名字固定【篠崎】
爆裂進化!グレイモン!
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「ん?海の匂いがしてきた」
「おっ、見えたよ!海だーい!」
ガブモンに続きゴマモンが叫ぶ。言われてみれば海特有の潮の香りが鼻を掠めている。そんな海が見えたと同時に響いたのは普段ならばありえない電話の音。耳を澄ましてもう一度聞いてみてもやはりよく聴く電話音が耳へと届いてくるだけだった。
「ああ?」
「こんなところで電話の音?」
電話の音が気になり海へ向かうと、浜辺には幾つかの電話ボックスが設置されていた。ここは日本ではないはずなのに何故こんなところに日本でよく見るものが置いてあるのだろう。流石に非常識もいいところではないだろうか。
「どうした太一」
「……止まった」
太一くんが電話ボックスの扉を開けると、狙ったかのようにその音は鳴り止んだ。電話線も見当たらないしどういう仕組みで作動していたのだろうか。生憎わたしは機械類に関しての知識は全くと言っていいほど持ち合わせていない。仮に仕組みが分かったとしても誰が何のために設置したのかまでは分からないからどうすることもできないのだけれどね。
「こんなところに電話ボックスなんて……」
「不合理です!」
空ちゃんに続いて光子郎、心からの叫びだ。その気持ち分かるぞ。
「でも、これはいつも見る電話ボックスだよな。普通の」
「あたしんちの傍にもあるわ」
「ということはここは、ここはまだ日本なんだ!」
声高らかに丈は叫ぶ。日本ではないのは火を見るより明らかだがそう思うのも仕方がないだろう。本当にそこらへんで見るような電話ボックスなのだから。
「にほん?丈、なんだそれ」
「……やっぱり違うかも」
ゴマモンの言葉とデジモン達を見て、丈は真顔で考えを改めた。こんな生命体など見たこともない。日本はおろか世界にだっているかわからないのに。
デジモンたちは日本語を話すしなんならテントモンは関西弁も話す。が、しかしここは日本じゃない。ここに来てからというもの世界観というものが崩れているような気がするが深く考えてはいけないのだろうか。
「光子郎。10円貸してくれよ」
「えっ、何するんですか」
「決まってんだろ。電話かけるんだよ、うちに」
「ああ、それならテレカありますよ」
光子郎が太一くんへテレフォンカードを渡す。太一くんはそれを受け取り迷うことなくボタンを押していく。それを見て他の子どもたちも動き出した。
「ぼくもママに!」
「あたしも!」
皆は一度電話へ連絡をするようだ。迷ったけれど母は家にいないだろうと考えわたしは電話をせず、崖に背中を委ねて座り込む。隣には当たり前のようにアグモン(黒)が座った。
「碧は良いの?」
『うん。電話する相手いないしね』
膝を抱えてきらきらと光を反射している綺麗な海を見る。綺麗、綺麗なんだけれどやはりそれは見せかけでしかない。海は全てを呑み込み何もかもを殺す。そういうところなのだ。
「碧は、海がダメなんだ?」
海を見ていたわたしに気が付いたのか、アグモン(黒)がそんな質問を投げ掛けてくる。チラッと隣を盗み見ると、彼の翠色の瞳が海の青も移して酷く幻想的だった。ずっと見ていたかったけれどバレないうちに視線を海へと移す。
『……うん』
「聞いても良いか?」
『大した理由はないけど、良い?』
「もちろん」
ぽつりぽつりとわたしは話し始めた。
『海には、わたしたちの目には見えない魔物が棲んでいると思う』
「まもの?」
『そう。海へやってきた人間を無差別に引きずり込んでしまう恐ろしい魔物。姿は見えないのに恐怖心を与えてくるの』
「怖いね」
お伽噺のようでいて、実はあながち間違ってはいない本当のお話。海も川も湖も綺麗なはずなのに酷く恐ろしい二面性を持っているのだ。
『海の中は何も見えない。見えないのがどうしようもなく怖いんだ』
「うん」
『海は人を狂わすことが出来る。どんな善人でも海の魅力に呑まれた人間は悪魔となってしまう。わたしはそれを知っているから、それ以来海も川も湖もダメ』
「そっかあ」
詳細は省くけれど的外れなことは言っていない。海は怖くして仕方がないのだ。でもこの話だけでも面倒くさい人間だと思われちゃうかなあ。光子郎しか知らない事実。アグモン(黒)には、嫌われたくないなあ。蘇るのは幼き頃の記憶。仲が良かったはずの父と海へ遊びに行って、それで…。
