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ひなまつり!
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『もうすぐ卒業かぁ』
「君がそんなしおらしいなんて珍しいじゃないか」
『……丈』
学校が終わり各々が帰宅準備を開始している放課後。真っ直ぐ家に帰る者や誰かと遊びに行く者、しばらく教室で友人と駄弁っている者は様々だ。卒業を控えている6年生に残された時間は少ない。中学生になったら離れ離れになってしまう子もいるだろう。だから放課後になってからは今まで以上にやりたいことをしている状態になっていた。そんな中わたしは窓に寄り掛かり、6年間お世話になったグラウンドをぼーっと眺めていた。
ぽつりと呟いた独り言に反応したのは、同じクラスの丈。
「結局、碧くんとは中学校でも一緒か」
『不満でも?』
「まさか」
丈はわたしの隣に立って、同じように窓へ寄り掛かる。彼の言う通り、わたしは進学先をお台場ではなく丈と同じ進学校にしたのだ。彼はわたしと違って塾に通っているから受験の年だった今年は非常に大変だっただろう。彼の塾が休みの日は共に勉強会を開いたりもして先週ようやく彼の受験が終わったところだ。ちなみにわたしは面倒という理由から推薦入試を受けたので彼よりも早く受験を終えていた。
太一くんや光子郎と中学で過ごせないのは残念ではあるけれど、丈と一緒であることに後悔はない。むしろわたしが自分で決めたことなのだから。きっかけはやはり8月に起きた出来事。
『この1年、濃かったね』
「……ああ。怒涛の1年だったよ」
忘れもしない8月1日のこと。サマーキャンプに参加したらデジタルワールドという世界へ飛んでしまい、あれやこれやと冒険するうちに様々なことを学んだ。およそ普通の人が体験できないようなことを、である。長かったように思うけれどそれも現実ではたった1週間くらいのことで。長いようで短い、という言葉がそのまま当てはまるような冒険をわたしたちはしてきた。
「寂しいかい?」
丈が問う。
『いいや。また会える日が楽しみだよ』
嘘。本当は寂しかったりするがそれを口にしてはいけないような気がした。わたしにたくさんのことを教えてくれて、一緒に成長してくれたパートナーとの別れは何よりも悲しい。それでも未来に希望を託さずにはいられなかった。次に会えるいつかを楽しみに生きる。だって約束したんだ、また会おうねって。
分かっているのかいないのか、丈はそうかと一言だけ呟くと、それきり口を開くことはなかった。クラスメイトも次々と帰宅していきついに教室に残ったのはわたしと丈だけで、その場にはしばらくの沈黙が流れていた。
『あ。そういえば、今日って雛祭りなんだ』
そんな空気をいともあっさり壊すことができたのは相手が丈で親友だからだろう。今日が雛祭りだからといって何かあるわけでもないけれどこの日は全国の女の子が主役なのだ。きっと今日はいろんな家庭で美味しい物を食べるに違いない。平和になったこの世界に思わず頬が緩む。
丈を見ると、物珍しそうにこちらを見ていた。
『なに?』
「いや、碧くんってそういうの気にするタイプだったっけ?」
『そんなんじゃないよ。ただ、今日の主人公は女の子だなって』
深い意味は本当にない。雛祭りなんて幼稚園の頃にやって以来忘れていたし今ではその当時のこともあまり記憶にはない。
今思い出したのは、なんとなく。
「雛祭りの人形って自分の身代わりであり、ソレに厄災を押し付けることじゃないか。何だか気味悪くて僕は好きじゃない」
『そうだね。自分に降りかかることは自分たちで対処するってことを学んでしまったから、人形であろうと誰かに擦り付けるつもりはないかな』
それに、雛人形は呪具らしいし後々に何かあると怖いからね。雛祭りは純粋に楽しめていた頃までで良かったのだろう。
「それで、本日主役の碧くんは何をご所望かな?」
『えっ、どうしたの丈。いつになくノリ気だね』
「僕がノリ気だとそんなに可笑しいかい?」
むすっとして怒る丈の雰囲気は、以前と比べてとても柔らかくなったような気がする。まず冗談が通じるようになったのは大きな進歩だ。これもきっとあの冒険を通して彼自身が成長した証拠。彼のパートナーや仲間とぶつかり合いながらも前を進み続けた彼に以前のような度の過ぎた堅苦しさはなくなっていた。
丈だけでなく太一くんを筆頭とした仲間たちを見ているとあの冒険を近くに感じることができる。こんなことがあったな、あんなことがあったな、なんて思いを馳せる毎日だ。でもそれが嬉しくてやっぱりふにゃりと笑ってしまう。
『ふふ。イメージに合わないなって』
「失礼だよね君」
『ごめんって』
先程の丈の言葉について考える。何をご所望しているか、と言われても特に何も考えていなかったから決めていない。まあでも、せっかく丈との時間ができているのだからお言葉に甘えようと思う。
『じゃあ、一緒に帰ろうよ』
小さな小さな我儘。それでいてかけがえのない大切な時間。この当たり前を噛み締めることのできる瞬間が、わたしは何よりも愛おしく護りたいと思うのだ。
