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天泣過ぎれば

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 普段なら何も言わずとも全力でクロムの世話を焼くフレデリクだが、どうにも彼には大きな獣には何らかのトラウマがあるらしく、狼となったクロムはいたくそのトラウマを刺激してしまう様なので、クロムが元に戻れるまでの身の回りの世話はルフレが受け持つ事になった。
 まあ身の回りの世話と言っても、狼の姿になっているとは言えクロムの中身は元のままなので、そこまで何でもかんでもする必要は無いのだが。

 一先ずの所クロムは、行軍中はリズとルフレと共に馬車に乗り込み隠れる事になり、野営地では人目に付かぬ様にルフレの天幕に身を寄せる事になった。
 勿論クロムには自分の天幕があるのだが、あまりそこにルフレが出入りしまくっていると変に勘繰られかねないので、取り敢えず元に戻れるまではクロムはルフレの天幕に身を寄せる事になったのだ。

 人目を忍ぶ為とは言え、あまり自由に動き回れないのはクロムにとってもかなりの負担になっているのかもしれない。
 現に今も、ルフレに与えられているベッドの上に伏せる様に横になっているクロムは、何処か落ち着かない様子であった。
 普段なら、剣の鍛練に励むなり、或いは軍議や執務を行っているだけに、きっとこうもやれる事がない時間と言うのは落ち着かないのだろう。
 空き時間には昼寝をしている事も多いクロムだが、中々そう言う気にもなれないのかもしれない。


「クロム」


 書類仕事を一時切り上げ、ルフレはクロムの横に腰掛ける。
 そして、『大丈夫だ』と、その頭を撫でた。
 すると、狼にされても変わらないクロムの綺麗な蒼い目が、何処か戸惑った様に自分を見詰め返してきて。
 今はそんな事態ではないのは分かっているけれど、その綺麗な瞳に自分を映してくれている事が、ルフレには堪らなく嬉しくなった。
 その途端に心の海の奥深くからむくりと頭を擡げてくる『想い』を再び心の海の底に押し込めて。
 ルフレは、クロムに誓う様に囁く。


「必ず、あたしが元に戻すから。
 絶対に、クロムの『呪い』を解く方法を見付けるから……」


 少し硬質だけれど柔らかな手触りのその毛並みを撫でながら、ルフレはクロムを安心させる様に微笑んだ。

 すると。

 小さく呻く様な鳴き声を溢したかと思うと、クロムは慌ててルフレから離れ、枕に顔を埋める様にしてその顔を隠してしまった。
 その耳はぺたりと後ろに寝て、フワフワとした尻尾はパタパタと左右に揺れている。

 何かしでかしてしまったのだろうか?とルフレは戸惑うが、特には何か妙な事をした覚えは無い。
 そのまま暫くの間、クロムはルフレと顔を合わせようとはしなかったのであった。





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