合同合宿編
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*鳳side
その明るい声の主は、葵だった。
「皆さんおそろいで、ミーティングですか?さすがです!
ねぇみんな、僕たちも見習って、今からミーティングする?」
そう言って笑顔で振り返ったその先には……。
さ、佐伯さん………!
その姿を見て、瞬間的にギクリとする。
今の今まで話題に出ていた人が来ると、なんとなく気まずい。
だけど別に悪い話をしていたわけじゃないし、普通にしていよう…。
そう、普通に、いつもどおりに、平常心でいればいいんだ。
とにかくバレないように、普通に普通に……。
「あーっ、佐伯だC~!」
!!!
な、な、な………。
「佐伯、あのねあのね~」
!!?
まっ、まずい!
芥川さん、何か言うつもりだ…!
たぶんその瞬間、氷帝全員の見開かれた目が芥川さんに向いていたと思う。
ピシッと音が聞こえてきたと錯覚するくらいに俺たちの間の空気が張りつめた。
その中で当の芥川さんだけはのんきな様子で、佐伯さんにまだ何か言おうとしていた。
完っ全にまずい。
このままじゃ、さっきの話がバレてしまう。
もしそうなったら、名無しさんが…名無しさんが……。
「だめーーーーーーーー!!!」
俺は宙に向かって、咄嗟にダイブした。
両手を伸ばして、そう、ちょうど水泳の飛び込みみたいに。
そして芥川さんのところにたどり着いた俺は、スタッと着地すると同時に、そのまま両手の手のひらで芥川さんの口をふさいだ。
「むぐっ?!」
なんかフガフガ言ってるけど、ひとまず無視。
鼻は押さえてないから、呼吸には問題ないし。
それより、どうしよう。
とにかく芥川さんにしゃべらせないこと最優先で動いてしまったけど、今度はこの異様な状況の理由付けをしないと、絶対に怪しまれる……。
「な、なんだ!?どうした!?」
き、来た……!
黒羽さんからの当然すぎる質問、来た……!
ど、どうしよう。
は、早く何か言わないと……。
えーっと、えーっと…。
必死に考えるけど、何もいい理由が浮かんでこない。
だけど無理もない。
俺が今求めているのは、日常の中で宙にダイブする理由っていう、ぶっとんだ代物なんだから。
「ず、ずいぶん気が早い蚊がいたもんだな、アーン?」
!!
あ、跡部さん…!?
「い、今ジローの口もとに蚊がとまっていただろう。よ、よく見えたじゃねーの、鳳」
………………。
…………………………………………。
……いや、蚊って。
この季節に、蚊って。
さすがに無理が……。
どうやらいつも頼りになる跡部さんすら動揺しているらしい。
「ほ、ほんまや、でっかい蚊やったなぁ」
芥川さんの口をふさいだままの俺のところに、忍足さんが来てくれた。
助けてくださいと願いをこめて先輩を見ると、忍足さんは小さくうなずいて、蚊を確認するようにみせかけて芥川さんに耳打ちした。
「ジロー、六角の奴らがおらんようになるまで黙っとき」
「?
はんへ~?」
今のはたぶん、なんで~?、かな…。
「理由はあとで言うから。とにかく黙っとき。
約束守れたら、今度謙也に頼んで関西地区限定販売のお菓子山ほど送ってもろて、それまるごと全部ジローにあげるわ」
「へ~!はひはひ!?」
A~!マジマジ!?
…かな。
「マジマジ大マジや。せやから、静かにしとってな」
「ははったひ~。ひゃくほふはよ~!」
分かったC~。約束だよ~!
…かな。
さりげなく忍足さんに目配せされる。
もう離しても大丈夫、っていう合図だ。
おそるおそる手を離すと、芥川さんはなぜか行儀よくきちんと座りなおして口を真一文字に引き結んだ。
ふ、不自然すぎる……。
気合いが入りまくりだ……。
お菓子パワー恐るべし……。
「なんだ、蚊がいたんですねー。
びっくりしましたよ、僕。急に鳳さんがジャンプするから」
「スゲー滞空時間だったな」
「他のスポーツでもやっていけるのね」
「クスクス…」
おお……!
なんとかごまかせた……!
す、すごい……!
どうもありがとうございます、とか答えつつ、流れる汗をぬぐう。
六角の人たちが素直な人たちで良かった…。
「ところでさ、芥川。
さっき俺に何言おうとしたの?」
!!!
さ、佐伯さん!?
「あ、それ、俺も気になってました」
「そういやそんな話してたな」
「クスクス…」
だ、ダメだ…。
やっぱり何かいい言い訳を考えないと…。
そのとき、向日さんが慌てた様子で言った。
「ど、どんな女子が好みかって話をしてたんだよ、俺たち。
それで話が盛り上がって…それで…えーっと、えーっと……」
!
じょ、女子の好み…。
さっきまで名無しさんの好みの話をしてたから、とっさに思い浮かんだのかもしれないけど…そこからどうにかして佐伯さんにつなげないと…。
もし女子の好みを聞くなら六角の人たち全員に聞くのが自然だし…。
ええと、全員じゃなくて佐伯さんだけに聞く理由…佐伯さんだけに聞く理由…。
必死に考えていると、すかさず日吉が話を続けた。
「そ、そうなんですよ。
それで、さ、佐伯さんは女子からすごくモテるって聞いたので、ど、どんな女子が好きなんだろうって話になって」
う、うまい……っ!
向日さんの話と違和感なく繋げた!
さすが日吉…!
頼りになるー!