「はいはい、お雛様」
わたしに手を伸ばして、丈は笑った。
「君がそんなしおらしいなんて珍しいじゃないか」
『……丈』
学校が終わり各々が帰宅準備を開始している放課後。真っ直ぐ家に帰る者や誰かと遊びに行く者、しばらく教室で友人と駄弁っている者は様々だ。卒業を控えている6年生に残された時間は少ない。中学生になったら離れ離れになってしまう子もいるだろう。だから放課後になってからは今まで以上にやりたいことをしている状態になっていた。そんな中わたしは窓に寄り掛かり、6年間お世話になったグラウンドをぼーっと眺めていた。
ぽつりと呟いた独り言に反応したのは、同じクラスの丈。
「結局、碧くんとは中学校でも一緒か」
『不満でも?』
「まさか」
丈はわたしの隣に立って、同じように窓へ寄り掛かる。彼の言う通り、わたしは進学先をお台場ではなく丈と同じ進学校にしたのだ。彼はわたしと違って塾に通っているから受験の年だった今年は非常に大変だっただろう。彼の塾が休みの日は共に勉強会を開いたりもして先週ようやく彼の受験が終わったところだ。ちなみにわたしは面倒という理由から推薦入試を受けたので彼よりも早く受験を終えていた。
太一くんや光子郎と中学で過ごせないのは残念ではあるけれど、丈と一緒であることに後悔はない。むしろわたしが自分で決めたことなのだから。きっかけはやはり8月に起きた出来事。
『この1年、濃かったね』
「……ああ。怒涛の1年だったよ」
忘れもしない8月1日のこと。サマーキャンプに参加したらデジタルワールドという世界へ飛んでしまい、あれやこれやと冒険するうちに様々なことを学んだ。およそ普通の人が体験できないようなことを、である。長かったように思うけれどそれも現実ではたった1週間くらいのことで。長いようで短い、という言葉がそのまま当てはまるような冒険をわたしたちはしてきた。
「寂しいかい?」
丈が問う。
『いいや。また会える日が楽しみだよ』
嘘。本当は寂しかったりするがそれを口にしてはいけないような気がした。わたしにたくさんのことを教えてくれて、一緒に成長してくれたパートナーとの別れは何よりも悲しい。それでも未来に希望を託さずにはいられなかった。次に会えるいつかを楽しみに生きる。だって約束したんだ、また会おうねって。
分かっているのかいないのか、丈はそうかと一言だけ呟くと、それきり口を開くことはなかった。クラスメイトも次々と帰宅していきついに教室に残ったのはわたしと丈だけで、その場にはしばらくの沈黙が流れていた。
『あ。そういえば、今日って雛祭りなんだ』
そんな空気をいともあっさり壊すことができたのは相手が丈で親友だからだろう。今日が雛祭りだからといって何かあるわけでもないけれどこの日は全国の女の子が主役なのだ。きっと今日はいろんな家庭で美味しい物を食べるに違いない。平和になったこの世界に思わず頬が緩む。
丈を見ると、物珍しそうにこちらを見ていた。
『なに?』
「いや、碧くんってそういうの気にするタイプだったっけ?」
『そんなんじゃないよ。ただ、今日の主人公は女の子だなって』
深い意味は本当にない。雛祭りなんて幼稚園の頃にやって以来忘れていたし今ではその当時のこともあまり記憶にはない。
今思い出したのは、なんとなく。
「雛祭りの人形って自分の身代わりであり、ソレに厄災を押し付けることじゃないか。何だか気味悪くて僕は好きじゃない」
『そうだね。自分に降りかかることは自分たちで対処するってことを学んでしまったから、人形であろうと誰かに擦り付けるつもりはないかな』
それに、雛人形は呪具らしいし後々に何かあると怖いからね。雛祭りは純粋に楽しめていた頃までで良かったのだろう。
「それで、本日主役の碧くんは何をご所望かな?」
『えっ、どうしたの丈。いつになくノリ気だね』
「僕がノリ気だとそんなに可笑しいかい?」
むすっとして怒る丈の雰囲気は、以前と比べてとても柔らかくなったような気がする。まず冗談が通じるようになったのは大きな進歩だ。これもきっとあの冒険を通して彼自身が成長した証拠。彼のパートナーや仲間とぶつかり合いながらも前を進み続けた彼に以前のような度の過ぎた堅苦しさはなくなっていた。
丈だけでなく太一くんを筆頭とした仲間たちを見ているとあの冒険を近くに感じることができる。こんなことがあったな、あんなことがあったな、なんて思いを馳せる毎日だ。でもそれが嬉しくてやっぱりふにゃりと笑ってしまう。
『ふふ。イメージに合わないなって』
「失礼だよね君」
『ごめんって』
先程の丈の言葉について考える。何をご所望しているか、と言われても特に何も考えていなかったから決めていない。まあでも、せっかく丈との時間ができているのだからお言葉に甘えようと思う。
『じゃあ、一緒に帰ろうよ』
小さな小さな我儘。それでいてかけがえのない大切な時間。この当たり前を噛み締めることのできる瞬間が、わたしは何よりも愛おしく護りたいと思うのだ。
「はいはい、お雛様」
わたしに手を伸ばして、丈は笑った。