氷帝での出会い編
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顔をあげると、そこには同じくらいの年代の男の子が立っていた。
少しかがんで、私に手を差し出してくれている。
「…キミ、大丈夫?
どこか痛むのかい?」
私が驚いて何も言えずにいると、その男の子は心配そうに尋ねてきた。
『あ、いえ、大丈夫です。…ありがとうございます』
少し迷ったけど、その人の手をとって立ち上がった。
こんな情けない状態で男の子の手に触れるのは何だか恥ずかしかったけど、断るのは逆に失礼だし…それに、親切にしてくれた気持ちが素直に嬉しかった。
まだよく状況がのみ込めていない私に、その人はさっき私が落としてしまった荷物を拾って渡してくれた。
「はい、どうぞ」
『あ、ありがとうございます…』
初めてちゃんと目が合って、今更ながらに恥ずかしくなる。
み、みっともないところを見られてたんだよね…って、この人にだけじゃないけど…。
『あの…助けてくださって、ありがとうございました。ご迷惑おかけしました』
「いえいえ、どういたしまして」
男の子は少しおどけたように笑って言った。
なんだか人懐こそうな人…。
「それより、怪我とかない?本当に大丈夫?」
その人は私の全身をざっと見ると、膝の辺りで目をとめた。
「あ!」
膝まづいて私のワンピースの裾をほんの少したくしあげる。
『え?あ、あの!』
「ひざ、擦りむいてるよ。血が出てる」
え?
…あ、ホントだ。
でもこれくらいなら平気。
『もう家に帰るところだったので、大丈夫です。
あの、本当にありがとうございました。
それじゃ私はこれで失礼します』
「あ、ちょっと待って」
その場を立ち去ろうとした私は、その人にガシッと腕をつかまれた。
……?
なんだろう。
「よかったら、簡単にだけど手当てさせてくれないかな?」
……………………え?
「オレ、そういうの結構得意なんだ」
て、手当て!?
『そんな、たいした怪我じゃないですし、大丈夫です』
知らない人にわざわざ手当てしてもらうような怪我じゃない。
「んー、でも」
男の子はじっと私の膝を見つめたままだ。
……この状態でいるのも、冷静になって考えたらすごく恥ずかしい。
「このままじゃ、服に血がついちゃうよ。
せっかくこんなにカワイイのに」
うっ…。
そんなふうに言われると…。
自分が好きなものを誉められると…嬉しい。
単純だなぁ、私。
それに確かにこのままじゃ汚れるのは確実だけど…家まで手でたくしあげたまま帰るのは大変そうだし…。
『…すみません。
それじゃあの…お願いしてもいいですか?』
「うん、もちろんだよ」
それからいくつかお店が入っている、近くのビルに移動した。
ここの1階はテーブルやイスが置いてあって、自由に休憩できる。
「水貰ってくるから、ちょっと待っててね」
『はい』
イスに座って、改めて周りを見てみると、結構人がいる。
空いているテーブルのほうが少ない。
ほとんど…っていうよりもしかしたら全部、カップルかな?
…なんか余計なことに気がついちゃったな。
周りがこれじゃ、あの人が戻ってきたら気まずいよ。
「おまたせー」
しばらくして男の子が水を持って戻ってきた。
「じゃ、ちょっとひざ、見せてね」
『お、お願いします』
なんか緊張するなぁ。
だって必然的にその人が私に膝まづいてるような状態になるわけで…。
周りはカップルだらけだし、もし誰かに見られでもしてたら、この人困るんじゃ…。
「できるだけ痛くないようにするつもりだけど、もし痛かったら遠慮なく言ってね」
『はい』
男の子は荷物からタオルを取り出して、傷のすぐ下の辺りにそえた。
そして傷の部分を水で少しずつ洗い流す。
タオルにその水が染み込んで…。
……!
反射的に足をひいてしまう。
「あ、ゴメン!痛かった?」
『いえ、あの…タオル、汚してしまって…ごめんなさい』
水を貰ってくるって言ったときに、こうなる事予想できたはずなのに。
バカだ、私。
「なんだ、そんなことか。いーよ、オレが言い出したことなんだから。
気にしない、気にしない。ね?」
『でも…』
「いいってば。
さ、じっとしてください、患者さん?」
またさっきみたいにおどけた様子で言う。
この調子で言われると、なんだか心がスッと軽くなるみたい。
私はおとなしくそのまま手当てしてもらうことにした。
今更遠慮しても遅いし。
終わったらきちんとお礼を言おう。
~~♪~♪~
そのとき、携帯の着信音が鳴った。
私のじゃないから、きっとこの人のだよね。
「あ、オレだ。
ちょっとゴメンね」
『はい、どうぞ』
男の子は私に背を向けて携帯に出た。
「はいはーい」
軽い調子で電話にでるその人に、つい笑ってしまう。
「あーゴメンゴメン。
……うん、もちろん分かってるよ。出がけにちょっとバタバタしちゃってさー」
あれ?
これってもしかして…。
「…そんなに怒らないでくれよ。
……えっ?ヒドイな~、ナンパなんかしてないって」
な……ナンパ……。
ナンパを疑われてるってことは…や、やっぱり…。
「…うん、分かった。
じゃ、また後でね~」
…今のって、絶対そういうことだよね?
うわー、どうしよう。
「ゴメンね」
電話をきって、向き直る男の子。
治療を再開しようとしてる。
でも…。
『あの!もう大丈夫ですから、行ってください』
「え?」
『その…約束があるんですよね?相手の方に悪いですから…。
ごめんなさい、気がつかなくて』
時間が大丈夫なのかどうか、最初にきちんと確認するべきだった。
今日はクリスマスなんだから、尚更。
自分のことしか考えてなかったな、私…。
すると突然、男の子がアハハハッと笑いだした。
驚いて何も言えずにいる私をよそに、その人はずっと笑い続けてる。
え、えっーと…?
「はー、おなか痛い」
あのー、涙目になってますけど…?
「確かに約束はしてるけどね、キミが考えてるようなロマンチックな約束じゃないんだよ」
……???
「部活の仲間でパーティーするんだ。ちなみに参加するのは全員男。
それで、さっき電話してきたのはうちの部長。もちろん、男」
な、なるほど…。
…って、なんか勝手に勘違いしてたって分かったら、急に恥ずかしくなってきた。
この人もまた笑ってるし…。
「というわけで、キミがオレに気を使う必要なんて全然ないからね」
『で、でも…お友達が待ってるんじゃ…』
「ちょっとくらい平気平気。
クリスマスだから、大目にみてもらうよ」
?クリスマスだから大目にって…。
どういう意味だろう?
「仲間のことはもちろん好きだし大切に思ってるけど、今日くらいはせっかくだからカワイイ女の子と一緒にいられたらいいのになーって思ってたんだ」
男の子は膝まづいたまま、私をじっと見てきて…
「キミみたいな子と、ね」
ウインクした。
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