それぞれの夢主が登場します
小物入れ
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でこぼこの地面で仰向けに倒れている、損傷の激しい聖騎士が二体。
出来る限り目を動かしていても、その視界に映るのは憎たらしいほど晴れ渡っている空のみだった。太陽の光が導くように自らの瞳を照らしていて、瞼はもう半分しか開くことができない。
身体は重力のせいで深く沈んでおり地面に張り付いているのだが、それとは正反対に浮力が掛かったようにふわふわとした嫌な感じももたらしていた。
手も足も随分前から感覚がなくなっている。手を握っているのか開いているのか、はたまた既に手首から下はないのかもしれない。
完敗だった。
「ごほッ…」
隣で同じ体勢をしているであろうアルファモンから何かを吐き出す音が聞こえる。
何も吐き出していないかもしれない。はたまた分解されているデータをその口から吐き出しているのかもしれない。
そちらへ顔を向けて確認する体力はもう残っていなかった。それでも、彼の噎せる声に少しばかり安堵する。
「…なん、だ……貴様、まだ…生きていたのか」
「……おま…もな……死んだ、かと…おも」
発する言葉に覇気はない。
どちらかが先に意識を失う。それでも、そんなことはどうでも良い。それを気にしていられるほどの余裕は消え失せていた。
「……負け、たか…」
「は…世界と一緒に、滅ぶんだ……負けて、ねえ」
「ふんっ…どこまでも、ポジティブだな」
「お前は、相変わらずだよ…」
アルファモンが息も絶え絶えに言う。
そこでふと、ここに来るまで共に戦い、そしてもう二度と見るのことない仲間たちを思い浮かべた。
「なっはっ、は……死ぬ時は死ぬ。それが今日であっただけだ。心残りは、あるまいて…」
ガンクゥモンは最期まで笑っていた。
「竜帝が死すとは、思わなんだ……今度はッ…あぁ、そうか……今度はない、か」
エグザモンは静かに悟っていた。
「はは。世界と共に滅する……ロイヤルナイツの名に、相応しいと思わないか…ッ」
スレイプモンは満足気に瞳を閉じていた。
「これがッ…運命だったんだ。師匠も、もう逝きましたし……俺も…追います、ね」
ジエスモンは運命を受け入れていた。
「某も未熟だった…、それでも……やれることは、やったみせただろう…」
ドゥフトモンは誇りを抱いていた。
「私も、これまでのようだ。……さあ、行け。まだ戦いは、終わって…ないの、だぞ」
クレニアムモンは先を示してくれた。
「戦に倒れる…、当然か。……お前とも、またどこかで、会えるかもしれない…な」
デュナスモンは未来に思いを馳せていた。
「ふふっ、僕の伝説も…これで終わり。嗚呼、君たちとの毎日は……楽しッ、か…」
アルフォースブイドラモンは過去を慈しんでいた。
「行け。……振り返るものなど、ない。…私はこのまま…、美しく散る…」
ロードナイトモンは最期すら美しかった。
「もう、アーマー体と貶されなくて…良いんだな。……やっと、自由になれるのか…」
マグナモンは心と共に解放されていった。
「ふむ…ここまでのようだ。だが、仲間を置いてゆくなど…このデュークモンには、でき…ぬ」
デュークモンは最期まで優しき者だった。
リーダーとして、仲間の最期を看取ることができたんだ。これ以上の誇りはない。
イグドラシルが突然暴走し、世界を滅ぼすことのできるプログラムを起動してしまったのが全ての始まりだった。
すぐにイグドラシルは砕け散ったがそのプログラムは悪性のものだったらしく、起動と同時にこの世界のデジモンが凶暴化。
どうしようもなかった。それでも同胞たちは戦い抜いてくれた。もう敵などどこにもいない。残すは、この世界の崩壊のみ。
「データはさ、案外、脆かったよな」
アルファモンが掠れた声で呟いた。
意図なんて考えるだけの気力もないが、それきり黙ってしまい、あまりにも沈黙が長いものだから遂に死んでしまったのかもしれない、なんてそんなことを思いながらデータ分解のせいで煌めいて見える視界で空を見つめる。
太陽の光に反射して輝くそのデータたちが、北極の方でよく見る雪のようだ。
