名字固定【篠崎】
蒼き狼!ガルルモン!
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シードラモンによって湖の中央へと引っ張られた島はゴマモンが呼び寄せた魚たちのおかげで元の位置へ戻ることができた。先の戦闘による精神的疲労、睡眠不足による肉体的疲労が溜まっている子どもたちは歩くのさえ億劫そうだ。ふらふらになりながらもお互いを支えつつ陸地へと移動している。
目の前を歩くゴマモンに島をもとの位置に戻してくれたお礼を言おうと声を掛けた。
『ゴマモン。お疲れ様、ありがとうね』
「へへーっ!どういたしまして!」
礼を言われたことがそんなに嬉しかったのだろうか。ニカッと彼らしい全力の笑顔を返される。溜まっていた疲労が浄化されていくような気がした。それくらいゴマモンの笑顔には元気付けられるし癒しを与えてくれる効果があると思う。
可愛いなあ、なんてぼんやりとゴマモンを撫でているとわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「碧ー!」
『ガブモン。お疲れ様、格好良かったよ』
声がした方を振り返ると、ガブモンが手を振って駆け寄ってきた。今回のMVPは美しい蒼い狼であるガルルモンへと進化してシードラモンと戦ってくれたガブモンである。労いと賛辞の言葉を投げ掛けるとえへへ、と頬をほんのり赤く染めながら後頭部を掻いて照れているらしい行動を取った。
たった2日しかまだ共に行動していないが、彼はどうやらツノモンの頃から照れ屋なようでよく仲間のデジモンにからかわれているのを見掛けている。
「碧、さっきはありがとう!」
『礼を言われることは何もしてないよ。それよりも本当にありがとう、ガブモン』
膝を屈んでガブモンに目線を合わせる。あの時彼が勇気を振り絞ってくれたからヤマトくんは助かった。だからお礼を言うのはむしろわたしたちの方であるべきなのだ。
その中でも特にわたしはお礼を言われる筋合いはない。自分勝手な判断で無責任にもガブモンを戦闘に行かせてしまったのだから。
それでも彼は気にしていないとでもいう風に言葉を続けた。
「オレ、本当に勝てないと思っていたんだ」
『うん』
「でもね、碧が質問してきてくれたでしょ?オレにとってヤマトはどんな存在かって」
『そうだったかな』
少し気恥しい気もするけれど、語ってくれるガブモンの表情が穏やかなのを見てどうでも良くなってしまう。あれはヤマトくんの存在を盾にしてガブモンの気持ちを後押ししたにすぎない最低な質問だった。それを武勇伝のように聞く資格などわたしにあるはずもないのだ。だがガブモンにとって、彼らデジモンにとってわたしたちはどのような存在であるのかを知りたいと思った。
ガブモンは目を伏せ両手を胸に当てて言う。
「パートナー、だよ」
『パートナー?』
「相棒でパートナー。隣に居なくてはいけない大切な存在ってことだよ!」
『大切な存在……パートナー』
彼の言ったそのワードはストンと違和感なくわたしの中に溶け込んでくる。ガブモンとヤマトくんは相棒、つまり共に前を見据えて歩むパートナーである。それ即ち一緒に成長していくもの、ということなのではないだろうか。一方的な気持ちであろうとそうでなかろうとガブモンはヤマトくんのパートナーだと自信をもっていたからこそ今回の進化を我が物にしたのだと思う。
「勝てる勝てないじゃなくて、体張ってでも助けなきゃって思えた。だからありがとう、碧!」
『……ううん。わたしではどうすることもできないからガブモンを無理矢理戦わせに行かせた。その事実は変わらないから礼は言わないでほしい。その気持ちだけでも十分嬉しいよ』
「でも…」
『ありがとう。ヤマトくんを助けてくれて、本当にありがとう』
わたししはきっかけを与えたにすぎない。考え、そして実行に移したのは他でもない彼自身なのである。あの時俯いていたガブモンは、もう胸を張って前を見ていけるはずだ。それが自分のことのように嬉しくて先程と同じようにガブモンの頭を撫でる。なんとも頼もしいヤマトくんのパートナー。
勇敢さを手に入れた目の前のデジモンは、きっとどんな壁をも乗り越えていくだろう。そしてその隣で共に成長していくのはどこまでも優しく冷静に周りを見て物事を判断することができるヤマトくん。彼らは良いコンビだと心の底から思った。
