もう壁はない、お前の心に何が見える

露伴は今、自分のよく知った部屋に立っていた。
重心が不安定になり、目を開けた時に驚いて数歩さがる。辺りの異変に気がついた。
さっきまで、承太郎さんの部屋で露伴は眠っていたはずだ。
「これは…。」
露伴は、薄暗い自分の部屋の中に居た。後ろを振り向く。誰かが部屋のドアから部屋に入って来る音がした。
「!これは、……僕は夢を見ているのか?」
部屋に入ってきたのは自分自身だった。
机に向かって行く。
露伴の事を素通りしていく。
見えていないみたいだった。
デスクに向かい絵を書いて、ペンを手から離した。
「「僕としたことが…、漫画を描く手が止まったのはいつからだ、何が原因なんだ…。」」
「「もう、限界だ。この興奮の仕方は異常だ。」」
そう言って、目の前の露伴は、手紙を書き始めた。
「「僕が気にしているのは、僕が渡した噂が本当かどうかだ。そう…承太郎に会いたいのは、そういうわけだ。」」

その光景を見ている、露伴はある事に気が付いた。過去の自分なのだろうかと思って見ていた。だが、
「承太郎?」
自分は聞き間違えたか。もし、この、露伴が過去の自分なら、露伴は承太郎さんの事を承太郎さんと呼んでいたはずだ。
「う、」
露伴は気持ちが溢れるのを感じた。承太郎さんへの想いが、膨れあが
る。
場面が切り変わった。

かちゃかちゃ、
目の前のテーブルのサラダにフォークをさし、口に持っていく。
もう一人の露伴は、承太郎さんとチェーン店のステーキ屋さんにきていた。

「「…」」
「「…」」
露伴が、ソースを承太郎さんに差し出した時、手が、触れた。
承太郎さんが露伴の手ごとソースを受けとった。
同じだ、と露伴は思った。
その時心臓はドキドキと高鳴り、いっぱいいっぱいだったはずだ。
それを眺めていた露伴も自分の気持ちがまた、同じようにいっぱいいっぱいになって溢れるのを感じた。
それに、この目の前の露伴の言葉は今だ、承太郎さんを承太郎、と呼んでいる。
現実の露伴が目の前の自分達を見て呆然とする中、会話が進む。
「「…どうした?首をふっていたが、不味かったか?」」
「「い、いや、僕は、すきだ。このサラダ、好きだ。」」

「「そうか…うれしいぞ。俺も気に入った。」」
「「済まないがフォークとナイフをとってくれ」」
露伴はドキドキしながら、テーブルにフォークとナイフを置いた。
そして承太郎さんは、露伴の手を引き寄せ、体調について聞く
露伴はいっそう、心臓の音が高鳴る。
この場面を見た現実の露伴は、幸福と動揺した気持ちで溢れる。
露伴は気付いた。
感情を共有している…。
「…これは…。目の前にいるのは僕自身だろう。でもどこか違う僕なのか…。小説なんかに良くあるパラレルワールド、といった所か…。別世界の僕だ。」
そのパラレルワールドの露伴の気持ちが自分に流れてくる。
露伴の心は、今承太郎さんへの想いで溢れていた。
場面が切り変わる。
露伴はここが何処か直ぐ分かった。
あの山道だ。承太郎さんが光る花を僕にくれた場面だ。

「「承太郎、これは…」」

「「そいつはお前がくれた情報から、スタンド使いを仕留めた時、半分はそいつの能力で、作りあげた代物だ。草木を操る能力で、上手くそうなるように仕向けながら戦った。」」
「「仕向けながら…」」
「「ああ、この花を見ることで、お前の漫画が格別になるだろうとな。」」
「「…っ」」

緑色に光輝くこの場所で承太郎さんは、今までにない光景の中、不敵に笑っていた。
「「来い」」
衝撃で声も出せず、別の世界の露伴はゆっくり承太郎さんに近づく。
手を、伸ばす。
手が触れるかと思ったら、抱き込まれていた。
「「準備が整った。お前に見せたいのはこれからだ。上をみろ。」」

「「…?うえ」」
さーと、風が、ふき、葉と葉の間から太陽が、覗く。
こぼれ日が葉が揺れる度に現れる。
そして…
日の光を受け緑の光は、鮮やかなオレンジに変わった。
「「これは…」」
「「どうだ?少しは漫画に使えそうか?」」
「「あ、ああ。僕が全力の力で漫画にしてみせる。」」
「「そうか。」」
承太郎は、露伴の頬に、触れ、ゆびを口唇にすべらせ上を向かせる。
「「露伴、覚えておけ。俺はお前が思ってるほど良いやつじゃない。気取ってるうちはまだ、良い。だが、次は無いと思え。」」
「「…っ…な、あ、あむむ」」
口唇から侵入した指に舌を絡めとられ、露伴は思考ができなくなった。

と、それを見ていた露伴も舌の感覚に異変が起こる。承太郎さんの指を感じる。
「、…な、」
口内を弄ばれぼーと、承太郎さんを見つめる別世界のもう一人の露伴はもう、意識を失いかけているようだ。
それを見てる露伴自身も同じ現象が起きていた。
その時、だ。そいつが現れた。
ぱちパチパチ。
拍手して近づいてくる。
目がぎょろぎょろした小さい男だ。
「露伴先生…!ああ、!とても…良い。僕はあなたのファンなんですよ。そう初対面の時言ったでしょう…?覚えてますよね?」
あの小さい男だった。雀のスタンド使い。
「ん、…、は、」
「ふふふ、どうです。承太郎さんにいじられた口内は気持ち良いですか?」
露伴は何も喋れない。気持ち良いのは承太郎さんだからだ。男に感想を聞かれるのは気持ち悪い。男は飄々としゃべる。
「そう、そう、あなたの承太郎さんは、あなたの漫画を知ってると言ってましたが、ね。
それ、本当、なんでしょうかねえ。」
男は拍手を辞め、にやにやと厭らしく笑う。
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