名字固定【篠崎】
蒼き狼!ガルルモン!
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「ふぁあ。そろそろ寝ようぜ」
「交代で見張りをした方が良くないですか?」
眠気に耐えられないのか太一くんが欠伸をしながら言った。余程疲れたのだろう、既に眠っているデジモンも少なからずいた。
その様子を見ながら光子郎が提案したのは、お昼間のように凶暴なデジモンに襲われてもすぐに対処できるように、という意味合いを込めたものだった。ただでさえ自分たちの知りえる土地ではないのだ。光子郎の提案に反対する者など誰一人としていなかった。
「そうだな。順番を決めよう!」
「女の子はやんなくても良いだろ?」
「タケルもだ」
「僕平気だよ!」
不服そうにタケルくんがヤマトくんの服を掴んだ。確かに彼はまだ小学2年生。いくらしっかりしていようともわたしたちに比べて体力もできていないし体の免疫力も低い。休める時にしっかりと休まなければいざという時に困るのは彼だけではないのである。
「いいから、お前はゆっくり休め」
ヤマトくんの気遣う言葉に、タケルくんはまだ納得していないようだったが頷いた。
表情が暗いままのタケルくんを視界の隅に置いておきながら話し合いを進めようとする彼らにわたしも片手を小さく挙げて意見する。
『見張りならわたしもやるよ』
「えっ、碧さんは女の子ですし寝ていて大丈夫ですよ」
光子郎が気遣うようにそう言った。ありがたいけれどこれはわたしのプライドでもあるからこちらも引くことはできない。
『こんなでも年長者だよ。やらせてほしいな』
撫でながら言ってやると、少しムッとされたが納得してくれたようだ。太一くんや丈に確認しても賛成の意を貰えたので、未だしゅんと落ち込んでいるタケルくんをちょいちょいと呼び寄せた。
『タケルくん。ちょっとおいで』
「なあに?」
近くに来たタケルくんにこそっと耳打ちをする。
『わたしと見張りしよっか?』
「碧さんと?」
『そう。朝方はわたしが見張りをするつもりだから、それまではタケルくんもしっかり休めるし皆は寝ているだろうからね。バレずに皆の役に立てるよ。どうかな?』
「やる!やるよ僕!」
『うん。じゃあ宜しく頼むよ』
「任せて!」
パアっと満面の笑みを浮かべたタケルくんはとても可愛らしくて頼もしかった。このことがヤマトくんに知られたら怒られるかもしれないが、仲間の役に立ちたいと願う少年の気持ちも尊重したかった。
お節介ではあるがわたしやアグモン(黒)、パタモンもいるから万一のことがあっても大丈夫だろう。もし朝方になってもタケルくんが起きなかったら寝かせたままにするつもりでもある。
「でも寝るって言っても、お布団とか無いのにな」
寝るにはふかふかのお布団に心地の良い枕。それが当たり前の生活環境で育ってきたのだからミミちゃんがそう呟くのは当たり前である。皆それぞれの家庭を思い出したのか、空気がどんどん沈んでいった。
今回は電車の中にある座席を使って寝ることができるが明日以降はそうもいかないだろう。今贅沢をしていたら今後の野宿はもっと辛いものになるかもしれない。そうならないためにも今から慣れていかなければいけないと、わたしはミミちゃんに小さく笑い掛けた。
するとミミちゃんの呟きを聞いた太一くんがニタァと悪い笑顔を浮かべてガブモンににじり寄っていく。
「おいガブモン。毛布代わりにその毛皮貸してくれよ!俺すっごく気になってたんだよな!ガブモンのさ、毛皮の下ってどうなってんの!?」
まるで酔っ払いの絡み方のように太一くんはガブモンの毛皮を掴む。まさか自分に矛先が向くとは思っていなかったであろうガブモンは吃驚したのち徐々に顔色が悪くなっている。
もしや触れられたくない部分だったのだろうか。
「うわあ、それだけは~!」
ガブモンが逃げたところで太一くんはにししと笑う。悪戯好きは悪いことではないが、それが原因で喧嘩が起きなければいいのだけれど。
「よせ!」
