このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

何時かきっと、星空の下で

◆◆◆◆◆




 それはもう今となっては遠い遠い昔の話。
 記憶の底に朧気に残る、幼き日々の事。
 まるで自身の原風景であるかの様に、ルキナの心の奥深くに静かに刻まれてる「幸せ」の記憶……。

 父が居て、母が居て、……両親から無償の愛を目一杯に一身に受けて……全てが満ち足りていた。
 何も欠ける事など無く、この世界はずっと永遠に続いていくのだと、そう無邪気に信じていたあの頃。
 そこには、『あの人』も、確かに其処に居た。

 優しい人、穏やかな人。何時も見守ってくれていた人。
 忙しい両親と同じか、もしくはそれ以上に忙しい人だったのだけれども……『あの人』はとても優しかった。
 本を呼んで欲しいとねだれば、何時だって優しく微笑んで膝に乗せて、柔らかな声で読み聞かせてくれた。
 おままごとに付き合って欲しいとねだれば、どんな役だって笑って引き受けてくれた。
 木登りをして降りれなくなった時も助けてくれた。
 危ない事をしそうな時は、決して無理には止めなかったけれど、何時だって目を離さずに見守ってくれていた。
 両親と同じ位、きっと『あの人』からは沢山の「愛」や「幸せ」を溢れそうな程に受け取っていた。
 そしてその何れもが、今でもキラキラと温かな輝きと共に記憶の片隅で煌めいていて……それにどうしてだか胸が締め付けられる様な想いを……郷愁とも望郷ともつかない、鼻の奥がツンとなる様な想いを感じるのだ……。


 記憶の片隅の中から、今でも時折思い出す歌がある。
 それは『あの人』が時折、寝付けなくなってしまった夜に、そっと口遊む様に歌ってくれた子守唄。

 かつて幼き頃の彼が母親に歌って貰っていたのだと言うその子守唄は、母や父が歌ってくれるそれとはまた違ったモノだったけれど。幼子の眠りを見守る為の優しいその歌がとても好きで、それを聴きながら眠ると、どんな夜でも、とても優しくて温かな夢を見る事が出来た。
 その子守唄を歌ってくれた『あの人』は、もう居ない。

 それでも、時々思い出し、途切れ途切れに口ずさむ。
『あの人』の事を忘れない様に、その姿を思い描きながら。
 それは小さな小さな、「幸せ」の欠片だった。




◇◇◇◇◇
1/10ページ