合同合宿編
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*室町side
「でもそれじゃ探しようもないですね。
名前も歳も学校も分からないんじゃ…」
「ん?歳は分かるよ」
「えっ。歳だけ聞いたんですか?」
また重要度の低い質問を…。
「違う違う。聞いてないけど、たぶん合ってるよ。
室町くんと同じ、二年生だと思うよ」
「…そんなこと、なんで分かるんです?」
「うーん、なんとなく。勘だよ」
「…………………そうですか」
…まぁ、いいけど。
千石さんだし。
でもやっぱり今分かってる情報だけじゃ…探すには難しいな。
あの辺りを夕方に一人で歩いてるぐらいだし、そう遠くに住んでるとは思えないけど…。
だとしたら通ってる学校はある程度絞れそうだな。
でもそれ以上は…。
いや、その子がキーホルダーを買った店に行けば会えるかも……。
あー、でもそういうのは女子からすると怖いよな。
そのとき、千石さんの微かに笑う声が聞こえた気がした。
不思議に思って千石さんを見てみると、確かに笑っている。
「千石さん?」
「ゴメンゴメン。
…オレはいい後輩をもったなーとつくづく思ってさ」
「何ですか、急に」
「今、オレがあの子に会える方法、考えてくれてたんだよね?」
………………。
またこの人は…。
「優しいなー、室町くんは。
優しいし、真面目だし、しっかりしてるし。
室町くんみたいな後輩がいてくれて、オレ達は心強いよ」
…こういうこと言うから、普段いいかげんなところがあっても、憎めないんだ。
「そういえば、室町くんはどうして気がついたんだい?」
「クリスマスからの千石さんの様子を見ててなんとなく、ですね。
確信したのはこの間の部室でのキーホルダーのやりとりがあったときですよ」
理由を簡単に説明すると、「あぁ、なるほどー、さすがだね」とか言いながら、千石さんは感心したように何度か頷いた。
「これはね~、おまじないなんだよ」
「おまじない?」
「そう。
これを持ってると、このサンタさんがまたオレをあの子に会わせてくれるんじゃないかって…。
またどこかであの子に会えるような、そんな気がするんだ」
千石さんはキーホルダーを目の前に掲げて、愛おしそうに見つめた。
きっとその先に、その子を思い浮かべているんだろう。
…………………。
…去年のクリスマスから、千石さんはもう何度こんなふうに、会いたいと願ってきたんだろうか。
こんな表情を見ると、なんとか会わせてあげたくなるけど…。
たぶん俺が今思いついているようなことは、もうとっくに千石さんも考えたはずだ。
「ありがとう、室町くん」
唐突に、お礼を言われた。
不意をつかれて何も言えずにいた俺に、千石さんはいつもどおりの笑顔を向けた。
「室町くんが気づいてくれて言ってくれて、よかったよ。
いろいろ話したら気持ちがスッキリして、本当にもう一度会えるような気がしてきた」
「………」
「だから、その日を楽しみに待つことにするよ。
いつその日が来てもいいように、オレももっといろいろ頑張らないとダメかな~」
千石さんは笑いながらそう言ったけど…。
俺も先輩達も、千石さんが人一倍努力家だってことくらい、知ってる。
人には見せないけど、影でものすごい努力を積み重ねているってことも。
そんな人だから、みんな千石さんを信頼しているんだ。
俺も、先輩として尊敬している。
千石さんがずっと会いたいと思い続けている子が、先輩のそんなところを分かってくれる子だったらいいなと思う。
………………。
…いや、きっとそういう子なんだろうな。
だからこそ、千石さんにとって特別な子なんだ。
「というわけで、室町くん。
そろそろ練習に戻ろうか。
自主練習とはいえ、そのうち南に何か言われちゃいそうだしね」
「そうですね」
千石さんはキーホルダーをカバンにつけ直すと、コートへと歩き出した。
「千石さん」
「ん?」
呼び止めた俺に振り返る先輩。
俺は思ったことをそのまま伝えた。
「俺も…また会えると思いますよ、その子に」
―――――――――
