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パルモン怒りの進化!

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名字固定【篠崎】
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「遠いふるさと思い出すー」
「はい。デジモンチーム思い出すーのす!」

 工場からの地下水道を歩きながら、わたしたちは人間チームとデジモンチームでしりとりをしながら歌を歌っていた。
 太一くんがデジモンチームへ振る。

「すっぱいなーすっぱいなーは成功のもとじゃないない!」

 デジモンたちが歌っているが、歌詞の意味が全く分からなくて思わず笑みが零れる。
 彼らの間では有名な歌なのだろうか。

「はい子どもチーム。ないないなーいのい!」
「いー?」

 デジモンチームからの振りに子どもたちは困っているようだった。『い』から始まる歌というのもなかなか聴かないから無理もないか。わたしも歌に興味をもったことがないから何も思いつかない。

「いけないーひとー」

 そんな中ミミちゃんがこぶしを効かせて歌う。
 演歌だよね、随分と渋いなあ。

「なに?それ」
「よくお父さんがカラオケしていた演歌!」
「そんな歌知らない」

 お父さん世代なら分からなくても仕方ないね。わたしも分からなかった。

「いまはーなにもー」

 隣を歩いていた光子郎が歌い出す。珍しいな、人と慣れ合うことが苦手な彼が自分からこういうことをするの。内気な少年だった光子郎の成長を感じて心の中で彼に拍手を送っておいた。

「ああ!それなら知ってる!」
「俺も!」

 光子郎に続いて皆が歌い出すが、突如聞こえた空ちゃんの悲鳴で中断された。

「大丈夫か?」
「どうしたんだ?」
「水が落ちてきたの…」

 そう話す空ちゃんの服にまた一滴水が落ちる。あぁ、地下水道の水で服が汚れるのは嫌だろうなあ。年頃の女の子は特に敏感だろうし。

「汚れましたよ?」
「えっ?ああ…」

 光子郎が汚れた部分を指して指摘する。

「洗濯したい…」

 ぽつり、と。消え入りそうな声で呟いた。その表情は今にも泣きそうで、今まで強がってはいたが彼女もまだ小学5年生なんだと思い知らされる。

『空ちゃん。今はこれで我慢してね』

 ハンカチを取り出して汚れた部分に宛がう。少しでもこのハンカチが汚れを吸収してくれたら良いのだけれど。洗濯できる環境のある街に出ることができれば良いのになあ。

さん。ありがとう」
『どういたしまして』

 使ったハンカチを綺麗に畳んで鞄へしまう。
 川で洗って乾かせばまた使えるだろう。

「俺だって風呂に入ってのんびりと…」

 太一くんも上を仰ぎ見ながら呟いた。

「僕は…」

 タケルくんはその場にしゃがみ込み、手の中で何かをいじる動作をしていた。
 もしかしなくても、ゲームのコントローラーを握っているのだろうか。

「タケルお前なあ。こんな時にテレビゲームはないだろ?あはははははっ」

 ヤマトくんがタケルくんの動作に笑い声をあげる。やはりゲームで合っていたようだ。
 最初は指摘して笑っていたヤマトくんも、次第に笑うのを止めて真剣な表情になる。

「俺も、タケルのこと笑えない」

 続けて口を開く。

「今、俺のしたいことは…。ジュージュー焼ける焼肉、腹一杯食いたい!」

 想像しているのか、そう話すヤマトくんの顔は輝いていた。

「誰も笑えないさ。僕は勉強。宿題山ほどやりたい!」

 眼鏡を上げて丈が言う。相変わらずだなあ。

「変わってるわね。あたしは、冷たいコーラが飲みたい!」

 ミミちゃんがコーラを飲む動作をする。
 それに反応したのはタケルくんだった。

「ミミさん、それいい!僕も!」
「でしょ?」

 わたしは炭酸が苦手だからあまり飲めないけれど、でも確かに冷たい飲み物は良いね。
 今の時期は暑いから余計に欲しくなる。

「僕は、インターネットで友達にメールを送りたい!」

 この期に及んでもまだパソコンである辺り、相変わらずというか彼らしいというか。
 思わず苦い笑いが零れる。

「むっ。さんは何がしたいんですか?」
『わたしー?』

 目敏く見逃さなかった光子郎が膨れっ面でわたしに問いかける。
 うーん、わたしのやりたい事かあ。

『……楽しければ何だって良いかな』
「はいはい。言うと思いました」
「また漠然としてんなー」

 光子郎と太一くんに呆れられたが、特に指定してまでやりたい事はない。
 今は夏休みなのだから、楽しんだもの勝ちというものじゃないだろうか。けれど見込みのない現実を受け止めてしまっている彼らは落ち込んだように肩を落とした。

「皆疲れてるんだ…」
「可哀想」

 反対側の道にいたガブモンとゴマモンの呟きが聞こえる。ここは自分たちの住んでいる世界とは違うのである。疲れていたって仕方がないだろうさ。


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