名字固定【篠崎】
咆哮!イッカクモン
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……僕はしっかりしてるさ」
1人皆の輪から離れていった彼を追いかけてみると、沸騰した温泉の近くで蹲っていた。
その背中はどこか物寂しい。
「僕は……僕はしっかりしてる」
小石を温泉に投げなら、まるで自己暗示を掛けているかのように呟いている。わたしは後ろから近付いて丈へ声を掛ける。
『君はしっかりしすぎなんだと思うよ』
「碧くん!」
驚いたように振り返った丈の顔が面白くて、隠しもせずに笑いながら彼の隣に腰を下ろす。
近くの小石を手の中で弄びながら彼と同じように温泉へ石を投げた。
『わたしがこんなだから、丈にはかなり負担をかけていると思うんだ』
「…まあ。否定はしないさ」
『素直でよろしい。…でも、これでもわたしだって最年長なんだよ。そういう難しいことは分け合うべきじゃない?』
責任とかそんな曖昧なものは1人で負うべきではない。どうも彼は自分だけで何とかしてしまおうとする癖があるようだった。
「そうは言ったって、君は女の子だし…」
『関係ない。今はクラスメイトではなく、この世界を旅する仲間だよ。…それとも、わたしでは力不足だったかな?』
「そういうのじゃないけど」
どこか腑に落ちてない表情。
その原因もなんとなく予想はついているが、彼はどこまでも深く考えてしまう性格のようだ。
『……行動指針で舵を握っているのは5年生のあの子たちなのは言うまでもなく感じているよね』
「ああ、もちろんだよ」
『ならわたしたちは、後ろから支えてやろうよ』
「後ろから支える…?」
『そう。自分より年上の人間が後ろに控えてるって、相当安心すると思う。何かあればわたしたちが前に出て、それ以外は一歩引いて周りを見る。今はそれが最善だと思うの』
丈はきっと自分がどんな立ち位置でいれば良いのか迷っているのだ。本来であれば指揮を執るのは年長者の役目。とはいえ今は太一くんたち5年生組が自然な形で物事を決めている。
それに丈は今まで人の先頭に立つということをしたことがないから、余計に不安なのだろう。
『これから先はより危険なことが起きるかもしれない。そんな時はわたしたちが前に出れば良い』
「……そうか。そうだな」
そう言って丈は立ち上がった。
「適材適所ってやつだね」
『おお、それそれ』
「君は文系なんじゃなかったかい?」
『はっはっは、1本取られた』
それからお互いに小さく笑う。丈がいつもの調子を取り戻してくれたようで良かった。
『まあなんだ。いきなり気持ちを切り替えろ、なんて土台無理な話だからね。自分のできることをやったら良いんだよ』
「自分のできること…」
わたしは立ち上がって丈に背を向ける。
あんまり戻るのが遅いからと余計な心配をかけさせる訳には行かなかった。
『ほら。行くよ、丈』
「ああ!待ちなよ碧くん!」
皆のところへ戻るが何やら随分と騒々しい。見れば、太一くんとヤマトくんが言い合いをしていた。
「何度も同じことを言わせるなよな!」
「駄目だ、危険過ぎる!」
「考えてたってしょうがないだろう!?」
「俺は、少しは考えろって言ってんだよ!」
「じゃ何か?俺は何も考えてないってか?」
「その通りだけど」
「なにおぅ!?」
これはまた激しい言い争いだ。
「……おい、どうしたんだよ。何揉めてんだよあの2人」
喧嘩を心配そうに見守っていた子たちに丈が尋ねると、一同に溜息をこぼした。
デジモンたちもお手上げ状態らしい。
「ムゲンマウンテンに行くか行かないかで揉めてるんです」
光子郎が山を指差しながら答えた。
「ムゲンマウンテン?」
