名字固定【篠崎】
灼熱!バードラモン!
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日が暮れ始める頃には山頂で燃え広がっていた炎も無事に鎮まりあまり大きな被害が出ることなく収拾がついた。干上がっていた水源もこれから徐々に元に戻るらしく、また今までのように美味しい水が飲めるようになるとのことだ。
『太一くんも光子郎も本当に怪我はないんだね?』
「おうよ!」
「はい、大丈夫ですよ」
先程の戦いの時に前線にいた2人に声を掛けるとどちらも何事もないようで元気な返事をしてくれる。しかし光子郎はともかく、太一くんはいつも無茶ばかりで見ていて危なっかしい。怪我がないのだって本当に運が良かっただけなのだ。取り敢えず彼らに怪我がないと分かってホッと胸を撫で下ろして振り返ると、ちょうどメラモンが意識を取り戻したようだった。
「メラモン、めがさめた?」
まだ意識が曖昧なのか頭を押さえながら起き上がるメラモンをピョコモンたちが心配した様子で囲っている。そんな彼らを安心させようと頭を撫でていくその姿は先程と打って変わって比較的穏やかな性格だった。
「どうして…?」
「よかった、メラモンめがさめた!」
「どうしてあばれた?メラモンなにがあった?」
「空から歯車が落ちてきて。……それから」
「メラモンにもわからない?」
「メラモン!またもとのようにみはらし山まもって!」
どんどん畳みかけていく彼らにとって如何にメラモンが大切なのかが見ていてよく分かる。歯車のせいで凶暴化したのかはまだ分からないけれど、警戒するに越したことはないだろう。ピョコモンたちを愛おしそうに目を細めて見つめる優しき彼があの変貌を遂げたのだから。
「もう悪いデジモンに戻んなよー!」
これからもこの村やピョコモンたちを守ってくれますように。そんな祈りを込めてメラモンを皆で見送り、その姿が見えなくなったところで誰かのお腹の虫が鳴った。緊張感が一気に解けて空ちゃんに抱えられていたピヨモンがあっと思い出したように声を上げる。
「そうだ!ピョコモンたちにご飯ご馳走してもらう約束!」
「僕、お腹ぺこぺこ…」
「任せとけーっ!」
タケルくんがお腹に手を当てながら呟くと、ピョコモンたちが声を揃えて張り切っていた。
『アグモン』
「「なあに?」」
『あぁ、黒い方』
自分のパートナーを呼び出したつもりだったが同じ名前をもつ太一くんのアグモンも同時に反応して返事をくれた。それが何だか面白くて気の抜けたような笑いを浮かべつつパートナーを手招きして近くに呼び寄せる。首を傾げながら来てくれた彼に目線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。
「どうした、碧?」
『ちょっと休みたいな。膝に乗ってくれるかい?』
「任せて!」
もう炎が噴き出す心配のない井戸に背中を預け、両足を伸ばして座り込む。そして膝の上をぽんぽんと軽く叩いてアグモン(黒)に前を向くよう座らせその肩に顔を埋める。重すぎないこの体が心地良くてわたしは密かに癒しを貰っていた。
「疲れた?」
『少しね。肩も休ませようかなって』
「分かった。ご馳走が用意されるまで寝る?」
『いや、起きてる。話し相手になってほしいな』
「もちろんだよ」
わたしの我儘にもアグモン(黒)は嫌な顔一つせずに気遣ってくれる。それに甘え過ぎればいつか自分がとてつもない傲慢な人間になってしまうのではないかと思いつつも今はただただ彼を傍に感じたかった。
膝に乗る彼の体温を逃がさないようにゆっくり抱き締める。この態勢だとその気がなくても眠くなってしまうのは彼に寄り添うことによる安心感からくるものなのかもしれない。夢の世界へ旅立とうとふわふわになりかけている思考を現実に頑張って繋ぎ止める。
『……アグモンはさ。初めて会った時、どうしてわたしが碧って分かったの』
ふと、以前から気になっていることを聞いてみた。
「さあ。ただ直感的に君が碧なんだって思ったよ。オレがずっと待っていた碧だ、って」
『そう。待ちくたびれた?』