「雪が降っているようだ…」
「あ…?はは、本当だ」
彼も分解されていくデータが雪に見えたのだろうか。まだ生きていたことに少し安心するのも束の間、体内のデータを吐き出す嫌な音をその喉に引っ掛けて、はあと小さく息をついた。
「はは……そろそろ駄目…かも、俺」
「……」
「なあ。俺たちに、意味はあったか…ごほッ」
苦しそうに噎せ返っている。
その度にデータを吐き出していては、本当にもう長くはないのだろう。
思わず顔を顰めた。
「俺な、分からないんだ」
「……」
「神の名の元に集まり、けほッ、こうしてデジタルワールドを守ってきた。……けどさ、その神が世界を裏切り、俺たちは同胞ともいえるデジモンたちを、最後には全て殺したんだ」
「……」
「デジモンたちは、殺されなきゃいけない理由があったのか」
「……」
「俺たち、一体何を守ってきたんだ」
「……」
「オメガモン、死んだか?」
「生きている」
何だ、生きてるなら返事しろよ。などと可笑しそうに笑う彼に憤りを覚えた。
何を守ってきたのか、だと。未来のために戦っていた自分の意味とは、お前にしては珍しく遠回しな悲鳴だな。
「ふざけるなよ。それを言っていいのは、何も守ったことがない、何も守ろうとしてこなかった連中だけだ」
お前だけじゃないだろう。今回のことに関して、我ら全員が思っていたことだ。デジモンたちを殺す時に聞こえる小さな悲鳴。
平穏に暮らしていただけの命たちを奪わなければいけなかった我らは、自分の心には知らぬふりをしてその悲鳴を聞き続けた。
今まで平和を願って戦ってきた。できるだけ穏便に、殺生はなく、ただただ願って戦ってきた。
「ははっ、んだよ…それ」
そんな我らの生涯に、他の誰が介入できようか。
「なあ。もし、生ま…変わ……ら、また」
もう自身を構成するデータが底を尽きてきて意識も定かではないのだろう。
無理やり声を絞り出して音を出しているその言葉に聴覚を研ぎ澄ませる。
恐らく、これは彼の最期の悲鳴だ。
「生まれ変わったら…また、がはッ……、俺の弟に…なってくれるか、オメガモン」
「は…愚問。私たちは、始まりと終わり……貴様以外の弟に、なって、たま…、か」
「……ああ」
全てが冷めていくようだ。私たちは、本当にここで死ぬらしい。皆の思いを背負って世界と共に跡形もなく。
視界がどんどん暗くなっていく。視覚データが流れているのだと思っていたが、目を凝らしてみると世界も徐々に崩れていた。
死んでいった仲間たちも、この景色を見ていたのかもしれないと思うと、これも案外悪くはない。
「全てがさ……誇りだったよ」
小さな悲鳴は未だ続く。
「何だかんだ一番に心配をしてくれるお前とか…、ずっと俺の傍に居続けてくれたオウリュウモンとか…、げほッ、いつ帰っても変わらずに迎えてくれたロイヤルナイツの皆とか…、困った時は助け合ってくれた街のデジモンたち……この、奇跡みたいな世界の全て、俺の誇りだったんだ……、おれ、の」
「……」
「オメガ、モン」
「ああ。生きている」
視界が滲む。
残そうとしているのだ。崩れゆくこの世界と共に、募り募った思いや誇りを全てここに残していこうとしている。
そうだ。私は終焉の聖騎士オメガモン。全ての思いは、この私が墓までもっていくとしよう。
「アルファモン、絶対に忘れるな」
「ああ」
「決して交わることのない正反対な私たちが、こうして繋がっていられたのは…、他でもない、兄弟だからだ。だから……何度でも、私は貴様の弟になろう。次の命でも、その次も…っ次の次の、次も」
「……あははっ、馬鹿だなあお前」
そんなの、当たり前だろ。
震えて覚束ない声で、彼は笑った。
笑うなと反論しようとしたが何となくそれ以上は話してはいけない気がした。
恐らく、あの会話で最後だったのだろう。
噎せる声も、身を捩る音も聞こえない。私の聴覚データが分解されたのか、彼が力尽きたのか。もはや確認する術などないが、それでも良かった。
心配することなど何もない。
いつか、彼は再び私の兄となるだろう。
そしてまた仲間と切磋琢磨をしながら世界のために生きていく。
何故なら、彼は始まりの聖騎士だ。彼が望むのなら、世界は再び始まりを迎える。
