もう壁はない、お前の心に何が見える

そして、場面が暗転する。

露伴は居ない。
現在の露伴は、もう一人の露伴の想いをそのままに、上空を見る。夜の静寂、風に吹きさらされた瓦礫の中、むき出しの鉄骨に二人の人影がある。

承太郎さんがあいつと対峙している。
一瞬一瞬、が危険をはらんでいた。
あいつのスタンドに触れれば後は遠隔操作であいつの思い通りマインドコントロールされて終わる。あいつはスタンドを素早く使い、自分を瞬間移動させる。
全ての攻撃はかわされるが、承太郎さんはそれでも戦い続けている。
そして、あいつが言う。
「なかなか、触らせてくれませんねえ。分からないのですか?僕を、倒すなんて、できませんよお。正直、あなたの相手は疲れました。別の世界線に飛んでもらいましょう…!そこで、貴方は消滅するんだ。ひひ。世界に、同じ存在は存在しないのだから。向こうの世界線の本物の承太郎に吸収され、消滅するがいいっ。…な、なにを、ぶっっっっぐあああ」
「っ」
次の世界線のページを開き、描き加えようと集中するあいつに、承太郎さんの攻撃が一瞬通じた。あいつの能力はみるみると雀のように小さくなった。そして承太郎さんはあいつとその雀ごと開かれた別の世界線へと入る。
「何するんだ離せ離せっ、僕も消滅してしまう。」
「…。黙れ」
「、ひっ」
承太郎さんはそいつを世界線の境界線に落とした。
そして、完全に消えたのを見た。
「ろ、はん、」
承太郎さんはここから出て、露伴のもとにいける方法が、何かないかを探している。
だが何も、ない…。
「ぐっ」
承太郎さんは、透明な壁に伝わせている手を、下ろし、拳を床に叩きつけた。
声にならない叫びを叫び続けている。 

露伴の最期の姿を想う。

あいして、あいして、ぼくを、…ぼくだけをみてじょうた…、



承太郎にも、世界線の境界線が迫ってくる。
消滅する前に承太郎は、この世界線の自分に聞こえるよう、声の限り、大きく、魂の限り力もなにもかも全てを込めたように叫んだ。

この心だけの存在になろうとも、露伴を守る。承太郎は、ただ、それだけの為に、今、声をはり上げる。
露伴が逝った、
己の存在さえ何も為さないと知った。
露伴は光さえ差さない場所にいる。
承太郎はその魂へ繋がるように、全ての想いを込めて言い放つ。
「俺は愛している!!!!俺はお前を求め続けている!!愛を、抜きとられ何もなくなってしまったお前に!!俺は何も出来ないんだぜ!!!!たったひとつ、この想いをっっ!!伝えることも!!!!スタープラチナ、ザ・ワールド!!!!!!何処に、いる、露伴!!!!近くにいるはずだ、聞いて、くれ、愛を、とどかせてくれ!!!」

そして、暗転する。

承太郎さんが居なくなった。

現在の露伴が、もう一人の承太郎さんの想いを知った。
僅かに、露伴は正気に戻った。
頬に涙が伝う。
この世界線の僕らは愛しあっていた。

それを知る事が出来た。

露伴の心にはもう一人の露伴が死んだ時のまま、の心が響き渡っていた。承太郎さんの声に反応している。それは声にもならない、弱々しい声。心は壊れているはずだ。生まれないはずだった感情。
露伴はもう一人の露伴の感情のまま、目を閉じた。
そこに感情があるというだけで、露伴は、少し正気が保てた。

そして次の世界線が迫る。視界が開けて見えてくる。
目の前は杜王町の街の歩道。そこに雀と一緒に立っている男。前の世界線であいつは承太郎さんに触れていた為に、承太郎さんを操る事が出来る。だが力が弱くなり、ずっと操るのは難しい。
スタンドから記憶が流れ、再びこの世界で岸辺露伴の能力に寄生しなければ。とあいつは考える。
そして、わざとらしく露伴との接触をはたした。

そして、あいつは、影に潜む。
今、承太郎を殺す手筈は整えられた。ホテルの建物を、見上げ、にたにたとその時を、待っていた。
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