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Found Me

◇◇◇◇◇





 怪物の姿が炎の中に消え、クマに似た姿の『シャドウ』だけが後に残った。
 ペラペラになったクマは、器用にもその状態で歩き、『シャドウ』へと向き合う。

「クマ……クマは、自分が何者か分からないクマ……」

『シャドウ』は、何も言わずにクマの言葉に耳を傾ける。

「ひょっとしたら、答え無いのかも……。
 なんて、確かに時々、そんな気もしたクマ……。
 だけどクマは、今ココにいるクマよ……。
 クマは、ココで生きてるクマよ……」

 己の心中を、クマはそう吐露した。

 自分が何者なのか、分からない。
 答えなんて、無いかも知れない。
 だけど、自分は今ここに生きている。
 ……それだって、立派な一つの答えだ。
 だから……。

「見付かるよ」

 迷わずにクマにそう答えた。

「センセイ……。
 ホントに、見付かるクマか……?」

 見上げてくるクマに、一つ頷く。
 クマの疑念通りに、《《今のクマに》》“答え”など無いのだとしても。
 それならば、今からその“答え”を、クマが胸を張ってこれが“自分”なのだと思える何かを作っていけば良い。
 “自分”なんて、生まれた瞬間から存在するのではなく、成長していく過程で育まれていくものなのだから。

「必ず、見付かる。
 クマは一人じゃない。
 私が……皆が居る。
 だから、一緒に探していこう。
 クマの“答え”っていうヤツを」

 そう微笑みながら言うと、クマは感極まったかの様に目に大粒の滴を浮かべながら訊ねてくる。

「クマはもう……一人で悩まなくても、良いクマか……?」

 それにクマ以外の全員で深く頷いた。

「そんなに深く悩む前にさ、誰かに相談してみりゃ良かったんだよ。
 ま、こーなる前に気付いてやれなかったってのはあっからな。
 しゃーねーし、一緒に探してやるよ」

 仕方が無い、等と口では良いながらも、花村は真剣な目で笑って頷く。

「あったりめーだろ、水臭ぇ事言いやがって」

 巽くんは、ヘッと笑って言う。

「そうだよ、クマくんは仲間じゃん!」

 里中さんは、クマを元気付ける様に笑みを浮かべる。

「この世界の事を探っていくうちに、クマさんの事も、きっと分かると思う」

 天城さんも、優しい顔でそう答えて頷く。
 クマは皆の言葉に、まるでダムが決壊したかの様に、滂沱と涙を溢す。

「……み、みんな……!
 クマは……クマは……。
 クマは果報者クマね……。
 およよよよ……」

 クマのそんな様を見て、『シャドウ』は何も言わずにゆっくりと目を閉じて、青い光に包まれながら、ペルソナへと変じて行き、やがて一枚のカードとなってクマの元へと舞い降りた。

「これ、クマの……ペルソナ?」

 まだ涙を浮かべながらも、クマは驚いた様に言葉を溢す。
 久慈川さんが微笑みながら、そうだと頷いた。

「それ……すごい力、感じるよ……。
 よかったね、クマさん……」

 そして、その直後に。
 力が抜けたかの様に久慈川さんはその場に崩れ落ち、それを咄嗟に支えた。

「大丈夫か、久慈川さん!?」

 慌てて声をかけると、久慈川さんは弱々しく頷く。
 不味い、大分消耗している様だ。

「そうだよ、イキナリ戦闘だったもんね……。
 ゴメン、無理させて……。
 イキナリこんな所に放り込まれて、すんごい疲れてたのに……」

 里中さんは申し訳なさそうに、そう謝った。
 だが、それには久慈川さんは首を横に振る。
 戦いに参加したのは、久慈川さん自身の意志だったのだから、と。
 ……今はとにかく、一刻も早くこの世界から出た方が良いだろう。




◇◇◇◇◇




 久慈川さんを自分が背負い、クマは巽くんに任せて、何時もの広場まで戻ってきた。

「りせちゃん、大丈夫? 
 もうちょっとで外だからね?」

 天城さんが気遣わし気にそう声をかけると、久慈川さんはコクりと頷くが、クマの方へと心配そうな視線を向けた。
 回復魔法をかけても、クマはペラペラのままだった。
 クマの身体には詳しくないが、この状態は良くは無いだろう。
 クマが心配なのは、自分達も同じである。

