合同合宿編
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*鳳side
これから氷帝だけのミーティングがある。
今日の報告・反省と、明日の予定について簡単に確認するためだ。
そんなに込み入った話をするわけでもないからと、ミーティングルームは使わず、開けた場所に輪になって座っていた。
実はもう約束の時間を10分ほど過ぎていて、俺たちはまだ来ない向日さんを待っていた。
跡部さんが明らかに不満げな様子で、少し気まずい。
向日さん、早く来ないかな。
「ワリィ!遅れた!」
ちょうどそこに向日さんがタタタッと軽い足取りで駆け込んできた。
「遅いぞ。
何してやがった、アーン?」
「いやー、ついウトウトしちまって…」
「寝てたんですか?
気がたるんでますよ、先輩」
「う…、ワリィ…」
「寝坊はしちゃダメなんだよ~」
「お前に言われたくねーよ!」
「A~、なんで~?」
「いっつも寝てばっかだろーが!」
「あ~、そうだった~、エヘヘ」
「…………………」
……ひ、ひとまず来てくれてよかった。
それからそれぞれの報告と最終日に向けての話をして、他に何もなければ解散と跡部さんが言いかけたときだった。
「あ、そうや。
ちょっとみんなに聞きたいことあるんやけど」
「聞きたいこと?なんですか?」
俺が尋ねると、忍足さんは少し神妙な顔でみんなに言った。
「ななしちゃんに彼氏おるかどうか、誰か知っとる?」
えっ。
「彼氏?」
「なんだよ、急に」
「何かあったんですか?」
唐突な質問に、みんな不思議そうだ。
もちろん、俺も。
「いや、なんとなくな。
そういえばそんな類いの話、あの子としたことなかったなぁって思ったんや」
「ふーん。
確かに俺もそういうの聞いたことねーな」
「自分も…ありません」
「俺も知らないC~」
俺も聞いたことがない。
よく考えてみたら、名無しさんと恋愛の話をしたことなんて一回もないかもしれない。
ずいぶんいろんな話をしたつもりだったけど、お互いにあんまり興味がない話題だったのかな。
「…名無しのことなら、鳳が一番詳しいでしょう。
こいつが知らないなら、ここにいる誰も知らないんじゃないですか」
「えっ、俺?」
日吉に言われて、思わず自分を指差した。
「確かにそうだな」
「で、どうなんだよ。知ってんのか?」
「あ、いえ…。
すみません、俺も知らないんです」
「そうなんや、そら残念。
せやけど別に謝る必要ないで」
「そうだぞ、長太郎」
「は、はい」
「ハッ。そんなもん、わざわざ聞くまでもねぇだろう」
跡部さんが自信満々に言ってのける。
もしかして、知ってるのかな。
「跡部は知ってるの~?」
「いや。知らねぇ」
「じゃあダメじゃん」
「聞かなくとも分かると言ってるんだ。あいつに男はいない」
「なんでそんなことが分かるんです?何を根拠に?」
「匂いだ」
匂い…?
思わず首をかしげた。
匂いっていっても、直接的な意味じゃないよな、たぶん…。
「?
ななし、匂いなんかするか?」
「ななしちゃんは、甘い玉子焼きの匂いがするC~。いい匂いだよ~」
「えっ!マジかよ!
後でちょっと嗅いでみよ」
「なっ!おい、やめろ!」
「それは…変態…です」
「ええなぁ。俺もやってみたいわ」
「…はぁ、そんな具体的な匂いなわけないでしょう。
忍足さんも分かってるくせに参加しないでください」
…やっぱりそうなんだ。
日吉の言葉に、心のなかでうなずく。
「匂いってのは、言い換えるなら…」
「跡部、言い換えるぐらいなら最初からもっと分かりやすい言葉で言えよな」
「………………」
「岳人、それは言うたらあかんやつや」
「だってよー、めんどくせーじゃん」
「うんうん、分かる~。
跡部ってそういうの多いC~。聞いてると眠くなるC~」
「………………………」
「せやからあかんて、ジロー」
跡部さんの顔から表情が消えていく。
ま、まずい、遠い目をしてる…。
なななんとかしないと…。
えーっと、えーっと…。
…そうだ!
「跡部さん!
言い換えるなら、なんですか?ぜひ知りたいです!」
サッと、跡部さんの目に光が戻った。
「そうだな、言い換えるなら…雰囲気とか空気とか、そんな感じだな」
……ホッ。
「ナイスや、鳳!」
「ナイスフォロー……です」
「ど、どうも」
小声で言って、グータッチする。
そんなこっちのやりとりに全然気づいてない向日さんと芥川さんが、また跡部さんとしゃべりだした。
「それでもよく分からねーな」
「俺も俺も~」
「ここから先は説明してどうこうできるものじゃねぇ。
自力で見る目を養うんだな」
「そんなの別にいーよ。
直接ななしに聞けば済む話だし」
「だね~」
「……………………」
あぁ、また……。
「あ、跡部さん!
