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第4話『天駆ける星』

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 襲撃から一夜が明けて、まだ夜の薄暗がりが完全に去りきらない早朝。
 緊急に召集された高官達が登城してきたイーリス城はそれはもう大騒ぎに包まれた。
 襲撃者達の遺骸は、ルフレやフレデリク達の手によって人目の付かない物置へと運ばれてはいたものの。
 流石に辺りに飛び散った細かい血や剣などが壁を傷付けた跡などは一晩では如何ともし難く、襲撃の物々しさを静かに今も語っていた。
 荒事には慣れぬ文官達には怯え騒ぐなと言う方が酷な状態であるとも言える。

 文官達の中には、王城最奥に入る許可など与えていないルフレがあまつさえそこで武器を振り回していた事に難色を示す者も居たのだが、そもそも緊急時の事であるのだし、事後承諾とは言えエメリナ本人からの許可も得ているのでその辺りは不問となった。
 そしてそんな些末な事よりも、襲撃者達が一体何処の手の者であるかが分からなかったのが問題である。
 襲撃者の大半はその衣服の装飾品などの特徴からペレジアの民と思われるのだが、かと言って軍部の者である訳でも無さそうで。
 直接的・間接的にペレジア軍と関係しているのかは不明であった。
 エメリナの命とイーリスの国宝である『炎の台座』を狙った襲撃だ。
 かのギャンレルも『炎の台座』を要求していた所を見るに、そう無関係では無いのだろうけれども……。

『ペレジアと言う国としては、ここでエメリナ様を暗殺するよりも、堂々と王都を攻めて陥落させた上で、エメリナ様をペレジアの民の前で公開処刑にしたい筈』と、述べたルフレの言葉をクロムは思い出す。
 語るも悍ましいあの“聖戦”の報復の為の戦争なのだとしたら、間違いなくペレジアはそうするだろう。
 だからこそ、こんな場所で暗殺と言う手段に打って出るとは思えない。
 認めるのは実に業腹ではあるが、暗殺などしなくても、イーリス単体ではペレジア軍に抵抗らしい抵抗は出来ないのだから、クロム達がフェリアからの援軍を連れてくるよりも先に王都を陥落させる事などペレジアにとっては不可能な事ではない。
 つまりは、ペレジアと言う国その物とは別の組織がペレジアには存在し、尚且つその組織はペレジア軍よりも先にエメリナの命と『炎の台座』を欲したと言う事だ。
 が、クロムにはその組織とやらに心当たりはなく、結局襲撃者の正体は分からずじまいとなってしまった。

 そう、襲撃者と言えば。
 明け方に改めて収容した襲撃者達の遺骸を検分しようとした時に。
 首謀者と思われるあの不吉な男の遺骸だけが、何処にも見当たらなかったのだ。
 他の襲撃者達はそのまま取り残されていたし、物置に誰かが侵入した様な形跡も無い。
 まるで煙か何かの様に忽然と消えてしまったのだ。
 あの首謀者が確かに絶命していたのは何度も確認していたし、そもそも胴を半ば離断されかかった状態で生きているのは有り得ない。
 なので有り得るとしたら何者かが回収していった……という事になるのだが。
 襲撃された事によって、近衛隊と天馬騎士団を総動員した最高レベルの警戒態勢が取られている王城に再び何かが侵入出来たとは思えず、更には出て行く事が出来るとも思えない。
 近衛兵達に遺骸の行方を追わせてはいるものの、その手掛かりは皆無に近かった。

 そして内通者の炙り出し件だが、これは実に難航する事となる。
 近衛兵達の配置を誰が動かしたのか、その首謀者が一向に明らかにならなかったのであったのだ。
 間違いなく居る筈ではあるのだが、この件に関しては事が事であるだけに大っぴらには出来ず、フレデリクやフィレインと言った信頼出来る者達だけで内密に捜査するしか無いのもその要因である。
 何にせよ、時間も無い中での急な話である事もあって、そう簡単にはいかないのであった。

 そして、更に問題になったのは、このままエメリナを王城へ残したままで良いのか、と言う点だ。
 実際問題、内通者が確実に存在するこの王城にエメリナを置いておく訳にはいかない……。
 一番安全なのは、フェリアへと身を移す事なのではあるのだが。
 だがエメリナは、この様な危難の時であるからこそ、聖王たる自分が国を離れる訳にはいかないのだと頑として首を縦には振らない。
 結局折衷案として、急遽エメリナは『東の離宮』へと身を移す事になり、その道中の警護はフェリアに向かうクロム達が担う事になったのだが……。




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