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本当の“家族”

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【2011/06/06】


 今日は、天城さんに頼まれて、買い物に付き合う事にした。

 行き先はジュネスなのだが、ペンやルーズリーフは兎も角、勉強机や蛍光スタンドなど、大分色々と買いたいらしい。
 しかし、そんなに買っても持って帰られるのだろうか。
 そして、それらを何に使うのだろう。
 フードコートで休憩しながら訊ねてみると、天城さんは気合いの入った顔で教えてくれた。

「あのね、資格の勉強を、本格的に始めてみようと思って!
 ……取り敢えず、どれが良いとかまだあんまり分からないから、取れそうなのを手当たり次第にやってみようかなって。
 前に鳴上さんに教えて貰った翻訳のアルバイト、こっそりやっててお金も少しだけど貯まってきたんだ」

「そうか、天城さん、頑張っているんだな。
 資格か……。
 スタンダードだけど、『簿記』の資格とかどうかな。
 一級とか取れたら、大分生計を立てるのにも役に立つと思うよ」

「『簿記』か……。
 うん、考えてみるね」

 二人でオススメの資格などについて話していると、何やら胡散臭そうな男達が三人程連れ立ってやって来た。

「あれぇ? 天城屋旅館の、女将さんじゃないですか。
 あっ、違った。次期、女将さんかぁ」

 特に胡散臭いスーツ姿の男がニヤニヤしながら話し掛けてくる。

「……まだいらっしゃったんですね」

 天城さんの応対にかなりの棘がある。
 ……知っている相手なのだろうか?

「だって、ここバスも電車も、全っ然来ないからさぁ。
 ほーんと、田舎だよねぇ、稲羽って。
 そうなると、ここいらでやれる事なーんも無くってさ。
 ほんと、田舎って嫌だねぇ」

 じゃあ来るなよ、と心の中で返した。
 そんな言葉は、実際にそこに住んでいる相手に向けるべき言葉では無い。
 こういうゲスな人ってやっぱり居るんだな……、と思う。

「……そうは思いませんけど」

 天城さんが内心苛立った様に返すと、スーツ姿の男は嘲笑う様に顔を歪める。

「オイシイ話に乗らないってのも、田舎の特徴かなぁ? あはは~」

 バカにした様に笑った後、胡散臭い人達は去っていった。
 ……天城さんが説明してくれた所によると、何処かのテレビ局の取材班らしい。
 天城屋旅館の取材を申し込みに来たのだとか……。
 取材させて貰う方の態度としては有り得ない位には最低だ。
 どうやら、旅番組とかではなく、所謂ワイドショーの番組らしく、山野アナの一件の影響で、宿泊客が減った事を下世話に取り上げたかったらしいが、あまりにも酷い内容なので、女将さんである天城さんのお母さんは断ったらしい。
 女将さんの判断で正解だと思う。
 そんなゲスいワイドショーに出された所で益は無い。

「でも、断らなくたって良かったかも……」

 天城さんのその呟きを不思議に思い、首を傾げると、暗い表情でポツポツと語ってくれた。

「だって……、悪い評判が立ったらさ……。
 お客さんが来なくなって、旅館が本当に潰れるのかも……。
 そしたら……。
 ……せいせい、する」

 しかし、言葉とは裏腹に、全くそう思っている様には見えない。

「天城さん、それ、本気で言ってるの?」

「……本気、だよ」

 そう、天城さんは暗く呟いた。
 …………。

「……なーんて、言っててもしょうがないよね……。
 私は私の力で出ていくし……。
 私が、私の人生を決めていくんだから。
 それにね、私はもっとみんなの役にも立ちたい。
 何時も、こんなにも私の用事に付き合ってくれてる鳴上さんの為にも……」

 熱いやる気が天城さんから伝わってくる。
 休憩を終えて、再び買い物に戻り、バス停まで天城さんを見送ってから家へと帰った。





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