「……お前、大丈夫か? 
 オレら、戻んなきゃなんねえけど……」

 心配そうにそう巽くんが声をかけると、クマは何かの決意を感じさせる目で、暫く一人にして欲しい、と答える。

「自慢の毛並みも、カサカサでボロボロだし。
 鼻も利かんで、皆に迷惑をお掛けしてるし……。
 だから……」

 と、突然クマは広場の床に寝転んで、唐突に腹筋トレーニングを始める。

「毛が生え変わるまで、トレーニングにハゲしく励むクマ! 
 誰も、オラを止める事は出来ね! 
 あ、ソーレ!」

 唐突な出来事に、皆呆然とする。
 そんな中、比較的早くに復帰した花村が、何事かとクマに訊ねても。

「話し、かけ、ないで、欲しい、クマッ!!
 あ、ソーレ! ふんっ! ふんっ!
 あ、ソーレ! ふんっ! ふんっ!」

 熱い気持ちを感じさせる目のまま、クマは淡々と腹筋に励み続ける。
 どうしたものか、と皆が視線を行き交わしていると。
 巽くんが、そっとしておこう、と言い出した。

「男には、一人で越えなきゃなんねえ時が、あるもんなんだよ……」

 ……巽くんには、何か伝わった様だ。
 そんなハイブローな話なのかと里中さんは首を傾げたが、クマが腹筋を止める気配が無い以上は、放っておくしか出来ない。
 ……クマなりに、色々と思っての行動なのだろう。
 ならば、自分はそれを見守るまでだ。

 何はともあれ、久慈川さんは一刻も早く休ませなければならない。
 丸久さんまでは、里中さんと天城さんが送っていく事になった。
 里中さんは、クマにエールを送ってから、天城さんと共に久慈川さんを連れて向こうへと戻る。
 花村と巽くんも、それに続いた。
 自分も、クマにエールを送ってから向こうへ帰ろうとした所、トレーニングを続けるクマに呼び止められる。

「前にも、言った、けど、センセイの、力には、どこか、特別な、ものを、感じる、クマよ!」

 腹筋を止めない為、妙なリズムであるが、クマはそう言う。
 特別……。
『ワイルド』の力の事だろうか……。
 それとも、クマにしか……この世界の住人にしか分からない何かなのだろうか……?

「きっと、クマにも、クマだけの、役目が、ある!
 センセイと、いると、そんな、気が、する、クマ!
 だから、それを、探す、ために、強く、なる、クマ!
 クマーッ!」

 クマの燃える様な瞳を見て、一つ頷いた。
 クマだけの役目……。
 それが何かは分からないが、あるのだとしたら、それを見付けられた時、きっとクマの“答え”にも繋がる筈だ。
 クマは“己”と向き合い、『ペルソナ』を得た。
 ならば、探していけば、その役目とやらも見付かるかもしれない。

「そうか。……きっと、見付かるよ」

 腹筋を続けるクマに一つ微笑んでから、向こうの世界へと帰還した。




……
…………
………………
……………………
▲▽▲▽▲▽





 向こうの世界から帰還すると、もう夕刻と言うよりは夜に近い時間帯であった。
 早く帰って、夕飯の支度をしなくては……。
 そう思いながらジュネスで食材を買っていると、メールが入った。
 叔父さんのケータイからなのだが……どうやら送り主は足立さんからの様だ。
 何やら叔父さんたちは二人で飲んでいるらしく、夕食は多分要らないであろうという事と、叔父さんは足立さんが家まで連れて帰ってくれるがベロンベロンに酔っているであろう、という主旨の事が書かれていた。

 ……何があったかは知らないが……。
 取り敢えず、明日の朝食は二日酔い対策のご飯にしておこう。
 足立さんも酔っているだろうから、泊めていった方が良いかもしれない。
 朝食は足立さんの分も用意するとして、足立さんが泊まる用意もしておこう。





◇◇◇◇◇





 菜々子と二人で夕飯を食べ終え、叔父さんの部屋に布団を敷いてその帰りを待っていると、玄関が開く音がした。

「かえってきた!」

 菜々子に頷いて、玄関まで出迎えに行くと。
 足元が覚束無くなる程に酔った叔父さんと、それに肩を貸している足立さんが立っている。

「叔父さん、お帰りなさい。
 お布団はもう敷いてるんで、何時でも寝れますよ。
 足立さん、叔父さんを連れ帰ってくれて、有難うございます。
 足立さんも酔っている様なので、良かったら泊まっていって下さい」

 そう声を掛けると、足立さんは酔っている赤い顔を上げた。

「えっ? ああ、悪いねぇ、悠希ちゃん。
 て、あ! ホラ堂島さん、前、危ないですよ!」

 足立さんがそう警告するも、酔った叔父さんは三和土の段差に蹴っ躓いた。
 足立さんを巻き込んで膝を付きそうになった所を、慌てて支えると、物凄いアルコールの臭いが鼻に付く。
 叔父さんの様子を見ても分かるが、これはかなり呑んできた様だ。

