少女と彼らの邂逅
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「シオリ、あれ…!」
『戦ってる…』
ジエスモンに抱えられて横浜市の上空へ飛んできた。そこには戦闘を繰り広げている赤と青の大きなデジモンが2体いた。
『街が、壊れていく』
究極体2体がぶつかる衝撃波で建物の外壁は剥がれ、地面は抉れていく。近くに海があるがあのデジモンたちが放った技により大きな水しぶきを何度も上げていた。ある程度距離を取ったところでジエスモンは降り立つ。
「どうする、シオリ?」
『どうするって…。……!』
大きなデジモンたちの真下、そこには大人子供含む何人かの人間と複数のデジモンと思われる生物が空を見上げて様子を見守っていた。
『ジエスモン、あそこに人間がいる!』
「本当だ。あんなところに居たら危ないのに」
あそこにいる人間のうち二人は何やら喧嘩をしているようにも見える。こんな時に、どうして。
「取り敢えず一度ハックモンに戻るよ。この姿だと見つかった時に余計混乱を招きかねないから」
『分かった。わたしたちも状況を把握するためにもう少しあっちに行ってみよう』
わたしの言葉に頷いてジエスモンはハックモンへと退化した。彼と共に他の人間がいるところへ見つからないように近づく。
「"フルムーンブラスター"!」
「くっ…!お前はそれで良いのかッ」
「私はマスターに従う!」
「見損なったぞ…!」
青いデジモンが攻撃を放ち、赤いデジモンがそれを避ける。会話から察するに、あの二体は元々仲間だったようだ。けれど、マスターって誰だろう。ハックモンと共に見守っていると、大技を放つのか、赤いデジモンが光を纏って構えている。
「"グロリアスバースト"!」
「"フルムーンブラスター"!」
赤いデジモンが放った大きな火の玉と青いデジモンの放ったエネルギーが上空でぶつかる。あまりの衝撃波に飛ばされそうになるのを足を踏ん張ることで堪える。そしてもう一度見上げた時、力負けした赤いデジモンの隙をついて青いデジモンが一撃を入れようと急接近していた。
「"ゲイルクロー"!」
「ぐあああッ」
青いデジモンの素早い一撃をその身に受けて赤いデジモンは海へ落ちていった。
『倒したの…?』
「いや、まだデジコアの反応があるよ」
『そっか。……良かった』
どんなデジモンかも分からないけれど、それでもわたしはデジモンが大好きだから、できるなら殺生はしてほしくない。ハックモンの言うデジコアとは確かデジモンの心臓のこと。その反応があるということはまだ生きている。それが分かっただけでも一安心だ。
「許さねぇ…」
『ッ!……何、この感じ!』
「シオリ、あの人間!」
デジモン同士の争いが終わったと思いきや、今度は身の毛がよだつ程の憎悪を感じて体が震えた。ハックモンが指差す方を見ると、茶髪の青年が拳を握り締めて金髪の青年の前に立っていた。
「うおおおおッ!」
「はあああッ」
茶髪の青年がその拳を振りかざそうとした時、金髪の青年も同じように殴り掛かった。彼の拳は茶髪の青年の頬へとめり込むが、相手は怯むことなく、むしろ雄叫びを上げながら力任せに押し返す。
「やめてーッ!」
事の成り行きを見守っていた人間たちのうち、小さな女の子が悲痛な声で叫ぶがそれも虚しく茶髪の青年はその拳を下げることはしなかった。金髪の青年を後方へ大きく殴り飛ばし、自身の拳を握り締めたままでもう一度呟く。
「ゆる、さねぇ…」
嫌な予感がした。
『ハックモン。……あの人間、怖い』
「うん。負のエネルギーを感じる」
あぁ。この感じ、久しぶりだ。長いことロイヤルナイツの皆と居たから忘れていたけれど、この憎悪はわたしがデジタルワールドに行く前からずっと感じていた人間の闇の部分と酷似している。わたしはいつからか人間のもつ欲望や負の感情というものに敏感で、闇に浸かっている心の声を勝手に読み取ってしまうことができた。
今回も同じ。あの茶髪の青年からは、何か良くないことが起こりそうな程の憎悪を感じる。
「トーマ。てめぇだけは、絶対に許さねぇッ!」
禍々しいオーラが茶髪の青年を覆った瞬間。
「うおおおおおッ!」
『ああッ…!う、ぐ…』
「シオリ、どうしたの!?」
『憎悪が…大きい……くる、しい…!』
――許さねぇ!あいつだけは絶対に許すわけにはいかねぇ!命をもって償わせてやるッ!
