もう壁はない、お前の心に何が見える

露伴は食事を作って承太郎さんの帰りを待っていた。色んなものが冷蔵庫にあったが、露伴は食パンと、生ハムとカット野菜のレタス、それと調味料も沢山ある中からマヨネーズとマスタードを選んでそれを使ってサンドイッチを作った。他にもエビやツナ等で3種類くらいのサンドイッチを作った。

新聞を読みながらコーヒーを飲み、待っていたら、鍵の音がした。
承太郎さんが帰ってきた。
露伴はコーヒーをテーブルに置いて承太郎さんに挨拶する。
「…承太郎さん、お帰りなさい。」
そう言って露伴は承太郎さんの顔見たところで、すぐに心臓が高鳴り、目をそらし、テーブルのコーヒーを見ながら話した。
「そういえば、その、夕飯作りましたよ。サンドイッチです。冷蔵庫に入ってます。」
露伴は手紙の事にはまだ触れず、夕飯が終わったらきりだそうと思っていた。
承太郎さんは荷物を置いて手洗いなど、しながら露伴に短く答える。
「…ああ。」
「助かる。」
承太郎さんは水道の蛇口を締めて、冷蔵庫からサンドイッチをとりこちらに来る。露伴は音だけ聞いて、承太郎さんに顔を合わせられない。
承太郎さんは、露伴の隣に座る。
「‥すまない。礼を言う。露伴」
承太郎さんはそう言ってサンドイッチの皿を、露伴に差し出す。露伴は顔を背け、しかし承太郎さんの方に身体を向け、俯きながらサンドイッチを手にとる。
承太郎さんは露伴が取ると、自分も取り、皿をテーブルに戻した。

「無理をさせているな。すまない。昨日の夕飯の事は覚えてるか?俺がお前に食べさせたが…。」
露伴はびっくりして、承太郎さんを見る。
その記憶は曖昧で、あれは、夢を見てると思っていた…。
「…はっきりとは覚えてないといったところか。このままでは気になるだろう。俺が帰ると、お前は床に倒れて寝ていた。その後はベットで5時間ほど眠らせたが、起きた時お前は寝ぼけてふらついた…」
「……」
露伴は心臓が脳が追いつかないくらい、ドキドキして、いる。そうだった。昨日は承太郎さんの膝の上で、露伴は口に運ばれてくるスプーンでカレーを食べていた。承太郎さんに食べさせてもらっていた。露伴は時折、カクンっと頭も安定できず、うつらうつら、しながら。
露伴は思い出す。
露伴が起きた時は、ベットの上だった。承太郎さんもその時ベッドに寝ていて露伴は驚いて、立ちあがった。
露伴がよろけて転ぶ寸前で起きた承太郎さんが露伴を抱きとめてくれた。
そして、電気をつけた後、承太郎さんの言った事を全て、露伴は寝ぼけながら、承太郎さんに言われるままに、言いつけを守ったのだ。
「露伴、服を脱げ。身体に異常がないか見る。」
寝ぼけた露伴は言われるまま従った。
「…ん…」
承太郎さんは露伴の背中に指を這わせ、痛みがないか確認する。露伴の声を聞きながら。露伴はたまらず僅かに眉を寄せる。露伴は背中が性感帯だった。少し指で撫でられただけで、肩が跳ねる。脳に甘い痺れを感じる。
「っ…んん…」
そして、最後に承太郎さんは傷の絆創膏を丁寧に剥がす。
「異常はないな…。これなら問題ないだろう。」承太郎さんは新しい絆創膏を取りだし、傷口を消毒して露伴に貼る。
「露伴、これから部屋で飯にするぞ。…まだ寝ぼけてるのか?真っすぐ立てないなら…仕方ない。おぶるぞ。」
そしてふらつく露伴を背中に乗せ部屋を移動する。
承太郎さんは露伴を座らせようとしたが安定しない。椅子から落ちるを繰り返す。
「……………露伴…俺の膝に跨がれ。」
どこか、押し殺した声色だった。
露伴はぼんやりと従う。
そして正面から膝に乗った
「…」
承太郎さんは机から食器を手に取り、露伴に食べさせる。
ホテルのカレーライスだった。
露伴は無防備にも、うたたねしそうになりながら、食べさせられる。時折記憶が飛ぶ。寝てしまっては起きて、そして食べるを繰り返す。
露伴の目はふせられ、スプーンが運ばれてくると、口を開け、ぱくりとスプーンをなかなか離さない。しゃぶるように食べる。たまにスプーンに歯があたるが、露伴はまだ頭がはっきりしない。伏せられた目は虚空をみる。時折水を渡され飲み込む。喉仏が上下する。
そして…食器が空になった。
「露伴…今から、お前を抱く…。」
承太郎さんは露伴の顔を正面に向け、目を合わす。承太郎さんの瞳にも声にも感情がにじみでていた。それは常に冷静に動く承太郎さんには珍しかった。
その瞳に、欲や執着が潜んでいるようにも、傷を負った時のような痛みのようなものが浮かんで、見えた。
まるで押しては返す苦しみや治らない傷のように、何度も押し殺す感情のような、露伴は、垣間見えるその承太郎さんの表情、感情、そのすべてを理解したいとそれだけは意識して肯定していた。

露伴はそれらを思い出して、今、顔が熱くなる。驚いた拍子に承太郎さんの顔を見ていた。
目と目が合う。
今目のまえにいる承太郎さんは優しげな表情をしていた。
「露伴、しっかり食べて寝てくれ。お前が食べ終わるのを見届けたらバスルームにつれてく。歯を磨いたら寝室のベットに案内する。」
「…ええ。…そう、…させて頂きます。承太郎さん、そう、ですね。今度は、僕から話があります。」
「…。ああ。」
「まず、これだけは言っておきたいのです。僕はあなたを知りたくて自分の意思で了承しました。そこに後悔はありません。」
「…。」
「それだけです。承太郎さんも、ゆっくり休んで下さい。」
露伴は表情を緩ませ、少し笑顔を作り、そう言った後、テーブルに向かいサンドイッチを口に含み、ゆっくり食べた。あの手紙のことを聞くのは今ではない。露伴は自分の中にある曖昧なものを切り捨て、端的に確実な自分の想いだけ告げた。それに、さっき話して分かったが、あまり食欲がないのを承太郎さんに見抜かれている。露伴は、食べながら気づかれないように、テーブルを見るようにして、目を伏せ何気ない風を装い、目だけ流し目で承太郎さんの様子を伺う。承太郎さんはこちらを見ていたが、露伴が食べたころに、手にしたサンドイッチを食べ始めた。その後、ゆっくりくつろいでる様子で食べている。
露伴は安心し、口の中のものを飲み下した。
承太郎さんが数枚あるサンドイッチを半分の量を食べ終わって、露伴も頑張って最後のサンドイッチを食べていた。
承太郎さんが言った。
「礼を言わせてくれ。ありがとう。露伴。美味かったぞ。…それからもう食べれないなら、そこまでにするんだ。食べれるだけでいい。」
「…ええ。ではそうさせて頂きます。」
露伴は食べかけのサンドイッチから口を離した。そして承太郎さんは言った通り、露伴を
バスルームへ連れていき、寝室のベットに寝かせた。
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