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本当の“家族”

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【2011/06/17】


 朝御飯と昼御飯のお弁当、そして叔父さんと菜々子の晩御飯を作ってから、早目に家を出て、現地の集合場所である、山間のキャンプ場へと向かった。


 内容が内容だけにか仮病等を使って不参加する人が多いと聞く行事なのだが、想定以上に欠席者が多い。
 どうやら半数近い欠席者が出ている。
 更に、ここから途中離脱者が出る事もあるそうだ。

 今夜の就寝用に割り当てられたテントは、大きな八人以上の大人数用であるにも関わらず、自分と里中さんと天城さん……それと班は違うが大谷さんの四人しか、初めから人が居ない。
 それは花村の方も同じらしく、あちらに至ってはテントに自分一人しかいないのだそうだ(尤もこれは他の生徒は仮病で不参加なだけだからだが)。
 途中で巽くんが自分のテントを抜け出して、花村のテントにお邪魔しに来る予定らしいが。
 まあ、広々とテントを使えるのは、ありがたい事である。


 女子は途中で清掃作業を切り上げて夕食作りに回されるとは言えども、それまでは男子たちと混じってゴミ拾いを行う。
 学年毎に大雑把に担当する清掃エリアが決まっていて、そこから更に班毎に別れるのだが、まあ厳密という程には決まっていない為、応援と称して班の持ち場を離れて他の班の所へ行く人も多い。
 自分たちの班が指示されたエリアは林道から少し外れた場所なのだが、誰が捨てに来たのかは知らないが、冷蔵庫やテレビ、タンスなどの大型の粗大ゴミが不法投棄されていた。
 これは、かなりの力仕事になりそうだ。
 里中さんと天城さんは、近くを通るハイキングコース脇の林に大量に投棄されている缶やペットボトルの回収を手伝いに行った。
 そして二人が向こうに行ったのと入れ違いに、一条と長瀬がやって来る。

「おーっす、鳴上に花村。
 応援に来たぜ。こりゃ二人じゃ厳しいだろうしな」

「ありがとう、一条、長瀬。
 じゃあ、あのテレビをお願い出来るか?
 私はこの冷蔵庫を運ぶから。
 花村は、あの割れたテーブルを頼む」

 古めのブラウン管テレビだがかなり大型で重たそうなモノを応援に来てくれた二人に任せ、花村には半分に割れているテーブルを、そして自分は冷蔵庫を運ぶ。
 中身は空だし、冷蔵庫としては中型のモノだから見た目程には大して重くはない。
 これ位なら、一人で運べる。

 ゴミを荷台に積み、そしてまた粗大ゴミを拾う。
 そんな事を繰り返す途中で、巽くんもやって来た。
 どうやら巽くんは色んなエリアをウロウロとしながら、力仕事になりそうな所に加勢していた様だ。

 以前の練習試合に助っ人として呼んでいた事もあって、一条と長瀬ともかなり早く打ち解けて一緒に粗大ゴミを片付ける。

 そのエリアに投棄されていた粗大ゴミを粗方回収した頃には荷車が一杯になっていて、更には女子が夕食作りに回される時間にも近付いてきていた。




◇◇◇◇◇




 炊事場で再び合流した里中さんと天城さんには、主に火の調節をやって貰う事にする。
 種火は既に起こしたから、後は適宜薪を投入するだけのお仕事である。
 時間短縮の為に持参した無洗米を素早く飯盒に入れ、火に掛けた。
 この時間から炊き始めたら、目論見通りにかなり早目に炊き上がるだろう。

 野菜の下ごしらえも終え、鍋を火に掛ける。
 そんなこんなで、順調に調理は進んでいった。




◇◇◇◇◇




 そろそろ出来上がる、という頃合いで男子たちも清掃を終えて炊事場脇に設置されたテーブルに集まってきていた。
 多くの班がカレーを選択した様で、あちらこちらからカレーの良い匂いが漂ってきている。
 途中で、班員に夕飯作りを放棄されてしまったらしい一条と長瀬に応援を頼まれて、急遽カレーを作ったというアクシデントはあったが、概ね問題なく夕飯は出来あがった様だ。
 料理から目を離した隙に里中さんと天城さんがアレンジという名の何かを行う可能性はあったが、前回のカレー対決での『物体X』にはそれなりにちゃんと反省していた様なので、それは大丈夫だろう、多分。