「あの大きな山のことや!」
見ると、確かに一際大きな山がそびえ立っている。
「太一は、あそこに行けば全体が見渡せるって」
「確かに、あのくらい高い山なら全体を見渡せる」
空ちゃんの言葉に丈は頷いた。
「でもヤマトは危険だからって反対してるのよ」
「あの山には凶暴なデジモンがたくさんいるのよ」
「うーん、なるほど。それは危険だ」
空ちゃんの言葉に続けてピヨモンが補足すると、丈も納得する。双方の意見はもっともであるが故に対立してしまうようだ。ただどちらも感情に身を任せていて冷静に欠いている。
「そんな逃げ腰じゃ埒があかないだろう!」
「お前の無鉄砲に付き合わせて、皆を危険に晒すつもりかよ」
「なんだと!?」
「待ってくれよ2人とも!まずは落ち着いて話し合おう。喧嘩しないでさ」
見るに耐えなくなったであろう丈が2人の喧嘩へ仲裁に入った。他の子どもたちは不安そうにその様子を見守っている。
「で、丈はどう思う?」
「え?」
「どっちに賛成なんだよ?」
「うーん。太一の言っている事は正しいよ。あれに登ればこれからの指針にはなると思うよ」
「ほらみろ」
迷いつつ丈が答えると太一くんは勝ち誇ったような顔をヤマトくんへ向ける。
が、丈はすぐにそれだけではないと口を開いた。
「だけど、ヤマトの言う事ももっともだ。皆を危険に晒してまであの山に登る意味があるのかっていうと……」
うだうだと悩んでいる丈に太一くんとヤマトくんが肩を落とす。するとまたもや言い争いが勃発してしまった。
「ともかく、行けるとこまで行こうぜ!」
「だから、違うって言ってるだろ!」
「待てよ!今考えてるんだから、ちょっと待てって、落ち着けよ!」
「熱くなってるのは丈の方だろう!」
「何だよ!?僕は君たちを…」
「だーから、行けば良いんだよ!」
「なんでそうなるんだ!」
「聞けよ!俺の話も!」
ついには丈までもが怒鳴り声を上げた。彼が俺というのは珍しいが、このままでは本当に埒が明かない。
溜息をついて3人へと近付き、そして。
『喧嘩両成敗』
「あだッ」
「いてッ」
太一くんとヤマトくんへそれぞれチョップをかます。丈は免除だ。一応止めに入ってくれた功労賞というやつである。
「3人とも、いい加減にしてよ!」
空ちゃんも呆れて言い放つ。腕を組みながら渇を入れるその姿はお母さんのようだ。
『喧嘩も話し合いも結構。でも時間は考えようね』
「今日のところはもう遅いし」
「そうそう。寝る時間だよ」
「続きは明日にしようよ」
デジモンたちも収束がついたことに一安心したようで、まずは寝ることを促した。
日も暮れて外はすでに暗くなり始めているから非常に危険である。今日はとにかく寝床に就いてしまった方が良い。
「他の皆も心配そうだし、ほら行きましょ!」
「はいおやすみー」
そう言いながら空ちゃんとデジモンたちで太一くんとヤマトくんの背中を押し、無理やり寝床へと連れて行った。
『君たちも戻ろう。体を休ませないとね』
「はーい」
ミミちゃん、タケルくん、光子郎も寝床へと促す。アグモン(黒)は彼らと共に戻らずわたしの元へと駆け寄ってきた。
『ん、どうした?』
「碧と一緒に寝る」
『ふふ。もちろんだよ。少し待ってて』
「分かった」
そう言って近くにいたゴマモンと話し始めたアグモン(黒)を見届けて丈と向き合う。
『丈。さっきは率先して彼らの喧嘩の仲裁へ入ってくれてありがとう。勇気ある行動だったよ』
「……別に、僕は何もできなかったさ」
『もー、何を不貞腐れてるんだか。少なくともあの場ですぐに行動を起こせた君を非難したりはしないよ』
じゃあ先に戻るね、と言い丈に背中を向ける。
『アグモン。わたしたちも寝ようか』