闇が広がる視界の中で、個性的な仲間たちと過ごした、騒がしくも必死に生きていた日々を想った。
出来る限り目を動かしていても、その視界に映るのは憎たらしいほど晴れ渡っている空のみだった。太陽の光が導くように自らの瞳を照らしていて、瞼はもう半分しか開くことができない。
身体は重力のせいで深く沈んでおり地面に張り付いているのだが、それとは正反対に浮力が掛かったようにふわふわとした嫌な感じももたらしていた。
手も足も随分前から感覚がなくなっている。手を握っているのか開いているのか、はたまた既に手首から下はないのかもしれない。
完敗だった。
「ごほッ…」
隣で同じ体勢をしているであろうアルファモンから何かを吐き出す音が聞こえる。
何も吐き出していないかもしれない。はたまた分解されているデータをその口から吐き出しているのかもしれない。
そちらへ顔を向けて確認する体力はもう残っていなかった。それでも、彼の噎せる声に少しばかり安堵する。
「…なん、だ……貴様、まだ…生きていたのか」
「……おま…もな……死んだ、かと…おも」
発する言葉に覇気はない。
どちらかが先に意識を失う。それでも、そんなことはどうでも良い。それを気にしていられるほどの余裕は消え失せていた。
「……負け、たか…」
「は…世界と一緒に、滅ぶんだ……負けて、ねえ」
「ふんっ…どこまでも、ポジティブだな」
「お前は、相変わらずだよ…」
アルファモンが息も絶え絶えに言う。
そこでふと、ここに来るまで共に戦い、そしてもう二度と見るのことない仲間たちを思い浮かべた。
「なっはっ、は……死ぬ時は死ぬ。それが今日であっただけだ。心残りは、あるまいて…」
ガンクゥモンは最期まで笑っていた。
「竜帝が死すとは、思わなんだ……今度はッ…あぁ、そうか……今度はない、か」
エグザモンは静かに悟っていた。
「はは。世界と共に滅する……ロイヤルナイツの名に、相応しいと思わないか…ッ」
スレイプモンは満足気に瞳を閉じていた。
「これがッ…運命だったんだ。師匠も、もう逝きましたし……俺も…追います、ね」
ジエスモンは運命を受け入れていた。
「某も未熟だった…、それでも……やれることは、やったみせただろう…」
ドゥフトモンは誇りを抱いていた。
「私も、これまでのようだ。……さあ、行け。まだ戦いは、終わって…ないの、だぞ」
クレニアムモンは先を示してくれた。
「戦に倒れる…、当然か。……お前とも、またどこかで、会えるかもしれない…な」
デュナスモンは未来に思いを馳せていた。
「ふふっ、僕の伝説も…これで終わり。嗚呼、君たちとの毎日は……楽しッ、か…」
アルフォースブイドラモンは過去を慈しんでいた。
「行け。……振り返るものなど、ない。…私はこのまま…、美しく散る…」
ロードナイトモンは最期すら美しかった。
「もう、アーマー体と貶されなくて…良いんだな。……やっと、自由になれるのか…」
マグナモンは心と共に解放されていった。
「ふむ…ここまでのようだ。だが、仲間を置いてゆくなど…このデュークモンには、でき…ぬ」
デュークモンは最期まで優しき者だった。
リーダーとして、仲間の最期を看取ることができたんだ。これ以上の誇りはない。
イグドラシルが突然暴走し、世界を滅ぼすことのできるプログラムを起動してしまったのが全ての始まりだった。
すぐにイグドラシルは砕け散ったがそのプログラムは悪性のものだったらしく、起動と同時にこの世界のデジモンが凶暴化。
どうしようもなかった。それでも同胞たちは戦い抜いてくれた。もう敵などどこにもいない。残すは、この世界の崩壊のみ。
「データはさ、案外、脆かったよな」
アルファモンが掠れた声で呟いた。
意図なんて考えるだけの気力もないが、それきり黙ってしまい、あまりにも沈黙が長いものだから遂に死んでしまったのかもしれない、なんてそんなことを思いながらデータ分解のせいで煌めいて見える視界で空を見つめる。
太陽の光に反射して輝くそのデータたちが、北極の方でよく見る雪のようだ。
「雪が降っているようだ…」
「あ…?はは、本当だ」
