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『ペルソナ4短編集』

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 時は決して止まる事無く、未来へと向かって進んでいくもので。
 そして、元々一年間という限られた時間を定められていた彼がこの地を離れる日はもう明日に迫っている。
 彼も、そして僕も。元々はこの街の住人では無い。それでも、もう決して忘れる事など出来ない程に、この地に特別な愛着を懐いている事は確かだ。
『帰るべき場所』として思い描くその中に、この街はきっと何時までも確かに存在しているのだろう。
 もう、この街を混迷に陥れていたその全ては祓われ、僕たちは真実全てをやり切ったのだと思う。
 あの世界の霧をも見事に晴らし切った後に広がったあの世界の原風景は、彼の門出を祝い送り出すのには十分なもので。
 最後の最後、彼を一人にしてしまった事には少し申し訳無さはあったが、それ以上に僕たちが信じたそれに彼が全力で応えてくれて、そして絶望的な状況をもを覆してくれた事への、確かな信頼への喜びや達成感の方が強くて。
 そして僕と彼は、この八十稲羽で共に過ごせる最後の夜を惜しむ様に、堂島家へとお邪魔していた。

 彼と初めて出会ってから約一年、そして彼の仲間になってから約半年、……彼と思い結ばれて恋人になってから数ヶ月。それ程の時間が、僕たちの間には流れている。仲間になってからの……特に思い結ばれてからの一日一日は、そのどれもが様々な感情に彩られて僕の中に刻まれている。それは、あの苦しく絶望的であったあの11月から12月初頭の時期に掛けてすら。何一つとして忘れられないし忘れたくは無いものであった。
 ……しかし、決して短くは無い時間を共に過ごしていると言うのに。
 僕たちは恋人関係でありながら、共に手を繋ぐだとか、或いは人目を忍んで口付けを交わすだとか。まあその程度の関係に留まっている。
 僕たちとは言ったが、彼に何かある訳では無く、単に僕の問題である。
 あの世界に落とされて己の影に向き合うまでの僕は、自分が子供である事は勿論だが女である事自体を強く否定し抑圧していて……。影に向き合いそれを受け入れたからと言って、長年の内に凝り固まっていたその意識を急に変える事なんて出来ず。彼に恋愛的感情を懐いている事自体、それを認める事に相当な覚悟と己の心を問い質す時間が必要だったのだ。
 一応探偵として様々な知識は『知識』としてなら頭の中にある。性的な物事などは犯罪に関わる事も多いので、その手の知識は己の性別に関し忌避している節すらあった僕でも確り叩き込んでいる。でも、結局の所それはただの『知識』止まりで。実際に自分がそう言った行為に及ぶかどうかに関しては、全く覚悟出来ていなくて。そんな僕を慮ってくれた彼は、決して強要したりなどはせず、ゆっくりと僕の事を見守ってくれていた。そんな優しさに甘えてきてしまった自覚はあるのだ。
 今までも何となくいい雰囲気になった事なら何度かある。
 特にクリスマスイブと時など、本当に後一歩だったと思うのだ。
 だが、最後の最後で僕は覚悟を決め切れずに躊躇ってしまって。それで僕のそんな内心を察してくれた彼は決して無理強いはせず。結局あの日も何時もの様に緩やかな語らいだけで終わらせてしまった。

 だけれども、もうそうやって悩んでいられる時間は無いのだ。
 明日には、もう彼はこの街を離れてしまうのだから。

 別に、都会に帰ったからと言ってもう二度と逢えなくなる訳では無い。ゴールデンウイークなどの長期の休みには八十稲羽に帰るそうだし、そもそも僕自身も何時かは此処を離れる身である。それは分かっているけれど。
 でも、今までの様に当たり前に彼が傍に居てくれる日々はもう終わってしまうのだ。仕方無い事であっても寂しさを感じてしまう。
 そして、だから決めたのだ。

「先輩、この街であなたと出逢って変わっていった僕の全てを、全部受け取って欲しいです。
 覚悟は、してきましたから」

 どうか、僕の事を決して忘れないで欲しいのだと。そんな願いを込めて。
 僕は彼の腕の中に己の身を委ねるのであった。




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