もう壁はない、お前の心に何が見える

世界線が途切れ終わりを告げる、露伴は、拳を握りしめた。息を整える間もなく現実へと戻される。
そして…今まで見てきた別の世界線の、露伴の感情が一度に自分の中に現実になる。官能の体験も怪我の痛みも、全てが再現される。
「う、ぐ、…あ、…承太郎さん…っ、おが、、あぐ、あ、…」
露伴は目を開けると、半壊したホテルの片隅に膝をついて、自分を抱えていた。
一歩も、動けない。
震えているしか出来ない。
承太郎さんは戦っていた。
「ああ、露伴先生も起きたようです。どうです。露伴先生。おっと」
「露伴に、触れるな」
男が露伴の所に瞬間移動してきた。触れようとしたところで、承太郎の攻撃が入る。
男に攻撃が当たらない。
「、はは、は、あなたの露伴先生への気持ちは僕がシナリオに書いたんですよ。承太郎。」
「しょせん、偽ものの、愛、なんですよ。それ。ひっ」
承太郎さんの攻撃があたった壁は崩れた。

「だまれ、」

「ひっ、」

「い、いや、…ぼ、僕が優勢なんだ。僕はいつでも露伴先生を殺せるっ!。」

そう言って隠していたナイフを露伴に投げる。
承太郎さんはナイフを止めたが、あいつのシナリオの効力で、ナイフは露伴を狙い続ける。
承太郎さんはナイフを止め続ける。
しかし、どんどん後ろに押される。
「くははっ言ってるでしょう。露伴先生を好きな気持ちは偽ものなんですよ。そこまで守ろうとするのは滑稽ですねえ。」
そう言って、あいつはまた数本のナイフを投げる。
承太郎さんは露伴を守るため避けれず、ナイフが肩や腕に刺さる。
そして露伴に言う。
「露伴、俺を信じろ。」

「っ、じょ、ぐ、う、」
「別の世界線では、お前を守れなかった。だが、この想いが真実だ。愛している。お前に伝える。今だけではない、ずっと、永遠に、…だ…ぜ。」
「じょ、うたろうさ、ん。」
「ぐ、っ」
承太郎は、ナイフにえぐられるが、肉の中にナイフを身体に埋めた。
承太郎は倒れる。
身体のナイフはまだ後ろの露伴を狙うが、承太郎は身体から出ないよう、全てのスタンドの力を使った。
「くははっ滑稽です。偽の恋心を植えつけられ、死んでいくのは。どう、です。」
承太郎の手を踏みつけた。露伴は男に言った
「っ、う、さわ、る、なああっ!!」
「露伴先生、…ひひ、あなたの役目は終わりましたよ。元々、僕はあなたをここで犯そうと思っていたんですよ。恋心を持った承太郎の前で。僕はあなたのストーカーなんですよお。貴方の承太郎への恋心に気がついた時は凄くショックでしたよ。そして、露伴先生のその心やスタンドを利用して、世界を手に入れるのに邪魔な承太郎を殺すことにしたんです。」
男は露伴の顔に触れる。顎をつかみ上にむかせる
「そして、キス。ひひ。露伴先生のキスだけ、シナリオから外し、僕がここで最後に頂こうと思っていたんですよお。」
男は露伴に顔を近づける。
嫌悪が走る。
唇が触れる直前、
露伴は動いた。
尖ったピアスのペン先を耳から引きちぎり、腕に刺し、自分自身の身体にすごい速さで字を刻みこんだ。そしてその血を使い男にも書きこむ。一瞬で書けた。そしてスタンドは男の方に発動していた。
「な、なんだ、なにをしてる。」
男は露伴の腕の字をさっと読む。

岸辺露伴はスタンドの能力をほとぼりがさめるまで消しさる。東方仗助をここにこさせる。
「なんだと、くそっ」
そして男は自分に書かれた文字を見る。
岸辺露伴に寄生したスタンドは力を失う。
「な、、なんだと…!?僕より弱いスタンドでできるわけが!?」
男はスタンドを呼ぶが現れない。
「な、なんだとぉ」
露伴は、男のスタンドによってばらばらにされた世界線の自分が、自分自身として形成されていくのを感じた。
露伴が見てきた、どの世界線の自分も、今の露伴に繋がったのだ。全てが露伴の中にある。

