合同合宿編
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『お風呂気持ちよかったねー!』
「そうですね。
やっぱり広いお風呂っていいですよね」
「つい長風呂しそうになっちゃいますよ~」
あれから私は予定通り、小坂田さんと竜崎さんと一緒に三人でお風呂に行った。
広くて最高に気持ちいいお風呂をゆっくり堪能した私たちは、上機嫌でお風呂からあがり、脱衣場で着替えながらおしゃべりをしていた。
「名無しさんのシャンプー、いい香りですよね。
何ていうシャンプーなんですか?」
「あ、それ私も思った!
もしかして美容院で売ってるやつだったりしますか?」
興味深げに二人から尋ねられて、嬉しくなる。
『普通にお店で売ってるよ。
ほら、今CMでやってる新商品』
そのCMに出ている人気若手女優さんの名前を言うと、二人とも分かったらしく、うなずいた。
「あぁ!分かりました!あれですか」
『ちょうど使ってたのが無くなったから、お母さんに頼んで買ってもらったんだ。
香りもいいしすっごくサラサラになるし、いいよー』
「私もあれ欲しいなって思ってたんです。ボトルも可愛いし。
でもまだ家のはたくさんあって」
「桜乃も?私も同じ。
この間安売りだったから、まとめ買いしちゃったのよ。だから買えるのは当分先になっちゃうわね」
肩を落とす二人を見て、私は自分のシャンプーのボトルを手にとってみた。
大きなボトルを買ったときに、おまけで貰った小さなボトル。
まだ中身はそれなりにありそうだ。
『ねぇ、よかったら二人に分けてあげようか』
「えっ、いいんですか?」
『うん、いいよ。一回分ずつぐらいならあげられそう。
ちょうどいい容器が厨房にあったはずだから、あとで分けておくね』
私の提案に、二人はワッと声をあげた。
「わぁ!ありがとうございます!」
「すっごく嬉しいです!
使うのが楽しみー!」
笑顔で手をパチパチと叩く小坂田さんと竜崎さんが可愛くて、私もつい頬がゆるむ。
そうこうしているうちに着替えも終わって、私たちはそれぞれ荷物を持って部屋へと歩き出した。
「名無しさん、桜乃!
部屋に戻ったら、ゼリー食べましょうよ!」
『えっ、ゼリー?』
「朋ちゃん、ゼリーなんてあった?」
ルンルンした様子の小坂田さんに、私と竜崎さんは首をひねりながら尋ねた。
「じ・つ・は!
夕食の後片付けのあと作っておいたんですよ~!
今日出した果物が少し残ったので、それを使ったんです!」
『ホント?すごい!』
「今ごろはもう冷えて固まってるころですよっ。
いい果物ばっかりなので、贅沢ですよ~。最っ高に美味しいはずです!」
「朋ちゃん、すごい!いつの間に…全然気づかなかった」
『さすが手際がいいね、小坂田さん!』
「もう、二人とも褒めすぎだってば。照れちゃうじゃない」
本当にすごいなー、小坂田さん!
果物たっぷりのゼリーかぁ。
美味しそう、楽しみー!
三人でワイワイ廊下を歩いていた、そのとき。
「名無しさん、ちょっと待って」
後ろから優しい声に呼び止められた。
ふり返ると、そこには大石さんと手塚さんがいた。
声の主は大石さんだったみたいだ。
「今、何か落としたよ」
『えっ』
言われて視線を下げると、私たちと大石さんたちのちょうど中間あたりに白い物体が落ちていた。
あれって…、たぶんタオルかな?
その大きさと色からそう思った、けど。
次の瞬間、別の考えが浮かんだ。
……ハッ!
ま、まさか…。
その最悪の事態の可能性に、一気に血の気が引く。
まさか…。
し、下着が一緒に落ちてたり…しないよね!?
下着とタオルは別々に入れていたはずだ。
だけど、万が一ということが無いとは言えない。
なぜなら脱衣場でのおしゃべりが本当に楽しくて、いつもよりちょっと雑に荷物をまとめちゃったから…。
ど、どうしよう!?
もし大石さんと手塚さんに下着なんて見られちゃったら…。
恥ずかしすぎて、もう顔を合わせられないよ…!
大石さんと手塚さんはそのまま歩いてきて、より落下物の近くにいた手塚さんが腰をかがめて手を伸ばした。
私は緊張のあまり立ち尽くしたままその様子を見ていた。
…あそこにもし下着もあった場合、なんとなくだけど、大石さんなら動揺しそうな気がする。
でも手塚さんは…。
……無表情で拾いそうな気もする…。
この目で確認するまで安心できない…!