ずっと心の奥底の箱へとしまっていた黒い感情が隙間から溢れてくるような感覚に襲われる。嫌だ、わたしはまだ堕ちたくなどない。鋭利なナイフで刺されるような感覚に服の上から胸をぎゅっと握った。その感情は表側に出していけないのだと本能が叫んでいる。
「オレは、良いと思うよ」
そんな葛藤をするわたしへ届いたのは肯定的な言葉。
『……え?』
「海が嫌いなの、オレは良いと思う」
どういうことなのだろうか。アグモン(黒)を見るとそのきらきらと光る綺麗な翠色の瞳と目が合った。テレビなどで見る宝石よりも輝いているその瞳は全てを照らすほどに明るい。
「それくらい、生きたいと願ってるんでしょ?」
『そう、なのかな』
「海が怖くて、飲み込まれて死んじゃうかもしれないから怖いんだよね」
……そうかも。海が怖いのは何も見えないその深淵へと引きずり込まれそうだからなのかもしれない。考えたことなかったけれど、きっとそれで合っている。
「生きたいと思うのは悪いことじゃない」
『アグモン……』
「生きているから、オレたちは出会えたんだ」
嬉しそうにその瞳を細めてアグモンが言う。そうだ、生きているからこそ、こういう事態になってはいるがお陰でアグモン(黒)に会うことができたのだ。
彼のその言葉と表情に、わたしは心底救われた気がした。
『そっか。そっかあ。良いんだ…』
「うん。光子郎も良いって言ってたでしょ」
『あっ』
最初から、光子郎にも救われていたんだ。ただ受け止めてくれているだけじゃない。わたしが怖いなら怖いと素直に生きていけることをあの子は待っていてくれたのだ。
それが今更ながら凄く嬉しくて。
「今すぐなんて無理しなくても良い。ゆっくり克服していこうよ」
『うん。ありがとう』
きっとすぐに海へ慣れるなんてできない。これからも自分の闇に怯えて皆に隠し事をしながら過ごすのだと思うけれど、それでも今こうして話ができて良かった。お礼を込めて思いっきり抱きしめる。
アグモン(黒)が良き理解者になるのに他の理由なんていらない。とても大切な存在に出会うことができたことが何よりも愛おしいと思う。
――生きたいと思うのは悪いことじゃない
生涯忘れることのない言葉になりそうだ。
「おっ、見えたよ!海だーい!」
ガブモンに続きゴマモンが叫ぶ。言われてみれば海特有の潮の香りが鼻を掠めている。そんな海が見えたと同時に響いたのは普段ならばありえない電話の音。耳を澄ましてもう一度聞いてみてもやはりよく聴く電話音が耳へと届いてくるだけだった。
「ああ?」
「こんなところで電話の音?」
電話の音が気になり海へ向かうと、浜辺には幾つかの電話ボックスが設置されていた。ここは日本ではないはずなのに何故こんなところに日本でよく見るものが置いてあるのだろう。流石に非常識もいいところではないだろうか。
「どうした太一」
「……止まった」
太一くんが電話ボックスの扉を開けると、狙ったかのようにその音は鳴り止んだ。電話線も見当たらないしどういう仕組みで作動していたのだろうか。生憎わたしは機械類に関しての知識は全くと言っていいほど持ち合わせていない。仮に仕組みが分かったとしても誰が何のために設置したのかまでは分からないからどうすることもできないのだけれどね。
「こんなところに電話ボックスなんて……」
「不合理です!」
空ちゃんに続いて光子郎、心からの叫びだ。その気持ち分かるぞ。
「でも、これはいつも見る電話ボックスだよな。普通の」
「あたしんちの傍にもあるわ」
「ということはここは、ここはまだ日本なんだ!」
声高らかに丈は叫ぶ。日本ではないのは火を見るより明らかだがそう思うのも仕方がないだろう。本当にそこらへんで見るような電話ボックスなのだから。
「にほん?丈、なんだそれ」
「……やっぱり違うかも」
ゴマモンの言葉とデジモン達を見て、丈は真顔で考えを改めた。こんな生命体など見たこともない。日本はおろか世界にだっているかわからないのに。
デジモンたちは日本語を話すしなんならテントモンは関西弁も話す。が、しかしここは日本じゃない。ここに来てからというもの世界観というものが崩れているような気がするが深く考えてはいけないのだろうか。
「光子郎。10円貸してくれよ」
「えっ、何するんですか」
「決まってんだろ。電話かけるんだよ、うちに」