これは茶髪の青年の声だ。心の中で育ってしまった憎悪に満ちた声。おおよそ人間に対して抱けるような感情ではない。彼はきっと、それくらい辛くて悲しくて、そして憎かったのだろう。わたしが抱えられる大きさじゃない。頭がパンクしそうで、酷く苦しい。
「大丈夫!?しっかりしてシオリ!」
『ハックモン……大丈夫、だよ』
「でも辛そう」
『……平気。それよりも、彼を止めなきゃ』
でないと、取り返しのつかないことが起きてしまいそうだから。ハックモンが「無理したらダメ」と体を支えてくれる。わたしには、それだけでも嬉しくてこの体を立たせる力になるというのに。
ありがとうとお礼を言ってハックモンを抱える。今は冷静さを欠いているあの茶髪の青年を止めることを優先したい。そう思って近付いた時だった。
「ぬああああああッ!」
耳を劈くような咆哮に上空を見上げると、海に落ちた赤いデジモンが真っ黒の炎を纏って姿を現していた。
『あ、れは……』
「シオリ。ここは離脱した方が良い」
ハックモンがあの禍々しいデジモンを見て、険しい表情でそう言った。それ程までに、赤いデジモンは危険極まりない存在になってしまったということである。
間に合わなかった、そう感じてしまうと同時に、あのデジモンが抱えている負の感情に既視感を覚えた。
『あれは、セトモンの時と一緒…』
そう。わたしの初めての任務で助けられなかったデジモン。デジメンタルに呑み込まれて暴走してしまった悲しきデジモンの末路を、わたしは知っている。もしかして、あの変わり果ててしまったデジモンも…。
「……あいつは、暴走してしまっている」
つまり、あのデジモンの最後に待っているもの。
それは即ち、
『……死』
もう、見たくなかったのに。
『戦ってる…』
ジエスモンに抱えられて横浜市の上空へ飛んできた。そこには戦闘を繰り広げている赤と青の大きなデジモンが2体いた。
『街が、壊れていく』
究極体2体がぶつかる衝撃波で建物の外壁は剥がれ、地面は抉れていく。近くに海があるがあのデジモンたちが放った技により大きな水しぶきを何度も上げていた。ある程度距離を取ったところでジエスモンは降り立つ。
「どうする、シオリ?」
『どうするって…。……!』
大きなデジモンたちの真下、そこには大人子供含む何人かの人間と複数のデジモンと思われる生物が空を見上げて様子を見守っていた。
『ジエスモン、あそこに人間がいる!』
「本当だ。あんなところに居たら危ないのに」
あそこにいる人間のうち二人は何やら喧嘩をしているようにも見える。こんな時に、どうして。
「取り敢えず一度ハックモンに戻るよ。この姿だと見つかった時に余計混乱を招きかねないから」
『分かった。わたしたちも状況を把握するためにもう少しあっちに行ってみよう』
わたしの言葉に頷いてジエスモンはハックモンへと退化した。彼と共に他の人間がいるところへ見つからないように近づく。
「"フルムーンブラスター"!」
「くっ…!お前はそれで良いのかッ」
「私はマスターに従う!」
「見損なったぞ…!」
青いデジモンが攻撃を放ち、赤いデジモンがそれを避ける。会話から察するに、あの二体は元々仲間だったようだ。けれど、マスターって誰だろう。ハックモンと共に見守っていると、大技を放つのか、赤いデジモンが光を纏って構えている。
「"グロリアスバースト"!」
「"フルムーンブラスター"!」
赤いデジモンが放った大きな火の玉と青いデジモンの放ったエネルギーが上空でぶつかる。あまりの衝撃波に飛ばされそうになるのを足を踏ん張ることで堪える。そしてもう一度見上げた時、力負けした赤いデジモンの隙をついて青いデジモンが一撃を入れようと急接近していた。
「"ゲイルクロー"!」
「ぐあああッ」
青いデジモンの素早い一撃をその身に受けて赤いデジモンは海へ落ちていった。
『倒したの…?』
