もう壁はない、お前の心に何が見える

露伴は13時頃に
焼き立てのトーストにバターを塗ったものだけ二口分だけ口にした。
そして、コーヒーをゆっくり飲む。
このコーヒーカップも承太郎さんが普段使ってるものなのだろうかとか、この食器は自前なのか等次々に疑問が浮かぶ。
露伴は食事を食べ終わったら、部屋を見ておこうと考えていた。
コーヒーを置いて立ちあがる。
テーブルの上には地図や、新聞が乗っている。
少し離れた背の低い本棚には、本がまばらに入っていて、どれも海に関係していた。
「…、これは…?」
露伴は背表紙に題名のない本を手にとる。
「……。」
小さなアルバムだ。中には写真が数枚入っている。結婚の写真もある。
露伴は承太郎さんが既婚者だというのは最初のパブで承太郎さん自身から、自己紹介の時に聞いていた。露伴はすでに自分がした事はどう正当化しても、誰かを傷つける事になると考えていた。そして同時に生きてる限りは自分で選び取り、道を歩むしかないということも理解しているつもりだった。
露伴は手を止める。
家族写真だった。
露伴は写真を注意深く見る。裏返したら住所と電話番号がのっていた。おそらく承太郎さんと家族の住所なのだろう。
露伴はノートに書き写した。だが書き写した事に意味はない。
露伴は漫画家としてあらゆる可能性を考え続けてきた。まだ自分が何の役にたつかもわからない。どの情報が何に役にたつのかも分からないのだ。
そして露伴はただ、多くの漫画の登場人物のように、自分の命や人生をかけて、1人の愛しい者の為に尽くす。そうする事で許されるとか許されたいではなく、自分が生きるために…。どう生きるかを……。
露伴は考え、悩みそして、自分の生き方を選んだ。
「僕が選びたい未来は、承太郎さんに選ばれない道だ。それでも僕の心は…求めるのだろう」
露伴は何度考えても、その結論になる。
承太郎さんを愛するだろう。
露伴はアルバムを閉じ棚に直そうとした。しかし、アルバムから紙がおちる。
「…これは…、」
承太郎さんの筆跡だった。ちらっと見えた箇所には露伴の名前が書いてある。
手が震えた。
「…すこし読ませて貰います。」
露伴は読む。

中には、こんな事が書かれていた。
"婆さんには礼を言ってくれ。露伴の好みの服はまた聞いてみる事にする"
露伴は読み終わる。手紙は宛名もない。最後のページ一枚だけだった。投函する前にこの紙だけ入れ忘れたのだろうか。
「……僕の好みの服…?一体何が起きてる?」
露伴は、額を押さえ、思考を巡らせた。
が、承太郎さんに聞いてみるのが早いだろうと、その手紙を元の場所に挟んで、本を閉まった。
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