「正直に言えばそうかもなぁ。だって何度も同じ季節を見てきたらね。……でも、今はそんなことどうでもいいよ」
昔の記憶を思い出しているのだろうか。懐かしむ君はそれでも前を向いて言葉を続ける。
「待っていた時間も悪くなかった。共に過ごす仲間もいたし、何より碧は必ず来てくれるって信じていたから何も苦しくなかったよ」
ああ、彼は嬉しいことを言ってくれる。どこまでも綺麗で純粋な心を持っていて言葉に乗せているものは全てが本心だった。わたしなんかよりもずっとずっと前を向いている彼が隣に立って歩んでくれると告白してくれたのだ。ならば応えなければいけない。時間は掛かっても彼の想いにはわたし自身の想いで返さなければいけないだろう。
『ねえ、アグモン』
「なあに?」
そうだ、わたしもきっと彼のような存在を探していた。
『……わたし、ちゃんと来たよ』
「っ!」
途端、急にアグモン(黒)が振り返って抱き締めてくる。突然のことに吃驚したけれど、彼からも抱き締めてくれているという温かな事実に心が満たされていくのがすぐに理解できた。
わたしも抱き締め返してポンポンと背中を優しく叩く。
『……君は可愛いなあ』
「オレは今、至極幸せにございますよ」
『えー。そんな渋い言葉どこで覚えたの?』
「むふふ」
ぷっ、とお互いに顔を見て笑い合う。この時間がどうしようもなく幸せでずっと続けば良いのに、なんて思う。でもそうならないことはわたしが一番知っているではないか。幸せだなんて結局望めば望むほど手の届かないところへ行ってしまうのである。
そうして暗い沼へ沈んでいこうとする思考から引っ張り出してくれたのは丁度よいタイミングでやってきた空ちゃんだった。
「碧先輩、ピョコモンたちがご馳走を用意してくれたみたいよ」
『……空ちゃん。うん、わざわざ呼びに来てくれてありがとうね』
じゃあ行こうか。そうしてアグモン(黒)と空ちゃんに促して歩き出すとクイッと裾を引っ張られた。どうしたのかと振り返ると、空ちゃんが何か言いたそうな顔をして俯いていた。先程のこともあってわたしと話すのは気まずいのかもしれない。
『アグモン、先に行っててほしいな』
「分かった」
2人きりのほうが話しやすいのでは、というお節介でアグモン(黒)を先に皆の元へ行かせる。彼が見えなくなったところで空ちゃんも裾から手を放して口を開いた。視線は未だ逸らされているけれど。
「さっきは、ありがとうございました」
『……ん?』
文句の一つでも言われるのではと思っていた言葉は予想外にもお礼のものだった。心当たりが全くなく戸惑っているわたしにお構いなく彼女は言葉を続ける。
「メラモンと戦っている時、あたしだけ諦めていたから。碧先輩が呼びかけてくれて気付いたの」
『……何を?』
「ピヨモンには仲間だから助けたって言ったけど、それは口先ばかりだった。ピヨモンからの信頼にあたしは何にも応えていなかったんだなって」
『そう』
先程行われたメラモンとの戦いを思い浮かべているのだろう。右手を胸に当てて睫毛を伏せる彼女の表情は穏やかで、後ろから夕陽に照らされていてどこか神々しさすら感じる。空ちゃんは凄いなあ。わたしの言葉がきっかけとはいえ、すぐにそれに気付くなんて並大抵の人はきっとできない。ひとえにそれは彼女自身が気付いていないだけで、その本心はピヨモンへ信頼を向けていたということなのだろう。でなければ、ピヨモンはあの状況で進化していなかったはずだ。
「だからお礼にきたんです!碧先輩の言葉は心に響いたから。ピヨモンにもっと寄り添えた気がするから!」
『……空ちゃんは良い子だなあ』
「え、ええ!?」
驚いたその顔は少し赤く染まっていて年相応らしさを感じる。
『考えることは沢山あるだろうに、こうして一つ一つと向き合っている。それって、なかなかできることじゃない』
「そんな大袈裟な…」
『自信をもって。今の空ちゃん、最高に格好良いよ』
ぶわっと空ちゃんの顔がより真っ赤になってしまう。それはまるで夕暮れ時を現しているようで、それが今は何よりも綺麗で面白くて思わず小さく笑った。
