名字固定【マクダウェル】
シルヴァラント編
Nîmes
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「ここが旦那様のお墓…」
イズールドで共に船に乗ったおばあさんはどうやらパルマコスタへ用があるらしかったので街に着くまでは一緒にいるという約束であったが、街の外れにいかなければならないと言っていたので心配になった私は結局おばあさんの安全を守るために付いて行くことにしたのだった。足腰も目も悪いおばあさんを一人にすることなどできない。申し訳なさそうにするおばあさんに、どうせあてもない旅なのだからと説得した。
道中色んな話をしてくれたが今日は10年前に亡くなった旦那様の命日らしく、毎年この日になると一人でやってくるそうだ。イズールドからパルマコスタへやってくるのも大変だろうに、それでもおばあさんは笑顔を絶やさないでいる。
街の外れには大きな墓地があり私たちの他にもちらほらお参りに来ている人たちがいた。足場が悪いのでおばあさんを支えながら歩いていれば見えたのは旦那様のお墓。他のお墓と違ってボロボロではあったがおばあさんが嬉しそうに手を伸ばしたのを見て思わず頬が緩む。
「お前さん、今年も来たよ。別嬪さんも一緒じゃ」
「ふふ。おばあさんったらお上手ですね」
「本当のことじゃよ」
手を合わせて一年間を振り返るように話し始めたおばあさんの表情は穏やかだ。年々体の節々が痛んでいると言っていたが今はそれすらも忘れているように思える。それでもここに来るまでの道は少し険しかったからおばあさんの疲労も蓄積されているのは目に見えていた。
だからこれは私のお節介。別嬪だと褒めてくれたおばあさんへのお礼を込めて周囲のマナを集める。
「……"ヒール"」
呟くような小さな声で癒しの術をおばあさんへ掛けてあげる。ぽわぽわとマナが目の前の体へ吸収されていった。これで少しはおばあさんの負担も軽くなる筈だ。
私の役割も終わりだと荷物を纏めておばあさんと旦那様のお墓に背を向ける。今日は墓地の近くにある知り合いの家に泊まるのだそうで、この後お孫さんが迎えに来るのだと話していた。
静かに歩き出してお墓を出ようをすると、目敏く気が付いたらしいおばあさんが私の腕を掴んできて引き留められる。
「待っておくれ。こんなものしかないのだけれど持って行って」
「これは?」
「パルマコスタワインじゃ」
「えっ、でもこれ凄く高いって街の人が…」
「ほんの気持ちじゃよ。もしもいらなかったら売ってくれても構わんよ」
無理矢理ワインが入った袋を握らされる。今は在庫が少なくて高くなっていると街の人がごちていたのを耳に入れていた。そんな高級なものをもらってしまっては何だか申し訳ないがせっかくのご厚意を無碍にもできないので貰うことにした。
お礼を言って今度こそ街へ戻るために墓地を出る。姿が見えなくなるまでおばあさんはこちらを見てくれていたので私も緩く手を振り続けた。
温かい人だったなぁとほわほわ気分で歩いていればいつの間にか街に着いたらしい。子供たちの遊ぶ声や大人たちの井戸端会議の声で賑やかな雰囲気に包まれていた。
「ん~、今日の晩ご飯はお魚にしようかなぁ」
まだお昼にもなっていないが今は野宿に備えて夜のことも考えなければいけない。悲しいことに2日連続で宿に泊まれるほどのお金は持っていないので今日はパルマコスタを出た平原で寝食する他ないのである。港が近いこともあって魚が安いので夕日が沈む前に買っておこうと頭のメモに書いておく。
そうしてしばらくこの街を観光していると、広場近くからガシャン!と何かが割れるような大きな音が聞こえてきた。何があったのか駆け寄ってみると、どうやら建物の角で少女が2人ぶつかってしまったようである。
「いったーい!何するのよ!」
「あ、すみません」
「あー!さっき貰ったパルマコスタワインが!」
何かが割れたような音がしたのは、青い髪の少女が持っていたワインだったようだ。大変ご立腹なようでこめかみには青筋が浮かんでいる。角でぶつかってしまうのは仕方がないのではなかろうか。
「おいおいねーちゃん。こいつは大事なワインなんだぜ。それを割っちゃうなんてどう落とし前をつけてくれるんだ」
「じゃあ今すぐ代わりのワインを買ってきますね」
「……代わりのワインだと?お前、なめた口聞くとただじゃおかないぜ。そんなもので俺の怒りが収まると思ってるのか?」
品性の欠片もない人たちに捕まってしまって可哀想に。妙ないちゃもんを付けるような人は久しぶりに見た気がする。相手にする方は面倒臭いのだろうなぁとことの成り行きを見守っていれば、金髪少女を庇うようにして前に出てきた赤い服を着た茶髪の少年と青髪少女の仲間であろうガラの悪い少年が口喧嘩を始めてしまった。