俺達のところに氷帝から合同合宿の知らせが来たのは、それから数週間後のことだ。
そこに千石さんが会いたかった子が…名無しさんがいるなんて、そのときの俺達は全く知らなかったわけだけど…。
ミーティングのとき、千石さんが突然席を立って日吉と一緒にいた子を呆然と見ていたのを見て、俺はハッとした。
こんなことが起こるのを俺も望んでいたとはいえ、実際に目の当たりにするとさすがに驚いた。
だけど、千石さんと接するときの名無しさんの様子を見る限り、名無しさんも千石さんと再会したことを喜んでいるようで、そのことにはとりあえずホッとした。
気になることがあるとすれば…それは日吉だ。
気のせいかもしれないけど、あのとき二人の間に割り込むように入ってきた日吉の態度が、まるで…。
………………。
いや…、それこそ俺が首を突っ込むことじゃない。
それよりもっと現実的に心配なことがある。
それは…。
千石さんにとって特別な存在だということを、名無しさんが全く自覚していないということだ。
たぶん、千石さんもそういう態度を名無しさんに表しているはずだとは思うけど…。
こればっかりは…。
名無しさんが言っていたとおり、千石さんは青学の女子たちにも同じように接している…ように見える。
…本当は違うんだろうけど。
今の状況だと、名無しさんにあんなふうに思われたとしても、しょうがない。
それを完全な誤解とも言いきれないし…。
だけど、名無しさんは千石さんのことをただの軽い男だとは思ってないみたいだ。
実はそれが一番心配だった。
その点はとりあえず、よかった。
ーーーーーガチャ
そのとき、突然部屋のドアが開いた。
見ると、そこには千石さんがいた。
いた、けど……早くないか?
部屋出ていってからまだそんなに時間たってないぞ。
「ずいぶん早かったですね。
もしかして名無しさん、いなかったんですか?」
「あー…、うん。
えーっと、いたんだけどね」
「?」
なんか微妙に様子が変だな。
千石さんにしては珍しく歯切れが悪い返答を、不思議に思った。
でも次の瞬間、すぐに納得がいくことになる。
「実はね、日吉くんと一緒にいたんだよ、名無しさん」
「……え」
「なんかいい雰囲気だったから、声かけられなくて、そのまま引き返してきちゃったんだよね~」
バツが悪そうに、千石さんはアハハと笑った。
………………………。
何とも言えない気持ちが込みあげてくる。
いつもの千石さんなら、こんな気落ちした表情は人に見せない。
特に後輩には。
それだけ、受けたショックが大きいということだ。
「…そうですか」
そう答えながら、頭の中をいろんな考えが過ぎっていく。
今、俺は何を言うべきか、するべきか……。
「じゃあ、明日話してみればいいですよ。
まだどこかで時間、とれるんじゃないですか」
できるだけ、深く掘りさげないように答えた。
なんとなく今はそれがいいんじゃないかと思ったから。
「そうだ、千石さん。
俺、せっかくだし六角の部屋に遊びに行ってみようかと思ってたんです。
千石さんも一緒にどうですか?」
「六角?」
「はい。
この合宿が終わればまた当分会う機会もないですし」
……すみません、今思いつきました。
「………。
うん、そうだね。オレも行こうかな」
一瞬考えるそぶりをした千石さんは、行くことに同意してくれた。
急にこんなことを提案したのは、六角の人たちとならきっと賑やかな時間を過ごすことが出来るはずだと思ったからだ。
そうすれば千石さんの気持ちも少しは晴れるかもしれない。
「じゃあ、さっそく行きましょうか」
「そうだね」
先に俺が歩きだすと、後ろから小さな声がした。
「ありがとう、室町くん」
それは今までに聞いたことがないほど弱々しい、千石さんの声だった。
一瞬、迷った。
どんな反応をするか。
だけど今のはたぶん、聞こえなかったことにしたほうがいい。
たぶん、普段の千石さんなら……聞かれたくないはずだ。
だから俺は、何も答えなかった。
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