合同合宿編
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*忍足side
…これは俗にいう変質者というものやないやろうか。
木の影に身を潜め、暗闇に息を潜め…。
いちゃつく…やない、じゃれあう…ともちょっと違うか…。
とにかく、幸せオーラ出しまくりの男女のやりとりを見る…というか聞くというか…。
『ね、日吉くん。
なんでさっき、一回私の腕離したの?』
「あぁ、それは…。
無理矢理俺の話を聞かせるのは嫌だったからな。お前の意志で聞くか聞かないかを決めてほしかった」
『そうだったんだ…』
「なんだと思ったんだよ」
『もうこれで終わりっていうことかと思った』
「俺も…そうなるんだと思ったぜ。覚悟した」
『私も。…ふふっ』
「…?なんだよ、ニヤニヤして」
『だって、そうならなかったから。だから嬉しくて』
「まぁ…そうだな」
『ムフフフ』
「な、なんなんだよ」
『私のために腕を離してくれたんだなーって。日吉くん、やっぱりすっごく優しいなーって』
「………………べ、べつに」
『ムフフフ。フヘヘヘヘ……』
「……変な笑いかたするな」
『だってだって~』
「まったく……」
『照れない照れない』
「だっ、誰が」
『ひ・よ・し・く・ん!』
「よ、寄るな!」
『えー、なんでそんなに離れるの?普通に隣に座るくらい、いいでしょ?
やっとこんなふうに話せるようになったんだし…』
「…まぁ、な」
『やったー!』
…………………………。
あかん……それはあかんで、ななしちゃん。
いくらなんでも可愛すぎるわ。
好きな子にこんな感じでこられて、日吉もよう何もせんとおれるな。
まぁ、あいつはまだ自覚してへんからかもしれんけど…。
いや、それでも今のななしちゃんは無邪気で反則的に可愛すぎるし。
俺やったらとっくに抱きしめとるで。
そう思ったらほんまに日吉、よう耐えとるな…。
別の意味であいつも抱きしめてあげたなるわ。
…と、まぁそれは置いといて。
こんな状況になったんは、別に俺の趣味とちゃうで!
誤解せんといてや!
……って、誰に言うとるんやろ、俺。
ま、まぁ、これはあれや。
不可抗力っていうやつや。
こうなったのにはちゃーんと理由があるんや。
それは今日の昼のこと…。
―――――――――
さて、どうしたもんやろ……。
なんとなしに廊下を歩きながら、日吉とななしちゃんのすれ違いを解消するための方法を考え始める。
――“その役目、俺に任せてもらえんやろか”
跡部に大見得きったんはええけど、ほんまのところは具体的なアイディアは無かった。
ただどんな手段使うにしても、他校の誰かの助けが必要やっていうことだけは頭にあって。
それを誰にすればええか、決めんとあかんかった。
本当は俺か、せめて氷帝の中だけでできれば良かったんやけど、俺らが直接動くと勘のいい日吉には気づかれてしまう可能性がある。
せやから他校の誰かに協力をあおぐ必要があるんやけど、それかて誰でもええわけやない。
いくつか条件があるんや。
まず一つ目は、口が固い奴。
これは当然や。
二つ目は、考えとることが顔や態度に出ぇへん奴。
…あんまり言いたないけど、ななしちゃんみたいなタイプはあかんな。
三つ目は、頭がきれる奴。
何か予定外のことが起きても臨機応変に対応できる奴やないと…。
四つ目は……、三年ってことやな。
日吉は結構上下関係しっかりしたがるやつやし、同い年や下級生より上級生のほうがええかもしれへん。
んー、……これくらいやろか。
あとは……。
ああ、そうや。まだ肝心なことがあったわ。
普段から誰とでも気さくに接する社交的な奴やないとあかんかった。
そうやないと、急に関わってきたことに違和感持たれてしまう。
それと…これは条件うんぬん以前の話やけど……。
…千石は対象外や。
あいつはいろいろ話がややこしなる。
…………よし、これでええな。
誰か全部クリアしとるやつがおればええけど…。
この合宿に来とる三年の顔を思い浮かべる。
それで分かった。
“普段から誰とでも気さくに接する社交的なやつ”
これがなかなか難しい。
これに当てはまる奴は、考えが顔や態度に出る奴が多い。
それでも根気よく考えていくと、最終的に二人が頭に残った。
…あとはどっちに頼むかやな。
しばらく思考を巡らせたあと、俺は目的の部屋へと足を向かわせた。
―――――ピンポーン
…………………。
部屋に着いてインターホンを鳴らしてみたけど、応答がない。
留守やろうか。
そう思ったとき、隣の部屋からにぎやかな声が聞こえてきた。
隣の部屋の奴なら何か知っとるかもしれへん。
俺は移動して、インターホンを鳴らした。
すると、ドアの向こうからバタバタと近づいてくる足音と一緒に、「はーい」という大きな声がした。
その声の主がドアを開くのに備えて、少し距離をとろうと一歩後ずさったとき…。
―――――――バンッ
ものすごい勢いで目の前をドアが過ぎっていった。
「どちら様ですかー?