『……ふふ。さあ、皆の所へ戻ろう』
「うん!」
ガブモンと共に他の子どもたちがいるところへ戻ると、何やら座り込んで話し合いの場を設けているようだった。ガブモンはヤマトくんのところへ、わたしはアグモン(黒)のところへ行き今の状況を聞くことにした。
『何の話をしているの?』
「どうしてガブモンだけが進化できたのか、だって」
わたしがアグモン(黒)の隣に行って三角座りをすると彼は当たり前のようにわたしの両足の間に割り込んで座った。あまりの自然な動作に思わず小さく笑い、ついでに後ろから緩く抱き着いてあげると彼は一度こちらを見て嬉しそうに笑った。お気に召してくれたようで何よりである。お互いに静かに笑い合った後は再び子どもたちへと視線を戻す。
なるほど。昨日は太一くんのアグモンで今日はガブモンだけが進化した。それは尤もな疑問であるし、わたしも不思議に思っていたことである。アグモンに関してはご飯も食べてエネルギー補給は万全であったのにどうして進化できなかったのか。同じ条件だったはずのガブモンは進化することができたのに、である。
「あ!もしかすると、ヤマトくんがピンチだったから?」
「この前、アグモンが進化した時も俺が危機一髪の時だった」
空ちゃんの言葉に昨日の出来事を思い出しながら太一くんがそう呟いた。シェルモンの触手に太一くんは締め上けられ、アグモンは手で押しつぶされようとしていた時。確かにあの時太一くんはピンチだったし今回のように彼らの呼応が共鳴してアグモンは進化することができた。
「彼らが進化するのは、僕たちに大きな危機が迫った時ですか?」
「そうよきっと!」
子どもたちの会話を耳に流しながら考える。光子郎の着眼点は間違っていないと思うが果たして本当にそうなのだろうか。いや、それで良いのだろうか。
逆に言えば、わたしたちが危機に陥らならない限りデジモンたちは進化しないということである。それはデジモンたちにとって良いことなのだろうか。わたしの両足の間に座るアグモン(黒)の後頭部をぼんやりと見て考える。もし自分が彼と反対の立場だったのなら、彼が危険な状況に陥らない限り自分は進化することができないのなら、より強くなって彼を守るには彼自身が危険に追い込まれないといけないのなら。
わたしにはそんなの耐えられない、と暗くなる思考をすぐに止めた。
「……そんな方法でしか進化ができないならオレはいいや」
『アグモン?』
「オレは、碧を傷付けてまで進化したいとは思わないよ。…だって、守るべきパートナーだからね」
――パートナー、だよ
こちらに背を向けて呟くような言葉にどこか力強い決意のようなものを感じ、先程のガブモンが重なった。彼の口からその言葉を聞けたのが嬉しくて、それを分かち合いたくて自分の額を彼の後頭部へコツンとくっつける。
『わたしも、君にばかり無理させたくないなあ』
だって、パートナーだもんね。
そう言ってやるとアグモン(黒)が勢いよくこちらに体を反転させて抱き着いてきた。その笑顔は天下一品でわたしに癒しの効果を与えてくれる。
『可愛い奴め!』
そうしてワシャワシャと撫でてじゃれ合っていると、ミミちゃんが空ちゃんの方へ突然体を倒した。体調を崩してしまったのかと思いアグモン(黒)を撫でる手を止めるが、次に聞こえたミミちゃんの言葉にそんな心配は杞憂だったと知る。
「もうここで寝る」
それだけを言い残して地べたへ横になり眠り始めた。布団を欲しがっていた彼女は寝ずの晩を越えて一歩成長したらしい。衣服が汚れるのも構わずに眠るその姿は少しずつこの環境に適応してきたようにもみえる。
「たった一日ここで過ごしただけなのに、逞しくなったね」
空ちゃんはそんなミミちゃんを優しい目をして微笑んだ。年下であるミミちゃんの成長に彼女は母性のようなものを感じているのかもしれない。その高い包容力にわたしは気付かれないよう小さく笑った。
「そのうちボクみたいなガッチリした体になるね、きっと!」
「アタシみたいな翼も生えるかもね!」
「そんなの嫌ぁ…」
嬉々としたアグモンとパルモンの声にミミちゃんは寝言のように呟いた。夢の世界へ片足を突っ込んでいたにも関わらずきちんと否定するあたり、どうやら本当に嫌だったようだ。ここまでくると彼女の執念は意外と根強いのかもしれない。