「か、からかわないで下さいよっ!」
『えー。からかってないんだけどなあ』
「ほ、ほら!早く皆のところに行きますよ!」
『はーい』
離れていると思っていた空ちゃんとの距離は、確かに縮まっていた。
『太一くんも光子郎も本当に怪我はないんだね?』
「おうよ!」
「はい、大丈夫ですよ」
先程の戦いの時に前線にいた2人に声を掛けるとどちらも何事もないようで元気な返事をしてくれる。しかし光子郎はともかく、太一くんはいつも無茶ばかりで見ていて危なっかしい。怪我がないのだって本当に運が良かっただけなのだ。取り敢えず彼らに怪我がないと分かってホッと胸を撫で下ろして振り返ると、ちょうどメラモンが意識を取り戻したようだった。
「メラモン、めがさめた?」
まだ意識が曖昧なのか頭を押さえながら起き上がるメラモンをピョコモンたちが心配した様子で囲っている。そんな彼らを安心させようと頭を撫でていくその姿は先程と打って変わって比較的穏やかな性格だった。
「どうして…?」
「よかった、メラモンめがさめた!」
「どうしてあばれた?メラモンなにがあった?」
「空から歯車が落ちてきて。……それから」
「メラモンにもわからない?」
「メラモン!またもとのようにみはらし山まもって!」
どんどん畳みかけていく彼らにとって如何にメラモンが大切なのかが見ていてよく分かる。歯車のせいで凶暴化したのかはまだ分からないけれど、警戒するに越したことはないだろう。ピョコモンたちを愛おしそうに目を細めて見つめる優しき彼があの変貌を遂げたのだから。
「もう悪いデジモンに戻んなよー!」
これからもこの村やピョコモンたちを守ってくれますように。そんな祈りを込めてメラモンを皆で見送り、その姿が見えなくなったところで誰かのお腹の虫が鳴った。緊張感が一気に解けて空ちゃんに抱えられていたピヨモンがあっと思い出したように声を上げる。
「そうだ!ピョコモンたちにご飯ご馳走してもらう約束!」
「僕、お腹ぺこぺこ…」
「任せとけーっ!」
タケルくんがお腹に手を当てながら呟くと、ピョコモンたちが声を揃えて張り切っていた。
『アグモン』
「「なあに?」」
『あぁ、黒い方』
自分のパートナーを呼び出したつもりだったが同じ名前をもつ太一くんのアグモンも同時に反応して返事をくれた。それが何だか面白くて気の抜けたような笑いを浮かべつつパートナーを手招きして近くに呼び寄せる。首を傾げながら来てくれた彼に目線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。
「どうした、碧?」
『ちょっと休みたいな。膝に乗ってくれるかい?』
「任せて!」
もう炎が噴き出す心配のない井戸に背中を預け、両足を伸ばして座り込む。そして膝の上をぽんぽんと軽く叩いてアグモン(黒)に前を向くよう座らせその肩に顔を埋める。重すぎないこの体が心地良くてわたしは密かに癒しを貰っていた。
「疲れた?」
『少しね。肩も休ませようかなって』
「分かった。ご馳走が用意されるまで寝る?」
『いや、起きてる。話し相手になってほしいな』
「もちろんだよ」
わたしの我儘にもアグモン(黒)は嫌な顔一つせずに気遣ってくれる。それに甘え過ぎればいつか自分がとてつもない傲慢な人間になってしまうのではないかと思いつつも今はただただ彼を傍に感じたかった。
膝に乗る彼の体温を逃がさないようにゆっくり抱き締める。この態勢だとその気がなくても眠くなってしまうのは彼に寄り添うことによる安心感からくるものなのかもしれない。夢の世界へ旅立とうとふわふわになりかけている思考を現実に頑張って繋ぎ止める。
『……アグモンはさ。初めて会った時、どうしてわたしが碧って分かったの』
ふと、以前から気になっていることを聞いてみた。
「さあ。ただ直感的に君が碧なんだって思ったよ。オレがずっと待っていた碧だ、って」
『そう。待ちくたびれた?』
「正直に言えばそうかもなぁ。だって何度も同じ季節を見てきたらね。……でも、今はそんなことどうでもいいよ」
昔の記憶を思い出しているのだろうか。懐かしむ君はそれでも前を向いて言葉を続ける。
