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流れ行く日々

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【2011/05/07】


 今日は朝から雨が降り続いている……。
 どうやら時間帯によっては、雷が落ちるかもしれないと、朝の天気予報は言っていた。
 放課後になると、雨は激しい雷雨へと変わり、窓の外が時折眩く光る。
 光と音の間隔から、雷が落ちる位置はゆっくりと近付いてきている様だ。
 雷鳴が轟く度に里中さんが小さく震える。
 ……恐いのだろうか?
 それを花村にからかわれ、むきになって言い返そうとした瞬間、再び雷が結構近い場所で鳴り、途端に耳を押さえて俯く。
 余程恐いのだろう。
 止せば良いのに、その様を見て更に花村が揶揄し、いっそ花村に雷が落ちれば良いのに、と里中さんが言った瞬間、雷光と共に教室内の照明が落ちた。
 ちょっとした停電だ。
 送電施設に雷が落ちたのかもしれない。
 どうやらジュネスの方でも一部に被害が出てしまったらしく、冷蔵棚が全て停まってしまったらしい。
 そうバイトのチーフから連絡が来た花村は、恨めしげに里中さんを見る。
 完全なる八つ当たりだ。
 まあ、給料アップが見込めるかも知れないという矢先のこの出来事だ。
 当分その話は見送られてしまうだろう。
 何かに恨み言の一つや二つは言いたくなってしまうのも、そう無理はない話ではある。
 雷と停電に怯える里中さんに、天城さんが唐突に怪談を語り始める。
 どうやらこれも苦手だった様で、既に里中さんは涙目だ。
 多分、天城さんは少し面白がっている様だ。
 慰めるのも、敢えて天城さんの怪談話に乗って少し驚かせるのも、どちらでも良かったが……。

「私の父さんの話になるが……」

 この流れに乗って、怪談その二を披露する事にした。
 大して怖くない話を選んで、淡々と語る。
 話が盛り上がった丁度そのタイミングで、再び雷鳴が轟き、今度はそれと同時に教室内に明かりが戻った。
 安心した様な声が教室のあちらこちらから聞こえる。
 クラスメイト達がちらほらと帰り始める。
 今日はこの雨では体育館は外の運動部に取られてしまうし、部活は無いだろう。
 特にこれからの予定は無いが、ふと思い立ち、花村たちに今日の予定を訊ねる。
 花村は今日はフリー、天城さんも特に用事は無し、里中さんも用事は無い。
 ならば折角なので、あちらの世界に行ってみないかと提案した。
 天城さんはまだペルソナで戦った事が無い。
 もし【犯人】に何か動きがあった時、ペルソナの力が必要になる事はあるだろう。
 その時にぶっつけ本番、というのも不味い。
 なら、特に差し迫った用件が無い今の内に、肩慣らししておくのが良いだろう。
 その案に全員が賛成し、各自準備を整えてからジュネスに集合する事となった。




◇◇◇◇◇




 ペルソナの調整をしようと、ベルベットルームを訪れると、マリーの姿が見当たらなかった。
 どうやら、何処かにお使いに行っているらしい。
 直ぐに戻ってくるらしいが……。
 ……? 床に紙切れが落ちている。
 ……どうやら便箋の様だ。
 マリーの落し物らしい。
 ……何かが書かれているみたいだが、拾って良いものなのだろうか……。
 少し躊躇ったが、文面を見なければ大丈夫だろう、と便箋を拾い上げようとしたその時。

「……わあっ! ちょっ、ダメーっ!!」

 ドタドタと凄まじい勢いで帰って来たマリーが、直ぐ様その便箋を拾い上げ、慌ただしく肩に掛けている鞄の中に仕舞った。
 どうやら相当急いで帰って来たらしい。
 マリーは肩で息をしていた。

「あ、危なかった…………。
 てか、キミ、何してんの!?
 …………。……中、見た?」

 否、と首を横に振ると、マリーはホッとした様に息を吐く。
 どうやら余程その文面を見られたくは無かったらしい。
 大袈裟が過ぎる位のマリーの反応をマーガレットさんが興味深そうに見ていたのが少し気にかかる。
 …………、まぁ良いか。
 そう悪い事にはなるまい。

 そう判断して、用件だったペルソナの調整を済ませてからベルベットルームを後にした。




▲▽▲▽▲▽
……………………
………………
…………
……



 ジュネスのテレビから入ると、早速クマが出迎えてくれた。
 どうやら前に天城さんをここに連れてきた以降、全くこの世界を訪れなかったのが相当寂しかったらしい。

 この世界で静かに暮らしたい、というのが出逢った当初のクマの願いだったが……人と触れ合う内に『寂しさ』というモノを理解してしまったのかもしれない。
 この世界ではクマ以外にはシャドウ位しか見掛けたモノが居ないから、クマは本当に独りぼっちだったのだろう。
『寂しい』という感情はずっと独りでいるのなら理解する事は出来ない感情だ。
 だから、クマは今迄独りで居る事に何も感じてこなかったのかも知れない。
 ……全ては憶測に過ぎないが。

 まあ何はともあれ探索を開始しようとした処でクマから待ったが掛かった。
 どうやら、天城さんの居たあの城に何やら強力なシャドウが出現して居座っているらしい。
 ……あの城は天城さんの心が作り出したモノだと言う。
 そんな場所にそういう強力なシャドウが居座り続けるのは、あくまでも可能性の話にはなるが天城さんに悪い影響を与えるかも知れない。
 どれ位強力なシャドウなのかは今一つ分からないが、可能ならば排除しておいた方が良いだろう。

