名字固定【マクダウェル】
シルヴァラント編
Nîmes
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チンピラに絡まれていたロイドくんたちもどうやら旅業をしているらしく、これからこの街のお偉いさんであるドア総督に会いに行くらしいのでその場でお別れをした。ちなみに私はのんびり観光を続けている。
綺麗な海を眺めながら先程のロイドくんたち一行を思い浮かべる。その中にいた赤毛寄りの茶髪の男性――クラトスさんは何故か初めて会った気がしなかった。相手もこちらを見て驚いたように目を見開いていたのは気になったけれど、真相を問う前に彼らは歩みを再開させてしまったのである。
きっと旅の中で似たような人に会っているのだ、と自己完結させようにも心のモヤモヤは晴れるばかりか余計に悪化しているようにも思えた。
「昔会ったことあるのかなぁ」
ぽつり、海のさざ波にかき消されてしまうほどの声で呟いた。昔、むかし、ムカシ。それは私がこの世に生を受けてからの記憶なのだろうか。それとも、それよりずっとずっと前の記憶なのだろうか。いつ?分からない。
自問自答を繰り返したところで思い出せないのなら仕方がない。無理に思い出そうと思考を深いところへ沈めれば時に頭痛が襲ってくることもある。難儀だなぁ、なんて呑気な言葉は口の中で転がした。
いつもの如くぼんやりと考え事をしていると、ふいに大通りから誰かの苛ついた声が聞こえてきた。
「あのショコラとかいう小娘が我らディザイアンに逆らったこと、至急マグニス様へご報告しろ!」
「はっ!」
同じ格好をした兵士が三人おり、そのうち一人がリーダー格なのだろう。――ディザイアン。世界各地で人間牧場を運営し残忍な行為をしているといわれている存在。確かこの地域を統括するディザイアンの今年の人間虐殺量は超えているはずだと風の噂で聞いたが本当に安心しても良いものなのだろうか。
ショコラと呼ばれた子がディザイアンの怒りを買い、それをマグニス様とかいうお偉いさんに報告するということはつまり、間引き量を超えても特例扱いで殺されてしまう可能性があるということ。
「う~ん……放っておけないよね」
街の住民の一人が殺されるかもしれないという情報を得てしまってはそれに背を向けることなどできない。ショコラさんはどこに住んでいる人か分からないけれど、この街の長であるドア総督にはきちんと知らせておこう。総督は義勇兵を集めてディザイアンに立ち向かおうとしている勇敢な人だと市場のお兄さんたちが言っていた。こういう時にこそ兵士は武器を構えなければいけないのだ。
ぐっと杖を持つ手に力を込めて走り出す。目指すはドアさんのいる総督府。
「あれ…?見張りの兵が一人しかいない」
おかしいな。確か二人いたことは記憶にあるのだけれど何かあったのだろうか。疑問に思いつつもドアさんへの謁見を試みるために兵士へ近づいて声を掛ける。
「あの~、ドア総督はいらっしゃいますか?」
「ドア様は先程パルマコスタ中の兵を連れて演習へ出て行かれた」
「えっ。では今いないのです?」
「そうだ」
なんと。ディザイアンがいつ攻めてくるか分からないというのに兵を皆連れて行くとはなんたる。おまけにタイミングが悪いときた。ドアさんがいないのならいつまでもここに長居するわけにもいかない。一番狙われているであろうショコラさんの安全を優先しなければ。
気遣わしげに様子を伺ってくる兵士さんを半ば無視するように踵を返して走る。そもそもショコラさんが誰か分からないので近くで遊んでいた男の子に聞いてみよう。
「こんにちは。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なーに?」
「ショコラさんって人知ってる?」
「知ってるよ!教会で旅の案内人してる人!」
話を聞くと、ショコラさんは道具屋の一人娘で今はマーテル教会で行われている旅の案内人をしているんだそう。教会は確かここの反対側にあったような気がする。
お礼を言ってまた再び走り出した。周りの人はこちらを不思議そうな目で見てくるがそれに知らぬ振りをして教会へ向かう。途中、住民の人に走っていると転ぶぞと注意を受けたがそれを笑って誤魔化した。