周りの住民たちは見て見ぬフリをしているがその表情は不安そのもの。先程あの青髪少女はパルマコスタワインを落としてしまったと言っているしそれがあればこの事態も収拾できるかもしれない。
しばらく迷ったがおばあさんから頂いたこのワインをあげよう。私が持っていても料理には使うこともないしそもそも飲めないのだ。ならば人助けのために使った方がよっぽど有意義である、と理論武装を完璧にしてから意を決して集団へ近づいた。
「あの~…どなたか存じないけれどちょっと宜しいかな?」
「なんだぁ、ねーちゃん?」
「パルマコスタワインは今在庫が少なくて高騰しているのは知ってる?そう易々と買えるものではないんだよ」
「うっせーな!こっちはその高級物をダメにされたんだ!弁償してもらわねーと気が済まねえな!」
これは典型的なチンピラだなぁと苦笑いをして頬を掻く。こっちは穏便に話し合いで済まそうとしてあげているのにこの態度。仕方がない、とワインの入った袋を目の前の少年に差し出した。
「じゃあこれをあげる。パルマコスタワインの中でも年代物だから申し分ない筈だよ。どうかな?」
「……ちっ。このねーちゃんに免じて許してやる。お前ら、今度同じようなことがあったら許さねえからな」
そういってチンピラさん一行は急ぐようにどこかへいなくなってしまった。ちなみに年代物というのは真っ赤な嘘である。きっと味の違いなどあの人たちに分かる筈もないだろう。
ここには教会もあるし眺めの良い広場もある。観光を続けようと歩き出したところで後ろから待ってくれ、と声を掛けられたので足を止めて振り返った。
「ありがとな。助かったよ」
「わたしのせいでごめんなさい。でもありがとうございました」
赤い服の少年と金髪の少女が頭を下げてお礼を述べてくれた。気にしなくても良いと顔を上げさせる。チンピラに絡まれるのって疲れるし嫌になっちゃうから今回のことは仕方がないのだ。
そうしてふにゃりと笑って手で制している時、自分と同じようなマナに気が付いた。人とエルフの間に生まれてしまった者のマナの気配。
「……あ」
銀髪のお姉さんと目が合った。ついで、少年とも。まさか人間と一緒にいるハーフエルフがいると思わなくて、それが自分のことながらに嬉しかった。もしかしたらエルフか人間であると偽っているのかもしれないけれど、それでも人間に歩み寄ろうとしている意思を感じることができたのだ。嬉しくないわけがない。
「俺はロイド。お前は?」
人懐っこい笑顔を向けて赤い服の少年が名乗る。
「……ルーナ。ルーナ・マクダウェルだよ」
イズールドで共に船に乗ったおばあさんはどうやらパルマコスタへ用があるらしかったので街に着くまでは一緒にいるという約束であったが、街の外れにいかなければならないと言っていたので心配になった私は結局おばあさんの安全を守るために付いて行くことにしたのだった。足腰も目も悪いおばあさんを一人にすることなどできない。申し訳なさそうにするおばあさんに、どうせあてもない旅なのだからと説得した。
道中色んな話をしてくれたが今日は10年前に亡くなった旦那様の命日らしく、毎年この日になると一人でやってくるそうだ。イズールドからパルマコスタへやってくるのも大変だろうに、それでもおばあさんは笑顔を絶やさないでいる。
街の外れには大きな墓地があり私たちの他にもちらほらお参りに来ている人たちがいた。足場が悪いのでおばあさんを支えながら歩いていれば見えたのは旦那様のお墓。他のお墓と違ってボロボロではあったがおばあさんが嬉しそうに手を伸ばしたのを見て思わず頬が緩む。
「お前さん、今年も来たよ。別嬪さんも一緒じゃ」
「ふふ。おばあさんったらお上手ですね」
「本当のことじゃよ」
手を合わせて一年間を振り返るように話し始めたおばあさんの表情は穏やかだ。年々体の節々が痛んでいると言っていたが今はそれすらも忘れているように思える。それでもここに来るまでの道は少し険しかったからおばあさんの疲労も蓄積されているのは目に見えていた。
だからこれは私のお節介。別嬪だと褒めてくれたおばあさんへのお礼を込めて周囲のマナを集める。
「……"ヒール"」
呟くような小さな声で癒しの術をおばあさんへ掛けてあげる。ぽわぽわとマナが目の前の体へ吸収されていった。これで少しはおばあさんの負担も軽くなる筈だ。
私の役割も終わりだと荷物を纏めておばあさんと旦那様のお墓に背を向ける。今日は墓地の近くにある知り合いの家に泊まるのだそうで、この後お孫さんが迎えに来るのだと話していた。
静かに歩き出してお墓を出ようをすると、目敏く気が付いたらしいおばあさんが私の腕を掴んできて引き留められる。
「待っておくれ。こんなものしかないのだけれど持って行って」
「これは?」
「パルマコスタワインじゃ」
「えっ、でもこれ凄く高いって街の人が…」
「ほんの気持ちじゃよ。もしもいらなかったら売ってくれても構わんよ」