「はい、お待たせ」

 皿をテーブルまで運ぶと、花村と巽くんは「待ってました」とばかりに目を輝かせた。

「おおーっ!
 鳴上の作った飯とか、絶対に絶品だよな!
 俺、マジで楽しみにしてたんだ!」

「カレーにはしなかったんスね」

「日曜日に食べたばかりだし、カレー以外にした方が他の班の分と交換した時に楽しめるだろうと思って」

 するかどうかは知らないが、他の班と交換したりする可能性も視野に入れての選択である。
 成る程な、と花村は頷き、「そんじゃ」とスプーンを手に取った。

「「いただきまーっすっ!」」

 花村と巽くんはそう手を合わせてから、豪快に料理を掻き込んだ。
 里中さんと天城さんも、それに続いて食べ始める。
 そして、全員の顔がパアァッと輝いた。
 どうやらみんなの口に合った様で何よりだ。

「うっ……めーーっ!!
 何だコレ、ホント旨い……!」

「野菜と肉の旨味がしっかり出てるっス……」

「これはラタトゥイユって言うフランス南部の野菜の煮込み料理。
 入れる野菜は主に夏野菜だけど、それ以外も自由に入れれるし、キャンプみたいな竈でも作り易い」

 フランスの刑務所で出される事も多い料理の為、“粗末な料理”という実に不名誉なイメージもあるラタトゥイユだが、ちゃんと新鮮な材料を使って手間を掛けると、プロヴァンス地方の名物料理として恥じないモノになる。
 今回は肉を愛する里中さんの為に鶏肉も入れた。

「このお肉……! 堪りませんなー……!」

 里中さんには肉を多目によそったのだが、物凄い勢いで食べている為もう殆ど皿には残ってない。

「で、こっちは……焼きおにぎりだよな?」

「それは醤油味のヤツ。
 こっちは味噌味で、バター醤油とかもある」

 無洗米を使って米を研ぐ手間を省略した事で、米が早目に炊き上がったので、焼きおにぎりにも少し手間を掛ける時間が出来た。
 味も色々取り揃えてある。

「中までしっかり味が付いてるね。
 本当に美味しい」

 食欲をそそる焼き色が付いた焼おにぎり(醤油)を囓って、天城さんも染々と頷く。

「デザートには、莓白玉を用意してる。
 莓ソースは家で作ってきたヤツだから、ちょっと味が落ちてるかもしれないけど」

「いやいや問題ねーよ。
 至れり尽くせりだよな、マジで」

 そう言った花村の言葉に、全員が頷いたのだった。



 花村と里中さんと巽くんがラタトゥイユのお代わりをよそいに行った辺りで、一条と長瀬もやって来た。
 手には、カレーの皿も持っている。

「鳴上、カレー作ってくれてマジで助かった。
 サンキュな!」

「えっ、何お前……一条たちの班の夕飯も作ってたのか?」

 一条の言葉に、花村は驚いてこちらを見た。
 そうだ、と頷く。

「オレの所も長瀬の所も、班の奴らが逃げちゃってさ。
 二人して材料の山を前にして途方に暮れていた訳。
 で、ダメ元で鳴上にヘルプをお願いしたら、もの凄い勢いで作ってくれて。
 マジ助かったわ」

「鳴上が居なかったら、飯抜きになっていたかもしれない」

「まあ材料は揃っていたし……、一条も長瀬も材料切ったり炒めたりするのは手伝ってくれたから、そう手間でも無かったよ」

 二人とも料理はマトモにした事は無いと言う話だが、少なくとも指示した通りには切ったり炒めたりしてくれるし、途中で変なアレンジを加える事も無かった。
 その点は、里中さんと天城さんよりも遥かに戦力になる。
 一条の班は恐らくはチキンカレーを、長瀬の班はイカと海老のシーフードカレーを作ろうとしていた様で、どちらのカレーにするかは少し迷ったが、チキンがかなり多目に用意されていたのもあって、野菜とチキンのカレーにする事にした。
 カレーには入れなかったシーフードも、同じくカレーには使わなかったピーマン等の野菜と、何故か用意されていた卵と共に炒め物にしてある。
 凡そ八人前近い量だったのだが、そこは運動部男子の胃袋的には何の問題もあるまい。
 事実、二人のお気に召した味だった様で、二人は何度もお代わりしたらしい。

 一条たちの所のカレーと、ラタトゥイユや焼おにぎりを交換したりして楽しい夕飯の時間を過ごした…………。





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