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冒涜の聖餐

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 ── 一体どれ程の時間が経ったのだろう……。


 鉄格子の外から漏れる様に届く、壁に設けられた灯りの小さな頼りない光以外に光源の無い、薄暗い部屋。
 その冷たい石畳の上に手足を戒められた状態でルフレは転がされていた。
 ここに閉じ込められた最初の内こそどうにかしてここから逃げ出そうと足掻いてはみたのだが、手足を戒める枷を壊す事もそこから逃れる事も出来ず。誰かがここを開ける事があるのならその隙を狙おうとしても、そもそもルフレがここに閉じ込められた状態で目覚めてからはここに訪れる者など誰も居ない。
 時間の流れを計るものが何も無い中で、時間の経過を示すのは、咽の渇きと次第に強くなっていく空腹感だけ。
 空腹感は次第に飢餓感とも呼べるものになり、耐え難い程にルフレの身と思考を蝕んでいく。
 そんな苦しみの中でも、ルフレが考え続けるのは、ただ一人の事だった。


『炎の紋章』を完成させる為に『黒炎』を求めペレジアを訪れて。そしてペレジア国王との謁見に臨んだ……筈だった。

 しかし、謁見の間に向かったその後の記憶が無い。
 気付けばルフレはここに閉じ込められていたのだ。

 ……今回の『黒炎』の件がペレジアの罠である事は当然ルフレ達は想定し、その為の備えも警戒もしていたのだが。
 それでも、防げなかったのだろうか。
 周囲には誰の気配も無く。あの場にルフレも共に居たクロムがどうなったのか、それを知る術は無い。
 どうか、彼だけは無事であってくれれば良いのだけれど。
 彼がもし囚われの身となっているのならば何をしてでも助け出したいしそうせねばならぬが、しかしルフレ自身こうして囚われ何も出来ずただ助けを待つしか無い身だ。

 果たして、助けは来るのだろうか。
 来たとして、ルフレの命がある内に間に合うだろうか。
 耐え難い飢餓の中でそんな事をぼんやりと思うが、ルフレにとっては自分の命など然程重要な事では無い。
 クロムが生きてくれさえいればそれで良いのだから。

 ……自分がこのまま命を落としたら、クロムは悲しんでくれるのだろうか。……クロムを悲しませる事はルフレの望みでは無いが、そうだったら良いな、と。そうも思ってしまう。

 ぼんやりとした思考の中で、ルフレが自分の命の終わりを静かに見詰めていると。
 急に、扉が軋む音と共に部屋に光が差し込んだ。

 薄暗がりに慣れたルフレの目にその光は眩しくて、思わず目を眇めてしまう。
 だから、部屋に入ってきて鉄格子の鍵を外してそれを開けたその者が一体どんな者なのか、ルフレには分からなかった。
 ぼんやりとした人影が動いている事しか分からない。

 その何者かは、鉄格子を開けたばかりか、ルフレの手足を戒めていた枷を外す。
 だが、既に飢餓と渇きに衰弱していたルフレは逃げ出そうと抵抗する事も難しく。ただされるがままになるしかなかった。



「いやはやすまないね、少し準備に手間取ってしまったんだ。
 ただまあ……『空腹は最高のスパイス』だと、君たちは
よく言うだろう?
 これからの特別な晩餐の為に、最高の状態だね」


 何処かで聞き覚えがあるその声をぼんやりと聞きながら。
 既に限界であったルフレの意識は、闇に閉ざされていった。




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