露伴は、素早くうごき、電話を取り、東方仗助に電話する。すでに東方仗助はこちらに向かっているということだった。露伴は承太郎さんに駆け付ける。
承太郎さんはまだ息があった。
「承太郎さんっ承太郎さんっ、もう、大丈夫です!間もなく仗助が来ます!!喋らないでください、承太郎さん。傷が、ナイフが…」
承太郎さんは、声をとどけようと、口を動かすが何も喋れない。
ただ、露伴の手をにぎり、、この上ないくらいの微笑みを口元にのせる。
口の動きだけで伝える。
露伴、俺の、愛を、その目に、刻んで、くれ…
承太郎さんは露伴から目をそらさない。
その言葉には、もう一人の承太郎さんの気持ちが含まれているのだと露伴は、気がつく。
今、露伴にももう一人の自分の気持ちがあるからだ。
露伴は膨らむ気持ちのままに、言葉を紡ぐ。これはその世界線の自分の届かなかった想い、今の露伴の想いより、はっきり強い誓いの言葉だ。露伴は口にする。
「あいして、る。承太郎、ぼくをみて、ぼくはあなただけのものになる。」
露伴は苦しくて、苦しくて、次から次に涙があふれ泣いていた。でもそれは露伴の幸せを感じる涙でもあったのだ。
承太郎は泣いてる露伴を引き寄せ抱きしめる。
「露伴、今お前に会いに逝く。安心させてやる、どこまでも、その目に、魂に刻め。露伴。亅
承太郎さんは撫でていた露伴の頭から頬につたい唇をなぞる。そして露伴を引き寄せ、キスをした。
「ふ、…う、」
唇は冷たい。だが、露伴を離さないように柔らかく食む。何度も、何度も。唇が濡る。二人の唾液が混ざり顎を伝う。
露伴は魂の部分で繋がっている、もう一人の自分が少し、また少し、と癒されるのを感じていく。
氷が溶けるように、溶けた水滴が、二人を濡らす。
そして、程なく、キスはやみ、承太郎さんは目をとじる、自分の中で生き続けるもう一人の自分は承太郎の心の中で、満足気に露伴の頭を撫でるのが見える。

そして、現実の承太郎さんも、同じように行動する。
「じょうたろう、さん?」
「大丈夫だ、露伴。
少しだけ待っててくれ…。」
承太郎さんの体が淡くひかりはじめた、承太郎さんは自分にささったナイフを引き抜く。
承太郎さんの体は元通りになる。傷口が光になる。ふさがっていく。光は承太郎さんの胸の前に集まり、承太郎さんの胸の中に入っていく。そして承太郎さんは何者かと、そのもう一人の自分と通じ合ってるかのように話す。
(この世界線の俺か)
「…ああ。」
承太郎さんは自分の身体に響く声に頷く。
(露伴を、愛してる) 
「…ああ。お前の魂ごと受け継いでやる。安心しろ」

承太郎さんがそう言うと、光が完全に承太郎さんの中へと消えた。
「露伴、」
露伴は呆然と承太郎さんを見ていたが、今自分も何かおかしい。幸せと苦しみしか感じられない。心がもう一人の露伴の感情に支配される。
「…愛している。」
承太郎さんの言葉にびくっと肩をゆらす。露伴は、何も、信じられない。何も、かも闇の中だ。露伴は伝える言葉を探す。
「僕は、…あなたを好きであるのだと思います。でも、分からない。いろんな事がありすぎて…、この感情は、僕のものなのか、僕は、自分が分からない。」
「……今はなにも、考えるな。ただ、俺を感じていろ。亅
承太郎さんは露伴を引き寄せ、胸に抱く。
露伴はもう一人の自分か、それとも今の自分かわからない感情が、せきをきって溢れていくのを感じる。露伴は承太郎にすがるように服を掴む。指が白むまで、握る。
「…う、く、…じょうたろう、さん、ぼく、をみて、ぼくだけを、」

承太郎さんはそんな露伴に、少し微笑みを口に乗せ、露伴の唇に唇を合わせ、キスをする。今度はすこし甘噛した後、キスで口を開かせ、舌を絡める。
少しそうして、また口を離し、体勢をかえる。壁に手をつき露伴を壁と自分の間に挟むと、再びキスをする。

バタン
ドアが勢いよく、ひらく
「承太郎さん大丈夫っですか、、、」
仗助が部屋に入ってきた。
辺りは暗く何か二人の気配を頼りに、仗助は瓦礫を避けて部屋を歩く。
承太郎は瓦礫の死角で、最後に露伴の唇を離し、再び露伴に深くキスして、口の端に微笑みをのせた。露伴の頭を撫でる。
「俺にお前の想い、全て預けろ、露伴。」
苦しそうに、露伴は承太郎さんを見つめ、仗助の近づく気配を感じ、震える手を承太郎さんに差し出す。
「分かり、ました…。」
露伴は、感情が、苦しく、涙が止まらず、掠れた声で言う。今は何も考えず、承太郎さんに任せると決めた。
承太郎さんは、露伴を助けおこし、肩を担ぐ。

「仗助、ここだ。」

「へ!?あ、あ、の俺部屋間違えたかと思いました。」
「いや、仗助、ここで合ってる。…この半壊した部屋を直せるか。それから、そこに震えて座っている雀のスタンド使いを拘束する。」
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