もう壁はない、お前の心に何が見える

潮風が、吹く。
少し風が、強いが、問題はないと、
承太郎さんは、船に露伴を乗せた。
そして船は出港する。

承太郎さんは杜王町から少し離れた場所で停泊させると、船のライトを水面に照らす。
そこは、優しいぼんやりした緑の、光で溢れていた。
「露伴、これをお前に見て、もらいたかった。」
承太郎さんは船のライトを操作する手を止め、露伴を振り返る。
露伴は船から水面を覗く。
ぷっくり形が透き通り見えた。
透明なクラゲだ。
「これは、…おわんクラゲですね。…光るんですね。」
「ああ。美しい、な。」
「ええ。とても、儚く、淡い色を放っていますね。」
承太郎さんは手すりに背中を預け、緑に発光するクラゲを楽しそうに見つめる露伴に言う。
「…儚く美しい色をしている。お前の色も。」
「っ、…僕の、なんですか…?」
「お前の瞳の色だ。ずっと、その事をお前に言いたかった。」
「…、…、」
露伴は、目を見開いて、承太郎さんをみた。

「あの花も、お前の色のように綺麗な色で咲いていた。」
承太郎さんは帽子を深く被る。
露伴は、承太郎さんの話しを真剣に聞く。
「俺は、あの時、緑のひかる花をお前に渡すように、あやつられながら、砕けた心の中で、お前を見ていた。」

「お前を抱き締めたいと思う、感覚、お前に言った言葉、すべて本心からだ。」
「っ」
「あいつに俺の記憶を読む暇はなかったからな。完全に操られてると、あいつに思い込ませた。」
承太郎さんは露伴の方に向いて、話しを、続ける。
「俺の心を保てたのは、もう一人の俺の感情が、残留していたからだ。露伴、お前の心にいるもう一人のお前は、最期に、お前に向けて何かを残していった。そうだろ」
露伴は、はっとする。
「っ、いつから、気づいていたんですか。」
「いや、ただの観察による推測だ。」
「…教えてくれないか。最期にお前に、何を残したのか。」 
露伴は頷くと、自分が気付いた事実を話した。
「…、僕が知ったのは…あいつを倒す方法です。」
「…もう一人の僕は、悔やんでいました。あいつに触れる事さえ出来れば、ヘブンズ・ドアーを封じ、自分に寄生させなくする事が可能になる事、強化されたあいつの能力を利用して自分自身の肉体に文を刻む事で、書き込む事ができると、思いついていたんです。その時は可能性でしかなかったですが、僕が受け継いで、実際に行動しました。」
「そして、もう一つは、…ただの残留思念だったもう一人の僕が、もう一人の承太郎さんの、最期を僕を通して知り、生まれないはずだった感情が生まれました。」
「…でもその感情は声にもならず、消えていくでしょう。僕も、これ以上は言えません。」
「…そうか。なら、お前が再び言葉にできるように、その気持ち、留めておいてくれ。俺は、もう一人の俺たちの魂も、俺達で幸せにしていきたい。」
「…、わ、わかり、ました。」
露伴は、俯きながら答えた。
「露伴、」
承太郎さんは露伴を船の中で逃げ場のない、ここで、露伴の唇にキスする。
「んっ…」
露伴は心がひきつれていく。傷後が痛むように。

苦しい。
それでも、承太郎さんにキスされるたび、なにもかも、心が脱がされていく。

「ん、…は、承太郎さ、」
「露伴、愛してる」

「愛してる…ぜ、永遠にな…。」
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