「いって! あー、悠希ぃ、すまんなぁ。
 ……ったく、誰だ!
 こんなとこに段作ったヤツぁ」

「大工ですよ。
 てか家にツッコんでないで、ほら。
 あ、悠希ちゃんありがとうね」

 かなり呂律が回っていない叔父さんに対して、足立さんは一応ハッキリしている。
 あまり呑んでいないのか、単純に叔父さんよりもアルコールに強いのだろう。
 足立さんと二人で叔父さんに肩を貸して、居間まで連れていった。

「おーおー、帰ったぞぉー。
 菜々子ただいまぁ、ただいまなぁ」

「お、おかえり……」

 居間で自分を出迎えた菜々子に、叔父さんは酔った人特有のテンションでそう声を上げる。
 それに引き気味に菜々子は返事を返した。
 そのままソファーまで連れていき、そこに叔父さんを座らせると、ぐでーとなってしまった。

「ふー、やれやれ……。
 いくらなんでも飲みすぎだよ、ハハ」

「これが……ヒック!
 飲まないで…やってられるかってんだ!
 ったく、あのガキ偉そうに……」

 叔父さんの様子を見て苦笑いした足立さんに、ソファーに体重を預けながらも叔父さんはそんな抗議の声を上げた。
 叔父さんのネクタイや上着を回収しつつ、“ガキ”と言う言葉に首を傾げる。

「こっちぁな……こっちぁ、オメーらがランドセルだった時分から……このショーバイやってんだ!」

 何故か叔父さんの視線がこちらに向いていた。
 ……何か自分が仕出かしてしまったのだろうか?
 そんな心当たりは無いが……。

 自分が不思議そうな顔をしていたからか、足立さんが苦笑いを浮かべながら説明してくれた。

「実は、県警から"特別捜査協力員"ってのが送り込まれて来たんだよ。
 いやほら、4月からの連続殺人に、あんまり進展が無いからさ……はは。
 で、その協力員ってのが、名の知れた私立探偵事務所のエースらしいんだけどさ。
 会ってビックリ、君くらいの子供なんだよ!
 頭はやたら切れるって話だけど……」

 ……成る程。
 察するに、その"特別捜査協力員"に捜査に口出しされたりして苛立っていたのだろう。
 こちらに視線が向いていたのは、似た様な年頃だから、か。
 しかし、高校生位の年頃で、"特別捜査協力員"として呼ばれるとは、凄まじい人も居たものだ。
 これぞ、ホンモノの“高校生探偵”というヤツなのだろう。
 コナンくんしかり、金田一少年しかり。
 創作物の中で位にしかお目にかかれない存在だ。
 純粋に、凄いなという感想しか浮かんでこない。

 こちらが、その会った事は無いだろうその"特別捜査協力員"に感心していると。
 足立さんの言葉で思い出したのか、叔父さんは苛立ちを顕にした声で愚痴を溢す。

「ただのガキだろ、あんなの。
 役に立つワケねーよ、ヒック。
 やれ推理、推理、推理……ケッ。
 エースだかなんだか知らんが、ガキの遊びに付き合わされる身にも、なりやがれってんだ……。
 バカにしやがって……ヒック」

 そんな叔父さんの言葉を、困った様な表情を見せながら、足立さんは補足した。

「……その彼ね、『難事件を解く力になれれば報酬は要らない』なんて言っちゃっててさ。
 おかげで上がすっかり気に入っちゃって、僕らも断れなくて……」

「足立ッ!」

 そう嘆息しつつ、ペラペラと内部情報を洩らす足立さんに、叔父さんの叱責が飛んだ。
 どうやら、その"特別捜査協力員"がやって来たのは、足立さんがあの久慈川さんを盗撮しようとしていたストーカー紛いの変質者的なファンを、誘拐未遂犯として引っ張っていってしまったかららしい。
 …………。

 言うだけ言って叔父さんは寝落ちしてしまう。
 そんな叔父さんを布団まで運んでから居間に戻ると、足立さんもややウトウトとし始めていた。
 泊まっていくか再度訊ねると、足立さんはコクりと頷く。
 足立さん用に、居間の卓袱台を動かし布団をそこに敷いた。
 そして、用意していた寝間着代わりの服を渡し、上着等を回収する。
 明日また着ていくだろうから、アイロンがけ等を行っておくつもりだ。

 洗濯物を洗濯機に放り込んでから居間に戻ってくると、足立さんも寝息を立てている。

「……おさけくさいね……」

 ポツリと呟かれた菜々子の言葉に、全力で頷いた。






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