「わぁ……ここが教会」
20年生きてきたけれど教会に入るのは初めてなので僅かに心臓が跳ねる。女神マーテルを信仰する宗教。女神やら神様やらは甚だ信じてはいないし私が祈りを捧げるのはいつだって自分自身なのだ。神という曖昧な存在に祈るよりも今ここに生きていて意思をもった自分に祈る方がよっぽど意味のある行為だと思うからである。
世界を救った勇者ミトスと女神マーテル。何だか懐かしい感じのする名前に心は浮き足立ちそうだ。ディザイアンに攻められそうだというのに相変わらず緊張感のない自分に苦笑して教会の中へと入る。真っ白で眩しくて、なるほど確かにこういう場なら懺悔や祈りを捧げたくなる気持ちも分かる気がした。
そういえば、と本来の用件を思い出す。男の子の話によるとショコラさんはここで働いているとの情報なので、取り敢えず教会の入り口に立っている女性に話しかけてみることにした。
「すみません。ショコラさんっていらっしゃいます?」
「私がショコラだけど、あなた誰?」
「ルーナと言います。それよりも……」
一発で見つけられて良かった。すぐに広場で聞いたディザイアンのことを話せばショコラさんの顔色が徐々に悪くなっていく。ドアさんが街中の兵を連れて出ている今、安全が確保されるまでは身を隠した方が良いということを伝えてみてもこちらの言葉など聞いていないように何か考え事をしていた。
「あの~…ショコラさん?」
「考えてる暇なんてないわ!もしその話が本当ならあいつらは私がいた道具屋に来るはずよ!」
「わわっ」
ガシッと私の両肩を掴んで凄んでくるその迫力には驚いたけれどショコラさんはそんなこと気にしていられないようだったので私も気にしないことにした。あいつら、とは恐らくディザイアンのことを指すのだろう。
「もしも今あいつらがやって来たら、危ないのは私じゃなくて店番をしているお母さんだわ!」
「!」
「行かなきゃ!」
「あ、待って」
私を押し退けて勢いよく飛び出していったショコラさんを追い掛ける。そうだ、彼女の言う通り危ないのは親族であるお母さんも同じなのだ。手遅れにならなければ良いな、と密かに眉を顰める。
綺麗な海を眺めながら先程のロイドくんたち一行を思い浮かべる。その中にいた赤毛寄りの茶髪の男性――クラトスさんは何故か初めて会った気がしなかった。相手もこちらを見て驚いたように目を見開いていたのは気になったけれど、真相を問う前に彼らは歩みを再開させてしまったのである。
きっと旅の中で似たような人に会っているのだ、と自己完結させようにも心のモヤモヤは晴れるばかりか余計に悪化しているようにも思えた。
「昔会ったことあるのかなぁ」
ぽつり、海のさざ波にかき消されてしまうほどの声で呟いた。昔、むかし、ムカシ。それは私がこの世に生を受けてからの記憶なのだろうか。それとも、それよりずっとずっと前の記憶なのだろうか。いつ?分からない。
自問自答を繰り返したところで思い出せないのなら仕方がない。無理に思い出そうと思考を深いところへ沈めれば時に頭痛が襲ってくることもある。難儀だなぁ、なんて呑気な言葉は口の中で転がした。
いつもの如くぼんやりと考え事をしていると、ふいに大通りから誰かの苛ついた声が聞こえてきた。
「あのショコラとかいう小娘が我らディザイアンに逆らったこと、至急マグニス様へご報告しろ!」
「はっ!」
同じ格好をした兵士が三人おり、そのうち一人がリーダー格なのだろう。――ディザイアン。世界各地で人間牧場を運営し残忍な行為をしているといわれている存在。確かこの地域を統括するディザイアンの今年の人間虐殺量は超えているはずだと風の噂で聞いたが本当に安心しても良いものなのだろうか。
ショコラと呼ばれた子がディザイアンの怒りを買い、それをマグニス様とかいうお偉いさんに報告するということはつまり、間引き量を超えても特例扱いで殺されてしまう可能性があるということ。
「う~ん……放っておけないよね」