あああ~~~。
神様、お願いします…!
タオルだけでありますように……!!
手塚さんは全く表情を変えないまま落下物を拾い上げて私のところまで歩いてくると、静かな声と一緒にそれをスッと差し出した。
「お前のものか」
私はゴクリと喉をならして、おそるおそるそれを受け取る。
すると、それは……。
『…は、はい、そうです。
ありがとう…ございます』
それは、タオルとシャンプーのボトルだった。
どうやらタオルの上にボトルが落ちたせいで、音がしなかったらしい。
ホッとした瞬間、身体から力が抜けた。
よ…よかった……。
思わず受け取ったそれをじっと見てしまっていると、すぐそばで誰かがフッと笑ったような気配がした。
顔をあげると、手塚さんが私を見てほんの少しだけほほえんでいた。
その柔らかな表情は、今朝倉庫で間近に見た表情と同じで…。
あのときの出来事を思い出してしまって、頬がかすかに熱くなった。
「名無しは…」
穏やかな声色で名前を呼ばれて、鼓動がトクン……と音をたてる。
「意外と間が抜けているんだな」
…………………え。
続けて聞こえてきた言葉に、何も答えられず黙りこんでしまった。
間が抜けている…。
……ガーン…………。
「て、手塚。
そういうことを言うのは失礼だと思うぞ?」
ショックを隠しきれない私を見て、大石さんが慌てて手塚さんをたしなめる。
「そ、そうか。すまない。
お前を見ていたら、つい口にしてしまった」
『…いえ、いいんです。自分でもそう思いますから。
手塚さんには助けられてばかりで…すみません』
「いや、そんなことはない」
あぁ…、落ち込むなぁ…。
間が抜けている………。
その通りなだけに…。
「ね、ねぇ!
ほら、そろそろ部屋に戻らないと!」
辺りに小坂田さんのよく通る声が響いた。
どうやら落ち込む私を気にしてくれているらしい。
「あっ、そ、そうだね」
「でしょ?
湯冷めしちゃうし、早く戻りましょうよ。
ね、名無しさんも」
小坂田さんと竜崎さんが、私の腕をクイクイと引く。
『あ、うん、そうだね。
それじゃ私たちはこれで失礼します。本当にありがとうございました』
「あぁ」
「またね」
ショックを引きずったまま、ひとまず頭をさげてその場を離れた。
大石さんたちの姿が見えなくなったころ、小坂田さんがなぜか興奮したように話し始めた。
「ねぇ、桜乃!見た?!」
「うん、見た!」
目を輝かせて手を取り合う二人。
?
見たって……。
『二人とも、見たって何を?』
不思議に思って尋ねてみると、二人はムフフと含み笑いをしながら顔をこっちに向けた。
「笑顔、で・す・よっ」
『笑顔?』
「手塚先輩の笑顔です。
滅多に見られないんです」
「激レアですよっ。激レア!」
激レア……。
『それは…』
同じ学校に通っていても滅多に見られないという、手塚さんの笑顔。
なんとなく、私もそんな想像はしていた。
本当ならその笑顔を自分に見せてくれたのは嬉しいことのはずだけど…。
朝の笑顔はともかく、さっきの笑顔は…あんまり喜べない。
『それは私があまりにも間抜けだからだよ。
手塚さんが思わず笑っちゃうくらいに』
ハァ、と知らず知らずため息がこぼれる。
仕事のミスだけじゃなくて…落とし物をするわ、下着落としたかもなんて勘違いするわ、きわめつけに笑顔にドキッとしたりして……ただあきれてただけなのに……トクン……とか…………。
……………………。
あ゛~~~~~~っ!!
恥ずかしすぎるよー!
トクン……とか、恥ずかしい~~~!!
『うぅ~、穴があったら入りたいー…』
あまりの恥ずかしさに頭をかかえながらそう言うと、思わぬ明るい声が返ってきた。
「もう、何言ってるんですか。全っ然、違いますよ!
ねぇ、桜乃?」
「朋ちゃんの言う通りですよ、名無しさん」
二人はまたムフフと笑いながら、顔を見合わせた。
なんだかよく分からないけど…。
『二人ともありがとう…励ましてくれるんだね…』
きっと私が落ちこんでるから、元気づけようとしてくれてるんだ。
本当にいい子たちだなぁ…。
「もー、だから違いますって。
…って言っても信じてくれないわね、この調子じゃ」
「う、うん、そうだね」
「よしっ!