「いや、まだデジコアの反応があるよ」
『そっか。……良かった』
どんなデジモンかも分からないけれど、それでもわたしはデジモンが大好きだから、できるなら殺生はしてほしくない。ハックモンの言うデジコアとは確かデジモンの心臓のこと。その反応があるということはまだ生きている。それが分かっただけでも一安心だ。
「許さねぇ…」
『ッ!……何、この感じ!』
「シオリ、あの人間!」
デジモン同士の争いが終わったと思いきや、今度は身の毛がよだつ程の憎悪を感じて体が震えた。ハックモンが指差す方を見ると、茶髪の青年が拳を握り締めて金髪の青年の前に立っていた。
「うおおおおッ!」
「はあああッ」
茶髪の青年がその拳を振りかざそうとした時、金髪の青年も同じように殴り掛かった。彼の拳は茶髪の青年の頬へとめり込むが、相手は怯むことなく、むしろ雄叫びを上げながら力任せに押し返す。
「やめてーッ!」
事の成り行きを見守っていた人間たちのうち、小さな女の子が悲痛な声で叫ぶがそれも虚しく茶髪の青年はその拳を下げることはしなかった。金髪の青年を後方へ大きく殴り飛ばし、自身の拳を握り締めたままでもう一度呟く。
「ゆる、さねぇ…」
嫌な予感がした。
『ハックモン。……あの人間、怖い』
「うん。負のエネルギーを感じる」
あぁ。この感じ、久しぶりだ。長いことロイヤルナイツの皆と居たから忘れていたけれど、この憎悪はわたしがデジタルワールドに行く前からずっと感じていた人間の闇の部分と酷似している。わたしはいつからか人間のもつ欲望や負の感情というものに敏感で、闇に浸かっている心の声を勝手に読み取ってしまうことができた。
今回も同じ。あの茶髪の青年からは、何か良くないことが起こりそうな程の憎悪を感じる。
「トーマ。てめぇだけは、絶対に許さねぇッ!」
禍々しいオーラが茶髪の青年を覆った瞬間。
「うおおおおおッ!」
『ああッ…!う、ぐ…』
「シオリ、どうしたの!?」
『憎悪が…大きい……くる、しい…!』
――許さねぇ!あいつだけは絶対に許すわけにはいかねぇ!命をもって償わせてやるッ!
これは茶髪の青年の声だ。心の中で育ってしまった憎悪に満ちた声。おおよそ人間に対して抱けるような感情ではない。彼はきっと、それくらい辛くて悲しくて、そして憎かったのだろう。わたしが抱えられる大きさじゃない。頭がパンクしそうで、酷く苦しい。
「大丈夫!?しっかりしてシオリ!」
『ハックモン……大丈夫、だよ』
「でも辛そう」
『……平気。それよりも、彼を止めなきゃ』
でないと、取り返しのつかないことが起きてしまいそうだから。ハックモンが「無理したらダメ」と体を支えてくれる。わたしには、それだけでも嬉しくてこの体を立たせる力になるというのに。
ありがとうとお礼を言ってハックモンを抱える。今は冷静さを欠いているあの茶髪の青年を止めることを優先したい。そう思って近付いた時だった。
「ぬああああああッ!」
耳を劈くような咆哮に上空を見上げると、海に落ちた赤いデジモンが真っ黒の炎を纏って姿を現していた。
『あ、れは……』
「シオリ。ここは離脱した方が良い」
ハックモンがあの禍々しいデジモンを見て、険しい表情でそう言った。それ程までに、赤いデジモンは危険極まりない存在になってしまったということである。
間に合わなかった、そう感じてしまうと同時に、あのデジモンが抱えている負の感情に既視感を覚えた。
『あれは、セトモンの時と一緒…』
そう。わたしの初めての任務で助けられなかったデジモン。デジメンタルに呑み込まれて暴走してしまった悲しきデジモンの末路を、わたしは知っている。もしかして、あの変わり果ててしまったデジモンも…。
「……あいつは、暴走してしまっている」
つまり、あのデジモンの最後に待っているもの。
それは即ち、
『……死』
もう、見たくなかったのに。