彼も分解されていくデータが雪に見えたのだろうか。まだ生きていたことに少し安心するのも束の間、体内のデータを吐き出す嫌な音をその喉に引っ掛けて、はあと小さく息をついた。
「はは……そろそろ駄目…かも、俺」
「……」
「なあ。俺たちに、意味はあったか…ごほッ」
苦しそうに噎せ返っている。
その度にデータを吐き出していては、本当にもう長くはないのだろう。
思わず顔を顰めた。
「俺な、分からないんだ」
「……」
「神の名の元に集まり、けほッ、こうしてデジタルワールドを守ってきた。……けどさ、その神が世界を裏切り、俺たちは同胞ともいえるデジモンたちを、最後には全て殺したんだ」
「……」
「デジモンたちは、殺されなきゃいけない理由があったのか」
「……」
「俺たち、一体何を守ってきたんだ」
「……」
「オメガモン、死んだか?」
「生きている」
何だ、生きてるなら返事しろよ。などと可笑しそうに笑う彼に憤りを覚えた。
何を守ってきたのか、だと。未来のために戦っていた自分の意味とは、お前にしては珍しく遠回しな悲鳴だな。
「ふざけるなよ。それを言っていいのは、何も守ったことがない、何も守ろうとしてこなかった連中だけだ」
お前だけじゃないだろう。今回のことに関して、我ら全員が思っていたことだ。デジモンたちを殺す時に聞こえる小さな悲鳴。
平穏に暮らしていただけの命たちを奪わなければいけなかった我らは、自分の心には知らぬふりをしてその悲鳴を聞き続けた。
今まで平和を願って戦ってきた。できるだけ穏便に、殺生はなく、ただただ願って戦ってきた。
「ははっ、んだよ…それ」
そんな我らの生涯に、他の誰が介入できようか。
「なあ。もし、生ま…変わ……ら、また」
もう自身を構成するデータが底を尽きてきて意識も定かではないのだろう。
無理やり声を絞り出して音を出しているその言葉に聴覚を研ぎ澄ませる。
恐らく、これは彼の最期の悲鳴だ。
「生まれ変わったら…また、がはッ……、俺の弟に…なってくれるか、オメガモン」
「は…愚問。私たちは、始まりと終わり……貴様以外の弟に、なって、たま…、か」
「……ああ」
全てが冷めていくようだ。私たちは、本当にここで死ぬらしい。皆の思いを背負って世界と共に跡形もなく。
視界がどんどん暗くなっていく。視覚データが流れているのだと思っていたが、目を凝らしてみると世界も徐々に崩れていた。
死んでいった仲間たちも、この景色を見ていたのかもしれないと思うと、これも案外悪くはない。
「全てがさ……誇りだったよ」
小さな悲鳴は未だ続く。
「何だかんだ一番に心配をしてくれるお前とか…、ずっと俺の傍に居続けてくれたオウリュウモンとか…、げほッ、いつ帰っても変わらずに迎えてくれたロイヤルナイツの皆とか…、困った時は助け合ってくれた街のデジモンたち……この、奇跡みたいな世界の全て、俺の誇りだったんだ……、おれ、の」
「……」
「オメガ、モン」
「ああ。生きている」
視界が滲む。
残そうとしているのだ。崩れゆくこの世界と共に、募り募った思いや誇りを全てここに残していこうとしている。
そうだ。私は終焉の聖騎士オメガモン。全ての思いは、この私が墓までもっていくとしよう。
「アルファモン、絶対に忘れるな」
「ああ」
「決して交わることのない正反対な私たちが、こうして繋がっていられたのは…、他でもない、兄弟だからだ。だから……何度でも、私は貴様の弟になろう。次の命でも、その次も…っ次の次の、次も」
「……あははっ、馬鹿だなあお前」
そんなの、当たり前だろ。
震えて覚束ない声で、彼は笑った。
笑うなと反論しようとしたが何となくそれ以上は話してはいけない気がした。
恐らく、あの会話で最後だったのだろう。
噎せる声も、身を捩る音も聞こえない。私の聴覚データが分解されたのか、彼が力尽きたのか。もはや確認する術などないが、それでも良かった。
心配することなど何もない。
いつか、彼は再び私の兄となるだろう。
そしてまた仲間と切磋琢磨をしながら世界のために生きていく。
何故なら、彼は始まりの聖騎士だ。彼が望むのなら、世界は再び始まりを迎える。
闇が広がる視界の中で、個性的な仲間たちと過ごした、騒がしくも必死に生きていた日々を想った。