太一くんとガブモンのやり取りを見ていたヤマトくんは黙っていられなかったのか、突然太一くんを強く突き飛ばした。
「何すんだよ!」
「嫌がってんだろ!」
「突き飛ばすことないじゃないか!」
ありゃありゃ、フラグだったか。夜の湖に2人の怒声が響いた。先程まで見張りができると喜んでいたタケルくんの表情がまた暗くなっていく。ガブモンも自分が原因で喧嘩が起きてしまったのかとハラハラした様子で2人を見ていた。
太一くんも本気でガブモンから毛皮を奪い取ろうとしたわけではないのは見ていてわかる。あれは沈んでしまった空気を何とかしようと太一くんなりに考えた冗談のようなものだ。それはヤマトくんも分かっているはず。それでも照れ屋なガブモンが嫌がることを冗談として笑い事にしたのが許せなかったのだろう。
どちらも仲間を想った行動であるのは一目瞭然だった。
「や、やめて2人とも!」
ついにはお互いの胸倉を掴み始めた彼らにタケルくんが悲しそうに叫んだ。2人はタケルくんの叫びに一瞬吃驚するがすぐにお互いの服を掴んでいた手を離してそっぽ向く。
仲間内での喧嘩が苦手なのは何もタケルくんだけではない。今回は彼が啖呵切って止めに入ったが本来ならばそれはわたしたち年上の仕事である。辛いことをさせてしまったと反省し、己の拳をぎゅっと握っているタケルくんの手を取ってできるだけ優しく開かせる。力を込め過ぎて指先を痛めるようなことだけは避けたかった。
「え、えーと。最初の見張り番は…」
「俺がやる!」
「次は俺だ!」
その場の気まずい雰囲気を変えようと丈が2人の間に割って入ることによって一件落着した。
これ以上大事にならなくて良かったと思う。心なしかタケルくんもホッとした表情になっておりわたしは緩く微笑んだ。
「分かった。光子郎がその次でその後が僕。最後に碧。さあ皆、路面電車の中で寝るんだ!」
丈の声掛けにより、太一くんと彼のアグモンを残していそいそと皆で路面電車の中に移動して、それぞれ眠りについた。
『……』
眠れない。理由はもちろん分かっていた。湖のど真ん中にある島に居続けることが苦痛でならないのだ。ふう、と深呼吸しても心臓が落ち着きを取り戻すことはなかった。
『全く、難儀なものだよ』
「ん。どうした碧?」
隣で寝ていたアグモン(黒)が目をこすりならが体を起こした。アグモン(黒)の体の黒さは夜だと同化していて若干見え辛い。それがなんだか可笑しくて小さくクスリと笑ってしまった。
『いや、眠れなくてね。起こしちゃった?』
「ううん。大丈夫だよ」
『そっか。……ちょっと外に出てくる』
「オレも行くよ」
別に寝ていても構わないのに。それでも頑固としてついてくる彼が愛おしくて自分の頬が緩むのを感じた。
寝惚けているのか、わたしにぶつかりながらフラフラ歩くアグモンに背負ってあげようかと声を掛けると「肩痛めるからダメ」とはっきり言われてしまった。寝惚けていても抜かりのない彼に思わずふはっと緊張感のない笑いが零れ落ちた。
♪~♪♪~♪
『ハーモニカの音…?』
「綺麗な音色だね」
突如聴こえてきたハーモニカの音の発信源を見やれば、陸地の方にヤマトくんとガブモンがいた。
優しくもどこか悲しさのような感情を乗せているハーモニカの音色を耳に流しながら、近くにいて見張りをしている太一くんの元へ足を運んだ。
『やあ。きちんと見張りは出来ているかい?』
「碧!何だよ、寝てなかったのか」
『あはは。まあね』
彼はきちんとアグモンと共に起きていた。太一くんなら途中で寝ているかとも思ったけれど、どうやらそれは杞憂だったらしい。焚火で暖を取りつつ欠伸をしながらではあったが自分の役割はきちんと全うしていた。
太一くんの隣に座り、ばちばちと心地の良い音を立てる焚火の前に手を翳すとじんわりと冷えた指先から温まっていく。
「にしても、アグモンズは元気だよな」
『ふふ。目の保養だね』
太一くんのアグモンとわたしのアグモン(黒)は猫のように取っ組み合ってじゃれ合っておりとても可愛らしい。カメラがあればこの一瞬を抑えて形ある思い出にしたいくらいである。
