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本当の“家族”

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【2011/06/03】


 ……今日も朝から雨が降り続いている。
 明日の朝方にかけてまで降り続く、と予報では言っていた。
 恐らく、明日の朝方に『霧』が出るのだろう。
 昨晩確認した《マヨナカテレビ》には誰も映っていなかったから、【犯人】が新たに誰かをターゲットにしたとは考え難い。
 ……このまま、何事も無いのが一番であるが……。
 ともあれ、今晩も《マヨナカテレビ》を確認しなくてはならないだろう。



 夕飯の買い物をしにジュネスへ行くと、食品売り場で天城さんに出会った。
 旅館のお使いかと思ったが、どうやら違うらしい。
 一人立ちした時の為に、料理の特訓をするつもりの様だ。
 その志は実に良いものだと思う。

「あ、そうだ。
 出来ればね、偶にで良いんだけど、鳴上さんに作った料理の味見をして貰いたいんだ。
 誰かに食べて貰って、評価して貰う方が、上達も早くなるかなって思って。
 鳴上さん、料理する人みたいだし、そういう意見とかアドバイスとか、ちゃんと言ってくれそうだから……。
 えっと、……ダメかな?」

 ……確かに、誰かに食べて貰う方が、上達は早くなるだろう。
 誰かに食べさせるモノだ、と意識する事は大切だ。

「いや、そう言う事なら構わない。
 そういうのは、努力しようって姿勢が大切なんだし。
 私に出来る事なら、喜んで協力させて貰うよ」

「本当!? ありがとう!!」

 天城さんは嬉しそうに笑った。

「私ね、ペルソナの力を得て、思ったんだ。
 “私、やれるかも”って。
 一人じゃ何も出来ないって思って、人に頼ってばっかりだったけど。
 でも、意外とやれるんじゃないかなって、思って……。
 これからは、頼られる位になりたい……。
 私、頑張るからね!」

 何故、ペルソナを得て『料理も出来るかも』という思いに繋がるのかは今一つ分からないが、自分の力で出来る事をしていこうとするその姿勢は素晴らしいものだ。

「あ、そうだ。それでね、鳴上さん。
 伊勢海老って何処に売ってるか分かる?」

「い、伊勢海老……!??? 
 いや、そう言う高級食材はジュネスには置いてないんじゃないかな、流石に」

 こんな田舎町でそんな高級食材を売った所で買う相手など極めて限られているだろう。
 だから、そう言うのは売ってないと思う。
 何かのフェアとかなら一時的に置いているかもしれないが……。
 少なくとも、今の様な普通の時期には置いてないだろう。
 と、言うよりも。
 何故いきなり伊勢海老なのか。
 天城さんの発言を考えるに、彼女は料理初心者の筈だろう。
 それで初挑戦が伊勢海老とか、どんな大冒険をするつもりなんだ、天城さんは。
 伊勢海老は、何をどう間違えても初心者向けの食材ではない。
 剥き海老とか、それこそ市販の冷凍シーフードミックスから始めた方が良いのでは……。

「えっ、無いの? 
 ……残念。
 じゃあ……、蟹にしようかな……」

 いやいや、蟹も冒険し過ぎだろう。
 既にボイルされたモノなら兎も角、一から味を付けて美味しく仕上げるのは、初心者には難しくはないだろうか……。

「うーん、えっと、料理とかあんまりした事が無かったのなら、こういうのを使う所から始めた方が良いんじゃないかな」

 近くにあった冷凍のシーフードミックスの袋を手に取り、天城さんに渡す。

「でも、こういうのよりも新鮮な素材を使った方が美味しく仕上がるんじゃ……」

「それは料理に手慣れている人が使えば、の話。
 まだ料理に不慣れなんだったら、下ごしらえに失敗してしまう位なら、こういう既にある程度下処理が済んでいるモノを使った方が美味しく仕上がる。
 最初からハードルを高く設定するんじゃなくって、簡単なモノで良いから、先ずは一品仕上げてみる所から始めた方が良い」

 それこそ、目玉焼きとか、野菜炒めとか。
 そう言う簡単な料理をちゃんと作れる様にしてから段階的に腕前を上げていけばいいのだ。

「そっか……。先ずは一品……。
 うん、私……頑張るね! 
 鳴上さん、アドバイスありがとう!」

 天城さんはシーフードミックスを買い物籠に入れてその場を立ち去った。
 ……罪も無き食材たちが無駄にならずに済んだ様で何よりだ。





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 夕飯を食べ終えた後、稲羽市立病院へと夜間清掃のアルバイトに向かう。
 担当区画を清掃していると、……廊下に置かれているソファの所に、誰かが疲れ果てた様な顔をして、天井を仰ぎながら座っていた。
 ……たしか、あの人は。
 一昨日拾ったネームプレートの持ち主の医師だ。
 今日も夜勤だったのだろうか。
 ふと、医師と目が合った。

「おや、君はこの前の……。
 今夜もバイトなのかい?」

 疲れていた顔に優しい微笑みを浮かべながら、医師は暇なのか話相手が欲しかったのかは分からないが、こちらに話し掛けてくる。

「はい、そうです」

「見た所、学生さんみたいだけど……。
 高校生かな?」

「はい、今高校二年生です」

「そうかそうか……。
 まだ若いのに偉いね」

 まだ若い……か。
 そう言う医師も、充分若い方に見えるのだけれど……。

「いえ……アルバイト代の為ですから。
 偉いとか、そんな事は無いですよ」

「ははっ、いやいやそんな事は無いよ。
 僕が君位の歳の時は、バイトなんて全くやってなかったからね……。
 勉強か部活して遊んでいるか、それ位だったものさ」

 うんうん、と頷きながら医師は話すが、あっ、と何かに気が付いた様に顔を上げた。

「おっと……まだ名前を言ってなかったね。
 これじゃあまるで不審者だ。
 僕は神内、ここに勤務している救急医だよ」

 神内さんは救急医だったのか……。
 先程疲れた様な顔をしていたのは、急患でも運ばれてきたからか……。

「私は鳴上です。
 先日からここの夜間清掃アルバイトに来ています」

 そうかい、と微笑んだ神内さんは、おっと、と腕時計を見て立ち上がった。

「さて……もうそろそろ戻らなきゃな……。
 じゃあね、鳴上さん。
 今夜は君と話せて少し楽しかったよ。
 アルバイト、頑張って」

 神内さんはそう手を振って、奥の救急救命室の方へと去っていった。






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