少女は迷い込む
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『ここ、どこ?』
目を開けるとそこは知らない場所だった……なんて、ありきたりな小説の出だしがあるけれど、まさかそれを自分が体験するなんて誰が予想できただろう。休日の昼下がり。いつも通りアルバイトへ向かうために玄関を出たつもりだったのに。私が住んでいるのは1LDKの一般的なマンションだから扉を開ければコンクリートしかないはずである。けれど一つ瞬きをした先に広がっていたのは、東京という名のコンクリートジャングルでは滅多にお目にかかれない広大な草原だった。
辺りを見渡せば気持ち良さそうに揺らいでいる草だけが目に映る。空は雲一つない綺麗な水色を宿しており空気も澄み切っていた。
『綺麗な場所。けれど、』
私には酷く眩しい場所に感じる。見渡す限り草原しかないこの場所は全ての罪も解放してくれそうで、少しだけ居心地が悪いと思った。
訳も分からず知らない場所に来てしまいどうすることもできずにぼーっと青空を眺めていると、白い物体が飛んでいるのが見えた。
『あれ、何だろう』
目を凝らして見てみると、純白の鎧にマントを身に纏っている何か。西洋の物語に出てくる騎士のような姿は現代では実際に見ることもないので新鮮だ。ますますここが何処なのか分からなくなっていくが、もしかしたらこれは夢の中なのかもしれないという憶測も捨てきれない。夢であってほしいような、ほしくないような。複雑に絡む私の思考を余所に、空を飛んでいた白い物体はこちらに気付いたようだった。どうすることもできずにぼーっとしている私の目の前にソレは降り立つ。近くで見ると私の身長の5倍くらいありそうな程大きく、見上げるのに首を上に向けるのも疲れてしまいそうだ。
ソレをよく見ると両腕には何かの生き物の頭がそれぞれあって。恐怖を抱くよりも先に、重たそうだと感想が駆け抜けた。お台場にある某アニメの実物大ロボットが動いたらこんな感じなのだろう、と怖気づくことなく呆れた思考を持っている私はきっとこの状況に諦めを示しているのかもしれない。
警戒しているのか、沈黙が辺りを包み今は私とソレだけの世界となっていた。相手は言語が分かるのかどうかも把握できていないのでこちらから容易く声を掛けることはできない。どうしたものか、悩んでいると意外にも沈黙を破ったのは相手の方だった。
「貴様、人間か」
『……はい』
「何故この世界にいる」
私を見下ろしながら淡々とそんなことを問うてくる。人間か否かを尋ねてくるということは彼は人間との縁がなかったのだろうか。この世界、という発言からも私が住んでいた世界とは異なるのかもしれない。まだこれが夢という推測も捨てきれないが、もしリアルな出来事であるのならばいつまでも現実逃避をしているわけにもいかない。これは一体どうなっているのだろうか。
『分かりません。……気が付いたら、ここに』
俯いて答えると相手は黙り込んだ。二度目の沈黙。私の視線の先には相変わらず風に揺られて草がゆらゆらゆっくりと左右に振れている。そうだ、と顔を上げて今度の沈黙を破ったのは私だ。
『あの』
「……なんだ」
返事をしてくれることに安堵して一息吐いた。いい加減ソレやら相手やら言い続けるのは気が引ける。私にも名前があるように、相手にもきっと名前くらいはあると思う。右手を胸に当てて睫毛を伏せた。
『私はシオリ』
「……」
『あなたは?』
顔を上げると、濁ることを知らないような澄んだ翠色の瞳とばちりと目が合う。綺麗だ、と素直な気持ちが小さく口から零れ落ちた。
「……我が名はオメガモン」
『そう…。姿も名前も格好良いね』
まさか素直に名前を教えてくれるとは思わなかったが悪い方ではないのだろう。そんな雰囲気が滲み出ている。そんなオメガモンの今までの口ぶりからすると、この世界には私のような人間が住んでいるのは可笑しいのではないかと思う。つまり、私はよく分からない世界に来てしまったというのは夢ではないらしい。
人間といういないはずの存在がいるということは、この世界にとってどれだけ不気味なことなのだろう。最悪、殺されてしまうのではないだろうか。そんなことを考えていると、先程から何も話さなかったオメガモンが声を投げ掛けてきた。
「おい」
『……はい』
「ついて来い」
『はい…?』
聞き間違いではないと思うけれど、ついて来いって一体どこへだろうか。
「我が君イグドラシルの元へ連れていく」
『は…』
待て待て待て、イグドラシルって誰?