一方で太一くんは元気のある彼らに呆れていた。溜息を吐きながら焚火をいじっていると、炎を纏った枝が離れたところにある赤い葉っぱのようなものの上に吹き飛んだ。
「うわ!焚火が弾けた!」
その瞬間。波も島も大きく揺れ始めた。湖には大きな渦巻きが発生しており、何やらどんどん規模が大きくなっている。
『何か、出てくる…?』
目を離せずジッとそこを見ていると、渦巻が一気に水柱のような形を作って噴き出した。そしてその柱を裂くようにして内側から出てきたのはアニメなどでしか見ることのないドラゴンのような生き物だった。黄色い頭部に青い体をもつそれは恐らくデジモンなのだろう。
昼間に浜辺でアグモン(黒)に言ったことを思い出していた。海には魔物がいると言ったが、あれはあくまでも比喩で、目には見えないと言ったばかりなのに。なのに目の前にいるドラゴンは湖から出てきたではないか。
『アグモン』
「……碧?」
『やっぱり、魔物っているんだなあ』
「!」
わたしたちがご飯を食べたり寝床にしていた島の下には、こんな巨大な魔物がいたのだ。わたしたちはそんなことも知らないで笑ったり喧嘩したりしていたのか。
考えるだけでゾッとする。けれどもういちいち怖がりたくはない。成長すると決めたではないか。心臓はばくばくと音を立てて鼓動を速めていく。足は恐怖で竦んで動けない。こんなではいつか足手纏いになって皆に置いて行かれてしまうだろう。
――……なあ。こんなに綺麗な海の上でなら、お前は一緒に死んでくれるか?
そう言ってわたしの首へ震える手を伸ばしてきた男は、果たして一体誰だっただろう。大切な人だったのは覚えている。でもだからこそあの言葉はわたしを今でも苦しめる。
わたしの中で海は恐怖の象徴、思い出したくもない不幸な場所。昔の記憶が蘇るほど弱くなっていくような気さえしてくる。
それならば、
『もう、怖がる心は捨ててしまおうか』
それが正しいかは分からないけれど、そんな不必要な心さえ無くなってしまえば、例え己が嘘で塗り固められていってしまおうが弱い自分を振り切れるのだ。
迷う必要はない。全ては過去に置いて行こう。
「交代で見張りをした方が良くないですか?」
眠気に耐えられないのか太一くんが欠伸をしながら言った。余程疲れたのだろう、既に眠っているデジモンも少なからずいた。
その様子を見ながら光子郎が提案したのは、お昼間のように凶暴なデジモンに襲われてもすぐに対処できるように、という意味合いを込めたものだった。ただでさえ自分たちの知りえる土地ではないのだ。光子郎の提案に反対する者など誰一人としていなかった。
「そうだな。順番を決めよう!」
「女の子はやんなくても良いだろ?」
「タケルもだ」
「僕平気だよ!」
不服そうにタケルくんがヤマトくんの服を掴んだ。確かに彼はまだ小学2年生。いくらしっかりしていようともわたしたちに比べて体力もできていないし体の免疫力も低い。休める時にしっかりと休まなければいざという時に困るのは彼だけではないのである。
「いいから、お前はゆっくり休め」
ヤマトくんの気遣う言葉に、タケルくんはまだ納得していないようだったが頷いた。
表情が暗いままのタケルくんを視界の隅に置いておきながら話し合いを進めようとする彼らにわたしも片手を小さく挙げて意見する。
『見張りならわたしもやるよ』
「えっ、碧さんは女の子ですし寝ていて大丈夫ですよ」
光子郎が気遣うようにそう言った。ありがたいけれどこれはわたしのプライドでもあるからこちらも引くことはできない。
『こんなでも年長者だよ。やらせてほしいな』
撫でながら言ってやると、少しムッとされたが納得してくれたようだ。太一くんや丈に確認しても賛成の意を貰えたので、未だしゅんと落ち込んでいるタケルくんをちょいちょいと呼び寄せた。
『タケルくん。ちょっとおいで』
「なあに?」
近くに来たタケルくんにこそっと耳打ちをする。
『わたしと見張りしよっか?』
「碧さんと?」
『そう。朝方はわたしが見張りをするつもりだから、それまではタケルくんもしっかり休めるし皆は寝ているだろうからね。バレずに皆の役に立てるよ。どうかな?』
