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彼岸と此岸の境界線

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【2011/07/17】


 今日は一条と長瀬と、フードコートで勉強会だ。
 試験目前なので二人とも気合いが入ってる。
 カンカンと照り付ける日差しに照らされている屋上は熱い。
 購入した飲み物の氷もジワジワと溶けだしてしまっていた。

「はー……、一通りやってはいるんだけど、やっぱ数学がちょっと不安だな。
 鳴上はどうよ」

 夏の暑さと勉強への疲れにややダレた声で一条が訊ねてくる。
 数学、か……。

「特に問題は無さそうだ」

 少なくとも、試験範囲で分からなかったり解けない部分は無い。
 応用問題も、余程捻りまくった問題でもなければあまり迷う事なく解答出来るであろう。

「うわ、良いなソレ。
 俺も一回は言ってみてーわ。
 流石中間トップ、言う事が違うなー。
 てか、教えて下さい、マジで」

 そんなに数学が苦手なのだろうか……。
 正直、成績の心配をするべきなのは一条ではなく……。

「まぁ良いじゃねーか、暗記はいつも出来が良いんだから多少数学が出来てなくても。
 つーかそれより、俺の方に教えてくれよ。
 英語に物理、化学に数学だろ……」

 指を折って科目を数える長瀬に、一条と二人で溜め息を溢した。
 試験は明後日なのだが……。
 そんなに不安な科目があって大丈夫なのか……?
 ……まあ、何だかんだと言って長瀬は補習に引っ掛かった事は無い(ギリギリセーフらしいが)そうなので、本当に手が付けられない程に出来ない訳では無いのだろうが。

 そんなこんなでまったりと勉強会をしていると、背後から誰かが近付いてきてる気配を感じたので思わず振り返る。
 すると、そこには。

「あっれ、鳴上さん。
 今勉強してる感じ?」

 里中さんと天城さんがいた。
 二人とも、手には参考書とノートを抱えている。
 どうやら勉強しにきた様で、恐らくは日差しを避ける為に屋根のあるテーブルの空きを探しているのだろう。

「里中さんに天城さんも、奇遇だな。
 もしかして二人とも勉強会をしに?」

「うん、まあね。
 家でやってたら、ついついだらけちゃうかもだから。
 あ、もし良かったら一緒に勉強しても良い?
 屋根あるトコ空いてなくってさ」

 そう里中さんが頼んでくる。
 ……テーブルは二人が新たに座った所で問題無い位には広いし、自分に異存はないのだが、一条と長瀬は良いのだろうか。

「私は構わないが、一条と長瀬は大丈夫か?」

 そう二人に訊ねてみると。

「俺も構わんぞ」

「さ、ささささ里中さんと!?
 ほ、ホントに!?
 い、良いよ、勿論!!」

 長瀬は普通に頷いたのだが、何故か一条は里中さんを見て盛大にキョドりながらまるで赤べこの様に首を何度も縦に振る。

「あ、えっと、何かゴメンね、千枝が急に……」

 天城さんはペコリと頭を下げて言うが、一条は今度は勢いよく首を横に振る。
 ……首、痛めてはいないだろうか……。

「そんなの全然気にしなくって良いよ!ホント!」

 ……この態度。
 もしかしなくとも、一条は里中さんの事が……?
 ……だとしたら、分かり易過ぎるが。
 しかし何故か里中さんは一条の態度を見て僅かに頬を膨らませて呟いた。

「もう……みんな雪子にはデレデレしちゃって……」

 いや待て里中さん。
 一条の態度の何処を見れば、天城さんにデレデレしているという結論に至るんだ……?
 何処をどう見ても、一条は天城さんには目もくれず里中さんを見ているのだが……。
 あ、ああ……、これは、あれか。
 あまりに長い事、男子が天城さんの事ばかり見ていたから、そういう視線が自分に向けられているという可能性を端っから排除してしまってるとかそんなオチか……?
 ……だとすれば、一条があまりにも哀れである。
 友人の恋路は可能な限りは応援してあげたいものではあるが、これは色々と前途多難なのかもしれない。
 里中さんが妙に拗れているのがその要因ではあるが。

 思わぬ形で友人の恋心を知り、かつその相手がある種の恋愛朴念人である事も知ってしまい、思わず心中で溜め息を溢してしまった。

 その後、五人で勉強会を行ったのだが、里中さんに話を振られる度に舞い上がって挙動不審になる一条の態度を何故か里中さんが盛大に曲解する、という哀れな想いの一方通行は、とても涙なしには語れないものなのであった……。
 一条、強く生きろよ……。





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