蒼き狼!ガルルモン!

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名字固定【篠崎】
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「お兄ちゃん!僕のせいだ。僕を助けようとしてお兄ちゃんは!」
「ヤマト!」
「ああぁぁぁぁぁっ!」

 シードラモンの赤い尻尾に体を締め上げられた状態でヤマトくんは水中から出てきた。その苦痛に満ちた叫び声は島全体に響き渡り、より一層子どもたちに絶望を与えていく。

「まずい。まずいでっせ!シードラモンは、一度掴んだ相手は息絶えるまで締め付けるんや!」
「お兄ちゃん!」
「ぐ、ああああああ!」

 苦しいだろう。苦しいだろう。体を圧迫されて呼吸だって難しいはずだ。テントモンの言ったことが本当ならば、ヤマトくんがこの後どうなってしまうのかなんて答えにたどり着くのは容易い。

「パタモンお願い!お兄ちゃんを助けて!」
「ぼ、ボクの力ではシードラモンに通用しない。……ガブモン、お前なら!」
「無理です!オレには、そんな力は…」
「あああああ!」

 兄を助けたいと必死になるタケルくんの願いはパタモンにもガブモンにもどうすることもできないらしい。先程束になっても敵わなかった相手だから助けられる自信が彼らにはないのだろう。わたしたちの不安を貫くヤマトくんの叫びにならない叫び声が脳を刺激していく。

「どうする、。オレが攻撃しに行こうか」
『……待って』

 ヤマトくんの叫び声を聞いてもなお手も足も出ないデジモンたちを見かねてアグモン(黒)が真っ直ぐにわたしを射抜いて見てくる。わたしもすぐにでもアグモン(黒)に加勢してもらいたかったが、ヤマトくんのことをずっと待っていたというガブモンを思い出した。
 もしも彼が本当にヤマトくんを助けるのが無理だと思うのならその時はわたしとアグモン(黒)でシードラモンの相手をしよう。ガブモン、君はこのまま苦しむヤマトくんを見ているだけで良いの。未だ俯いたままの彼に歩み寄って目線を合わせる。時間はないのだ。

『ガブモン』
「な、なに」
『君にとって、ヤマトくんはどんな存在?』
「どんなって…」
『このまま何もせずにいたらヤマトくんを失ってしまう。ガブモンはそれで良いの。シードラモンに敵わないからという理由でヤマトくんがやられるのを指咥えて待っているつもりなの?』
「そんなこと、」
『なら! ……迷うことは、何もないよ』

 不安を取り除くようにガブモンの頭を撫でる。
 知ってるよ、君がヤマトくんのことをずっと待っていたこと。君がヤマトくんを守るために進化したこと。君がハーモニカを奏でるヤマトくんの隣で幸せそうに聴き入っていたこと。君がヤマトくんがとても大好きなこと。
 でもそれは彼が一番知っているはず。ガブモンの思いは全部ヤマトくんに届いているはずなのだ。でなければ君のことで彼は太一くんの冗談にも怒ったりはしない。

『きっと大丈夫』

 光子郎からの受け売りである魔法の言葉。今言うべき言葉ではないのだろう。無責任極まりないし自分勝手だけれど、それでもこの魔法の言葉はいつだって心を奮い立たせてくれるのだ。
 これでダメなら泳いででもわたしはヤマトくんを助けに行こう。死なせやするものか。タケルくんの自慢の兄で、太一くんたちの大事な友人で、わたしたちの誇れる仲間なのだから。
 撫でる手を止めて立ち上がりヤマトくんを見据える。少しでも体を軽くすために上着を脱いだ、その時だった。

「ガブ、モン…!」
「ヤマトォォォォ!」

 掠れて聞き取りにくいヤマトくんから発せられたそれに応えるかのようにガブモンが彼の名を叫んだ。2人の魂が共鳴したのだろう。ヤマトくんの腰に携わっていたあの小さな機械が希望の光を大きく放った。

『これは、また…?』

 アグモンと太一くんの時と同じように、ガブモンの体が光を纏う。

「ガブモン進化ー! ガルルモン!」

 光が収まると、そこには蒼くて美しい狼が立っていた。ガブモンから進化したガルルモンは勢いよく地面を蹴ってシードラモンへ飛び掛かり、ヤマトくんをシードラモンの尻尾から解放する。
 縛るものがなくなり湖に落ちたヤマトくんは咳込みつつガルルモンがシードラモンに噛みついている間に島まで泳いできた。

「お兄ちゃん!」
『ヤマトくん、大丈夫?』
「俺よりガブモンが…」

 島へ両手を掛けるも体力の少ない体は湖から上がることができないようで、わたしとタケルくんで引っ張り上げる。こちらはヤマトくんが死ぬかもしれないと気が気でなかったのに、彼は自分の身よりも湖へ叩き落されたガルルモンを心配していた。彼らしいといえば彼らしいが流石に今回は無茶のし過ぎだと思う。
 水面に浮かび上がったガルルモンを攻撃しようと近付くシードラモンだったが、触れるたびに雄叫びを上げて苦しんでいた。

「ガルルモンの毛皮は伝説の金属、ミスリル並みの強度なんや!」
「何ですか?伝説の金属って」
「伝説やさかい。わても見たことないさけぇ、知りません」
「物知りなんだがそうじゃないんだか、分かんねえ奴だなテントモンって」
「んなアホなぁ」

 相変わらずのコントに構っている暇などないがテントモンの情報が確かならば、ガルルモンへ触れようとするたびに痛ましい咆哮をあげるシードラモンに納得がいく。蒼き狼の毛皮は強靭で敵意のあるものにはその真価を発揮するようだ。
 戦いを見ていれば、シードラモンが口から冷気のようなものを吐き出してガルルモンをみるみる凍らせていくところだった。

「あれはシードラモンの必殺技。アイスアローや!」

 しかし、伝説級の毛皮のおかげか、体全体が凍る前に全ての氷が砕け散っていく。そして反撃するかのようにガルルモンも口から蒼い炎をシードラモンへ向けて放った。

「フォックスファイヤー!」

 シードラモンから吐き出される凍てつく冷気を打ち破り、ガルルモンの炎はシードラモンの頭部を包んでいく。その攻撃に耐えきれなくなり崩れるようにして湖の中へ沈んでいったシードラモンを見て、皆から歓声が上がった。

「やったー!」

 煌々と輝く太陽がわたしたちに勝利の光をもたらしていた。
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