あっ、忍足さんじゃないですか!」
「………」
あ……、あぶなー……。
顔に風が当たったで、今……。
「あ!もしかして遊びに来てくれたんですかっ?
わー、嬉しいです!今ちょうどみんなで遊んでたところなんですよ。
忍足さんも一緒に遊びましょう!さ、入ってください!遠慮なく、どうぞ!」
「いや、葵、俺は…」
「ほらほら、入ってください!
一緒にボードゲームやりましょう!」
「ボ、ボードゲーム?
そんなのわざわざ持ってきたん?」
「はいっ。
オジイの家の蔵をみんなで探険してたら見つけたんです!すっごく古いボードゲームで、面白いですよー!」
「く、蔵を…探険?」
「はいっ。
オジイの家は、探険するといろんな珍しいものを発見できるんです!
だからよくみんなで探険するんですけど、すっごく楽しいんですよ!」
……どんな家やねん。
って、ツッコミいれとる場合やなかった。
「あ、あのな、葵。
俺、佐伯に用があるんやけど、ここにおる?」
最後まで迷った二人は佐伯と不二やった。
不二でもたぶん問題は無かったと思うけど、ちょっと不二はなぁ…。
ほら、ちょっとだけ…裏がありそうな雰囲気あるやん?
ちょっとだけな?
せやから佐伯にしたんや。
「サエさんですか?もちろんいますよ。
なーんだ、サエさんに用だったんですね?
遠慮深いんですねー、忍足さんは!もっと早く言ってくれればいいのにっ!もうっ!水くさいですよっ!」
「あ、あぁ…、せやな…」
………なんやろ、この疲労感。
「じゃあサエさん呼んできますね!」
そう言って部屋の中へと戻ろうとした葵は、またすぐに振り返った。
「ん?どないしたん」
尋ねると、葵はかすかに顔を赤くした。
「あ、あのー、名無しさんのことなんですけど…」
「?
ななしちゃんのこと?」
「…!」
なぜか感動したように目を潤ませる葵。
最初は訳が分からんかったけど…。
「う、うらやましい……」
無意識のうちに口をついて出たような小さな声でそう呟いて、羨望の眼差しを向けてくる葵に、ようやくピンときた。
なるほど。
俺がななしちゃんのこと下の名前で呼んどるのが羨ましいんやな。
せやけど、それについて俺が何か言う前に葵がおずおずと質問してきた。
「名無しさんは、その、えっと…あの…。
お、お付き合いしている方はいるんでしょうか…?」
…お付き合い?
彼氏がおるかってことやな。
ななしちゃんに彼氏がおるかどうか、か。
えーっと…。
んー…………………。
………ん?あれ?
「あ、あの…、忍足さん?」
俺……、知らへん。
ななしちゃんに彼氏がおるかどうか、知らへんで。
「忍足さん、忍足さーん。
……ハッ!
何も答えないってことは…いるんですね!?」
よう考えてみたら、ななしちゃんとそんなたぐいの話したことなんて一回も無かったなぁ。
…っていうより、テニス部の中でも無いような……。
うーん…。
俺ら、色気ない青春送っとるなぁ。
まぁ、それも俺ららしゅうてええけどな。
「や、やっぱりいるんですね?
……ハッ!
ま、まさか……忍足さんだったり…しますか…?」
ななしちゃんは彼氏おるんかなぁ。
あの子やったらおっても不思議やないけど、全くそういう話せぇへん子やから聞いたこと無かったわ。
今度聞いてみようかな。
…あぁ、せやけど…。
おる言われたら、結構ショックかもしれへん。
なんやろ、この感じ。
ほのかに寂しいような…。
「やっぱり…そうなんですね…。
忍足さんが彼氏さんだったんですね…」
……あ。
あかん。葵にまだ答えてへんかった。
……って、めっちゃ涙目になっとるやん!
なぜに?!
「葵、ど、どないしたん?
…あ、すぐ答えへんかったことは謝るわ、ごめんな」
「い、いいんです…っ、気を遣わないでください…。
名無しさんは僕にとっては高嶺の花…。でも忍足さんとならお似合いです…。
差し出がましいかもしれませんが、大切にしてあげてください…」
「……え?」
な、なんや。
いつの間にか、話がおかしな方向へ行っとるような…。
「葵、たぶん何か誤解しとるで。
俺はななしちゃんとはそういう関係やないんや、せやから…」
「いいんです、もう大丈夫ですから…!
僕を傷つけまいと嘘をついてくださっているんですよね?すみません…。
そんな優しい忍足さんだから、名無しさんも心惹かれたんですね…。
それに比べて僕は…まだまだ子どもです…」
葵は涙目のまま、力なく首を横に振りながら、一歩二歩と後ずさる。
「葵、ちょい待ち…」
「どうか、末ながくお幸せにっ…!」
「あ」
俺の制止を聞かず、葵はくるりと踵を返して走り出した。
「うわーん!
サエさーん、忍足さんが呼んでるよー!
うわーん!」
……めっちゃ泣いとるんに、ちゃんと用件は伝えてくれとる…。
律儀やなー…。
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