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第4話『天駆ける星』

◇◇◇◇




 ルフレが言っていた通りに、マルスは裏庭に居た。

 振り返って王城を見上げていたマルスは、クロムが追ってきた事に僅かに驚いた様な表情を見せる。


「また、黙って姿を消すつもりだったのか?」

「……ここでの私の役目は終わりましたから」

「お前は二度、俺達を助けてくれたんだ。
 何か、俺に出来る事は無いか?
 可能な事ならば、何でも叶えてやりたいんだ」


 初めて出会ったあの夜とそして今夜。
 マルスは二度もクロム達を助けてくれた。
 だからこそ、その恩を返したかったのだが……。
 マルスは何処か嬉しそうに微笑みながら首を横に振った。


「……ルフレさんと同じ事を言うんですね……。
 いえ、良いんです。
 あなた達のその言葉だけで、もう十分なんです。
 これで“未来“”は変わった……。
 それ以上の報酬はありません」

「“未来”、か……。
 なあ、もしも。
 お前が知る通りの“未来”になっていたら、一体どうなっていたんだ?」


 今宵の暗殺未遂が未遂でなくなってしまっていたとすれば、その先に待っていた未来とは一体何であったのか。
 クロムは疑問に思い、マルスに訊ねる。


「……聖王エメリナは命を落とし、『炎の台座』が奪われていた筈です。
 そして大きな戦争が始まり──世界は終焉の未来を迎える事になる。
 ……なんて言っても、信じられませんよね」

「いや、信じるさ。
 お前が誠意を以て語る言葉の全てを、俺は信じる。
 だから、何かあれば何時でも俺を頼ってくれ。
 どんな時だって、必ず力になってやる」


 マルスはクロム達を自身の危険を顧みずに二度も助けてくれた。
 それに、ルフレがああやって気を許すのだ。
 そんなマルスに、悪意などあろう筈はない。
 クロムは自身の人を見る目と、そしてルフレの人を見抜く目を信じている。

 そんなクロムの言葉に、マルスは驚いた様に目を丸くして。
 そして薄く涙を浮かべてそれを慌てて手の甲で拭った。


「本当に、ルフレさんとそっくり同じ事を言うんですね……。
 有り難う……ございます……。
 では、……いつか……また……」


 その語尾は、抑えきれぬ感情に震えていて。
 マルスはそっと夜闇に溶ける様にその場を去って行った。

 それを見送って、クロムはエメリナの元へと戻るのであった。




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