無理矢理ワインが入った袋を握らされる。今は在庫が少なくて高くなっていると街の人がごちていたのを耳に入れていた。そんな高級なものをもらってしまっては何だか申し訳ないがせっかくのご厚意を無碍にもできないので貰うことにした。
お礼を言って今度こそ街へ戻るために墓地を出る。姿が見えなくなるまでおばあさんはこちらを見てくれていたので私も緩く手を振り続けた。
温かい人だったなぁとほわほわ気分で歩いていればいつの間にか街に着いたらしい。子供たちの遊ぶ声や大人たちの井戸端会議の声で賑やかな雰囲気に包まれていた。
「ん~、今日の晩ご飯はお魚にしようかなぁ」
まだお昼にもなっていないが今は野宿に備えて夜のことも考えなければいけない。悲しいことに2日連続で宿に泊まれるほどのお金は持っていないので今日はパルマコスタを出た平原で寝食する他ないのである。港が近いこともあって魚が安いので夕日が沈む前に買っておこうと頭のメモに書いておく。
そうしてしばらくこの街を観光していると、広場近くからガシャン!と何かが割れるような大きな音が聞こえてきた。何があったのか駆け寄ってみると、どうやら建物の角で少女が2人ぶつかってしまったようである。
「いったーい!何するのよ!」
「あ、すみません」
「あー!さっき貰ったパルマコスタワインが!」
何かが割れたような音がしたのは、青い髪の少女が持っていたワインだったようだ。大変ご立腹なようでこめかみには青筋が浮かんでいる。角でぶつかってしまうのは仕方がないのではなかろうか。
「おいおいねーちゃん。こいつは大事なワインなんだぜ。それを割っちゃうなんてどう落とし前をつけてくれるんだ」
「じゃあ今すぐ代わりのワインを買ってきますね」
「……代わりのワインだと?お前、なめた口聞くとただじゃおかないぜ。そんなもので俺の怒りが収まると思ってるのか?」
品性の欠片もない人たちに捕まってしまって可哀想に。妙ないちゃもんを付けるような人は久しぶりに見た気がする。相手にする方は面倒臭いのだろうなぁとことの成り行きを見守っていれば、金髪少女を庇うようにして前に出てきた赤い服を着た茶髪の少年と青髪少女の仲間であろうガラの悪い少年が口喧嘩を始めてしまった。
周りの住民たちは見て見ぬフリをしているがその表情は不安そのもの。先程あの青髪少女はパルマコスタワインを落としてしまったと言っているしそれがあればこの事態も収拾できるかもしれない。
しばらく迷ったがおばあさんから頂いたこのワインをあげよう。私が持っていても料理には使うこともないしそもそも飲めないのだ。ならば人助けのために使った方がよっぽど有意義である、と理論武装を完璧にしてから意を決して集団へ近づいた。
「あの~…どなたか存じないけれどちょっと宜しいかな?」
「なんだぁ、ねーちゃん?」
「パルマコスタワインは今在庫が少なくて高騰しているのは知ってる?そう易々と買えるものではないんだよ」
「うっせーな!こっちはその高級物をダメにされたんだ!弁償してもらわねーと気が済まねえな!」
これは典型的なチンピラだなぁと苦笑いをして頬を掻く。こっちは穏便に話し合いで済まそうとしてあげているのにこの態度。仕方がない、とワインの入った袋を目の前の少年に差し出した。
「じゃあこれをあげる。パルマコスタワインの中でも年代物だから申し分ない筈だよ。どうかな?」
「……ちっ。このねーちゃんに免じて許してやる。お前ら、今度同じようなことがあったら許さねえからな」
そういってチンピラさん一行は急ぐようにどこかへいなくなってしまった。ちなみに年代物というのは真っ赤な嘘である。きっと味の違いなどあの人たちに分かる筈もないだろう。
ここには教会もあるし眺めの良い広場もある。観光を続けようと歩き出したところで後ろから待ってくれ、と声を掛けられたので足を止めて振り返った。
「ありがとな。助かったよ」
「わたしのせいでごめんなさい。でもありがとうございました」
赤い服の少年と金髪の少女が頭を下げてお礼を述べてくれた。気にしなくても良いと顔を上げさせる。チンピラに絡まれるのって疲れるし嫌になっちゃうから今回のことは仕方がないのだ。
そうしてふにゃりと笑って手で制している時、自分と同じようなマナに気が付いた。人とエルフの間に生まれてしまった者のマナの気配。
「……あ」
銀髪のお姉さんと目が合った。ついで、少年とも。まさか人間と一緒にいるハーフエルフがいると思わなくて、それが自分のことながらに嬉しかった。もしかしたらエルフか人間であると偽っているのかもしれないけれど、それでも人間に歩み寄ろうとしている意思を感じることができたのだ。嬉しくないわけがない。
「俺はロイド。お前は?」
人懐っこい笑顔を向けて赤い服の少年が名乗る。
「……ルーナ。ルーナ・マクダウェルだよ」