「待っていた時間も悪くなかった。共に過ごす仲間もいたし、何より碧は必ず来てくれるって信じていたから何も苦しくなかったよ」
ああ、彼は嬉しいことを言ってくれる。どこまでも綺麗で純粋な心を持っていて言葉に乗せているものは全てが本心だった。わたしなんかよりもずっとずっと前を向いている彼が隣に立って歩んでくれると告白してくれたのだ。ならば応えなければいけない。時間は掛かっても彼の想いにはわたし自身の想いで返さなければいけないだろう。
『ねえ、アグモン』
「なあに?」
そうだ、わたしもきっと彼のような存在を探していた。
『……わたし、ちゃんと来たよ』
「っ!」
途端、急にアグモン(黒)が振り返って抱き締めてくる。突然のことに吃驚したけれど、彼からも抱き締めてくれているという温かな事実に心が満たされていくのがすぐに理解できた。
わたしも抱き締め返してポンポンと背中を優しく叩く。
『……君は可愛いなあ』
「オレは今、至極幸せにございますよ」
『えー。そんな渋い言葉どこで覚えたの?』
「むふふ」
ぷっ、とお互いに顔を見て笑い合う。この時間がどうしようもなく幸せでずっと続けば良いのに、なんて思う。でもそうならないことはわたしが一番知っているではないか。幸せだなんて結局望めば望むほど手の届かないところへ行ってしまうのである。
そうして暗い沼へ沈んでいこうとする思考から引っ張り出してくれたのは丁度よいタイミングでやってきた空ちゃんだった。
「碧先輩、ピョコモンたちがご馳走を用意してくれたみたいよ」
『……空ちゃん。うん、わざわざ呼びに来てくれてありがとうね』
じゃあ行こうか。そうしてアグモン(黒)と空ちゃんに促して歩き出すとクイッと裾を引っ張られた。どうしたのかと振り返ると、空ちゃんが何か言いたそうな顔をして俯いていた。先程のこともあってわたしと話すのは気まずいのかもしれない。
『アグモン、先に行っててほしいな』
「分かった」
2人きりのほうが話しやすいのでは、というお節介でアグモン(黒)を先に皆の元へ行かせる。彼が見えなくなったところで空ちゃんも裾から手を放して口を開いた。視線は未だ逸らされているけれど。
「さっきは、ありがとうございました」
『……ん?』
文句の一つでも言われるのではと思っていた言葉は予想外にもお礼のものだった。心当たりが全くなく戸惑っているわたしにお構いなく彼女は言葉を続ける。
「メラモンと戦っている時、あたしだけ諦めていたから。碧先輩が呼びかけてくれて気付いたの」
『……何を?』
「ピヨモンには仲間だから助けたって言ったけど、それは口先ばかりだった。ピヨモンからの信頼にあたしは何にも応えていなかったんだなって」
『そう』
先程行われたメラモンとの戦いを思い浮かべているのだろう。右手を胸に当てて睫毛を伏せる彼女の表情は穏やかで、後ろから夕陽に照らされていてどこか神々しさすら感じる。空ちゃんは凄いなあ。わたしの言葉がきっかけとはいえ、すぐにそれに気付くなんて並大抵の人はきっとできない。ひとえにそれは彼女自身が気付いていないだけで、その本心はピヨモンへ信頼を向けていたということなのだろう。でなければ、ピヨモンはあの状況で進化していなかったはずだ。
「だからお礼にきたんです!碧先輩の言葉は心に響いたから。ピヨモンにもっと寄り添えた気がするから!」
『……空ちゃんは良い子だなあ』
「え、ええ!?」
驚いたその顔は少し赤く染まっていて年相応らしさを感じる。
『考えることは沢山あるだろうに、こうして一つ一つと向き合っている。それって、なかなかできることじゃない』
「そんな大袈裟な…」
『自信をもって。今の空ちゃん、最高に格好良いよ』
ぶわっと空ちゃんの顔がより真っ赤になってしまう。それはまるで夕暮れ時を現しているようで、それが今は何よりも綺麗で面白くて思わず小さく笑った。
「か、からかわないで下さいよっ!」
『えー。からかってないんだけどなあ』
「ほ、ほら!早く皆のところに行きますよ!」
『はーい』
離れていると思っていた空ちゃんとの距離は、確かに縮まっていた。