「やる!やるよ僕!」
『うん。じゃあ宜しく頼むよ』
「任せて!」
パアっと満面の笑みを浮かべたタケルくんはとても可愛らしくて頼もしかった。このことがヤマトくんに知られたら怒られるかもしれないが、仲間の役に立ちたいと願う少年の気持ちも尊重したかった。
お節介ではあるがわたしやアグモン(黒)、パタモンもいるから万一のことがあっても大丈夫だろう。もし朝方になってもタケルくんが起きなかったら寝かせたままにするつもりでもある。
「でも寝るって言っても、お布団とか無いのにな」
寝るにはふかふかのお布団に心地の良い枕。それが当たり前の生活環境で育ってきたのだからミミちゃんがそう呟くのは当たり前である。皆それぞれの家庭を思い出したのか、空気がどんどん沈んでいった。
今回は電車の中にある座席を使って寝ることができるが明日以降はそうもいかないだろう。今贅沢をしていたら今後の野宿はもっと辛いものになるかもしれない。そうならないためにも今から慣れていかなければいけないと、わたしはミミちゃんに小さく笑い掛けた。
するとミミちゃんの呟きを聞いた太一くんがニタァと悪い笑顔を浮かべてガブモンににじり寄っていく。
「おいガブモン。毛布代わりにその毛皮貸してくれよ!俺すっごく気になってたんだよな!ガブモンのさ、毛皮の下ってどうなってんの!?」
まるで酔っ払いの絡み方のように太一くんはガブモンの毛皮を掴む。まさか自分に矛先が向くとは思っていなかったであろうガブモンは吃驚したのち徐々に顔色が悪くなっている。
もしや触れられたくない部分だったのだろうか。
「うわあ、それだけは~!」
ガブモンが逃げたところで太一くんはにししと笑う。悪戯好きは悪いことではないが、それが原因で喧嘩が起きなければいいのだけれど。
「よせ!」
太一くんとガブモンのやり取りを見ていたヤマトくんは黙っていられなかったのか、突然太一くんを強く突き飛ばした。
「何すんだよ!」
「嫌がってんだろ!」
「突き飛ばすことないじゃないか!」
ありゃありゃ、フラグだったか。夜の湖に2人の怒声が響いた。先程まで見張りができると喜んでいたタケルくんの表情がまた暗くなっていく。ガブモンも自分が原因で喧嘩が起きてしまったのかとハラハラした様子で2人を見ていた。
太一くんも本気でガブモンから毛皮を奪い取ろうとしたわけではないのは見ていてわかる。あれは沈んでしまった空気を何とかしようと太一くんなりに考えた冗談のようなものだ。それはヤマトくんも分かっているはず。それでも照れ屋なガブモンが嫌がることを冗談として笑い事にしたのが許せなかったのだろう。
どちらも仲間を想った行動であるのは一目瞭然だった。
「や、やめて2人とも!」
ついにはお互いの胸倉を掴み始めた彼らにタケルくんが悲しそうに叫んだ。2人はタケルくんの叫びに一瞬吃驚するがすぐにお互いの服を掴んでいた手を離してそっぽ向く。
仲間内での喧嘩が苦手なのは何もタケルくんだけではない。今回は彼が啖呵切って止めに入ったが本来ならばそれはわたしたち年上の仕事である。辛いことをさせてしまったと反省し、己の拳をぎゅっと握っているタケルくんの手を取ってできるだけ優しく開かせる。力を込め過ぎて指先を痛めるようなことだけは避けたかった。
「え、えーと。最初の見張り番は…」
「俺がやる!」
「次は俺だ!」
その場の気まずい雰囲気を変えようと丈が2人の間に割って入ることによって一件落着した。
これ以上大事にならなくて良かったと思う。心なしかタケルくんもホッとした表情になっておりわたしは緩く微笑んだ。
「分かった。光子郎がその次でその後が僕。最後に碧。さあ皆、路面電車の中で寝るんだ!」
丈の声掛けにより、太一くんと彼のアグモンを残していそいそと皆で路面電車の中に移動して、それぞれ眠りについた。
『……』
眠れない。理由はもちろん分かっていた。湖のど真ん中にある島に居続けることが苦痛でならないのだ。ふう、と深呼吸しても心臓が落ち着きを取り戻すことはなかった。
