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何時かきっと、星空の下で

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 二度目の時の川の旅は、どうにか無事に目的としていた「過去」にまで辿り着けた。

 そして数回程「過去」に干渉してみたのだが、その成果は全く芳しくなく……。
 それもあって、最終的にルキナは、名や姿を偽る事無く事情を説明して父と共に戦う様になった。

 そしてそんな父の傍には、あの「未来」でもそうであった様に、ルフレがその『半身』として在って、互いを支えていた。
 しかし……そんなルフレには、「過去」の記憶のその一切が存在しないのだと言う。

 クロムに拾われるよりも前の事を全て喪失してしまったルフレの中には、「マルス」と共に過ごした日々の記憶や『約束』どころか、母であるロビンとの思い出すら存在しないのだ。
 ルフレの記憶がすっかり抜け落ちていたお陰で、再会した時などにその正体を看破される事も無かったのだけれども。
 ……しかし、この寂しさに似た感情は一体何なのか。
 それは、ルキナには分からない。

 十五年前に跳んで、『聖戦』の残虐性を少し垣間見て。
 そして幼い日のルフレとそして母のロビンと共に過ごし旅をした事は、ルキナは誰にも話していない。
 このまま、あの日々は……彼と過ごした時間は、ルキナの記憶の中だけのモノになってしまうのだろうか? 
 それは分からないけれど……。もしそうであるならばそれは、ルキナにとっては少しばかり寂しい事の様に思えた。


 そして、当人がそれを忘れてしまっている以上はその『約束』を履行する必要は無いのだけれども。
 今でも時折、ルキナは独りの時などに、あの歌を口遊む様に歌う事がよくある。
 もう今は遠い『彼』や、あの日々の事を、忘れない様に。
 それはルキナにとって静かで穏やかな時間の一つであった。

 手を伸ばせば星々を手に掴めてしまいそうな程の満天の星空を見上げ、ルキナはまた口遊む様にあの歌を歌っていた。
 すると、誰も聞いていなかった筈の場に、小さな拍手の音が辺りに響く。

 一体誰が? と。ルキナが周りを見渡すと。
 そこに居たのはルフレだった。


「歌が凄く上手だね、ルキナは。
 思わずこっそり聴いちゃったよ」


 そう言いながら何故だか嬉しそうに笑って、そして同時に。
 何故か少し不思議そうな顔をした。


「でも何でなんだろう……記憶には無いんだけれど、何故だかさっきルキナが歌っていたあの歌……何だか懐かしいなって思うんだ。
 記憶を喪う前の僕がよく聴いていたのかな?」

「それは……」


 言うべきなのだろうか。
 もう記憶にない、戻るかも分からないあの日々の事を。
 あの日の『約束』を……。
 ……だが、結局ルキナは口を閉ざす事に決めた。


「この歌は昔、未来の『ルフレ』さんが、幼い私によく歌ってくれた歌だったんです」

「そうだったんだ。ルキナにとって思い出の歌なんだね。
『未来』の僕には、記憶はあったのかな……。
 僕が懐かしさを感じるのもそれが原因だったりしてね」


 そう言いながらルフレは、ふと自分が何故か静かに涙を零している事に気が付いた。
 その涙に全く心当りが無いのか、ルフレはその涙を拭いながらも不思議そうな顔をして首を傾げる。


「あれ、不思議だな……何で僕は泣いているんだろう。
 全然悲しくなんてないし、寧ろ何だか物凄く嬉しいのに。
 何でだろうね……僕にも全然分からないんだけど……。
 ……有難う、ルキナ。「約束」を守ってくれて…………。
 あれ、『約束』……? 何のだろう……。
 でも何でなのかな……。どうしてかは分からないんだけれど。
 僕は君に、ちゃんとお礼を言いたいんだ……」 


 そう言いながら嬉しそうに微笑んだその表情に。
 幼い日の彼の面影が、そこに重なったのであった……。



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