それぞれの夢主が登場します
ひなまつり!
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「シオリー!おっはよー!」
『わっ。……吃驚した』
部屋の扉をバンッと勢いよく開けられて飛び起きた。いつか壊れるかもしれない、といつも特定の人物にのみ酷く扱われている扉を一瞥し、部屋へ入ってきた犯人を見上げて挨拶をする。
『おはよ、アル』
彼はアルフォースブイドラモン。朝が苦手な私を彼は度々こうして起こしに来てくれるが他のロイヤルナイツと違いその起こし方は迫力満点笑顔満点である。お陰で飛び起きなければならない私の心臓は毎回ばくばくと鼓動を速めており、もしや寿命が縮んでいるのではないかと不安に思うことは日常茶飯事となっていた。
「よく眠れた?」
ベッドで未だ眠たげに目を擦る私に近付いてきて彼は尋ねる。最近は任務で外を回ったり、内番で書類を作成したり整理だったりと忙しなかった。昨日はそれを見かねたオメガモンに早く上がっても良いと言われて、ご飯もそこそこにしてすぐに寝てしまったのだった。
『うん、お陰様で。……アルは早起きだよね』
「もちろん!一番早い自信あるよ!」
『そうなんだ。凄いね』
どうなら早起きでも神速の名は伊達じゃなかったみたい。けれど確かに、私も早く起きてしまって眠気覚ましに世界樹内をウロウロしていたらアルを見掛けることが何度かあったのを思い出した。
『でもそんなに早起きして何してるの?暇じゃない?』
「うーん…日の出を見て、その後街をパトロールしてるから別に暇じゃないかな!」
『えっ』
「え?」
待って待って、柄ではないけどツッコミどころしかないような気がする。日の出を見るレベルの早起きをしてるの?朝に弱くて休日はお昼まで寝ている私からしたら考えられないことだ。
そしてもう一つ気になることがある。
『アルっていつもパトロールしてるの?』
「そうだよー!」
『他のナイツは知ってる?』
「多分知らない!皆その時間起きてないしね!」
『そうなんだ』
失礼だけどアルって凄く馬鹿っぽいキャラだと思っていたけれど、私たちの知らないところでこんなに頑張ってくれていたんだ。
そこで不意に思い出したのは前に彼と今日みたいに2人でお話をしていた時のこと。外を眺める瞳をきらきらと輝かせながら、この世界がどうしようもなく好きだと語っていたのはまだ記憶に新しい。
なるほど、と勝手に納得する。面倒くさがりでよく報告書を放り出してしまう彼がパトロールを毎日続けているのだ。それくらいこのデジタルワールドに対する愛情が伝わってきて意識をせずとも顔が綻ぶ。
『アル、格好良いね』
「えっ!?ほんと、ほんと!?」
『うん。とっても』
「やったあ!俺格好良い!」
きっと、そういうところは可愛いのだけれど。
「あっ」
『どうしたの?』
はしゃいでいたアルが何かを思い出したように声を上げた。もしや何か用事があったのだろうか。首を傾げて尋ねるとまたにこにこと笑顔で彼は答える。
「シオリ!着替えたら談話室に来てね!」
『談話室?』
「うん!絶対だよ!」
そう言ってアルは急いで部屋を出て行った。何の用事だろうかと頭を捻ってもまるで見当がつかない。絶対って言ってたし大事な召集でも掛かったのかもしれないが場所が談話室なだけに違うような気もする。一大事である時の集合場所は大体が情報処理室なのだから。
結局考えても仕方がないのでベッドから降りる。クローゼットから取り出した真っ白のワンピースに着替えて談話室へ向かうために部屋を出る。実はこの服はジエスモンお手製なのである。人間用の服がないこの世界で着替えはどうしようか迷っていた時にジエスモンが1ヶ月くらい掛けて作ってくれたのだ。最近は少し縫い目がほつれてきたけど気に入ってるから構わず使い続けている。ちなみに私は料理は人並みに出来るけど裁縫はあまり得意ではない。
『ジエスモンが非番の時に直してもらおうかな』
体は何倍も大きいのに、彼は結構細かい作業が得意なようだから。そんなことを考えながら歩いていると談話室の扉が見えてきた。ここに来る途中までに誰とも会わなかったけれど、やはり召集が掛かって談話室に全員集まっているのだろうか。