「うん!」
隠しもせずに欠伸をすると、眠そうだね、とアグモン(黒)が小さく笑った。
1人皆の輪から離れていった彼を追いかけてみると、沸騰した温泉の近くで蹲っていた。
その背中はどこか物寂しい。
「僕は……僕はしっかりしてる」
小石を温泉に投げなら、まるで自己暗示を掛けているかのように呟いている。わたしは後ろから近付いて丈へ声を掛ける。
『君はしっかりしすぎなんだと思うよ』
「碧くん!」
驚いたように振り返った丈の顔が面白くて、隠しもせずに笑いながら彼の隣に腰を下ろす。
近くの小石を手の中で弄びながら彼と同じように温泉へ石を投げた。
『わたしがこんなだから、丈にはかなり負担をかけていると思うんだ』
「…まあ。否定はしないさ」
『素直でよろしい。…でも、これでもわたしだって最年長なんだよ。そういう難しいことは分け合うべきじゃない?』
責任とかそんな曖昧なものは1人で負うべきではない。どうも彼は自分だけで何とかしてしまおうとする癖があるようだった。
「そうは言ったって、君は女の子だし…」
『関係ない。今はクラスメイトではなく、この世界を旅する仲間だよ。…それとも、わたしでは力不足だったかな?』
「そういうのじゃないけど」
どこか腑に落ちてない表情。
その原因もなんとなく予想はついているが、彼はどこまでも深く考えてしまう性格のようだ。
『……行動指針で舵を握っているのは5年生のあの子たちなのは言うまでもなく感じているよね』
「ああ、もちろんだよ」
『ならわたしたちは、後ろから支えてやろうよ』
「後ろから支える…?」
『そう。自分より年上の人間が後ろに控えてるって、相当安心すると思う。何かあればわたしたちが前に出て、それ以外は一歩引いて周りを見る。今はそれが最善だと思うの』
丈はきっと自分がどんな立ち位置でいれば良いのか迷っているのだ。本来であれば指揮を執るのは年長者の役目。とはいえ今は太一くんたち5年生組が自然な形で物事を決めている。
それに丈は今まで人の先頭に立つということをしたことがないから、余計に不安なのだろう。
『これから先はより危険なことが起きるかもしれない。そんな時はわたしたちが前に出れば良い』
「……そうか。そうだな」
そう言って丈は立ち上がった。
「適材適所ってやつだね」
『おお、それそれ』
「君は文系なんじゃなかったかい?」
『はっはっは、1本取られた』
それからお互いに小さく笑う。丈がいつもの調子を取り戻してくれたようで良かった。
『まあなんだ。いきなり気持ちを切り替えろ、なんて土台無理な話だからね。自分のできることをやったら良いんだよ』
「自分のできること…」
わたしは立ち上がって丈に背を向ける。
あんまり戻るのが遅いからと余計な心配をかけさせる訳には行かなかった。
『ほら。行くよ、丈』
「ああ!待ちなよ碧くん!」
皆のところへ戻るが何やら随分と騒々しい。見れば、太一くんとヤマトくんが言い合いをしていた。
「何度も同じことを言わせるなよな!」
「駄目だ、危険過ぎる!」
「考えてたってしょうがないだろう!?」
「俺は、少しは考えろって言ってんだよ!」
「じゃ何か?俺は何も考えてないってか?」
「その通りだけど」
「なにおぅ!?」
これはまた激しい言い争いだ。
「……おい、どうしたんだよ。何揉めてんだよあの2人」
喧嘩を心配そうに見守っていた子たちに丈が尋ねると、一同に溜息をこぼした。
デジモンたちもお手上げ状態らしい。
「ムゲンマウンテンに行くか行かないかで揉めてるんです」
光子郎が山を指差しながら答えた。
「ムゲンマウンテン?」
「あの大きな山のことや!」
見ると、確かに一際大きな山がそびえ立っている。