 そのシャドウは城の最深部……天城さんの『シャドウ』と戦った場所に居座っている様だ。
 道中のシャドウとの戦いで天城さんもペルソナの扱いに多少は慣れてきている。
 これならば、油断は禁物だが様子見位の戦いなら挑んでみても大丈夫だろう。
 想定よりも強そうならばさっさと撤退するだけだ。
 万が一の場合にも、一瞬で戦闘領域を離脱出来るスキルを持ったペルソナも居る。
 倒せそうならばそのまま倒してしまえばいい。

 そう判断し、大扉を開けると、広間の中央に居たシャドウが起き上がる。
 道中幾度か戦った、少し愛嬌すら感じる外見の《皇帝》アルカナの『ぽじてぶキング』に見た目だけなら似ているが、一メートル半程度のあちらに比べ、このシャドウは三メートル弱はある。

「そいつの名前は『矛盾の王』、アルカナは《皇帝》クマー!」

 クマが叫ぶとほぼ同時に、シャドウが手にした杖で殴りかかってくる。
 物理攻撃主体の敵か?

「アレスッ!」

【戦車】アルカナの『アレス』を召喚して、シャドウの一撃を《氷殺刃》━━凍て付く刃で斬りつけて、氷結属性のダメージも共に与えるスキルで迎撃する。
 アレスの一撃は杖を弾き、その身体を凍り付かせた。
 ……物理攻撃への耐性と、氷結属性への耐性は無い様だ。
 しかし堅い。

「花村!」

 花村に指示を飛ばすと、直ぐ様烈風がシャドウを呑み込む。
 ……が、シャドウは何とも無い様子だ。
 さっき与えたダメージが回復している様には見えないし、風が跳ね返された訳でも無い。
 疾風攻撃は無効化されてしまう様だ。

「花村は物理攻撃主体で!
 里中さんは物理も魔法も通るから、適宜切り換えて!!」

 アレスを一度イザナギへと切り換える。
 天城さんが火炎を、イザナギが雷撃を放とうとしたそのタイミングで、シャドウが《赤の壁》━━火炎攻撃への耐性を付けるスキルを使用する。
 この状態で火炎攻撃を使っても効果は半減してしまうだろう。
 その為、天城さんには攻撃ではなく花村と里中さんの体力の回復に努めて貰う。
 イザナギの雷撃は過たずシャドウの中心を撃ち抜き、その胸の辺りに酷い焦げ跡を残す。
 しかしそれでもシャドウは倒れない。
 物理攻撃を繰り返すトモエとジライヤを振り払って、グゥンッとシャドウが力一杯杖を振りかぶる。
 その瞬間嫌な予感が身体を震わせる。

「全員シャドウから距離を取って防御して!」

 大技を繰り出す予兆を感じ、ペルソナをアレスへと切り換え、壁になれる様に数歩前へと踏み出した。
 その瞬間、暴力の嵐が吹き荒れた。
 アレスも習得している《暴れまくり》というスキルにも似ているが、それとは比べ物にもならない程の高い威力だ。
 複数回吹き荒れたその嵐を、アレスはキッチリ二回受けきった。
 一回は防ぎ切れず皆の方へと攻撃が流れてしまったが、アレスが盾になった為被害は最小限だ。
 その傷も、コノハナサクヤの《メディア》によって、フィードバックで負った傷諸共あっと言う間に完治した。
 大技を放った直後だからか、シャドウの動きが鈍い。
 絶好の攻め時だ。

「よし、反撃のチャンスだ!
 里中さんは氷結魔法でシャドウを拘束、花村はそのまま物理攻撃で!」

 指示を飛ばしながらイザナギへと切り換え、《ラクンダ》━━相手の防御力を下げるスキルによって、シャドウへのダメージの通りを良くする。
 トモエがシャドウの足元を氷付けにしてシャドウの動きを封じ、それを抜け出される前にジライヤが追撃を掛けた。
 その隙に再びアレスへと切り換え、《チャージ》で威力を高め、トモエからの《タルカジャ》━━相手の攻撃力を上げるスキルで強化された《氷殺刃》がシャドウを頭から叩き斬る。
 王冠の様に着けていた仮面が真っ二つに叩き割られ、シャドウは断末魔を上げながら黒い塵へと還っていった。



……
…………
………………
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▲▽▲▽▲▽




 ペルソナへの肩慣らし兼『矛盾の王』討伐を終えてあちらの世界から戻ってきた頃には、そろそろ夕飯の買い物をする様な時間になっていた。
 皆とはその場で解散し、買い物してから家に帰る。
 今晩の帰りは遅くなる、と叔父さんから連絡があった。
 数日振りの菜々子ちゃんと二人きりの夕飯だ。
 夕食の後、菜々子ちゃんが話し掛けてきた。

「ねえ、お姉ちゃんはひとりっこ?」

「うん、そうだよ」

 兄や姉が居たという話は聞かないし、この歳で今から弟や妹ができるとも思えない。

「そっかあ、菜々子とおそろいだね。
 ……あのね、前にお父さんがいってたんだ。
 もう、うちに家族はふえないって……。
 でも、お姉ちゃんができた!」

 そう言って満面の笑みを浮かべる菜々子ちゃんに、こちらも思わず笑顔になる。
 ……叔父さんの言葉を思うと、少しぎこちない笑みになってはしまったが。

「……そうだね」

「ねえ、お姉ちゃんの学校のおはなしして」

 その晩は、菜々子ちゃんに請われるまま学校の話をした。
 菜々子ちゃんが聞いて楽しいものかは分からないものが多いが、それでも話を聞く事自体が楽しかった様だ。
 いや、……誰かと家で話す事自体が楽しいのか……。
 また少し、菜々子ちゃんとの距離が縮まったのを感じた。





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