完全に眠りへ堕ちた彼女を筆頭に、他の子どもたちも一人また一人とその場で寝ていく。シードラモンとの戦闘もあって休息を妨げられた子どもたちは電車の座席へ移動する気力もなかったようだ。今日は太陽が真上に昇るまでは皆で睡眠を貪るしかないな、とわたしはうつらうつらする思考の中でこの後のことを考える。
子どもたちの中で起きているのは太一くんのみとなった。
♪~♪♪~♪~
そんな中聞こえてきたのは、夜中に聞こえた綺麗なハーモニカの音色。あの時感じた悲しさは消えさり今はどこか力強ささえ感じる。
「ヤマトの奴か」
『そうみたいだね』
黙っていられないのか、足音を立てずに太一くんは離れたところにいるヤマトくんの元へ向かった。わたしも彼の後に続くと、ヤマトくんの両端にタケルくんとガブモンが寄り添うようにして眠っている光景が見られた。このハーモニカはきっと子守歌だ。その時のヤマトくんの心を宿す優しき子守歌。
一緒に木の陰から見ている太一くんの表情もどこか嬉しそうだ。彼があの光景を見て何を思ったのかは分からないが、少なくとも喧嘩するたびに感じていた嫌悪なものはないだろう。彼の知らないヤマトくんの一面を新たに見られたのかもしれない。
恐らく人間というのはこうして相手のことを知っていく生き物なのだと、この少ない時間の中で皆から教わることができた。
『さて、わたしたちも少し寝るかい?』
「ふぁあ。それもそうだな」
わたしの言葉に太一くんは欠伸を隠さず同調した。皆が眠っているところへ行くと、わたしと太一くんの帰りを待っていたアグモンズが駆け寄ってきてくれたので4人で寝ることにした。ふと、より気持ちよく寝られるようにと着ていたポンチョを隣で横になるアグモン(黒)の上にかけてあげる。
「これ、碧の匂いがする」
『どんな感じ?』
「凄く良い匂い。……安心する」
それだけ言って彼は小さな寝息を立てて眠ってしまった。何だが照れくさかったが彼が安心するというのならいつでも貸してあげよう。わたしにはそれくらいしかできることがないのだから。
そうして瞳を閉じていく。ヤマトくんの奏でるハーモニカが調和を保ってわたしを夢の世界へ誘う。彼の音色はまるでわたしたちを守ってくれるかのようだ。
眠りへ堕ちるその瞬間まで彼の紡ぎ出す音をわたしは穏やかな気持ちで聴いていた。
目の前を歩くゴマモンに島をもとの位置に戻してくれたお礼を言おうと声を掛けた。
『ゴマモン。お疲れ様、ありがとうね』
「へへーっ!どういたしまして!」
礼を言われたことがそんなに嬉しかったのだろうか。ニカッと彼らしい全力の笑顔を返される。溜まっていた疲労が浄化されていくような気がした。それくらいゴマモンの笑顔には元気付けられるし癒しを与えてくれる効果があると思う。
可愛いなあ、なんてぼんやりとゴマモンを撫でているとわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「碧ー!」
『ガブモン。お疲れ様、格好良かったよ』
声がした方を振り返ると、ガブモンが手を振って駆け寄ってきた。今回のMVPは美しい蒼い狼であるガルルモンへと進化してシードラモンと戦ってくれたガブモンである。労いと賛辞の言葉を投げ掛けるとえへへ、と頬をほんのり赤く染めながら後頭部を掻いて照れているらしい行動を取った。
たった2日しかまだ共に行動していないが、彼はどうやらツノモンの頃から照れ屋なようでよく仲間のデジモンにからかわれているのを見掛けている。
「碧、さっきはありがとう!」
『礼を言われることは何もしてないよ。それよりも本当にありがとう、ガブモン』
膝を屈んでガブモンに目線を合わせる。あの時彼が勇気を振り絞ってくれたからヤマトくんは助かった。だからお礼を言うのはむしろわたしたちの方であるべきなのだ。
その中でも特にわたしはお礼を言われる筋合いはない。自分勝手な判断で無責任にもガブモンを戦闘に行かせてしまったのだから。
それでも彼は気にしていないとでもいう風に言葉を続けた。
「オレ、本当に勝てないと思っていたんだ」
『うん』
「でもね、碧が質問してきてくれたでしょ?オレにとってヤマトはどんな存在かって」
『そうだったかな』
