金」
部の合同合宿が差し迫った、ある日曜日。
部屋に入ってきた母さんから、有無を言わさずメモとお札を押し付けられた。
あぁ、せっかくいいところだったのに…。
見ている途中だった映像を停止して、立ち上がる。
「あ、ネギは絶っ対買ってきてね。今日特売だから」
「だったら自分で行けばいいのに」
「お母さんは忙しいの。あんたは暇でしょ」
「俺だって忙しいの」
「何か観てるだけじゃない」
「他校の最新の試合映像だよ。
合同合宿までに全部観て、頭に叩き込んでおきたいんだ」
「またあんたは…。せっかくの休日だっていうのに色気のないもの観てるわねぇ。
たまには女の子と遊びにでも行ったら?あんたは二言目にはテニステニスなんだから」
「あー、はいはい、分かりました。
じゃあ行ってくるから」
話を無理矢理終わらせて、俺は部屋を出た。
こういう話をされても、正直困る。
女子に興味が無いわけじゃない。
ごく普通の男子中学生並みの興味はあると思うけど、それ以上にテニスが好きなんだ。
今は夏の大会に向けて大切な時期だから、やれることは全部やっておかないと。
ずっと部を引っ張ってきてくれた三年の先輩たちとテニスができるのも、そこまで。
絶対にあとで後悔したくない。
…とかカッコつけてても、現実は今から近所のスーパーなんだけど。
自転車に乗って、すっかり通い慣れたスーパーへと向かう。
途中、玄関先を掃除していたご近所のおばさんと挨拶をかわしたり、時々一緒に遊んであげている小学生の男の子からまた遊ぼうよと声をかけられたりしながら、こいで行く。
しばらくすると、小さな公園が見えてきた。
子供の頃、母さんがよく連れてきてくれた公園だ。
この公園の横を通るのはよくあることで、いつもなら特に気にとめることもなく素通りするのに、なぜか今日は少し気になった。
妙に懐かしい。
一瞬寄っていこうかとも思ったけど、すぐに思い出す。
ネギの存在を。
時間的に大丈夫だとは思うけど、万が一寄り道したあげく買えなかったら、母さんから文句を言われるのは必至だ。
メモの内容を思い浮かべると、すぐに冷蔵庫に入れないといけないようなものは確か無かった。
…しょうがない、帰りに寄ろう。
そう決めて、そのままスーパーへと向かった。
スーパーの駐輪場に自転車をとめて、店内へと入る。
まず真っ先に野菜売り場へ。
そこには何人も足を止めている人がいた。
さすが特売。
さっそく俺もそこに加わって、良さそうなネギをカゴに入れる。
…よし、最重要ミッションクリア。
さて、次は見切り品コーナーだ。
迷いなく進む俺の足。
しょっちゅう来る店だから、どこに何があるかは完全に把握済みだ。
見切り品コーナーでおかずに使えそうな物やいい具合に熟している果物をゲット。
こういうのはその時のタイミングで手に入るものが違うから、結構楽しい。
母さんも喜んでくれるし。
そのあとも店内をまわって、頼まれた買い物をスムーズに済ませ、店を出た。
駐輪場で買い物袋を前カゴに入れて出発する。
さて、と。
帰りはあの公園に寄ろう。
視界の中に公園が見えてきた。
今日は天気もよくて、暑くも寒くもないし、ベンチに座っているだけでも気持ちよさそうだ。
そんなことを考えながら自転車をこいでいたとき、近づいてきた公園の、まさに今思い浮かべていたベンチに人影が見えた。
あ、先客がいるみたいだな…。
見ると、角度的に顔までは分からないけど、背格好からして俺と同年代の女子らしい。
どうしようか、と迷った。
この公園は本当に小さくて、公園内にいる全員の顔まで把握できるほどだ。
そこに同年代の女子と距離が離れていたとしても二人きりでいるのは、少し気まずい。
…残念だけど、しょうがない。
また今度にしよう。
自宅から自転車なら数分だし、またいつでも来られる。
そう思って、俺はまっすぐ家に帰ることにした。
公園の横を通りすぎるときベンチのほうを見ると、さっきの女子は電話中らしく、すぐそばに自転車がとめてあった。
その前カゴには俺と同じように買い物袋が入っていて、さらに同じようにそこからネギがピョコンと顔を出していた。
…どうやら俺と同じ事情みたいだ。
なんとなく親近感を覚えつつ、俺はそのままその場を離れた。
『あっ、もしもし、お母さん?うん、ななし。買い物終わったよ!
…うん、みんなネギ買ってた。安いもんね。
今?今ね、実は公園にいるんだー。ほら、小さい頃時々お母さんが連れてきてくれた公園。…うん、そう、その公園。なんだか急に懐かしくなっちゃって。
もう少ししたら帰るよ。…うん、分かった。じゃあねー』
……end.