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咆哮!イッカクモン

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名字固定【篠崎】
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 これから夕飯の支度をするということで、わたしとアグモン(黒)は湖で野宿をした時と同様に薪拾いをしていた。

「ねえ、
『ん?』
「丈って何だか気難しいよ」

 そう言って薪を拾う彼の顔はどこか険しい。

『どうしてそう思うの?』
「だって皆の言うことに反対してばかりだ」
『ふむ。なるほど』

 アグモン(黒)は話し合いなどは穏便に済ませたいタイプなのだろう。まあ誰もがそうだと思うけれど、彼の場合は満場一致でスムーズに事を運びたいということか。
 それは悪いことではないが、それで丈の株が下がっていくのは少し悲しい気がする。

『丈はね、ただ反対したいからああいう態度を取っているわけではないんだよ』
「そうなの?」
『ふふ。彼もそこまで捻くれてないさ』

 仮にそうだとしたらとんだ問題児だ。

『わたしもだけど、彼には一番年上っていう責任がある。自分よりも年下の子どもたちを出来るだけ危険に晒さないように考えているんだよ』
「つまり?」

 アグモン(黒)は首を傾げて先を促す。

『……君たちのように、皆を守ろうとしているんだ』

 そう言った途端、アグモン(黒)の顔はパアッと輝いた。そうだろう、丈は格好良いだろう。

「丈は、や皆のために…?」
『そう。だから邪険にしないであげてほしい』
「分かった」

 素直に頷くアグモンに笑みが零れる。
 こうやって何でもない様に受け入れることが出来るのが彼の良い所だと思う。

「そろそろ薪も集まったし戻る~?」
『そうだね』

 薪を持って戻ると既に卵料理が並んでいた。
 他の子たちは席に着いていて、どうやらわたしたちが戻ってくるのを待っていたようだ。

『ごめん。待たせたね』
「そんだけ薪が集まっていりゃ大丈夫だな!ほら、も早く席に着けよ!」
『ありがとう』

 太一くんが隣の空いている席をぽんぽんと叩いた。そこへアグモン(黒)と一緒に着席をして佇まいを整える。

「いただきまーす!」
『いただきます』
「……いただきます」

 丈の顔はどこか浮かない。
 色々と不安なんだろうけど、今はまずご飯を食べてもらわなければいけない。
 腹が減っては戦はできぬってね。

「うん、うまい!こんなまともな飯って久しぶりだよー!」
「これで白いご飯でもあれば言うことなしだな」
「ほかほかご飯にゆで卵!」
「うーん、良いわねー!」

 子どもたちの会話を耳に挟みながら、ゆで卵の殻を剥いてアグモン(黒)へと渡す。

『はい、これを君にあげよう』
「わーい!ありがとう!」
『……美味しい?』
「とっても!」
『それなら良かった』

 むしゃむしゃ、という表現がぴったりな感じで美味しそうに食べるアグモン(黒)に擁護欲が湧かざるを得ない。
 何個かゆで卵を剥いて彼の皿に乗せてあげる。

「なんだ丈。食べないのか?」

 ゴマモンの声に丈の皿を見ると、目玉焼きにもゆで卵にも手を出していなかった。
 丈が卵嫌いというのは記憶にないけれど、どうしたのだろうか。やはり色々と考え事をしているのかもしれない。

「ああ。うちに帰れば、こんな苦労しなくて良いんだなと思ってさ」

 丈の放ったその一言でこの場の空気が重くなる。

「……あたし、お家に帰りたい」
「みんな、どうしてるかな」
「あれからもう4日も経っているんですよね」

 ミミちゃんを皮切りにタケルくんと光子郎も呟いた。ネガティブモードに入ってしまったかと思われたが、次の空ちゃんの言葉に空気が変わった。

「ねえ皆。目玉焼きには何かけて食べる?」

 沈黙を破ってくれた空ちゃんの度胸に拍手したい。

「目玉焼きには塩コショウって決まってるじゃないか」
「俺、醤油」
『わたしも』
「マヨネーズ」
「あたしはソース」

 丈に続いて太一くん、わたし、ヤマトくん、空ちゃんが答えていく。こうして聞いていると皆の好みがバラバラなので面白いと思う。

「僕はポン酢を少々」

 一瞬の沈黙。

「へ、へへへへ…」
「ポン酢ねえ…」
「気持ち悪ーい」

 3人で並んでいた太一くんとヤマトくん、果てにはタケルくんにまでドン引きされてしまっている。
 ポン酢は案外美味しいけれど少数派なのかもしれない。

「えー!皆変よ!やっぱり目玉焼きって言えばお砂糖よね。あたしその上に納豆乗っけたのも大好き!」
『わあ…』

 ダークホースな回答に今度こそ満場一致でドン引きだった。想の斜め上を行き過ぎている。それは調味料というよりトッピングではないだろうか。

「納豆!?」
「それ変過ぎだよー!」

 タケルくんは思わず口元を押さえ、太一くんとヤマトくんは引き攣ったような笑い声を上げていた。
 仮に納豆はありだとしても砂糖は…どうなのだろう。いや、納豆も無し寄りの無しだ。

『ミミちゃんはやっぱり大物だよね』
「えへへ、そう?」
「それ多分褒めてないわよ…」

 小さく言ったつもりだろうけど聞こえているよ空ちゃん。

「ええ!?皆は目玉焼きにそんな変なものをかけるのか。…ショックだ、日本文化の崩壊だあ!」
「何を訳分かんないこと言ってんだよ」
『丈よ。深く考えすぎではなかろうか』

 日本文化の崩壊とまで言われてしまうと逆に申し訳なくなってくる。ゴマモンも呆れた表情をしているんだぞ、気付いてやってくれ。


「おい、丈?」
「そこまで悩むか、普通?ま、納豆は悩むかもしれないけどな」

 ヤマトくんと太一くんも心配している。
 確かに納豆は悩んでしまう。初めて聞いたよ。

「だって、目玉焼きには塩コショウだもの。ソースでもマヨネーズでもなく、塩とコショウ!」

 丈は譲ろうとせず頑なに言い放った。

「やれやれ。丈は融通が利かないな」
「何だと!?」
「だってそうだろう? どうでもいいことで悩むし」
「僕のどこが融通が利かないんだよ!」
「ほら、すぐムキになる」
「あーあ、始まった」

 丈とゴマモンの言い合いは勢いを増していき、せっかくの食事の席がはちゃめちゃだ。
 ピヨモンも頭を抑えている。

「おい丈。落ち着けよ!」
「うるさいッ」

 立ち上がった丈を宥めようとヤマトくんが入るが、そんな彼の手を丈は振り払った。

「僕は落ち着いているよ!いつだってね…!」
「今日はどうかしてるぞ。疲れてるんじゃ?」

 興奮気味の丈を気遣うようにヤマトくんは言葉をかけるが、どうやら丈には届いていないようだ。
 ぎゅっと何かを堪えるような表情を浮かべていて、それが何だか悲しい気持ちにさせられる。

「疲れてなんかないよ!どうかしてるのは、皆の方だ!」

 そう言って丈はこの場を離れていく。

『…丈』

 わたしの声は焚き火の音に掻き消されていった。
 

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