少し気恥しい気もするけれど、語ってくれるガブモンの表情が穏やかなのを見てどうでも良くなってしまう。あれはヤマトくんの存在を盾にしてガブモンの気持ちを後押ししたにすぎない最低な質問だった。それを武勇伝のように聞く資格などわたしにあるはずもないのだ。だがガブモンにとって、彼らデジモンにとってわたしたちはどのような存在であるのかを知りたいと思った。
ガブモンは目を伏せ両手を胸に当てて言う。
「パートナー、だよ」
『パートナー?』
「相棒でパートナー。隣に居なくてはいけない大切な存在ってことだよ!」
『大切な存在……パートナー』
彼の言ったそのワードはストンと違和感なくわたしの中に溶け込んでくる。ガブモンとヤマトくんは相棒、つまり共に前を見据えて歩むパートナーである。それ即ち一緒に成長していくもの、ということなのではないだろうか。一方的な気持ちであろうとそうでなかろうとガブモンはヤマトくんのパートナーだと自信をもっていたからこそ今回の進化を我が物にしたのだと思う。
「勝てる勝てないじゃなくて、体張ってでも助けなきゃって思えた。だからありがとう、碧!」
『……ううん。わたしではどうすることもできないからガブモンを無理矢理戦わせに行かせた。その事実は変わらないから礼は言わないでほしい。その気持ちだけでも十分嬉しいよ』
「でも…」
『ありがとう。ヤマトくんを助けてくれて、本当にありがとう』
わたししはきっかけを与えたにすぎない。考え、そして実行に移したのは他でもない彼自身なのである。あの時俯いていたガブモンは、もう胸を張って前を見ていけるはずだ。それが自分のことのように嬉しくて先程と同じようにガブモンの頭を撫でる。なんとも頼もしいヤマトくんのパートナー。
勇敢さを手に入れた目の前のデジモンは、きっとどんな壁をも乗り越えていくだろう。そしてその隣で共に成長していくのはどこまでも優しく冷静に周りを見て物事を判断することができるヤマトくん。彼らは良いコンビだと心の底から思った。
『……ふふ。さあ、皆の所へ戻ろう』
「うん!」
ガブモンと共に他の子どもたちがいるところへ戻ると、何やら座り込んで話し合いの場を設けているようだった。ガブモンはヤマトくんのところへ、わたしはアグモン(黒)のところへ行き今の状況を聞くことにした。
『何の話をしているの?』
「どうしてガブモンだけが進化できたのか、だって」
わたしがアグモン(黒)の隣に行って三角座りをすると彼は当たり前のようにわたしの両足の間に割り込んで座った。あまりの自然な動作に思わず小さく笑い、ついでに後ろから緩く抱き着いてあげると彼は一度こちらを見て嬉しそうに笑った。お気に召してくれたようで何よりである。お互いに静かに笑い合った後は再び子どもたちへと視線を戻す。
なるほど。昨日は太一くんのアグモンで今日はガブモンだけが進化した。それは尤もな疑問であるし、わたしも不思議に思っていたことである。アグモンに関してはご飯も食べてエネルギー補給は万全であったのにどうして進化できなかったのか。同じ条件だったはずのガブモンは進化することができたのに、である。
「あ!もしかすると、ヤマトくんがピンチだったから?」
「この前、アグモンが進化した時も俺が危機一髪の時だった」
空ちゃんの言葉に昨日の出来事を思い出しながら太一くんがそう呟いた。シェルモンの触手に太一くんは締め上けられ、アグモンは手で押しつぶされようとしていた時。確かにあの時太一くんはピンチだったし今回のように彼らの呼応が共鳴してアグモンは進化することができた。
「彼らが進化するのは、僕たちに大きな危機が迫った時ですか?」
「そうよきっと!」
子どもたちの会話を耳に流しながら考える。光子郎の着眼点は間違っていないと思うが果たして本当にそうなのだろうか。いや、それで良いのだろうか。
逆に言えば、わたしたちが危機に陥らならない限りデジモンたちは進化しないということである。それはデジモンたちにとって良いことなのだろうか。わたしの両足の間に座るアグモン(黒)の後頭部をぼんやりと見て考える。もし自分が彼と反対の立場だったのなら、彼が危険な状況に陥らない限り自分は進化することができないのなら、より強くなって彼を守るには彼自身が危険に追い込まれないといけないのなら。
わたしにはそんなの耐えられない、と暗くなる思考をすぐに止めた。