扉の前まで来たので取り敢えずノックをする。
『……あれ』
返事がない。でも確かに呼ばれていたからいるはずなんだけどな。そう思ってゆっくり扉を開けて一歩踏み出した、その瞬間。パァンと大きな音とカラフルなすずらんテープが私を盛大に迎えており、突然のことに思考が一時的に止まったのを感じた。
「「シオリ、おめでとう」」
『……?』
何が起こったのか全く理解できていない自分がいる。体にはクラッカーから出てきたであろうカラフルなテープたちが巻きついている。ぱちくりと数回瞬きをして目の前の彼らを見る。まるで悪戯を成功させた時のような顔をしており、その手にはやはり大型のクラッカーが握られていた。
そして少し冷静になった頭で考えるが、おめでとうって何だろう。今日は何かお祝い事をする日だったかな。
「むっ。どうしたのだ?」
『えーっと、今日は何かあったかなって…』
デュークモンに問われて曖昧に答える。ロイヤルナイツ全員がこの談話室で集まっているから尚気まずい。見ればこの日はエグザモンもいるらしく、多分ドゥフトモンにデータを縮小させるプログラムを施してもらっているのだろう。
「人間の世界だと今日は雛祭りというものをやっていると聞いたのだが?」
『えっ、あ、うん……そうだね?』
なるほど。確かに今日は雛祭りではあるけど、ここは人間界ではないからやっても意味があるかどうか。ここには私以外女の子はいないし彼らがこうして集まるほどでもないというか。
「雛祭りは女の子の健やかな成長を祈る行事である。ここにはシオリがいるからな、我らで祝おうということだ」
ドゥフトモンが得意気にそう言った。もしや発端は彼だったのだろうか。いや、そういえばロイヤルナイツには人間界のイベント事が大好きな人物が他にも3人ほどいたような気がする。
彼らが立っている後ろのテーブルには桜の花が活けてあったり、お吸い物やちらし寿司なんかも見えており、今までに見たこともない豪勢な料理や装飾に驚いて彼らをまじまじと見ると、皆は私の反応を楽しんでいるようだった。
『……これ、全部貴方たちが準備したの?』
「ああ」
『料理も?』
「それはこのデュークモンとガンクゥモンだ』
『装飾も?』
「花を活けたのは某とクレニアムモンである」
「部屋を着飾ったのは俺とロードナイトモンだな」
「他の者は任務で手伝えなかったが、今日に間に合って良かった」
最後にオメガモンが私の頭を撫でながら微笑んだ。彼もこんなに柔らかな表情ができたのか、と何だが胸が熱くなる。
『……準備してたの、全然気が付かなかった』
「隠していたからな」
マグナモンが安堵したように言う。彼も加担していたとは驚きではあるがきっとアルに押し切られてしまったのだろうと容易に想像がついた。
『そもそも雛祭りを知ってたんだ』
「ドゥフトモンの知識はデジモン界一じゃの!」
エグザモンが寛大に笑って言う。やはり今回のことを企画したのはドゥフトモンだったらしい。
『私よりも貴方たちの方が雛祭りを意識してるしね』
「人間界の行事というのは面白いものばかりだな」
オメガモンが楽しそうに言う。彼はナイツの中でも人間界のお祭り事が大好きならしく、今回もきっとドゥフトモンと共に考えて実行したのだろう。
彼らの顔を順番に見ていく。この世界に来るまでは育まれなかった私の中の感情の一つ、嬉しさと幸福感で胸がいっぱいになっていくのを感じる。それもこれも全てはロイヤルナイツの皆がいてくれたからだ。
両手を胸に当てて彼らに問う。
『……ねえ。全部、私のため?』
ちょっと意地悪そうに聞いてみる。そんなつもりはないけれど、嬉しいのは確かで。皆が今日のためにずっと隠しながら頑張っていたのだとしたら優越感すら覚える。だからこそ、例えそれが我儘だとしても皆の口から肯定の言葉が欲しい。そんな私の心境を知ってか知らずか、皆は声を揃えて答えてくれた。
「「もちろん」」
嗚呼、この世界はこんなにも幸せで満ちている。
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