慕う涙
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自らの弁当を携え、己が主と昼を過ごす。なんとも非現実的なことだろうと思った。
しかし、その非現実と、名無しは今まさに向き合っていた。
あろうことかジルは、自分を昼に誘ったのだ。
ジルの暇つぶしに付き合っている間、数分おきに鳴く名無しの腹の虫を見兼ねたのかもしれない。
主に空腹を悟られたことと、好きな人にぐう、という間抜けな音を聞かれた事実。名無しの羞恥はとどまることを知らない。
目の前に広がる弁当の包み袋がなんとも虚しい。
「お恥ずかしい限りです」
「下賤の者にも恥という高貴な感情があったんだな」
そりゃ悪うございました、と心の中で悪態をつきながら肉団子を口にいれる。
こういうところを直せば、もう少しメイド間の好感度も上がるというのに。
そう思い目の前のジルを見ると、自分とは全く違う食事をとっている。
みずみずしいサラダ、泉のようにさらさらとしているスープ、ほどよい脂ののった肉……。
手元の弁当に目を戻してがっかりした。むしろ、ジルの食事に目を向けなければよかったのだ。
名無しの様子を見たジルは、嫌そうな顔をした。辛気臭い顔をしていると食事が不味くなる、とでも言いたげである。
「……メイドとはいえ、まかない程度は出るだろう」
「料理が好きなんです。まかないに頼るのはなんだか悔しくて……」
でも、こんなにも素晴らしい食事だ。残り物で作られたまかないも、思わず舌鼓を打つ味に違いない。
名無しはメイドになってから初めて、己の料理好きを呪った。
ため息をつき、弁当のおかずに手を伸ばしたとき、別のフォークが目に飛び込んできた。
「ん?」と思い一瞬手を止めると、その隙にフォークはさっと卵焼きをかっさらった。名無しが声を上げて卵焼きの行く末を追ったときには、ジルの口の中であった。
名無しは卵焼きを頬張っていふジルを、ぽかんと見た。
「じ、ジル様……それは私の卵焼き……」
「悪くないね。名無しが作ったにしては」
勝手に食べておきながら上から目線だったが、名無しはそれよりも気になることがあった。
「ジル様……私の名前……」
「それがどうした」
「……何度お教えしても覚えていただけないから、知らないのかと……」
「馬鹿にしてるのか」
名無しはジルの言葉で我に返り、すぐさま頭を下げて謝罪した。
それを見たジルはふん、と鼻で笑った。
「明日から卵焼きを作るなら、許す」
「はあ、シェフに言っておきます」
ジルはむっとした。それを空気で感じ取った名無しが恐る恐る顔を上げて確認すると、やはり機嫌の悪さが顔ににじみ出ていた。
名無しははて、と思い声をかけようとしたが、ジルは不機嫌な声のまま言った。
「お前の卵焼きの話をしているのだ!」
「わ、私ですか?」
そこまで言うと恥ずかしくなったのか、「そうだ」と言ったきり顔を背けて何も言わなくなった。
名無しは驚きもしたが、それよりも嬉しかった。胸のあたりが暖かくなって、幸せな気分になる。
くしゃりと破顔し、小さく笑った。幸せを堪えきれない。
ジルはちらりと名無しの方を見たが、嬉しそうな表情を確認するとまた顔をそらした。
「至上の喜びでございます、ジル様」
しかし、その非現実と、名無しは今まさに向き合っていた。
あろうことかジルは、自分を昼に誘ったのだ。
ジルの暇つぶしに付き合っている間、数分おきに鳴く名無しの腹の虫を見兼ねたのかもしれない。
主に空腹を悟られたことと、好きな人にぐう、という間抜けな音を聞かれた事実。名無しの羞恥はとどまることを知らない。
目の前に広がる弁当の包み袋がなんとも虚しい。
「お恥ずかしい限りです」
「下賤の者にも恥という高貴な感情があったんだな」
そりゃ悪うございました、と心の中で悪態をつきながら肉団子を口にいれる。
こういうところを直せば、もう少しメイド間の好感度も上がるというのに。
そう思い目の前のジルを見ると、自分とは全く違う食事をとっている。
みずみずしいサラダ、泉のようにさらさらとしているスープ、ほどよい脂ののった肉……。
手元の弁当に目を戻してがっかりした。むしろ、ジルの食事に目を向けなければよかったのだ。
名無しの様子を見たジルは、嫌そうな顔をした。辛気臭い顔をしていると食事が不味くなる、とでも言いたげである。
「……メイドとはいえ、まかない程度は出るだろう」
「料理が好きなんです。まかないに頼るのはなんだか悔しくて……」
でも、こんなにも素晴らしい食事だ。残り物で作られたまかないも、思わず舌鼓を打つ味に違いない。
名無しはメイドになってから初めて、己の料理好きを呪った。
ため息をつき、弁当のおかずに手を伸ばしたとき、別のフォークが目に飛び込んできた。
「ん?」と思い一瞬手を止めると、その隙にフォークはさっと卵焼きをかっさらった。名無しが声を上げて卵焼きの行く末を追ったときには、ジルの口の中であった。
名無しは卵焼きを頬張っていふジルを、ぽかんと見た。
「じ、ジル様……それは私の卵焼き……」
「悪くないね。名無しが作ったにしては」
勝手に食べておきながら上から目線だったが、名無しはそれよりも気になることがあった。
「ジル様……私の名前……」
「それがどうした」
「……何度お教えしても覚えていただけないから、知らないのかと……」
「馬鹿にしてるのか」
名無しはジルの言葉で我に返り、すぐさま頭を下げて謝罪した。
それを見たジルはふん、と鼻で笑った。
「明日から卵焼きを作るなら、許す」
「はあ、シェフに言っておきます」
ジルはむっとした。それを空気で感じ取った名無しが恐る恐る顔を上げて確認すると、やはり機嫌の悪さが顔ににじみ出ていた。
名無しははて、と思い声をかけようとしたが、ジルは不機嫌な声のまま言った。
「お前の卵焼きの話をしているのだ!」
「わ、私ですか?」
そこまで言うと恥ずかしくなったのか、「そうだ」と言ったきり顔を背けて何も言わなくなった。
名無しは驚きもしたが、それよりも嬉しかった。胸のあたりが暖かくなって、幸せな気分になる。
くしゃりと破顔し、小さく笑った。幸せを堪えきれない。
ジルはちらりと名無しの方を見たが、嬉しそうな表情を確認するとまた顔をそらした。
「至上の喜びでございます、ジル様」