「太一は、あそこに行けば全体が見渡せるって」
「確かに、あのくらい高い山なら全体を見渡せる」
空ちゃんの言葉に丈は頷いた。
「でもヤマトは危険だからって反対してるのよ」
「あの山には凶暴なデジモンがたくさんいるのよ」
「うーん、なるほど。それは危険だ」
空ちゃんの言葉に続けてピヨモンが補足すると、丈も納得する。双方の意見はもっともであるが故に対立してしまうようだ。ただどちらも感情に身を任せていて冷静に欠いている。
「そんな逃げ腰じゃ埒があかないだろう!」
「お前の無鉄砲に付き合わせて、皆を危険に晒すつもりかよ」
「なんだと!?」
「待ってくれよ2人とも!まずは落ち着いて話し合おう。喧嘩しないでさ」
見るに耐えなくなったであろう丈が2人の喧嘩へ仲裁に入った。他の子どもたちは不安そうにその様子を見守っている。
「で、丈はどう思う?」
「え?」
「どっちに賛成なんだよ?」
「うーん。太一の言っている事は正しいよ。あれに登ればこれからの指針にはなると思うよ」
「ほらみろ」
迷いつつ丈が答えると太一くんは勝ち誇ったような顔をヤマトくんへ向ける。
が、丈はすぐにそれだけではないと口を開いた。
「だけど、ヤマトの言う事ももっともだ。皆を危険に晒してまであの山に登る意味があるのかっていうと……」
うだうだと悩んでいる丈に太一くんとヤマトくんが肩を落とす。するとまたもや言い争いが勃発してしまった。
「ともかく、行けるとこまで行こうぜ!」
「だから、違うって言ってるだろ!」
「待てよ!今考えてるんだから、ちょっと待てって、落ち着けよ!」
「熱くなってるのは丈の方だろう!」
「何だよ!?僕は君たちを…」
「だーから、行けば良いんだよ!」
「なんでそうなるんだ!」
「聞けよ!俺の話も!」
ついには丈までもが怒鳴り声を上げた。彼が俺というのは珍しいが、このままでは本当に埒が明かない。
溜息をついて3人へと近付き、そして。
『喧嘩両成敗』
「あだッ」
「いてッ」
太一くんとヤマトくんへそれぞれチョップをかます。丈は免除だ。一応止めに入ってくれた功労賞というやつである。
「3人とも、いい加減にしてよ!」
空ちゃんも呆れて言い放つ。腕を組みながら渇を入れるその姿はお母さんのようだ。
『喧嘩も話し合いも結構。でも時間は考えようね』
「今日のところはもう遅いし」
「そうそう。寝る時間だよ」
「続きは明日にしようよ」
デジモンたちも収束がついたことに一安心したようで、まずは寝ることを促した。
日も暮れて外はすでに暗くなり始めているから非常に危険である。今日はとにかく寝床に就いてしまった方が良い。
「他の皆も心配そうだし、ほら行きましょ!」
「はいおやすみー」
そう言いながら空ちゃんとデジモンたちで太一くんとヤマトくんの背中を押し、無理やり寝床へと連れて行った。
『君たちも戻ろう。体を休ませないとね』
「はーい」
ミミちゃん、タケルくん、光子郎も寝床へと促す。アグモン(黒)は彼らと共に戻らずわたしの元へと駆け寄ってきた。
『ん、どうした?』
「碧と一緒に寝る」
『ふふ。もちろんだよ。少し待ってて』
「分かった」
そう言って近くにいたゴマモンと話し始めたアグモン(黒)を見届けて丈と向き合う。
『丈。さっきは率先して彼らの喧嘩の仲裁へ入ってくれてありがとう。勇気ある行動だったよ』
「……別に、僕は何もできなかったさ」
『もー、何を不貞腐れてるんだか。少なくともあの場ですぐに行動を起こせた君を非難したりはしないよ』
じゃあ先に戻るね、と言い丈に背中を向ける。
『アグモン。わたしたちも寝ようか』
「うん!」
隠しもせずに欠伸をすると、眠そうだね、とアグモン(黒)が小さく笑った。