俺はそういう目を養いたいです!がんばります!」
「そうか。
まぁ、コツくらいなら教えてやらないこともないぜ」
「は、はい!ありがとうございます!ぜ、ぜひ!」
「あぁ」
…つ、疲れた……。
「…長太郎、大変だったな……」
「苦労性だな…、お前は…」
「ど、どうも…」
「せやけど結局分からずじまいやなぁ。やっぱり直接聞くしかないか…。
あ、そうや。鳳、ななしちゃんて誰か仲ええ男おらへんの?」
「え、仲がいい男子ですか?」
「せや。
ななしちゃんて普段あんまり男と一緒におるところ見たことないし、もし仲ええ奴がおったらそいつ怪しいやろ」
みんなの視線が俺に集まる中、少し考えるとすぐに1人思い浮かんだ。
「1人いますね、特に仲がいい男子」
名無しさんは男子とも話すけど、基本的には女子といることがほとんどだ。
だけど俺たちテニス部以外に1人だけ例外がいる。
「えっ!マジかよ、そんな奴いるのか?」
「ほんまかいな。
1人って、めっちゃ怪しいやん」
「A~、誰~?」
「どこのどいつだ、アーン?」
「長太郎、そんな奴いたか?気がつかなかったぜ」
先輩たちは知らなかったみたいだけど、樺地と日吉は誰のことか分かってるみたいだった。
あいつは目立つからなぁと思っていると、向日さんが興味津々に名前を教えてくれと言ってきて、だけどすぐに難しい顔になった。
「あー、けど2年だろ?なら名前聞いても知らねーかも」
「あ、それは大丈夫だと思います。すごく目立つ奴なんで」
「そうなのか?」
「はい。
えーっと、バスケ部で……」
一通り説明すると、みんな分かったらしく、うなずいた。
さすが有名人。
「あぁ、あいつか」
「よく3年の教室にも遊びに来てるよね~」
「そういえば名無しとしゃべってるところを何回か見たような気がするぜ」
「なるほどなぁ、確かに目立つ奴や」
「けどよー、なんか違うな」
見ると、向日さんが不服そうな表情で腕を組んでいた。
「あいつ、見るたびに違う女と一緒にいるぜ?
あんな軽い奴とななしとじゃ、全然釣り合わねーだろ。全っ然似合わねー」
なんだか少しイライラした様子で、指をトントンと動かす向日さん。
次に向日さんが発した言葉に、その場が静まり返ることになる。
「あんなやつなら、佐伯のほうが断然ななしに似合うぜ」
…………………………………。
「え?」
「は?」
「…あ!!」
慌てて口をふさいだ向日さんに、みんなが詰め寄る。
「おい、向日。説明しろ。なぜそこで佐伯が出てくる」
「一体どういうことです?」
「ちょい待ち。まさかななしちゃん、佐伯と何かあったん?」
「A~!マジマジ?」
「そ、そうなのか?向日」
「まさかの展開…です…」
向日さんはみるみる青ざめていく。
何があったか知らないけど、みんなに言っちゃいけないことを口走ってしまったらしい。
名無しさんと、佐伯さん。
俺の目には特に親しいようにも見えなかったけど、何かあったんだろうか。
俺、そういうの疎いからなぁ。
……って、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。
「あの、先輩たち、もういいじゃないですか。向日さん困ってますし…」
「どけ、鳳。邪魔するんじゃねぇ」
「さっさと吐いたほうが、楽になりますよ」
「せやな」
「俺も知りたい知りたい~!」
あ、圧がすごい……。
宍戸さんと樺地以外からの圧が半端じゃない。
抵抗むなしく、俺はあっという間に放り出されてしまった。
「佐伯が名無しに手ぇ出したのか」
「はっ?いやいやいやいや、違うって!そんなんじゃねーし」
「じゃあ何なんですか」
「いや、まぁなんつーか…」
「佐伯はそんな変なことはせんやろ。そうやなかったら俺の人選が……」
「?」
「ねぇねぇ、ななしちゃんの彼氏は佐伯だったってこと~?」
「だから違うっての!
佐伯はただななしの好きな顔だってだけで……」
「好きな…顔……?」
「…あーっ!!」
ハッとして叫んだあと、向日さんは頭を抱えてうずくまってしまった。
追い詰められてつい言ってしまったみたいだ。
「なるほど、そういうことか」
「うう~~」
「む、向日さん…、大丈夫ですか…?」
「うう~~」
……大丈夫じゃないらしい。
「ねぇねぇ、なんでそんなこと知ってるの~?」
「そういえばそうやな」
「名無しは性格的に自分からはそういうことは言わないだろうな」
「ということは…盗み聞きでもしたんですか?」
「!!!」
思いっきり動揺する向日さん。
これには聞いた日吉もびっくりしたみたいで。
「まさか、本当なんですか?」
「う…。そ、そんなつもりなかったんだ。
ソファーで寝ちまって、目が覚めたらななしと青学の女子のしゃべり声がして…」
「あぁ、あの子らとならそんな話もしそうやな」
「遅刻した理由はそれか、アーン?」
「うっ…。だから、ごめんって」
向日さんがあまりにも小さくなってるから気の毒で、もう一度なんとか庇おうと思ったそのときだった。
「あれ?
氷帝の皆さんじゃないですか」
突然聞こえてきた陽気な声が、その場の重い空気を一瞬で変えた。
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