氷帝での出会い編
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………………………。
…………………。
……………ハッ!
今、しばらく放心状態だった…。
私……、初めて…。
同年代の男の子にカ、カワイイなんて言われるの。
もちろん、ウインクも…。
…うわ、私今きっと顔真っ赤だ。
思わず頬を手で覆う。
「願いが叶っちゃったな~」
そんなニコニコしながら言われても…。
いやいや、その願い、まだ叶ってないよ、と教えてあげたい。
私はカワイイ女の子じゃないんだし。
でもその人は本当にそう思ってくれてるような顔してて…。
…何も言えなくなる。
「でも…。
ひょっとしてオレの方こそ、キミの邪魔してる?」
ふと、男の子の声のトーンが変わった。
『え?』
「それ、誰かへのプレゼントなんじゃない?」
その人の視線の先にはあの雑貨屋さんの袋。
『あ、違いますよ。これは自分用です。
今日はセールだったので、気に入ったものを買って…せっかくなのでラッピングしてもらったんです。好きなお店なんです』
「へぇ、そうなんだ。
………じゃあ、彼氏、いないの?」
『い、いないですよ。彼氏なんて』
「そうなのかい?
う~ん………」
『な、なんですか?』
そんなじっと見ないでほしいんですけど…。
なんかドキドキするし…。
「……見落としてるんだろうなー、たぶん。
でもきっと、そのうち誰かが見つけちゃうだろうけどね」
『え?あのすみません、聞こえなかったんですけど…』
「いーのいーの。
こっちの話」
『?そうですか』
なんて言ったんだろ…まぁ、いっか。
それから男の子は以前ドラッグストアでもらったらしい簡易的な救急キットを取り出して、治療を続けてくれた。
その手つきから、慣れてるっていうのが分かる。
部活って、運動部なのかな。そこでよくこういう事してるのかも。
うーん、サッカーとか?野球…は違うかな。
あ、バスケも似合うかも。
「はい、これで完成!」
絆創膏をペタッと貼る男の子。
『ありがとうございます』
「どういたしまして」
その人はニコッと笑うと、辺りの荷物を片付けて立ち上がった。
あ、そうだ。
友達を待たせてるんだから、もう行かなきゃね。
「それじゃ、そろそろオレ行くよ」
『はい、ありがとうございました。
…あの、私のせいで遅くなってしまって本当にごめんなさい。
お友達にも、申し訳ないです』
「そんな事気にしなくても大丈夫だよ。オレが好きでやったことなんだからさ。
そんなことより、帰り道気をつけてね。人、多いから」
『はい、ありがとうございます。
あの、あなたも気をつけてくださいね』
「うん、ありがとう。
……………………あのさ」
何かを言いよどむ男の子。
どうしたんだろう?
さっきまであんなに間をおかずに話してくれてたのに。
しばらくして、男の子は思いきったように口を開いた。
「オレ、楽しかったよ」
『…え?』
出てきたのは思いもよらない言葉で…。
「偶然キミが転んで怪我しちゃったから、オレはキミとこうして話をすることになったわけだし、不謹慎だなとは思ったんだけど…。
やっぱりちゃんと最後に伝えておきたくてさ」
素直に嬉しかった。
正直私は、目まぐるしく変わる状況とこの人の言動にドキドキさせられっぱなしで、楽しんでる余裕なんてなかったけど…。
『私は…嬉しかったです。
実はあなたが声をかけてくれる少し前まで、すごく悲しい気持ちでいたんです。
でも今はもう平気です』
あのとき、もう少しであふれてしまいそうだった涙も、いつの間にか消えていた。
『全部あなたのおかげです。
助けてくれて、ありがとうございました』
よかった、きちんとお礼が言えて。
こんなに親切にしてもらったんだから、せめてお礼くらいちゃんと言いたいと思ってた。
男の子は私の言葉に微笑んでくれて、じゃあね、と言った。
歩き出したその背中が、少しずつ遠くなる。
『あ、あのっ!』
………………………あ。
思わず呼び止めてしまった。
理由が自分でも分からなくて、オロオロしてしまう。
振り返った男の子は、不思議そうな顔をしてる。
『あの…』
ど、どうしよう。
沈黙が気まずい。
思わずうつむいたその視界に、手に持っていた雑貨屋さんの袋が入った。
こちらに歩み寄る男の子の姿も。
「どうしたの?
もしかして他にもどこか痛いところがあるのかい?
…あ、それとも、もし帰り道が不安なら、駅かどこかまで送るよ。
オレで役に立てることがあれば、遠慮なく言って――」
『こ、これっ』
私はバッとその袋を男の子に差し出した。
『よかったら、もらってください』
「え?…でもこれはキミが…』
ものすごく戸惑っているのが、声からだけでも分かる。
そりゃそうだよね…。
でもさっきこれが目に入ったとき、不思議とこの人に渡したいと思った。
それにさっき汚しちゃったタオルのことも思い出したから…。
…にしても、やっぱり唐突すぎたよね…。
うつむいたままだから、足元しか見えなくて様子が分からないけど、この人何も言わないし…。
あ゛ぁぁぁ~。
もう絶対、絶対困らせてるよね!?
や、やっぱり、やめよう…。
あまりの気まずさに耐えきれず、私は袋をさげようとした……けど。
あれ?
突然、手元が軽くなった。
驚いて顔をあげると、私が持っていたはずの雑貨屋さんの袋は、男の子の手へと移っていた。
思わず目の前のその人を見つめる。
「ありがとう」
さっき出会ってから、何度も笑顔を向けてくれたけど…
「すごく嬉しいよ。
オレのサンタクロースは、キミだったんだね」
…一番、柔らかい笑顔だ。
「…それとも、キミがプレゼントだったのかな」
ーーーーーーーー
「ちょっと、聞いてる?ななし」
『え?あ、ごめん!…聞いてなかった』
あのときのこと思い出しちゃってたら、全然聞いてなかったよ…。
…みんな、ごめん。
「もー。なんか違うこと考えてたんじゃない?」
ギクッ。
「あー!その顔!図星でしょ!」
「絶対そうだよー。しかも恋愛絡みと見た」
ほんの少しだけ……ギクッ。
「あー!これも図星!?
ずーるーいー、ななしばっかり!」
ちょ、揺さぶらないで~。
あのものすごい破壊力をもったセリフを立て続けに言われたあと、私は顔が熱くて鼓動が速くて…なんだかボーッとしたまま、男の子を見送った。
…だって、私がプレゼントとか…。
あ、ありえない!ありえない体験をしたよ、私。
あんな事言われるのなんて、人生で後にも先にもあの一回きりだと思う。
……あのとき渡したあのサンタさん、大事にしてもらってるかな。
あの男の子の、明るい笑顔が思い浮かぶ。
きっとあの人なら…大事にしてくれてるよね。
あれから季節も巡ったけど、今でもあの日の出来事は鮮明に記憶に残ってる。
思い出すと心を暖かくしてくれる、大切な思い出。
あの日から私は少し変わったと思う。
いろんなものを大切にしたいと思った。
もう出会ったものも、これから出会うものも。
去年のクリスマスは、私を変えてくれた運命の出会いがあった日。
そんな、映画みたいなクリスマス。
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