もう壁はない、お前の心に何が見える


次の日の夕方。ここは砂浜。ホテルの外に露伴はきていた。

露伴は、ビーチパラソルの下の椅子に座っていた。
承太郎さんを待っていた。
寄せては返す波の音がする。
無数の命が蠢くこの広大な海に、露伴は耳を澄ませていた。
命の数だけ、それぞれの道がある。
そして、露伴は人であり、複雑な願いの元、自分の道を選んでいる。
「全て、片付いたら、…」
独りになる。そして、承太郎さんは家族の元に…。
「っ!」
ずきん。
露伴の心は、身勝手に痛む。
だが、
それでいい。
露伴は孤独でいい。

あれだけの愛を承太郎さんに貰えた。

その想いだけで生きていける。
そして、1人、孤高に死んで、いける。

少しの間そうしていたら、
近くから砂浜を歩く音が聞こえる。

「承太郎さん」
承太郎さんがカクテルを露伴に渡す。
「ああ、待たせたな。」
露伴は手の中のカクテルの冷たい感触で、高鳴る心臓を紛らわす。
二人で海を眺める
夕日で赤く、赤く、染まる雲が、とても、綺麗だった。
「……。」
露伴は、椅子にかけたもう片方の手を、
承太郎さんが握るのを感じた。

でも、露伴は承太郎さんを見る事ができない。

心臓が、破裂しそうなくらい、高鳴る。
「っ」
つい、さっき殺した感情が、こんなにも簡単に浮き上がる。
それでも、
露伴の選んだ、結末は変わらない。
変わらせない。

「露伴」

「お前に見せたいものがある。少ししたら、移動するぞ。」
「っ、わかり、まし、」
露伴は繋がられた手が、少しも動かないのに気が付いた。

承太郎さんが、少し力を込めてるのだろう。

「…。」

「…。っ、」
露伴は、もし、と考える。
承太郎さんが、この手を離さないのであれば
、自分は、どう、なってしまうのか。
露伴は鼓動が早く、息も、早くなってしまう。それでも、
露伴は、それでも、全て、振り切り、1人でいかなければならない。 
「…。」
「…。」
露伴は、ただ静かに燃える夕日の中で、身体に宿る、燈火を感じて、いた。

承太郎さんが、露伴を見て、言った。
「露伴、この夕日を、ずっと、覚えててくれ。」
「今、この瞬間、お前の横に居るのは紛れもなく俺だ。だからこそ今、この夕日を記憶しておいてくれ。いつでも俺を思い出せるように。」
露伴は、顔をあげれなかった。  
ただ、その、言葉どおり、今、この時は忘れられない。忘れられなくなった、のだ。
「、っ、」
伏せていた目に。
影がよぎる。
ゆっくりと辺りが暗くなっていく。
「そろそろ移動するぞ。露伴、立てるか。手を貸す。」
「っ、い、いえ。これくらいなら、立て、ますよ。」
「…。そうか。」
そして、二人分の空のカクテルのコップを紙袋に入れ、承太郎さんは、露伴の前を先導した。  
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