「あぁ、なるほど。そういうことだったんすね」
「そのとおり、サエはモテるぞ~」
「そんなことないよ」
「サエがモテないなら、みんなモテないことになってしまうのね」
「ねぇ、サエさん、氷帝の皆さんに教えてあげたら?好きなタイプ!」
「それは構わないけど…」
「クスクス…」
佐伯さんの爽やかな顔と爽やかな声で、“束縛する人”なんていう、ちょっと物騒な答えを返されながら、俺たちは全員胸を撫で下ろしていた。
六角の人たちがいなくなって、その場の張りつめた空気がようやくほぐれた。
俺たちの様子がどこかおかしかったことは、女子の話をしていたからだと、こちらにとってはありがたい勘違いを六角の人たちはしてくれたらしく、なんとか無事に危機を乗り越えることができた。
「ふぅ、危なかったですね。まさか佐伯さん本人が来るなんて思わなかったですし…」
「あぁ」
「みんな、ワリィ。俺、何もできなかったぜ…」
「宍戸、そんなん気にせんでええよ。
自分は嘘が下手なんやし、うっかり妙なこと口走って墓穴掘るよりずっとええ。岳人やら跡部みたいになったら大変や。
見切り発車で女子の好みやら蚊やら言われたら大変や」
「ちょ、おい!跡部と一緒にするなよ!
蚊と一緒にするなよ!」
「誰が蚊だ、アーン?」
「だいたい何だよ、蚊って。よく言えたよな、蚊って」
「う、うるせぇ。あのときはとにかく何か言わねぇとまずかっただろうが。
お前こそ何なんだ、女子の好みって。日吉のフォローがなかったら、不自然極まりないだろう」
「蚊より一億倍マシだ!」
「低レベルな争いやなぁ」
「あはははは……」
跡部さんと向日さんの不毛な言い争いが続く中、なんとか空気を変えようと、俺は日吉に声をかけてみた。
「そ、そうだ、日吉!
さっきはナイスフォローだったな!」
「えっ。…あ、あぁ、まぁな。
思いつきだったが、わりと上手くいってよかったぜ」
日吉は俺の意図をくんでくれたのか、うなずきながら答えてくれる。
するとそれを聞いていた向日さんが、嬉しそうに結構なボリュームの声で言った。
「だよなー!
なんだかんだ言っても、ななしのことが佐伯にバレなかったんだから、結果オーライってやつだぜ!」
『……今、なんて言いました………?』
!!?!?
「えっ!名無しさん?!」
男の声ばかりだったところに突然毛色の違う声が混じったかと思うと、いつの間にかそこに名無しさんが立っていた。
どうやら偶然通りかかったらしい。
プルプルとその肩が小刻みに震えていて、完全に聞かれていたと悟る。
どどどどどどどどどうしよう!?
たたたたたたたた大変だ!!
軽くパニックになりながら、助けを求めてみんなをぐるりと見回してみる。
だけど、みんな同じように石と化していた。
誰も微動だにしない。
…………生きてるかな?
って、違う違う!
な、なんとかごまかさないと!
「あ~、ななしちゃんだC~!」
!!!!!
「今ね~、ななしちゃんが佐伯の顔が好きだって話をしてたんだよ~」
!!!!!!!!!!
お……………。
お………………………………。
終わった…………………。
何もかも…終わった…………………。
止めるひまも無かった………。
いちるの望みをかけてみんなの様子を伺ってみたけど……やっぱりみんなもお手上げらしい。
もうはっきり言っちゃったからね…。
言っちゃった…から…ね……………。
『……一体どういうことですか?芥川先輩?』
「えーっとね~、向日がね、俺たちに教えてくれたんだよ~」
「ちょ、おい!?」
「あーあ、言ってしもた」
名前を出された向日さんが慌てて止めようとするけど、芥川さんは絶対に言ってはいけないことをさらに言ってしまう。
「ななしちゃんたちがしゃべってるのを向日が聞いてたんだって~」
『聞いてた……?』
あぁ…、ますます悪い状況に…。
「い、い、い、い、いや、ちちち違うんだ、ななし……」
『何が…違うんですか?』
「わ、わざとじゃないんだ」
『じゃあ盗み聞きしてみんなにバラしたのは事実なんですね…?』
「うっ…。
そ、それは……、は……、はい…………」
名無しさんはさっきからずっと笑顔だ。
だけどその笑顔は、張り付いたようなお面のような笑顔で……。
こ、怖すぎる……。
「…名無しさん……。
向日さんは……みんなに…頼まれて……」
「か、樺地の言うとおりだぜ。だから……」
『樺地くんと宍戸先輩は黙っててください』
「ウ、ウス…」
「お、おう…」
ダメだ……。
樺地と宍戸さんすら聞く耳持ってもらえない…。
他のみんなはもうあんまり関わりたくないオーラ出してるし…。
よ、よし…。
ここはもう一回俺が行くしかない…!
清水の舞台から飛び降りるっ!!
「あのっ、名無しさん!」
『なあに?鳳くん』
ぐりん、と名無しさんが振り向いた。
「イエ、ナンデモアリマセン」
「おい?!退くの早すぎねーか?!1秒だったぞ!
せっかく味方が現れたと思ったのに!」
「だって、向日さんだって見ましたよね?名無しさんの能面みたいな笑顔見ましたよね?無理ですって!」
『鳳くん、何か勘違いしてるよ?私べつに怒ってないから』
「えっ」
い、いや、どこからどう見ても怒ってるけど…。
逆に怒ってない要素がないくらいだけど…。
「ほ、ホントか?」
向日さん……。
わずかな望みにかけようとしてる…。
『はい。
だから、明日の朝ごはん、楽しみにしててくださいね』
うっ…、嫌な予感が…。
『向日先輩の分だけピーマンづくしにしますから』
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