『全く、難儀なものだよ』
「ん。どうした碧?」
隣で寝ていたアグモン(黒)が目をこすりならが体を起こした。アグモン(黒)の体の黒さは夜だと同化していて若干見え辛い。それがなんだか可笑しくて小さくクスリと笑ってしまった。
『いや、眠れなくてね。起こしちゃった?』
「ううん。大丈夫だよ」
『そっか。……ちょっと外に出てくる』
「オレも行くよ」
別に寝ていても構わないのに。それでも頑固としてついてくる彼が愛おしくて自分の頬が緩むのを感じた。
寝惚けているのか、わたしにぶつかりながらフラフラ歩くアグモンに背負ってあげようかと声を掛けると「肩痛めるからダメ」とはっきり言われてしまった。寝惚けていても抜かりのない彼に思わずふはっと緊張感のない笑いが零れ落ちた。
♪~♪♪~♪
『ハーモニカの音…?』
「綺麗な音色だね」
突如聴こえてきたハーモニカの音の発信源を見やれば、陸地の方にヤマトくんとガブモンがいた。
優しくもどこか悲しさのような感情を乗せているハーモニカの音色を耳に流しながら、近くにいて見張りをしている太一くんの元へ足を運んだ。
『やあ。きちんと見張りは出来ているかい?』
「碧!何だよ、寝てなかったのか」
『あはは。まあね』
彼はきちんとアグモンと共に起きていた。太一くんなら途中で寝ているかとも思ったけれど、どうやらそれは杞憂だったらしい。焚火で暖を取りつつ欠伸をしながらではあったが自分の役割はきちんと全うしていた。
太一くんの隣に座り、ばちばちと心地の良い音を立てる焚火の前に手を翳すとじんわりと冷えた指先から温まっていく。
「にしても、アグモンズは元気だよな」
『ふふ。目の保養だね』
太一くんのアグモンとわたしのアグモン(黒)は猫のように取っ組み合ってじゃれ合っておりとても可愛らしい。カメラがあればこの一瞬を抑えて形ある思い出にしたいくらいである。
一方で太一くんは元気のある彼らに呆れていた。溜息を吐きながら焚火をいじっていると、炎を纏った枝が離れたところにある赤い葉っぱのようなものの上に吹き飛んだ。
「うわ!焚火が弾けた!」
その瞬間。波も島も大きく揺れ始めた。湖には大きな渦巻きが発生しており、何やらどんどん規模が大きくなっている。
『何か、出てくる…?』
目を離せずジッとそこを見ていると、渦巻が一気に水柱のような形を作って噴き出した。そしてその柱を裂くようにして内側から出てきたのはアニメなどでしか見ることのないドラゴンのような生き物だった。黄色い頭部に青い体をもつそれは恐らくデジモンなのだろう。
昼間に浜辺でアグモン(黒)に言ったことを思い出していた。海には魔物がいると言ったが、あれはあくまでも比喩で、目には見えないと言ったばかりなのに。なのに目の前にいるドラゴンは湖から出てきたではないか。
『アグモン』
「……碧?」
『やっぱり、魔物っているんだなあ』
「!」
わたしたちがご飯を食べたり寝床にしていた島の下には、こんな巨大な魔物がいたのだ。わたしたちはそんなことも知らないで笑ったり喧嘩したりしていたのか。
考えるだけでゾッとする。けれどもういちいち怖がりたくはない。成長すると決めたではないか。心臓はばくばくと音を立てて鼓動を速めていく。足は恐怖で竦んで動けない。こんなではいつか足手纏いになって皆に置いて行かれてしまうだろう。
――……なあ。こんなに綺麗な海の上でなら、お前は一緒に死んでくれるか?
そう言ってわたしの首へ震える手を伸ばしてきた男は、果たして一体誰だっただろう。大切な人だったのは覚えている。でもだからこそあの言葉はわたしを今でも苦しめる。
わたしの中で海は恐怖の象徴、思い出したくもない不幸な場所。昔の記憶が蘇るほど弱くなっていくような気さえしてくる。
それならば、
『もう、怖がる心は捨ててしまおうか』
それが正しいかは分からないけれど、そんな不必要な心さえ無くなってしまえば、例え己が嘘で塗り固められていってしまおうが弱い自分を振り切れるのだ。
迷う必要はない。全ては過去に置いて行こう。