「ああ、それならテレカありますよ」
光子郎が太一くんへテレフォンカードを渡す。太一くんはそれを受け取り迷うことなくボタンを押していく。それを見て他の子どもたちも動き出した。
「ぼくもママに!」
「あたしも!」
皆は一度電話へ連絡をするようだ。迷ったけれど母は家にいないだろうと考えわたしは電話をせず、崖に背中を委ねて座り込む。隣には当たり前のようにアグモン(黒)が座った。
「碧は良いの?」
『うん。電話する相手いないしね』
膝を抱えてきらきらと光を反射している綺麗な海を見る。綺麗、綺麗なんだけれどやはりそれは見せかけでしかない。海は全てを呑み込み何もかもを殺す。そういうところなのだ。
「碧は、海がダメなんだ?」
海を見ていたわたしに気が付いたのか、アグモン(黒)がそんな質問を投げ掛けてくる。チラッと隣を盗み見ると、彼の翠色の瞳が海の青も移して酷く幻想的だった。ずっと見ていたかったけれどバレないうちに視線を海へと移す。
『……うん』
「聞いても良いか?」
『大した理由はないけど、良い?』
「もちろん」
ぽつりぽつりとわたしは話し始めた。
『海には、わたしたちの目には見えない魔物が棲んでいると思う』
「まもの?」
『そう。海へやってきた人間を無差別に引きずり込んでしまう恐ろしい魔物。姿は見えないのに恐怖心を与えてくるの』
「怖いね」
お伽噺のようでいて、実はあながち間違ってはいない本当のお話。海も川も湖も綺麗なはずなのに酷く恐ろしい二面性を持っているのだ。
『海の中は何も見えない。見えないのがどうしようもなく怖いんだ』
「うん」
『海は人を狂わすことが出来る。どんな善人でも海の魅力に呑まれた人間は悪魔となってしまう。わたしはそれを知っているから、それ以来海も川も湖もダメ』
「そっかあ」
詳細は省くけれど的外れなことは言っていない。海は怖くして仕方がないのだ。でもこの話だけでも面倒くさい人間だと思われちゃうかなあ。光子郎しか知らない事実。アグモン(黒)には、嫌われたくないなあ。蘇るのは幼き頃の記憶。仲が良かったはずの父と海へ遊びに行って、それで…。
ずっと心の奥底の箱へとしまっていた黒い感情が隙間から溢れてくるような感覚に襲われる。嫌だ、わたしはまだ堕ちたくなどない。鋭利なナイフで刺されるような感覚に服の上から胸をぎゅっと握った。その感情は表側に出していけないのだと本能が叫んでいる。
「オレは、良いと思うよ」
そんな葛藤をするわたしへ届いたのは肯定的な言葉。
『……え?』
「海が嫌いなの、オレは良いと思う」
どういうことなのだろうか。アグモン(黒)を見るとそのきらきらと光る綺麗な翠色の瞳と目が合った。テレビなどで見る宝石よりも輝いているその瞳は全てを照らすほどに明るい。
「それくらい、生きたいと願ってるんでしょ?」
『そう、なのかな』
「海が怖くて、飲み込まれて死んじゃうかもしれないから怖いんだよね」
……そうかも。海が怖いのは何も見えないその深淵へと引きずり込まれそうだからなのかもしれない。考えたことなかったけれど、きっとそれで合っている。
「生きたいと思うのは悪いことじゃない」
『アグモン……』
「生きているから、オレたちは出会えたんだ」
嬉しそうにその瞳を細めてアグモンが言う。そうだ、生きているからこそ、こういう事態になってはいるがお陰でアグモン(黒)に会うことができたのだ。
彼のその言葉と表情に、わたしは心底救われた気がした。
『そっか。そっかあ。良いんだ…』
「うん。光子郎も良いって言ってたでしょ」
『あっ』
最初から、光子郎にも救われていたんだ。ただ受け止めてくれているだけじゃない。わたしが怖いなら怖いと素直に生きていけることをあの子は待っていてくれたのだ。
それが今更ながら凄く嬉しくて。
「今すぐなんて無理しなくても良い。ゆっくり克服していこうよ」
『うん。ありがとう』
きっとすぐに海へ慣れるなんてできない。これからも自分の闇に怯えて皆に隠し事をしながら過ごすのだと思うけれど、それでも今こうして話ができて良かった。お礼を込めて思いっきり抱きしめる。
アグモン(黒)が良き理解者になるのに他の理由なんていらない。とても大切な存在に出会うことができたことが何よりも愛おしいと思う。
――生きたいと思うのは悪いことじゃない
生涯忘れることのない言葉になりそうだ。