目を開けるとそこは知らない場所だった……なんて、ありきたりな小説の出だしがあるけれど、まさかそれを自分が体験するなんて誰が予想できただろう。休日の昼下がり。いつも通りアルバイトへ向かうために玄関を出たつもりだったのに。私が住んでいるのは1LDKの一般的なマンションだから扉を開ければコンクリートしかないはずである。けれど一つ瞬きをした先に広がっていたのは、東京という名のコンクリートジャングルでは滅多にお目にかかれない広大な草原だった。
辺りを見渡せば気持ち良さそうに揺らいでいる草だけが目に映る。空は雲一つない綺麗な水色を宿しており空気も澄み切っていた。
『綺麗な場所。けれど、』
私には酷く眩しい場所に感じる。見渡す限り草原しかないこの場所は全ての罪も解放してくれそうで、少しだけ居心地が悪いと思った。
訳も分からず知らない場所に来てしまいどうすることもできずにぼーっと青空を眺めていると、白い物体が飛んでいるのが見えた。
『あれ、何だろう』
目を凝らして見てみると、純白の鎧にマントを身に纏っている何か。西洋の物語に出てくる騎士のような姿は現代では実際に見ることもないので新鮮だ。ますますここが何処なのか分からなくなっていくが、もしかしたらこれは夢の中なのかもしれないという憶測も捨てきれない。夢であってほしいような、ほしくないような。複雑に絡む私の思考を余所に、空を飛んでいた白い物体はこちらに気付いたようだった。どうすることもできずにぼーっとしている私の目の前にソレは降り立つ。近くで見ると私の身長の5倍くらいありそうな程大きく、見上げるのに首を上に向けるのも疲れてしまいそうだ。
ソレをよく見ると両腕には何かの生き物の頭がそれぞれあって。恐怖を抱くよりも先に、重たそうだと感想が駆け抜けた。お台場にある某アニメの実物大ロボットが動いたらこんな感じなのだろう、と怖気づくことなく呆れた思考を持っている私はきっとこの状況に諦めを示しているのかもしれない。
警戒しているのか、沈黙が辺りを包み今は私とソレだけの世界となっていた。相手は言語が分かるのかどうかも把握できていないのでこちらから容易く声を掛けることはできない。どうしたものか、悩んでいると意外にも沈黙を破ったのは相手の方だった。
「貴様、人間か」
『……はい』
「何故この世界にいる」
私を見下ろしながら淡々とそんなことを問うてくる。人間か否かを尋ねてくるということは彼は人間との縁がなかったのだろうか。この世界、という発言からも私が住んでいた世界とは異なるのかもしれない。まだこれが夢という推測も捨てきれないが、もしリアルな出来事であるのならばいつまでも現実逃避をしているわけにもいかない。これは一体どうなっているのだろうか。
『分かりません。……気が付いたら、ここに』
俯いて答えると相手は黙り込んだ。二度目の沈黙。私の視線の先には相変わらず風に揺られて草がゆらゆらゆっくりと左右に振れている。そうだ、と顔を上げて今度の沈黙を破ったのは私だ。
『あの』
「……なんだ」
返事をしてくれることに安堵して一息吐いた。いい加減ソレやら相手やら言い続けるのは気が引ける。私にも名前があるように、相手にもきっと名前くらいはあると思う。右手を胸に当てて睫毛を伏せた。
『私はシオリ』
「……」
『あなたは?』
顔を上げると、濁ることを知らないような澄んだ翠色の瞳とばちりと目が合う。綺麗だ、と素直な気持ちが小さく口から零れ落ちた。
「……我が名はオメガモン」
『そう…。姿も名前も格好良いね』
まさか素直に名前を教えてくれるとは思わなかったが悪い方ではないのだろう。そんな雰囲気が滲み出ている。そんなオメガモンの今までの口ぶりからすると、この世界には私のような人間が住んでいるのは可笑しいのではないかと思う。つまり、私はよく分からない世界に来てしまったというのは夢ではないらしい。
人間といういないはずの存在がいるということは、この世界にとってどれだけ不気味なことなのだろう。最悪、殺されてしまうのではないだろうか。そんなことを考えていると、先程から何も話さなかったオメガモンが声を投げ掛けてきた。
「おい」
『……はい』
「ついて来い」
『はい…?』
聞き間違いではないと思うけれど、ついて来いって一体どこへだろうか。
「我が君イグドラシルの元へ連れていく」
『は…』
待て待て待て、イグドラシルって誰?