それじゃ、次の手よっ!」
小坂田さんは私の肩をガシッと掴んだかと思うと、真剣な表情で話し始めた。
「実は、ここだけの話なんですけど…」
『?
う、うん。……何?』
私もつられて、真剣に耳をかたむける。
「…手塚先輩の好みのタイプは、一生懸命な子、なんです」
『…………は?』
「し・か・も!
おっちょこちょいでもOK!なんですよーっ!」
『は、はぁ』
何を言うのかと思ったら…。
どうして手塚さんの好みのタイプなんて言うんだろ。
「ねー?ピッタリでしょ?」
『えっと…何が?』
「だから、名無しさんは手塚先輩の好みのタイプなんですよ!
もうっ、とぼけちゃって!」
『…………』
…全然、違うと思う……。
私は一生懸命な子じゃないしなぁ…。
おっちょこちょいっていう所はそうかもしれないけど、重要なのはそこじゃないし…。
でも…。
こんなに励まそうとしてくれてるのに、違うよっていうのも悪いし…。
『あっ、そういえばそうかも!
う、嬉しいな~。アハハ』
…ふぅ。
これで二人の気持ちを無下にせずに済んだよね。
…と思ったけど。
………あれ?
なんだか二人が遠い目をしてるような……。
「桜乃、桜乃。ちょっとこっち来て!」
「う、うん」
サーッと私と距離をとった二人は、何か小声で話し始めた。
「ねぇ、名無しさんて、鈍すぎない?
今だって完全に信じてないわよね」
「そうだね。
私は手塚先輩は名無しさんにずいぶん好感もってると思うんだけど…」
「私も絶対そうだと思うわ。あのレア笑顔がその証拠よ。
でも考えてみたら、千石さんの件もあるしね…」
「うん、そうだよね。
名無しさんってやっぱり鈍いんだね」
「私の目利きでは、他にも名無しさんに気がある人もいるけど、それにも全然気づいてないみたい」
「えっ!他にも?」
「そうよ。桜乃も気づいてなかったの?」
「う、うん。
はー…。名無しさんって人気があるんだね。すごいなぁ」
「本人は全っ然分かってないけどね」
「それってなんだか、小悪魔?みたいだね。
知らないうちに男子を魅了しちゃうなんて」
「桜乃、うまいこと言うわね!
確かにやってることは小悪魔だわ~」
「私、少し憧れちゃう。
小悪魔かぁ、なんだかかっこいいね…」
「分かる!
ちょっと憧れちゃうわよねー!」
二人はなぜかキャーキャーと興奮した様子で何かをしゃべっている。
???
どうしたんだろう?
すっごく楽しそうだけど……。
「ねぇ、桜乃!
名無しさんが手塚部長と付き合っちゃったりしちゃったらどうするどうするーっ?」
「えーっ!?どうしよう!」
「でも可能性あり!よね?」
「うん、あり!」
「ねぇねぇ、名無しさんの恋愛話聞いてみたくない??」
「聞いてみたい!!」
うわっ、めちゃくちゃ盛り上がってる。
一体何を話してるんだろう。
「さぁ、そうと決まれば!」
小坂田さんと竜崎さんがぐるんと私を振り返った。
「ゼリー食べながらたっくさん話しましょー!」
「話しましょう!」
期待に満ちあふれたキラッキラな目で私を見る二人。
そのまま小走りで駆け寄ってきて、私の手を両側からとった。
『えっ、えっ。なに?何の話?』
「いいからいいから。
さっ、行きましょー!」
「行きましょう!恋の話、聞かせてくださいね!」
えっ、…恋?
今、恋って聞こえたような……。
『ね、ねぇ、恋って何の話?何のこと?』
「こういうときのお約束じゃないですか。コ・イ・バ・ナッ!」
「私、聞いてみたいです。名無しさんの恋愛の話」
れんあい………コイバナ……………。
『…えぇー!?
ちょっと待って!なんでそんな急に?それに私、人に話すようなことなんて何も…、経験なんて何も無いよ?!』
「またまた~」
『いや、ホントに…』
「分かりました分かりました。
それもじっくり聞きますからっ」
『ちょっと、ねぇ、本当なんだってば!』
何を言っても、テンションあがりまくりな二人は聞いてくれず…。
私は引きずられるように連れていかれたのだった。
…本当、恋に関わる話になると、女の子ってすごいことになるな……って、私も女なんだけどさ…。
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