街の住民の一人が殺されるかもしれないという情報を得てしまってはそれに背を向けることなどできない。ショコラさんはどこに住んでいる人か分からないけれど、この街の長であるドア総督にはきちんと知らせておこう。総督は義勇兵を集めてディザイアンに立ち向かおうとしている勇敢な人だと市場のお兄さんたちが言っていた。こういう時にこそ兵士は武器を構えなければいけないのだ。
ぐっと杖を持つ手に力を込めて走り出す。目指すはドアさんのいる総督府。
「あれ…?見張りの兵が一人しかいない」
おかしいな。確か二人いたことは記憶にあるのだけれど何かあったのだろうか。疑問に思いつつもドアさんへの謁見を試みるために兵士へ近づいて声を掛ける。
「あの~、ドア総督はいらっしゃいますか?」
「ドア様は先程パルマコスタ中の兵を連れて演習へ出て行かれた」
「えっ。では今いないのです?」
「そうだ」
なんと。ディザイアンがいつ攻めてくるか分からないというのに兵を皆連れて行くとはなんたる。おまけにタイミングが悪いときた。ドアさんがいないのならいつまでもここに長居するわけにもいかない。一番狙われているであろうショコラさんの安全を優先しなければ。
気遣わしげに様子を伺ってくる兵士さんを半ば無視するように踵を返して走る。そもそもショコラさんが誰か分からないので近くで遊んでいた男の子に聞いてみよう。
「こんにちは。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なーに?」
「ショコラさんって人知ってる?」
「知ってるよ!教会で旅の案内人してる人!」
話を聞くと、ショコラさんは道具屋の一人娘で今はマーテル教会で行われている旅の案内人をしているんだそう。教会は確かここの反対側にあったような気がする。
お礼を言ってまた再び走り出した。周りの人はこちらを不思議そうな目で見てくるがそれに知らぬ振りをして教会へ向かう。途中、住民の人に走っていると転ぶぞと注意を受けたがそれを笑って誤魔化した。
「わぁ……ここが教会」
20年生きてきたけれど教会に入るのは初めてなので僅かに心臓が跳ねる。女神マーテルを信仰する宗教。女神やら神様やらは甚だ信じてはいないし私が祈りを捧げるのはいつだって自分自身なのだ。神という曖昧な存在に祈るよりも今ここに生きていて意思をもった自分に祈る方がよっぽど意味のある行為だと思うからである。
世界を救った勇者ミトスと女神マーテル。何だか懐かしい感じのする名前に心は浮き足立ちそうだ。ディザイアンに攻められそうだというのに相変わらず緊張感のない自分に苦笑して教会の中へと入る。真っ白で眩しくて、なるほど確かにこういう場なら懺悔や祈りを捧げたくなる気持ちも分かる気がした。
そういえば、と本来の用件を思い出す。男の子の話によるとショコラさんはここで働いているとの情報なので、取り敢えず教会の入り口に立っている女性に話しかけてみることにした。
「すみません。ショコラさんっていらっしゃいます?」
「私がショコラだけど、あなた誰?」
「ルーナと言います。それよりも……」
一発で見つけられて良かった。すぐに広場で聞いたディザイアンのことを話せばショコラさんの顔色が徐々に悪くなっていく。ドアさんが街中の兵を連れて出ている今、安全が確保されるまでは身を隠した方が良いということを伝えてみてもこちらの言葉など聞いていないように何か考え事をしていた。
「あの~…ショコラさん?」
「考えてる暇なんてないわ!もしその話が本当ならあいつらは私がいた道具屋に来るはずよ!」
「わわっ」
ガシッと私の両肩を掴んで凄んでくるその迫力には驚いたけれどショコラさんはそんなこと気にしていられないようだったので私も気にしないことにした。あいつら、とは恐らくディザイアンのことを指すのだろう。
「もしも今あいつらがやって来たら、危ないのは私じゃなくて店番をしているお母さんだわ!」
「!」
「行かなきゃ!」
「あ、待って」
私を押し退けて勢いよく飛び出していったショコラさんを追い掛ける。そうだ、彼女の言う通り危ないのは親族であるお母さんも同じなのだ。手遅れにならなければ良いな、と密かに眉を顰める。
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