「……そんな方法でしか進化ができないならオレはいいや」
『アグモン?』
「オレは、碧を傷付けてまで進化したいとは思わないよ。…だって、守るべきパートナーだからね」
――パートナー、だよ
こちらに背を向けて呟くような言葉にどこか力強い決意のようなものを感じ、先程のガブモンが重なった。彼の口からその言葉を聞けたのが嬉しくて、それを分かち合いたくて自分の額を彼の後頭部へコツンとくっつける。
『わたしも、君にばかり無理させたくないなあ』
だって、パートナーだもんね。
そう言ってやるとアグモン(黒)が勢いよくこちらに体を反転させて抱き着いてきた。その笑顔は天下一品でわたしに癒しの効果を与えてくれる。
『可愛い奴め!』
そうしてワシャワシャと撫でてじゃれ合っていると、ミミちゃんが空ちゃんの方へ突然体を倒した。体調を崩してしまったのかと思いアグモン(黒)を撫でる手を止めるが、次に聞こえたミミちゃんの言葉にそんな心配は杞憂だったと知る。
「もうここで寝る」
それだけを言い残して地べたへ横になり眠り始めた。布団を欲しがっていた彼女は寝ずの晩を越えて一歩成長したらしい。衣服が汚れるのも構わずに眠るその姿は少しずつこの環境に適応してきたようにもみえる。
「たった一日ここで過ごしただけなのに、逞しくなったね」
空ちゃんはそんなミミちゃんを優しい目をして微笑んだ。年下であるミミちゃんの成長に彼女は母性のようなものを感じているのかもしれない。その高い包容力にわたしは気付かれないよう小さく笑った。
「そのうちボクみたいなガッチリした体になるね、きっと!」
「アタシみたいな翼も生えるかもね!」
「そんなの嫌ぁ…」
嬉々としたアグモンとパルモンの声にミミちゃんは寝言のように呟いた。夢の世界へ片足を突っ込んでいたにも関わらずきちんと否定するあたり、どうやら本当に嫌だったようだ。ここまでくると彼女の執念は意外と根強いのかもしれない。
完全に眠りへ堕ちた彼女を筆頭に、他の子どもたちも一人また一人とその場で寝ていく。シードラモンとの戦闘もあって休息を妨げられた子どもたちは電車の座席へ移動する気力もなかったようだ。今日は太陽が真上に昇るまでは皆で睡眠を貪るしかないな、とわたしはうつらうつらする思考の中でこの後のことを考える。
子どもたちの中で起きているのは太一くんのみとなった。
♪~♪♪~♪~
そんな中聞こえてきたのは、夜中に聞こえた綺麗なハーモニカの音色。あの時感じた悲しさは消えさり今はどこか力強ささえ感じる。
「ヤマトの奴か」
『そうみたいだね』
黙っていられないのか、足音を立てずに太一くんは離れたところにいるヤマトくんの元へ向かった。わたしも彼の後に続くと、ヤマトくんの両端にタケルくんとガブモンが寄り添うようにして眠っている光景が見られた。このハーモニカはきっと子守歌だ。その時のヤマトくんの心を宿す優しき子守歌。
一緒に木の陰から見ている太一くんの表情もどこか嬉しそうだ。彼があの光景を見て何を思ったのかは分からないが、少なくとも喧嘩するたびに感じていた嫌悪なものはないだろう。彼の知らないヤマトくんの一面を新たに見られたのかもしれない。
恐らく人間というのはこうして相手のことを知っていく生き物なのだと、この少ない時間の中で皆から教わることができた。
『さて、わたしたちも少し寝るかい?』
「ふぁあ。それもそうだな」
わたしの言葉に太一くんは欠伸を隠さず同調した。皆が眠っているところへ行くと、わたしと太一くんの帰りを待っていたアグモンズが駆け寄ってきてくれたので4人で寝ることにした。ふと、より気持ちよく寝られるようにと着ていたポンチョを隣で横になるアグモン(黒)の上にかけてあげる。
「これ、碧の匂いがする」
『どんな感じ?』
「凄く良い匂い。……安心する」
それだけ言って彼は小さな寝息を立てて眠ってしまった。何だが照れくさかったが彼が安心するというのならいつでも貸してあげよう。わたしにはそれくらいしかできることがないのだから。
そうして瞳を閉じていく。ヤマトくんの奏でるハーモニカが調和を保ってわたしを夢の世界へ誘う。彼の音色はまるでわたしたちを守ってくれるかのようだ。
眠りへ堕ちるその瞬間まで彼の紡ぎ出す音をわたしは穏やかな気持ちで聴いていた。